2017.11.06

オペラ『魔笛』を初心者でもわかりやすく解説します

column_news_top-1

オーソドックスだけどツッコミどころも?!デイヴィッド・マクヴィカー演出『魔笛』
            石川了(クラシック音楽専門TVチャンネル「クラシカ・ジャパン」編成

現代の海外ドラマ?!
 モーツァルト最晩年の傑作『魔笛』は、モーツァルトの死の年、1791年にウィーンで初演されたジングシュピール(台詞付音楽劇)です。通常のオペラは台詞にも音楽が付いていますが(レチタティーヴォ)、ジングシュピールでは台詞は台詞、歌は歌であり、どちらかといえば今でいうミュージカルに近いかもしれません。
 夜の女王の娘パミーナを救い出すため、王子タミーノと鳥刺しパパゲーノ(鳥刺しとは鳥を捕まえる人)が、イシスとオシリス神の大祭司ザラストロの殿堂に赴き、そこでタミーノとパミーナが試練を乗り越えて結ばれるというストーリーは、異国情緒、魔法、高貴な王子と喜劇的な脇役、美しい姫に迫る危機など、誰もがワクワクするロマンスの要素が満載。しかも、前半と後半で夜の女王とザラストロの善悪の立場が逆転という、現代の海外ドラマのような驚きの展開も用意されています。

見せどころ聴かせどころ満載!
 台本を書いたのはウィーンの興行主エマヌエル・シカネーダー。彼は、仕事が無く困っていたモーツァルトに、一般市民を対象にしたオペラの作曲を依頼しました。当時、オペラといえば、王侯貴族を対象にしたレチタティーヴォ付きのイタリア語オペラが主流。しかし、モーツァルトはウィーンの市民なら誰でも親しめるように、母国語(ドイツ語)で喋り、母国語で気軽に口ずさめる音楽を作曲したのです。
 全編にわたり、モーツァルトのメロディーメーカーぶりが堪能できますが、特にシカネーダーが初演したパパゲーノは、アリア「俺は鳥刺し」「恋人か女房か」やパミーナとの美しい二重唱「恋の痛みを知る人は」、パパゲーナとの二重唱「パ・パ・パ」など、作曲家が依頼主に気を使ったのかと思えるくらいに名曲揃い。その他、タミーノがパミーナの絵姿に一目惚れする「何と美しい絵姿」、口をきいてくれないタミーノに絶望するパミーナの「愛の喜びは露と消え」、この世界では愛が義務と歌うザラストロの「この神聖な殿堂の中では」、出番は少ないながら人の声が出せる一番高いF(ファ)音を歌い、場をさらってしまう夜の女王のアリアなど、主要キャラクター各々の見せどころ聴かせどころにも目が離せません。

たくさんの「魔笛」
 『魔笛』は演出家の想像力を掻き立てるのか、21世紀だけでも、ジャポニズムと『ライオンキング』の世界が融合したメトロポリタン歌劇場のジュリー・テイモア版、第一次世界大戦の塹壕を舞台にザラストロと夜の女王が対峙するケネス・ブラナー監督の映画、リストラされたお父さんがゲーム画面に飛び込み自分探しの旅に出る東京二期会の宮本亜門版など、さまざまな演出が存在します。
 今回は、1966年スコットランドのグラスゴー生まれのデイヴィッド・マクヴィカー演出による、英国ロイヤル・オペラで2003年から再演されるヒットプロダクション。マクヴィカーといえば「ゴキブリリゴレット」など過激な演出で知られていますが、この『魔笛』は彼にしては珍しく奇を衒うことのないオーソドックスなもの。しかし、場面転換のテンポの良さは抜群で、オペラを初めて観る方でも決して退屈しないはず。また“演劇の国”英国らしく、主要歌手のみならず、例えばモノスタトスの手下やザラストロの配下たちにも細かな演技がなされ、物語に大きな説得力を与えています。
 パパゲーノや夜の女王、3人の侍女といった面白キャラを存分に楽しみながら、注目して欲しいのはモノスタトス。通常は黒人の奴隷頭という設定ですが、マクヴィカー版ではティム・バートン監督の映画『バットマン・リターンズ』のペンキン(ダニー・デヴィートが演じた)のような風貌がユニーク。また、台本には「女性はおしゃべりだから信用ならない」という台詞もあり、ザラストロの国では男尊女卑!?という感じもしますが、今回の映像ではパミーナと夜の女王のキャラの強さが印象的で、指揮者も女性(ジュリア・ジョ-ンズ)というところは、まさに現代的といえるかもしれません。

<超美人歌手が夜の女王を>
 歌手でいうと、クラシカ・ジャパン的には、マウロ・ペーター(タミーノ)やミカ・カレス(ザラストロ)、クリスティーナ・ガンシュ(パパゲーナ)といった、以前放送した故ニコラウス・アーノンクールのアン・デア・ウィーン版ダ・ポンテ三部作(『フィガロの結婚』『ドン・ジョヴァンニ』『コジ・ファン・トゥッテ』)に出演した若手たちの活躍が嬉しい。1987年ルツェルン生まれのテノール、マウロ・ペーターはドイツ・リートを歌った来日公演でも評判を呼んだ注目株。1978年フィンランド生まれのバス、ミカ・カレスは本公演が英国ロイヤル・オペラデビュー。クリスティーナ・ガンシュは今年のザルツブルク音楽祭『皇帝ティートの慈悲』(テオドール・クルレンツィス指揮)のセルヴィリア役で大ブレイクしました。
 さらに、2015年クリスティアン・ティーレマン指揮ベルリン・フィルによる『ドイツ・レクイエム』のソリストに抜擢されたオーストラリアのソプラノ、シボーン・スタッグ(パミーナ)や、英国を代表するバリトンの一人で日本ではバッハ・コレギウム・ジャパンのソリストとして来日しているロデリック・ウィリアムズ(パパゲーノ)、2011年パリ高等音楽院を首席で卒業したばかりの美貌のフランス人ソプラノ、サビーヌ・ドゥヴィエル(夜の女王)など、歌も演技も容姿も揃った若手を中心とするフレッシュなアンサンブルがお楽しみいただけます。

冒険とロマンス、そしてモーツァルトの美しい音楽
 『魔笛』は、自由・平等・博愛をモットーに、平和社会の建設を目的とした秘密結社フリーメイソン(モーツァルトもシカネーダーも加入していた)の理念が込められていると言われ、確かにザラストロの殿堂での問答や火と水の試練、パミーナとパパゲーノが歌う「こんな魔法の鈴があれば世界は平和になるのに」という歌詞からも、その影響は明らか。つまりこのオペラは、単純に冒険ファンタジーとしても、主人公たちの成長を見守る人間ドラマとしても、道徳的なドラマとしても楽しめる、さまざまな魅力を持った奥の深い作品なのです。
 見終わった後に、「こうだったよね、ああだったね」とツッコミを入れながら劇場を後にするのもオペラの楽しみ。解釈は人それぞれ自由。難しいことは考えずに、まずはタミーノとパミーナ、パパゲーノの冒険とロマンス、そしてモーツァルトの美しい音楽をたっぷり味わってみては如何ですか。

column_news_bottom