2024.10.09
「英国ロイヤル・バレエ&オペラ in シネマ 2024/25」として新たに開幕!魅力溢れる6本のバレエと4本のオペラがラインナップ!
11月29日(金)より、いよいよ開幕する『英国ロイヤル・バレエ&オペラ in シネマ 2024/25』。世界最高峰のバレエとオペラの魅力に満ちた至福の時間を、是非映画館の大スクリーンでご堪能ください!
【全10演目】
◆バレエ演目
①『不思議の国のアリス』、② 『くるみ割り人形』、③『シンデレラ』、
④『白鳥の湖』、⑤『ロミオとジュリエット』、⑥『バレエ・トゥ・ブロードウェイ』
◆オペラ演目
①『フィガロの結婚』、②『ホフマン物語』、③『トゥーランドット』、④『ワルキューレ』
〈バレエの見どころ〉
今シーズン最大の注目作は、ロイヤル・バレエで生まれ、世界中で上演されている超人気作品『不思議の国のアリス』。ブロードウェイミュージカル『パリのアメリカ人』の振付で知られるクリストファー・ウィールドンが手掛け、フランチェスカ・ヘイワード、ウィリアム・ブレイスウェル、ローレン・カスバートソン、スティーヴン・マックレーと、プリンシパルが4人も登場するかつてない黄金プログラムとなっている。
続いてはロイヤル・バレエの代表作で、伝統と革新が見事に調和した『シンデレラ』。意地悪な姉妹役を男性ダンサーが女装して演じる点は、ユーモアを加えつつ新鮮な驚きをもたらす演出であり、前回のリニューアルで導入された、花々で彩られた美しいプロダクションも観客を魅了する要素の一つ。また今回の公演では、日本出身のプリンシパル・ダンサー、金子扶生がシンデレラ役を演じることも大きな注目点となっている。
演劇性を重視したロイヤル・バレエならではの名作『ロミオとジュリエット』は、運命に翻弄された恋人たちが、熱烈な恋を通して短い生を駆け抜けるシェイクスピア原作の永遠のラブストーリー。セルゲイ・プロコフィエフの音楽と重厚な美術、ケネス・マクミランの振付で何度観ても涙せずにはいられない深い感動をもたらすことだろう。
そしてシーズン最後を飾るのは、『不思議の国のアリス』を手掛け、ミュージカル界でも人気のクリストファー・ウィールドンの4作品を上演する『バレエ・トゥ・ブロードウェイ』。トニー賞受賞の名作ミュージカル『パリのアメリカ人』の一場面が、ロイヤル・バレエのダンサーによって初めて演じられる予定。この見どころ満載の公演をお見逃しなく。
そしてアンコール上映は、冬の風物詩で家族連れにも人気の『くるみ割り人形』と、言わずと知れたバレエの代名詞『白鳥の湖』の2作品。これらの6作品を観れば、世界トップクラスのバレエ団、ロイヤル・バレエの魅力を堪能できること間違いなしのラインナップとなっている。
〈オペラの見どころ〉
オーストリア、フランス、イタリア、ドイツの名作をラインナップ。シーズンの幕開けを飾る『フィガロの結婚』では、オーソドックスな衣装、美術、照明を背景に、モーツァルトの美しい音楽に合わせて、フィガロとスザンナの結婚式当日のドタバタが躍動する。
ホフマンと3人の女性の幻想的な恋物語『ホフマン物語』は、「キャンピング・コジ」として知られる新国立劇場『コジ・ファン・トゥッテ』の演出家ダミアーノ・ミキエレットと、テノールのスーパースター、フアン・ディエゴ・フローレスのタッグによる新制作で、世界中のオペラファンの注目を集めている。
そして1984年プレミエという長い人気を誇るアンドレイ・セルバン演出版『トゥーランドット』。北京を舞台に絶世の美女トゥーランドット姫と彼女に恋した異国の王子カラフを描く本作は、太極拳を取り入れた特徴的な動きが見どころだ。
神々の長ヴォータンが人間女性との間にもうけた双子の兄妹の愛と、女戦士ブリュンヒルデが神々の世界を追放されるまでを壮大に描いた『ワルキューレ』新制作では、ワーグナー上演作品の総本山と言われているバイロイト音楽祭で高い評価を得たバリー・コスキーの斬新な発想と奇抜なアイデアに期待ができる。
【全10演目と公開日】※1週間限定公開※
①ロイヤル・オペラ『フィガロの結婚』:2024年11月29日
②ロイヤル・バレエ『不思議の国のアリス』:2025年1月17日
③ロイヤル・バレエ『くるみ割り人形』:2025年2月7日
④ロイヤル・バレエ『シンデレラ』:2025年2月21日
⑤ロイヤル・オペラ『ホフマン物語』:2025年3月28日
⑥ロイヤル・バレエ『白鳥の湖』:2025年5月16日
⑦ロイヤル・バレエ『ロミオとジュリエット』:2025年6月6日
⑧ロイヤル・オペラ『トゥーランドット』: 2025年6月20日
⑨ロイヤル・オペラ『ワルキューレ』: 2025年9月5日
⑩ロイヤル・バレエ『バレエ・トゥ・ブロードウェイ』: 2025年9月19日
【上映劇場】
*札幌シネマフロンティア(北海道)
*フォーラム仙台(宮城)
*TOHOシネマズ 日本橋(東京)
*イオンシネマ シアタス調布(東京)
*TOHOシネマズ 流山おおたかの森(千葉)
*TOHOシネマズ ららぽーと横浜(神奈川)
*ミッドランドスクエア シネマ(愛知)
*イオンシネマ 京都桂川(京都)
*大阪ステーションシティシネマ(大阪)
*TOHOシネマズ 西宮OS(兵庫)
*kino cinéma天神(福岡
<料金:一般¥3,700円 学生¥2,500円(税込)>
※「ワルキューレ」は一般¥5,200円 学生¥3,700円(税込)
2024.09.17
オペラ『アンドレア・シェニエ』見どころをご紹介します。
香原斗志(オペラ評論家)
ROHの《アンドレア・シェニエ》が最高にエキサイティングな理由
《アンドレア・シェニエ》を超える情熱的なオペラは思い当たらない。舞台はフランス革命をはさんだ激動の時代。実在した詩人シェニエを中心に、伯爵令嬢マッダレーナ、彼女の家の従僕ジェラールらの運命は、革命の前後で劇的に変わる。運命に翻弄される彼らの愛と嫉妬と死は、いきおい究極の魂の叫びになる。展開はスピーディで、変化に富む音楽は雄弁な管弦楽に支えられ、人物の情熱はそのまま旋律となって聴く人の心を揺さぶる。
ロイヤル・オペラ・ハウスの音楽監督を22年の長きにわたって務めたアントニオ・パッパーノが、退任前の最後の上演にこの作品を選んだのは、とても納得がいく。そしてパッパーノの手腕により、激しい情熱は品格と美に昇華させられた。
作り込みが徹底してごまかしがない舞台
2015年に初演されたデイヴィッド・マクヴィカー演出の舞台の再演だが、読み替えも時代の移行もなく、第1幕はフランス革命前後、第2幕から第4幕はその5年後として描かれる。歴史の細部が大切にされ、その結果、洗練された舞台装置や衣裳は簡略化や抽象化されることなく、細部まで徹底して作り込まれてごまかしがない。しかも、どの場面も人物の動きをふくめ映画のように作り込まれている。
第1幕は、貴族のサロンならではのエレガンスや華やかさを、パッパーノが指揮する管弦楽が、軽快なテンポに抑揚とニュアンスを深く刻みながら表現し、そこに時おり革命の足音を忍び込ませた。それがリアルで洗練された舞台装置と衣裳と抜群の相性を見せる。
ここで、ごく簡単にあらすじを記しておこう。
革命前夜のコワニー伯爵のサロンで、令嬢マッダレーナと詩人シェニエは出会い、従僕のジェラールは世界を変える決意をし、伯爵家を飛び出す。5年後、零落したマッダレーナはパリでシェニエに再開して愛し合う。一方、革命政府の高官になったジェラールは、マッダレーナに思いを寄せつつ、反革命的なシェニエを告発する。だが、マッダレーナに懇願されて弁護するが、結局、シェニエへの死刑判決が。マッダレーナは進んで別の死刑囚の身代わりになり、シェニエと2人で断頭台に登る。
第1幕で貴族のサロンを感じさせたウンベルト・ジョルダーノの音楽は、第2幕以降は革命後の社会を写実する。そして、パッパーノの指揮する管弦楽は、見事に写実的であると同時に、エレガンスをけっして失わない。
感情が豊かに溶け込んだ声が雄弁な管弦楽と一体化
ところで、《アンドレア・シェニエ》は、19世紀末にイタリアで流行したヴェリズモ・オペラに属すると説明される。「ヴェリズモ」とは真実主義という意味で、残虐な場面が多用され、音楽的には技巧を排して感情が直接的に表現される、といった特徴がある。
たしかに、このオペラはヴェリズモと切り離せない。だが、この演奏を聴き、この舞台を観ると、ヴェリズモ・オペラのとらえ方自体を変えざるをえなくなる。
一般にヴェリズモ・オペラは、歌手たちが声を張り上げて感情を表し、激しい情熱はいわゆる「泣き」を入れて表現するというイメージが強い。しかし、この《アンドレア・シェニエ》では違う。
第1幕の冒頭近くから、ジェラール役のアマルトゥブシン・エンクバートは、貴族に反発するソロを実に格調高く表現した。続いて、シェニエ役のヨナス・カウフマンがアリア「ある日青空を眺めて」を、ニュアンスたっぷりに歌い上げた。これは情熱的なシェニエが、マッダレーナに愛の崇高さを伝える即興詩だが、情熱が上ずることなく、ピアニッシモも駆使した多様で豊かなニュアンスとして、音楽に織り込まれた。
また、第2幕で再会したマッダレーナとシェニエの愛の二重唱。甘い旋律が抑揚をつけられてゆったり奏され、そこにカウフマンと、マッダレーナ役のソンドラ・ラドヴァノフスキーの、強弱と色彩によって感情が豊かに溶け込んだ声が、濃密な情熱を表現した。
このように、このオペラにみなぎる情熱は、剥き出しの感情としてではなく、すぐれた歌手たちの高度なテクニックを前提にした、ニュアンスたっぷりの洗練された歌唱として表現される。それはパッパーノの徹底した指示もあってのことだろう。その結果、声は雄弁で細やかな管弦楽と見事に一体化する。
第3幕の、ジェラールのアリア「祖国の敵」の力強い品格。マッダレーナのアリア「母は死んで」の磨かれた歌唱による深すぎる感情表現。第4幕の、シェニエのアリア「五月のある美しい日のように」の端正な情熱。シェニエとマッダレーナの最後の二重唱はいうまでもない。それだけでも価値があるが、そこに止まらない。
深い感情が渦巻く情熱的な歴史劇が、作り込まれた舞台上で、洗練された完璧な音楽で表現され、名歌手たちの磨き抜かれた至芸に酔える。この《アンドレア・シェニエ》を超えるエキサイティングなオペラ体験は、滅多にできるものではない。
2024.09.13
ロイヤル・オペラ『アンドレア・シェニエ』タイムテーブルのご案内
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2024.09.06
ロイヤル・オペラ『カルメン』現地メディア評
現地メディアからは数々の賛辞とともに高評価を頂いております!
ぜひこの機会にご鑑賞くださいませ。
★★★★★
Broadway World
★★★★
The Guardian
★★★★
Financial Times
★★★★
Bachtrack
2024.09.06
ロイヤル・オペラ『カルメン』タイムテーブルのご案内
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2024.08.28
オペラ『カルメン』見どころをご紹介します。
家田 淳(演出家・洗足学園音楽大学准教授)
求め合い傷つけ合う男と女の物語を、アイグル・アクメトチナが魅せる!
昨年のロイヤル・オペラ・ハウス・シネマ「セビリアの理髪師」で主役ロジーナを歌って魅了したアイグル・アクメトチナが、ついにカルメンで登場する。
アクメトチナ(実際の発音は「アクメチナ」に近い)は、カルメン役でまさにオペラ界を席巻中の新生スター。去年から今年にかけては、メトの新制作「カルメン」に出演したほか、ベルリン・ドイツ・オペラ、バイエルン州立歌劇場に登場、今後もグラインドボーン音楽祭、アレーナ・ディ・ヴェローナ他で同役を歌う予定で、世界の主要歌劇場・音楽祭で次世代のカルメン旋風が吹いている。
現在若干28歳のアクメトチナは、ロシア・バシコルトスタン共和国の小さな村の出身で、幼い頃から歌が得意。「歌手のアイグル」と呼ばれて育ち、ポップス歌手を夢見る少女だった。オペラに目覚めたのは14歳の頃だったが、田舎町の暮らしゆえ、実際に歌手になれるとは思っていなかったという。転機は19歳の時。師匠の強い勧めで出場したロシアの国際コンクールで、ロイヤル・オペラ・ハウス(以下ROH)の養成所ジェットパーカー・ヤングアーティスツ・プログラムの所長に見出され、同プログラムのオーディションを受けて見事入所を果たしたのだ。
ROHのヤングアーティスツ・プログラムはオペラ界最高峰の養成機関で、世界中から毎年数千人の応募がある中、入所できるのは歌手5名、指揮者、ピアニスト、演出家各1名のみ。2年間のプログラムで、演技、各国言語などのコーチングを受けながら、本舞台に小さい役で出演できる。筆者は「歌手の演技訓練法」を学ぶための研修先にこの機関を選び、2014年に半年間、非正規メンバーとして各種クラスに参加したが、オペラに関わるあらゆる側面を実践的に学べる非常に充実したプログラムだった。
メンバーはある程度プロとしての経験がある20代後半から30代前半のアーティストが中心で、アクメトチナの20歳での入所は異例中の異例。そしてプログラム在籍2年目、ROH本舞台の「カルメン」に主役のカバーとして参加していたところ、本役の歌手が降板し、いきなり主役デビューを果たして話題をさらったのである。たった21歳でカルメンを歌うのは、ROHの長い歴史における最年少記録だった。
さて、アクメトチナはどんな歌手か? まず、聴く者を体ごと包み込み、圧倒的な快感を与える声。天性のチャーミングなオーラ。加えて、技術と直感を組み合わせた、リアルで繊細な演技力がある。ROHのプログラムで学んだだけあり、彼女は持ち前のカリスマだけで押し切ることはしない。同じ役を何度歌っても演技がありきたりにならないよう、稽古場では演出家とやりとりを深め、役の心理をつかみ、プロダクションごとに新たなカルメン像を造形すると語っている。その上で、天性の勘で本番に臨む。「カルメン役に限っては、事前に計算ができない。もちろん演出の決まり事は守るが、その日、その瞬間に自分がどうなるかは、やってみるまでわからない。舞台に立ったらカルメンとして生きる」。これは理想的なオペラ歌手のあり方ではないだろうか。毎回がスリリングな舞台になること、間違いなしである。
インタビューで垣間見える彼女の人柄は、気さくで謙虚。芸術を通じて社会をより良い場所にし、将来的には若手アーティストをサポートする財団を設立する夢も語っている。来年はカルメン以外の様々な役にも挑戦するとのこと。そんなアクメトチナが今後どんな風に羽ばたいていくのか、目が離せない。
最後に、演出について少し。「カルメン」は時代設定を変えても違和感の少ない作品で、近年は現代に設定を移して観客に親近感を持たせつつ社会の闇を描き出す演出が多い。メトのプロダクション(こちらもホセはベチャワだった)はアメリカの軍需工場に舞台を置き、暴力と搾取にさらされる女性たちに焦点を当てたが、今回のダミアーノ・ミキエレットの演出は現代でももう少し抽象的な設定にすることで、この物語の普遍性が際立つようになっている。1970年代、南スペインの荒涼とした「どこか」。舞台上は殺伐とした屋外の空間と、幕によって警察の詰所になったりナイトクラブになったりする小さな小屋。盆を効果的に使ってこのシンプルなセットにさまざまな角度を与えつつも、空気感は閉鎖的。重く暑苦しい気候の中、文化も娯楽もない土地に閉じ込められた軍人たちと女たちは、必然的にお互いを求め合い、牙を剥いて傷つけ合う。1幕で弱い者いじめをする子どもの集団は、大人社会の縮図のよう。また、「ホセの母親」を黙役として登場させ、ホセの深層心理に潜む暗い影を暗示させているのも興味深い。この設定の中でアクメトチナとベチャワがどのような新しい表情を見せるか、ぜひご覧いただきたい。
2024.06.20
バレエ『白鳥の湖』延長上映決定!
英国ロイヤル・オペラ・ハウス・シネマシーズン
『白鳥の湖』延長上映決定!
大好評につき、TOHOシネマズ 日本橋にて延長上映が決定致しました!
~6/27(木)まで
★上映スケジュールは劇場HPをご覧ください
https://hlo.tohotheater.jp/net/schedule/073/TNPI2000J01.do
2024.06.14
ロイヤル・バレエ『白鳥の湖』現地メディア評
現地メディアからは数々の賛辞とともに高評価を頂いております!
ぜひこの機会にご鑑賞くださいませ。
★★★★★
SUNDAY MIRROR
★★★★★
BROADWAY WORLD
★★★★★
JEWISH CHRONICLE
★★★★★
THE STAGE
★★★★
THE TIMES
★★★★
INDEPENDENT
★★★★
THE ARTS DESK
★★★★
BACHTRACK
2024.06.10
バレエ『白鳥の湖』見どころをご紹介します。
森菜穂美(舞踊評論家)
クラシック・バレエの中でも、最も人気の高い作品が『白鳥の湖』である。チャイコフスキーの壮麗でドラマティックな旋律、一糸乱れぬ白鳥たちの群舞、そして白鳥オデットと黒鳥オディールを一人のバレリーナが演じ分ける趣向により、クラシック・バレエの代名詞となり、日本でも最も多く上演されているバレエ作品である。
2018年5月に英国ロイヤル・バレエは、弱冠31歳のリアム・スカーレット振付による新しい『白鳥の湖』を初演した。スカーレットはロイヤル・バレエのダンサーだった24歳の時に振り付けた『アスフォデルの花畑』が英国批評家協会賞に輝いて天才の出現と大きな話題を呼んだ。2016年には初の全幕作品『フランケンシュタイン』がシネマでも上映された。切り裂きジャックの物語をバレエ化した『スイート・ヴァイオレット』、『ヘンゼルとグレーテル』、『フランケンシュタイン』、そして1940年代のマンハッタンを舞台にした『不安の時代』など、スカーレットの作品は現代性とダークな世界観が特徴的で、その傾向は『白鳥の湖』にも表れている。
マリウス・プティパの生誕100周年を記念し、これまで上演されていたアンソニー・ダウエル版に代わり、30年ぶりに新しい『白鳥の湖』が製作されることになった。飛ぶ鳥を落とす勢いの若き天才スカーレットに白羽の矢が当たり、『アスフォデルの花畑』『スイート・ヴァイオレット』そして『フランケンシュタイン』でもスカーレットとコラボレーションしたジョン・マクファーレンが美術を手掛けることになった。
スカーレットは、白鳥たちの群れが幻想的に舞う2幕は現在世界中で上演されている『白鳥の湖』のベースであるプティパ/イワーノフ版(1895年)に忠実な振付としたが、1幕、3幕、4幕には変更を加えた。悪魔ロットバルトは女王の側近に扮して玉座を狙い、パ・ド・トロワを踊るのはジークフリートの姉妹と、王子と特別な絆で結ばれている友人ベンノという設定が斬新だ。3幕のナポリの踊りのみ、ダウエル版にも採用されていたアシュトンの振付を引き継いだ。4幕は全くのオリジナルの振付で、”死“に魅せられ2021年に35歳で早世したスカーレットらしい荘厳な悲劇に仕上げた。辛口の英国の批評家たちにも絶賛されたこのプロダクションは、3度目のリバイバルを迎えても圧倒的な人気を誇り、発売されるや否や全公演のチケットが売り切れた。
2024年4月24日に収録された今回のシネマでは、ロイヤル・バレエの新時代トッププリンシパルの二人、ヤスミン・ナグディとマシュー・ボールが主演。昨シーズンの『眠れる森の美女』や、2019年の『ロミオとジュリエット』など、シネマでこの二人の主演が上演される機会も多く、至高のパートナーシップを築いてきたペアだ。共演を重ねてきた二人だけに、自然な演技とぴったりと息が合ったサポートが見事で、当代最高レベルのパフォーマンスで酔わせてくれる。
長い手脚による繊細でたおやかな表現、磨き抜かれ安定した高度な技巧にドラマティックさも備えた知性派ナグディは、凛と気高く悲劇的な白鳥の王女オデット、自信に満ちて魅惑的な黒鳥オディールという全く違った二つのキャラクターを好演。3幕クライマックスの32回転のグラン・フェッテは3回転も入れて強靭かつエレガントで音楽性にも優れた踊りで魅せる。腕の動きで呪われた運命を語るマイムの美しさも特筆ものだ。愁いを秘めた表情が絵になり、優雅な身のこなしと端正な容姿の英国貴公子ボールは、高い跳躍や高速回転など超絶技巧を披露して王子の情熱も見せる。最終幕での、愛し合いながらも結ばれない運命を嘆き慟哭するパ・ド・ドゥ(デュエット)の、二人の卓越した表現力を昇華させた痛切なドラマ性が胸を打ち、涙せずにはいられない。
怪僧ラスプーチンのような妖しげな女王の側近実は悪魔ロットバルトを怪演するのは、渋くセクシーな演技派トーマス・ホワイトヘッド。マシュー・ボール、そしてトーマス・ホワイトヘッドは、共にマシュー・ボーンの名作『白鳥の湖』で男性の白鳥であるザ・スワンを演じたという共通点がある。
ジークフリート王子の親友ベンノは、軽やかで高い跳躍と美しいプロポーションの韓国出身の注目若手ダンサー、ジョンヒョク・ジュンが演じている。前田紗江、桂千理が花嫁候補である王女たちを魅力的に演じるなど日本出身のダンサーたちも随所で活躍している。もちろん、白鳥たちの一糸乱れない美しさを保ちながら、フォーメーションを次々と変化させていくコール・ド・バレエ(群舞)は、大きな見どころだ。
幕間の解説映像では、リアム・スカーレット亡き後彼の作品の振付指導を行っている元プリンシパルのラウラ・モレ―ラや、主演のナグディ、ボールのインタビューとリハーサルシーンに加えて、白鳥のチュチュが熟達した職人たちの手で製作される過程のドキュメンタリーや、ジョン・マクファーレンによる舞台美術の解説と盛りだくさんの内容で、作品の理解を深めることができる。リハーサルでは、ロイヤル・バレエ専属ピアニストの川口春霞の姿も見られる。今回の新進気鋭の指揮者マーティン・ゲオルギエフによるチャイコフスキーの不朽のメロディについての解説も興味深い。
ジョン・マクファーレンによる黒とゴールドを多用し、重厚にして絢爛たる舞台美術もこの版の大きな魅力である。宮廷の中庭で展開される王子の誕生日祝いのパーティには村人はおらず、洗練された貴族社会であることが強調されている。荘重な大階段、黄金に輝く壁や玉座が象徴的な3幕の舞踏会の華麗な舞台美術には思わず息を呑む。古典作品を現代的にアップデートし、英国バレエ伝統の演劇性を強調した演出のこの『白鳥の湖』は、あまたある『白鳥の湖』のなかでも傑作の誉れ高く、世界最高のバレエ団である英国ロイヤル・バレエが総力を結集しているスカーレット版を、現地ロンドンに行かなくても観られる臨場感あふれる映画館の大画面で、ぜひ満喫してほしい。
2024.06.10
ロイヤル・バレエ『白鳥の湖』タイムテーブルのご案内
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2024.06.05
英国批評家協会賞(ナショナル・ダンス・アワード)2024
英国批評家協会賞(ナショナル・ダンス・アワード)2024の受賞者が発表されました!
© Royal Opera House 2024
2024.06.03
オペラ『蝶々夫人』見どころをご紹介します。
田里光平(NBS/公益財団法人日本舞台芸術振興会)
※英国ロイヤル・オペラの日本公演を主催
日本人にとって特別なオペラ『蝶々夫人』
『蝶々夫人』は日本人にとって特別なオペラだ。現在世界の歌劇場で恒常的に上演されているオペラの作品数は60~70と言われているが、その中で唯一、日本を舞台にした作品であり、日本文化がどのように舞台で表現されるか、その演出に向けられる日本人の目は厳しい。そして、今なお日本各地に残る米軍基地のことを考えると、このオペラが現代まで続いている物語であることに想いを馳せずにはいられない。
残念なことに海外の歌劇場では日本文化への理解を欠いた演出も多く、それゆえにメジャーな作品でありながら、国内の団体以外で本作を観る機会は皆無という状況だった。そんな日本の状況に変化をもたらしたのが今回の英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズンによる『蝶々夫人』の上映ではないだろうか。プッチーニの生み出した甘美で流麗な旋律は背筋が震えるほど美しく、一流の歌劇場、アーティストによる上演は、音楽の洪水にひたる喜びを体感させてくれる。
そして美しい音楽とともに、今回のモッシュ・ライザー、パトリス・コーリエの演出による舞台は、私たち日本人の観客に“安心”を与えてくれる舞台である。英国ロイヤル・オペラでは今回の再演に際し、日本人スタッフを投入。日本人からみても違和感のない舞台になるようにアップデートを重ねてきた。
歴史的背景が確立されているオペラを演出するのは非常に難しい。時代考証を綿密にすると、時として古臭い印象を与えてしまうこともある。さらにSNSが普及し、早いテンポや展開になれた現代人の感覚にも耐えうるものにしなければ観客の支持を得ることは難しくなってくる。
今回の上演では単純に明治時代を再現するのではなく、伝統的でありながらどこか現代性を感じさせる要素が随所に織り込まれている。蝶々さんのまとう婚礼の白無垢も、スズキの質素な着物も、いわゆる“着物”とは少し違うデザインで、素材も異なっている。装置や照明とあわせて考え抜かれた衣裳の色使いも美しい。障子にみたてた白い背景幕を簾のように上下させることでテンポよく場面を変えつつ、違和感なく場面が日本であることを表現する。少しの工夫で観客に与える印象を変えられることを示した好例といえるだろう。
最高の歌手による、誇り高く美しい蝶々さん
プッチーニのオペラは歌手にとっては過酷な作品ばかりだ。中でも蝶々さんは“ソプラノ殺し”と言われることもある難役で、15歳の可憐な少女という設定のために柔らかで繊細な音色が求められる役柄。大編成のオーケストラを突き抜ける声で、かつ繊細な表現をすることは非常に難しい。しかも全編をとおしてほぼ出ずっぱりで歌わねばならず、体力的にも負荷の大きな役である。
そんな難しいプッチーニのオペラを得意とし、今回の上映において音楽的成功を牽引しているのがアスミク・グリゴリアン。ザルツブルク音楽祭の『サロメ』の成功で一躍世界の檜舞台に躍り出たこの若き歌手は、他の歌手にはない圧倒的な存在感と個性を放つ。一度彼女の舞台に接したならば、その舞台は観客にとって長く記憶に残るものとなるだろう。
グリゴリアンは「プッチーニは感情を音楽で表現する名人」と語る。持ち前の強靱かつしなやかな声は役柄によって様々な色彩を帯び、彼女が演じるとオペラのヒロインが血のかよった人物となり、舞台がより生き生きと輝く。声だけでも主人公の心情を観客に伝えきる力をもち、さらに高い演技力まで兼ね備えている稀有な歌手である。
そして「音楽を通して私自身の物語を表現している」と、常に独自の解釈を探求するディーヴァは受け身のヒロインにはとどまらない。彼女の演じる蝶々さんは自らの強い意志を感じさせる。特に2幕の終盤から3幕の幕開きにかけ、一人舞台に正座し、じっと宙をみつめるグリゴリアンの姿は、歌わずして蝶々さんの孤独とかすかな希望、さらには武家の娘であるという誇りを感じさせ、終幕の自死を予感させる。まさに本公演の白眉といえる場面である。なお、そんなグリゴリアンのチャーミングな素顔が見られるのはシネマならではの嬉しさ。リハーサルでドラゴンボールのTシャツを着ている姿には思わず笑顔がこぼれる。
こうして言葉を尽くしてみたところで、『蝶々夫人』というオペラやアスミク・グリゴリアンという歌手の魅力を十分に伝えることはできない。オペラはやはり劇場で体験する芸術であり、生の演奏や歌声に触れないとその真の魅力は伝わらない。まだオペラに触れたことがない方はまずはシネマから、そして生の舞台へと少しずつその世界を広げていただければ、きっと新たな喜びを感じてもらえるのではないだろうか。総合芸術と言われるオペラには数百年にわたって受け継がれてきた豊かな土壌が備わっているのだから。
2024.06.03
ロイヤル・オペラ『蝶々夫人』現地メディア評
現地メディアからは数々の賛辞とともに高評価を頂いております!
ぜひこの機会にご鑑賞くださいませ。
★★★★★
DAILY EXPRESS
★★★★★
THE STAGE
★★★★
THE GUARDIAN
★★★★
THE INDEPENDENT
★★★★
BROADWAY WORLD
★★★★
INEWS
2024.06.03
ロイヤル・オペラ『蝶々夫人』タイムテーブルのご案内
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2024.04.02
バレエ『マノン』見どころをご紹介します。
森菜穂美(舞踊評論家)
濃厚なドラマティック・バレエの沼に溺れてみたい―愛と官能の最高傑作、ロイヤル・バレエの『マノン』
ケネス・マクミラン振付の『マノン』は、『ロミオとジュリエット』『うたかたの恋―マイヤリング』と並び、マクミランの代表作と呼ばれるドラマティック・バレエの最高傑作だ。今年で初演から50周年を迎える。ロイヤル・バレエの歴史の中でも、初演のアントワネット・シブリ―、アンソニー・ダウエル、そしてシルヴィ・ギエム、本シネマシーズンで司会を務めるダーシー・バッセルなど、スターによる数々の名演が行われてきた。
18世紀のパリの裏社交界が舞台。華やかさの裏で絶対的な貧困がはびこる世界で、魔性の美少女マノンは贅沢な生活を選ぶのか、貧しくてもデ・グリューとの愛に生きるのか。愛の本質を問い続け、人間心理の深層に迫った色褪せない名作である。ガラ公演では、恋の高揚感に酔うロマンティックな『寝室のパ・ド・ドゥ』や、ルイジアナの沼地での死を前にした極限の愛を見せる壮絶な『沼地のパ・ド・ドゥ』が頻繁に踊られるなど、一度観たら忘れられない名場面の多い作品だ。ロイヤル・バレエを始め、パリ・オペラ座バレエ、アメリカン・バレエ・シアター、オーストラリア・バレエ、ヒューストン・バレエ、そして新国立劇場バレエ団など世界中のバレエ団で上演され、踊り継がれてきた。
原作はアベ・プレヴォーの『マノン・レスコー』で、オペラ化も、映画化もされている(アンリ・ジョルジュ・クルーゾー監督による1949 年の映画化『情婦マノン』、そしてカトリーヌ・ドヌーヴ主演の『恋のマノン』(1967)も映画ファンなら知っている人も多いだろう)。
1973年夏のロイヤル・バレエのシーズンの最終日の夜、ロイヤル・バレエのプリンシパル、アントワネット・シブレーは楽屋に一冊の本が置いてあることに気が付いた。本に添えられたケネス・マクミランからのメモには、「夏休みの課題読書です。74年の3月7日に必要になります」と書かれていた。
マクミランはプレヴォーの1731年の小説に基づき、自身のシナリオを作り上げた。マノンの気まぐれな態度の鍵は、貧困を恐れたことにあったと彼は受け止めた。兄レスコー同様、彼女は貧しさという屈辱を逃れるためには何でもしたのだ。何よりも彼女は贅沢な生活をするために金持ちの男に守ってもらう必要があった。18世紀のパリ社会は、モラル的にも金銭的にも移り気で、富と腐敗が、堕落と退廃と共に繁栄を誇った。このバレエの舞台は一見華やかに見えて、これらの対照性を明らかにしている。場面転換の後ろ側にはボロ布が吊るしてあり、性的なサービスを提供することによって得られた贅沢な服をまとった女性たちが誇らしげに歩くそばで、小銭を拾う浮浪児たちがいる。(ジャン・パリー「一つの古典の創造」より引用)この貧困がはびこる世界観は、現代の格差社会や貧困と地続きのものを感じさせる。
甘美でドラマティックな旋律が印象的な音楽については、マクミランは1974年のバレエ初演時、レイトン・ルーカスに編曲を依頼してオペラ版も手掛けたジュール・マスネの音楽を用いたが、オペラと同じ曲はあえて使用していない。現在のバージョンは2011年にマーティン・イエーツが、マスネの既成の曲を最初からまるでバレエ組曲として書かれたように再構成して完成させた。
本上映では、ロイヤル・バレエのトップスターたちの贅沢な共演と共に、舞台に立っている一人一人のアンサンブルが、18世紀のパリ、そしてニューオーリーンズに生きる人々の息吹を細やかな演技で伝えて、これぞ英国の本家ドラマティック・バレエという見ごたえのある舞台を堪能させてくれる。
今回マノンを演じるのは、世界的なスターバレリーナのナタリア・オシポワ。ボリショイ・バレエ時代から高い身体能力と技術で知られてきた、ロイヤル・バレエに移籍後には演技力を磨き、強靭な肉体をすみずみまで使って物語を語る唯一無二の傑出した個性と表現力で、ロンドンでも熱狂的に支持されている。時には大胆に、時には繊細に、マノンという一筋縄ではない女性を舞台の上で説得力を持って生き、観客に強い衝撃を与える。流されるだけのヒロインではない、過酷な運命の中で生き抜こうとする強さを持つ新しいマノン像を目撃してほしい。
マノンを一途に愛するデ・グリュー役は、シネマの全幕作品では初主演のリース・クラーク。2022年にプリンシパルに昇進したばかりで、ロイヤル・バレエ一の長身、映画スターのような麗しい容姿の持ち主であり、バレエ団の次世代を担い国際的なスターダンサーへと羽ばたこうとしている。本作では空中に投げられて二回転をしたマノンを地面すれすれでキャッチする、オフバランスなど危険ぎりぎりの難しいサポートが頻出するが、魔法のような彼のサポートには驚かされるはずだ。本作で重要なパ・ド・ドゥの素晴らしさと、息の合った演技は、観る者を深い感動に引きずり込むことだろう。オシポワとは、昨年夏のロイヤル・バレエ来日公演『ロミオとジュリエット』でも共演しており、初共演以来5年間にわたって見事なパートナーシップを築いている。
マノンの兄レスコーには、今年3月に惜しまれながら引退し、ロイヤル・アカデミー・オブ・ダンス(RAD)の芸術監督に就任する、実力派プリンシパルのアレクサンダー・キャンベル。大胆な酔っ払いのソロなどで、踊りと演技が融合した名人芸を見せてくれる。またレスコーの愛人として、シネマシーズンの『ドン・キホーテ』での主演が記憶に新しいマヤラ・マグリが魅力を振りまき、ムッシュG.M.にはロイヤル・バレエきっての名役者ギャリー・エイヴィスが味わい深い演技を見せている。
マダムの館でのダンシング・ジェントルマンの踊りでは、アクリ瑠嘉を始め、カルヴィン・リチャードソン、ジョセフ・シセンズというプリンシパル有力候補の3人が華麗なステップを踏んでおり、次に誰が昇進するのかワクワクしながら観るのも本作の楽しみ方の一つだ。ベガ―チーフ(物乞いの頭)を演じる中尾太亮の鮮やかな跳躍や回転技、あでやかな高級娼婦を演じる崔由姫、前田紗江ら日本出身のダンサーたちの活躍も見逃せない。
今回のシネマシーズンでは、マノン役を始め、レスコーの愛人など数々の役を演じ、昨年日本で惜しまれながら引退して現在はマクミラン財団の芸術監修者となった名花ラウラ・モレ―ラが『マノン』の真髄について語り、そして主役を指導するシーンが見られる。また重厚にて絢爛な舞台美術を手掛けた、巨匠故ニコラス・ジョージアディスの姪エフゲニアが、本作の舞台美術や衣裳について語るトークも聞き逃せない。
演劇性に優れたバレエの世界最高峰、ロイヤル・バレエが本気を見せた最高傑作『マノン』、ぜひ大スクリーンで味わって、沼地にはまったまま帰れなくなるようなディープな舞台体験をしてみてほしい。
2024.04.01
ロイヤル・バレエ『マノン』タイムテーブルのご案内
バレエ作品の中でも最もドラマティックで破滅的な作品のひとつとして高い人気を誇る、ケネス・マクミラン振付の『マノン』。『ロミオとジュリエット』『うたかたの恋―マイヤリング』と並び、マクミランの代表作と呼ばれるドラマティック・バレエの最高傑作であり、今年で初演から50周年を迎える。
18世紀のパリの退廃的な裏社交界が舞台。多くの男性を惑わせる美貌の少女マノンが、神学生のデ・グリューと出会い熱烈な恋に落ちる。兄レスコーの手引きから富豪ムッシュG.M.から愛人にならないかと誘われたマノンは、デ・グリューとの愛と、G.M.との豪華な生活の間で引き裂かれる。高級娼婦として悪徳にまみれ、いかさま賭博に手を染めるが―
出会いの後の甘美そのものの恋の歓びを伝える“寝室のパ・ド・ドゥ”、それと対照的な終幕、マノンとデ・グリューが逃げ込んだルイジアナの沼地で、最後の命の炎を燃やして果てるまでの壮絶な“沼地のパ・ド・ドゥ”が胸を打つ。
(上演日:2024年2月7日)
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【振付】ケネス・マクミラン
【音楽】ジュール・マスネ
【編曲】マーティン・イェーツ (選曲:レイトン・ルーカス、協力 ヒルダ・ゴーント)
【美術】ニコラス・ジョージアディス
【照明デザイン】ジャコポ・パンターニ
【ステージング】ラウラ・モレ―ラ
【リハーサル監督】クリストファー・サウンダース
【レペティトゥール】ディアドラ・チャップマン、ヘレン・クローフォード
【プリンシパル指導】アレクサンドル・アグジャノフ、リアン・ベンジャミン、アレッサンドラ・フェリ、エドワード・ワトソン、ゼナイダ・ヤノウスキー
【コンサートマスター】セルゲィ・レヴィティン
【指揮】クン・ケッセルズ
ロイヤル・オペラハウス管弦楽団
【出演】
マノン:ナタリア・オシポワ
デ・グリュー:リース・クラーク
レスコー:アレクサンダー・キャンベル
ムッシュG.M.:ギャリー・エイヴィス
レスコーの愛人:マヤラ・マグリ
マダム:エリザベス・マクゴリアン
看守:ルーカス・ビヨルンボー・ブレンツロド
ベガー・チーフ(物乞いの頭):中尾太亮
高級娼婦:崔由姫、メリッサ・ハミルトン、前田紗江、アメリア・タウンゼント
三人の紳士:アクリ瑠嘉、カルヴィン・リチャードソン、ジョセフ・シセンズ
娼館の客:ハリー・チャーチス、デヴィッド・ドネリー、ジャコモ・ロヴェロ、クリストファー・サウンダーズ、トーマス・ホワイトヘッド
老紳士:フィリップ・モーズリー
娼婦、宿屋、洗濯女、女優、乞食、街の人々、ねずみ捕り、召使、護衛、下男:ロイヤル・バレエのアーティスト
2024.03.19
ロイヤル・バレエ『マノン』現地メディア評
現地メディアからは数々の賛辞とともに高評価を頂いております!
ぜひこの機会にご鑑賞くださいませ。
★★★★★
THE GUARDIAN
★★★★★
THE STAGE
★★★★★
EVENING STANDARD
★★★★★
THE TELEGRAPH
★★★★★
THE ARTS DESK
★★★★★
SUNDAY EXPRESS
★★★★
THE TIMES
★★★★
THE INDEPENDENT
★★★★
FINANCIAL TIMES
★★★★
BROADWAY WORLD
2024.02.15
ロイヤル・バレエ『くるみ割り人形』現地メディア評
現地メディアからは数々の賛辞とともに高評価を頂いております!
ぜひこの機会にご鑑賞くださいませ。
★★★★★
THE TIMES
★★★★★
THE STAGE
★★★★★
SUNDAY MIRROR
★★★★★
EXPRESS
★★★★
THE GUARDIAN
★★★★
THE INDEPENDENT
★★★★
THE TELEGRAPH
★★★★
EVENING STANDARD
★★★★
BACHTRACK
2024.02.14
バレエ『くるみ割り人形』見どころをご紹介します。
森菜穂美(舞踊評論家)
観る人誰もを幸せにする、ロイヤル・バレエ『くるみ割り人形』の魔法
冬の風物詩として、最も愛されるバレエ作品である『くるみ割り人形』。E.T.Aホフマンの「くるみ割り人形とねずみの王様」をもとに1892年に誕生した本作は、チャイコフスキーの切なく美しい旋律と幻想的な雪の場面や華麗な各国の踊り、クリスマスを舞台にした少女のファンタジックな成長物語が人気を呼び、様々な振付作品が誕生してきた。
<ロイヤル・バレエ『くるみ割り人形』の魅力とは>
ロイヤル・バレエで570回以上も上演され愛されてきたピーター・ライト版は、1984年に初演。ホフマンの原作に登場する、ねずみ捕りを発明家のドロッセルマイヤーが発明したため、彼の甥ハンス・ピーターがねずみの女王の呪いでくるみ割り人形に姿を変えられてしまうというエピソードがプロローグで示される。ねずみの王様をやっつけた勇敢な少女クララに愛されることで呪いが解け、ハンス・ピーターが元の姿に戻ってドロッセルマイヤーの元に帰ってくるという物語性がはっきりしていることが、大きな魅力の一つとなっている。
多くの「くるみ割り人形」では、クララ役を子役ダンサーが踊り、2幕ではお菓子の国の祝宴のお客様として座っているだけという演出が主流だ。だがロイヤル・バレエのピーター・ライト振付『くるみ割り人形』では、クララと、くるみ割り人形から元の姿になったハンス・ピーターは、雪の場面や、お菓子の国における各国の踊り、さらには花のワルツの中でもパワフルに踊って、最初から最後まで大きな存在感を見せている。各国の踊りは、時代に合わせて改訂が加えられ、ロシアや中国のダイナミックな動きは特に観客を沸かせている。
<ライジング・スターが抜擢されるクララとハンス・ピーター役、若手日本人ダンサーも活躍>
クララ役やハンス・ピーター役は、若手の有望ダンサーが抜擢されることが多く、その中にはその後プリンシパルに昇格して、最後の金平糖の精と王子のパ・ド・ドゥという主役を踊ることが多い。今回金平糖の精と王子を演じる、アナ・ローズ・オサリヴァンとマルセリーノ・サンベは、2019年のシネマで劇場公開された公演でこのクララ役、ハンス・ピーター役を演じ、その後プリンシパルに昇格した。
今回、クララを演じるのは、2018年に入団して以来、頭角を現しているソフィー・アルット。清楚な可愛らしさと共に知性も感じさせ、柔らかい動きが魅力的で卓越したクラシック技術を持つ。先だってシネマ上映された『ドン・キホーテ』ではキトリの友人役として大活躍した。ハンス・ピーター役には、若手ソリストのレオ・ディクソン。シネマ上映の『ドン・キホーテ』ではワイルドなロマの首領、また別の公演ではエスパーダ役でデビューも果たした期待の星だ。少女クララの憧れを体現したようなフレッシュな好青年ぶりと輝かしいテクニックで魅せている。これからの成長が期待される〝推し“を見つけることができるのもシネマの魅力である。
主役以外でも、スタイリッシュで渋い魅力を発揮している魔術師ドロッセルマイヤーのトーマス・ホワイトヘッド、アラビアではドキュメンタリー映画『バレエ・ボーイズ』に出演したルーカス・B・ブレンツロド、薔薇の精役の愛らしい実力派イザベラ・ガスパリーニなど注目ダンサーが多く登場している。
毎回日本人ダンサーの活躍を見ることができるのを楽しみにしている人も多いはず。冒頭、鮮やかな跳躍で目を奪うドロッセルマイヤーのアシスタント役は、2013年に世界最大のバレエコンクールであるユース・アメリカ・グランプリのホープアワードを10歳で受賞した五十嵐大地が演じている。五十嵐は今シーズン、ハンス・ピーター役にも抜擢されており成長が目覚ましい。1幕では兵士、2幕ではロシアを演じた中尾太亮は今シーズンソリストに昇進し、ハンス・ピーター役を演じているホープで、美しいつま先や高い跳躍が見もの。中尾と対で踊るヴィヴァンデール(人形)、そして花のワルツのリードを踊る佐々木万璃子は、金平糖の精、そしていよいよ4月には『白鳥の湖』で待望のオデット/オディール役を演じるなど、確実にプリンシパルへと近づいており、確かな技術のみならず華やかさも身につけてきた。
<金平糖の精のパ・ド・ドゥ、この上なく美しく甘く切ない踊りの秘密>
『くるみ割り人形』のクライマックスは、金平糖の精のグラン・パ・ド・ドゥ。クラシック・バレエの中でも究極のパ・ド・ドゥと言えるこの場面は、まるで天国にいるようなバレエの美の結晶である。甘く切ない旋律が胸を締め付けるが、チャイコフスキーが『くるみ割り人形』を作曲中に最愛の妹アレクサンドラを亡くし、その悲しみがこの曲に込められているという説もある。チャイコフスキーが、他の作曲家に知られないようにパリからロシアに持ち込んだチェレスタという鍵盤楽器の音色も、天国からの響きのようだ。「金平糖が床に飛び散るような」「ケーキの上のアイシングのような」キラキラした金平糖の精のソロ、王子の超絶技巧を詰め込んだソロ、コーダの高速回転など見せ場が満載だ。今回のシネマ上映では、ダーシー・バッセルが金平糖の精役のアナ・ローズ・オサリヴァン、王子役のマルセリーノ・サンベを指導する場面も登場するが、舞台上ではいともたやすく踊られているこの踊りが、いかに高度な技術や、細かい見せ方を計算して踊られているかがよくわかる。最高のダンサーだけが踊ることができるパ・ド・ドゥだ。
<ねずみの王様は隠れた主役>
『くるみ割り人形』の原作はE.T.Aホフマンの「くるみ割り人形とねずみの王様」というわけで、ねずみの王様も非常に重要なキャラクターとなっている。今回のシネマ上映では、デヴィッド・ドネリーが演じるねずみの王様とくるみ割り人形、クララとの戦いの場面のリハーサルシーンも楽しめる。ねずみの被り物をかぶらないで踊るとこんな感じになるのか!という発見ができる。王様らしい威厳がありながらも、お茶目さも感じさせるねずみの王様はどこか憎めなくて、子どもの観客にも人気がある。コロナ禍の際には、このねずみと兵隊たちとの戦いの場面の振付が変更され、ねずみや兵士たちを演じる子役たちが出演しない演出になっていたが、2022年より従来の版に戻した。なお、雪の場面のコール・ド・バレエ(群舞)もコロナ禍の時の16人から24人に今回から増やされており、雪が舞い児童合唱の美しい響きの中で幻想的な舞を見せてくれる。
<世界中で愛される『くるみ割り人形』の中でも、ロイヤル・バレエ版は決定版>
ロイヤル・バレエで上演されているピーター・ライト振付の『くるみ割り人形』は数ある『くるみ割り人形』の中でも、物語がしっかりしているドラマチックさ、夢と冒険がいっぱいのファンタジックさ、華やかな金平糖の精の場面で最も人気のあるプロダクションの一つである。チケットも発売と同時にすべての公演が売り切れるほどだが、本拠地ロイヤル・オペラハウスでしか上演されていない。それを日本の映画館で観ることができるのが、このシネマシーズンの魅力だ。世界最高のロイヤル・バレエのトップダンサーによる、バレエの魔法に夢見心地の2時間35分を映画館で過ごしてほしい。
2024.02.09
ロイヤル・バレエ『くるみ割り人形』タイムテーブルのご案内
クリスマスの時期に世界中で上演される『くるみ割り人形』、その中でも決定版とも言われる英国ロイヤル・バレエのピーター・ライト版『くるみ割り人形』。チャイコフスキーの甘美な旋律に乗せ、魔法のように大きくなるクリスマス・ツリー、ねずみたちとの戦い、美しい雪の精たち、そしてお菓子の国で繰り広げられる華やかな宴、心温まる幕切れと見どころ満載。ロイヤル・バレエで 570 回以上上演され愛され続けている本作が、今年も世界中の皆さんの心を暖めてくれる。
(上演日:2023年12月12日)
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【振付】レフ・イワーノフに基づき ピーター・ライト
【音楽】ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
【台本】E.T.Aホフマンに基づき マリウス・プティパ
【プロダクションと台本】ピーター・ライト
【美術】ジュリア・トレヴェリアン・オーマン
【照明デザイン】マーク・ヘンダーソン
【ステージング】クリストファー・カー、ギャリー・エイヴィス、サマンサ・レイン
【アラビアの踊り】ギャリー・エイヴィスが再振付
【指揮】アンドリュー・リットン
【コンサート・マスター】マグナス・ジョンストン
ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団
【出演】
金平糖の精:アナ・ローズ・オサリヴァン
王子:マルセリーノ・サンベ
ドロッセルマイヤー:トーマス・ホワイトヘッド
クララ:ソフィー・アルナット
ハンス・ピーター/くるみ割り人形:レオ・ディクソン
Act I
ドロッセルマイヤーの助手:五十嵐大地
キャプテン:ケヴィン・エマートン
アルルカン:テオ・デュブレイユ
コロンビーヌ:シャーロット・トンキンソン
兵士:中尾太亮
ヴィヴァンデール:佐々木万璃子
ねずみの王様:デヴィッド・ドネリー
Act II
スペイン:ハンナ・グレンネル、アイデン・オブライエン、マディソン・ベイリー、ジャコモ・ロヴェロ、マディソン・プリッチャード、ハリー・チャーチス
アラビア:オリヴィア・カウリー、ルーカス・B・ブレンツロド
中国:フランシスコ・セラノ、スタニスラウ・ヴェグリジン
ロシア:ジョシュア・ジュンカー、中尾太亮
葦笛の踊り:シャーロッド・トンキンソン、アメリア・タウンゼンド、ユー・ハン、ジネヴラ・ザンボン
薔薇の精:イザベラ・ガスパリーニ
薔薇の精のエスコート:デヴィッド・ドネリー、テオ・デュブレイユ、ハリソン・リー、ジョセフ・シセンズ
花のワルツのリード:レティシア・ディアス、イザベル・ルーバック、ジュリア・ロスコ―、佐々木万璃子
2024.01.30
バレエ『ドン・キホーテ』アンコール上映決定!
大変ご好評につきまして、TOHOシネマズ 日本橋にてアンコール上映が決定致しました!
お見逃しなくぜひご鑑賞くださいませ。
〈上映スケジュール〉
■2/2(金)
→19:20~の回
■2/3(土)
→12:35~の回
■2/4(日)
→12:25~の回
■2/5(月)~2/8(木)
→19:20~の回
★詳しくはこちらへ
https://hlo.tohotheater.jp/net/schedule/073/TNPI2000J01.do
2024.01.24
バレエ『ドン・キホーテ』見どころをご紹介します。
森菜穂美(舞踊評論家)
<世界的なスーパースターが振り付けた、生き生きとして楽しい>
ロイヤル・バレエの2023-24シネマシーズンのオープニングを飾るのは、カルロス・アコスタが振り付けた『ドン・キホーテ』です。
『ドン・キホーテ』はあらゆるクラシック・バレエ作品の中でも最も明るく楽しいラブコメディで、華やかな超絶技巧もふんだんに盛り込み、スペインの生き生きと情熱的なパワーにあふれています。バレエ初心者でも、そのパワフルさと華麗な魅力に思わず引き込まれてしまう傑作です。
バルセロナの街角を舞台にした『ドン・キホーテ』は、『白鳥の湖』他で知られる巨匠マリウス・プティパが20代の頃、マドリッド王立劇場と契約し、スペインで過ごして闘牛やキャラクターダンスに夢中になった体験が生かされています。街の踊り子、闘牛士、ファンダンゴ、ロマの踊りなど多彩なキャラクターやエキゾチックな踊りが、作品に生き生きとした魅力的な味わいを加えています。
振付のカルロス・アコスタはキューバ出身で、1990年にローザンヌ国際バレエコンクールでゴールドメダルを受賞後98年にロイヤル・バレエに入団。ローレンス・オリヴィエ賞を受賞し、ボリショイ・バレエにも客演するなど国際的なスターダンサーとして活躍し、2013年の『ドン・キホーテ』初演では自ら主人公バジル役を演じました。ロイヤル・バレエでの引退公演は映画館で中継されました。現在はバーミンガム・ロイヤル・バレエの芸術監督を務めながら、故国キューバでも自身のカンパニー、アコスタ・ダンサを率いています。
そして、本作がアコスタにとって初のロイヤル・バレエの振付作品となりました。彼にとって重要なのは、登場人物たちの個性であり、バレエのステロタイプに囚われず一人一人が生身の血の通った人間として描かれています。そのため、この『ドン・キホーテ』では登場人物たちが台詞を叫ぶ場面があり、ダンサーたちは床の上だけでなく、テーブルやワゴンの上でも踊ります。また、一般的な『ドン・キホーテ』のバレエにある人形劇の場面をカットし、代わりにロマの野営地では、舞台上でラテン音楽のミュージシャンが生演奏するキャンプファイヤーの場面を加えました。ストリート・キッズが広場を駆け回るのもこの版ならではの楽しさです。なお、アコスタがこの版に手を加えた『ドン・キホーテ』をバーミンガム・ロイヤル・バレエで上演しているのですが、こちらでは男性ダンサーがキューピッドを演じています。
舞台美術を担当したのは、ナショナルシアターやウェストエンドで活躍しているティム・ハトリー。「まるで舞台装置がダンサーと共に踊っているみたい」とアコスタに評されたように、舞台装置が動くことで場面転換がスムーズに行なわれ、まるで本のページをめくるように物語が進んでいきます。
<若手中心ながら要所にはベテランを配した、綺羅星のような出演陣>
ヒロインの町娘キトリを演じるのは、2011年にローザンヌ国際バレエコンクールで優勝したマヤラ・マグリ。高度なテクニックを持ちながらも、近年は『ザ・チェリスト』で夭折の天才チェリスト、ジャクリーヌ・デュ・プレ役や、『赤い薔薇ソースの伝説』では敵役ともいえるヒロインの姉役を陰影のある演技で好演しました。ブラジル出身ならではの天性の明るさと安定した技巧がこの役にぴったりです。夢の場面での、一転してエレガントで軽やかなドルシネア姫との演じ分けにもぜひご注目してみてください。
キトリの恋人、床屋のバジルは人気の高い英国出身のマシュー・ボールが演じます。端正な容姿で、マシュー・ボーンの『白鳥の湖』では男性の白鳥を演じるなど様々な舞台にチャレンジしているボールは、私生活ではマグリとカップルで、二人の息はぴったり。コミカルな掛け合いが自然で、片手リフトなどのパートナーリングも見事に決まり、最後のグラン・パ・ド・ドゥではダイナミックな跳躍を見せています。
伸び盛りの若手ダンサーを発見できるのも、シネマシーズンならではのお楽しみです。街の人気者の闘牛士エスパーダをスタイリッシュに色気たっぷりに演じているのは、人気上昇中の若手ファースト・ソリスト、カルヴィン・リチャードソン。『くるみ割り人形』では王子を踊り、『マノン』では主役の一人デ・グリュー役を演じる予定になっているなど、次期プリンシパル有力候補です。小粋な街の踊り子役には今シーズン『くるみ割り人形』の金平糖の精役にデビューしたレティシア・ディアス。夢の場面で優雅な踊りを見せる美しいプロポーションのアネット・ブヴォリも、同じく金平糖の精の他、『シンデレラ』の仙女や『ジゼル』のミルタ役などの主要な役を経験し、次世代のスターとして注目されています。
キトリの二人の友人役には、日本出身で今シーズンはソリストに昇進し躍進が期待される前田紗江と、『ドン・キホーテ』に続くシネマシーズンの『くるみ割り人形』でクララ役を演じる若手のソフィー・アルナットが起用されています。伸びやかで小気味よい踊りの前田、愛らしいアルナットの二人は踊りも見事にシンクロしていて、作品にキュートなスパイスを加えています。ドン・キホーテの従者サンチョ・パンサ役は、これまた注目の若手のリアム・ボズウェルが初役で挑みました。
これら若手ダンサーの活躍と共に、作品を引き締めるのは、ドン・キホーテ役を演じるバレエ団を代表する名役者ギャリー・エイヴィスです。日本のKバレエ・カンパニーの創立メンバーでもあったエイヴィスは、ロイヤル・バレエに復帰後、数々のキャラクターロールで名演を重ねてきました。現在はシニア・レペティトゥールとして振付指導を行いながらも、舞台では強烈な存在感を放っています。バレエ『ドン・キホーテ』でタイトルロールは脇役として見られがちですが、エイヴィスの気品あふれる演技によって、高潔な人格を持つロマンティックな老紳士としてのキホーテのキャラクターが立ち上ってきます。
また注目したいのが、キトリに求婚する金持ちの貴族、ガマーシュをジェームズ・ヘイが演じていること。磨かれたクラシック技術を持ち、『眠れる森の美女』では王子を演じるなど貴公子役も得意とするヘイが、嫌味で少し間の抜けた貴族役をユーモラスに演じる姿が見られる、希少な機会となっています。最後にガマーシュも新しい幸せをつかむところが、アコスタの優しさを感じさせる心憎い演出です。
なお、今回のシネマで上映された公演には、英国王チャールズ3世とカミラ王妃も臨席し、彼らが客席から拍手で迎えられる場面も見ることができます。シネマシーズンで中継された公演に英国王が臨席するのは初めてのことでした。チャールズ国王はロイヤル・オペラハウスのパトロンとして支援をしており、カミラ王妃は自身も大人バレエを習っているバレエ好きとして知られています。憂鬱な気分を吹き飛ばし、ひと時の笑いと興奮と情熱に身を任せることができる至福の3時間。ロイヤル・バレエが誇るトップダンサーたちの華麗な饗宴をぜひお楽しみください。
2024.01.22
ロイヤル・バレエ『ドン・キホーテ』タイムテーブルのご案内
ドン・キホーテ役は日本でも人気のギャリー・エイヴィスが務めます!
元プリンシパルで世界的なスターのカルロス・アコスタ(現バーミンガム・ロイヤル・バレエ芸術監督)が2013年に振付けを担当。ガラ公演でも頻繁に上演される3幕の結婚式の華やかなパ・ド・ドゥには、32回転のグラン・フェッテ、男性ダンサーのダイナミックな跳躍など見せ場がたっぷりある一方で、2幕の夢の場面では、森の女王や妖精たち、キューピッドが登場して美しくファンタジックなクラシック・バレエの粋が味わえる。バレエを初めて観る人にとっても、明るくエネルギッシュな『ドン・キホーテ』は退屈する瞬間が全くなくてお勧めできる一作。
世界最高峰の英国ロイヤル・バレエの選りすぐったスターダンサーたちがテンポよく繰り広げるラブ・コメディと磨き抜かれた妙技の数々をぜひお楽しみください。
(上演日:2023年11月7日)
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【振付】カルロス・アコスタ、マリウス・プティパ
【音楽】レオン・ミンクス
【デザイナー】ティム・ハットリ―
【照明】ヒューゴ・バンストーン
【ステージング】クリストファー・サンダース
【指揮】ワレリー・オブシャニコフ
ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団
【出演】
ドン・キホーテ:ギャリー・エイヴィス
サンチョ・パンサ:リアム・ボズウェル
ロレンツォ(キトリの父):トーマス・ホワイトヘッド
キトリ:マヤラ・マグリ
バジル:マシュー・ボール
ガマーシュ(金持ちの貴族):ジェームズ・ヘイ
エスパーダ(闘牛士):カルヴィン・リチャードソン
メルセデス(街の踊り子):レティシア・ディアス
キトリの友人:ソフィー・アルナット、前田紗江
二人の闘牛士:デヴィッド・ドネリー、ジョセフ・シセンズ
ロマのカップル:ハンナ・グレンネル、レオ・ディクソン
森の女王:アネット・ブヴォリ
アムール(キューピッド):イザベラ・ガスパリーニ
ファンダンゴのカップル:ミーシャ・ブラッドベリ、ルーカス・B・ブレンスロド
2024.01.19
ロイヤル・バレエ『ドン・キホーテ』現地メディア評
ロイヤル・バレエの新シーズン開幕の夜はいつも気分が高揚する。幕開けを飾る演目が『ドン・キホーテ』となれば、そうならないわけがない。
The Times
(BY DEBRA CRAINE/OCTOBER 2, 2023)
★★★★
陽気さ、大勢によるアンサンブルの楽しさとエネルギー、まばゆいばかりのテクニックのショーケース
The Guardian
(BY LYNDSEY WINSHIP/OCTOBER 1, 2023)
『ドン・キホーテ』はロイヤル・バレエの2023年冬シーズンの幕開けを飾る作品であり、その崇高な選択が証明された。
London Unattached
(BY FIONA MACLEAN/OCTOBER 1, 2023)
★★★★
星を1つ減らしたとしても、あまりの楽しさにもう1つ星をつけなければならない。
Financial Times
(BY LOUISE LEVENE/OCTOBER 2, 2023)
ダンサーの華麗さと、ティム・ハットリーの見事なセットによって、10月の雨のロンドンから活気あふれるスペインの夏へといざなう。
Morning Star
(OCTOBER 13, 2023)
★★★★
活力に満ちている
THE STAGE
(BY SIOBHAN MURPHY/OCTOBER 2, 2023)
カルロス・アコスタが1869年のバレエに遊び心と熱意を込めて挑んだこの作品は、動きと音楽の楽しいマリアージュである。
THE NEW STATESMAN
(BY ZUZANNA LACHENDRO/OCTOBER 20, 2023)
2023.12.14
オペラ『ラインの黄金』を初心者でもわかりやすく解説します
井内美香(オペラ・キュレーター)
英国ロイヤル・オペラが満を持して挑んだ『指環』に絶賛の嵐
英国ロイヤル・オペラ・ハウスのシネマ・シーズンに、ついに最強の演目が現れた。ワーグナーの四部作『ニーベルングの指環』の序夜《ラインの黄金》である。『指環』は世界中の歌劇場でもっとも人気のある演目の一つだが、壮大な世界観を描いた大作であるゆえに、上演する劇場側も覚悟を持って臨まねばならない作品だ。
英国ロイヤル・オペラは、開幕公演として9月に《ラインの黄金》を上演した。これから一年に一作ずつ『指環』を上演していく予定である。長年務めた音楽監督の役割が今シーズンで最後となるアントニオ・パッパーノは、最後のシーズン・オープニングにこの演目を指揮することを選んだ。演出を担ったのは、オペラ界で最も注目度が高い演出家の一人、バリー・コスキーである。同劇場で『指環』が新制作されるのは19年ぶりだ。
蓋を開けると、この新制作は大評判となり、世界中のジャーナリストから絶賛された。「キャストは弱い歌手が見つからず全員が素晴らしい出来栄えで、パッパーノ指揮はワーグナーの壮大さと緻密さの両方を見事に表現した(ガーディアン紙)」「バリー・コスキー演出の《ラインの黄金》は不気味で、鮮やかで、強烈だ(ニューヨーク・タイムズ紙)」「《ラインの黄金》が、アントニオ・パッパーノの指揮で開幕し、物語性の高い、起伏ある演奏が空前絶後の賛辞を受けた(音楽の友誌)」といった具合である。
強烈なコスキー演出
ワーグナー『指環』の特徴は、神々と人間の雄大な物語と、それを表現する、見事な織物のように織り上げられた音楽である。神々の傲慢から世界が滅亡の危機に陥るというストーリーは、さまざまな解釈が可能であり、演出家の腕の見せ所となっている。
コスキーはオーストラリア出身ユダヤ系の演出家だ。インタビューなどで「僕はユダヤのゲイのカンガルー」と自らを形容していることからも分かるように、人間の本質を痛烈な表現で観客に突きつける演出が持ち味である。
ここからは演出の内容を少しだけ紹介したい。《ラインの黄金》は、“愛を諦めた”醜い地底人アルベリヒによって作られた、権力の象徴であり呪いがかかった黄金の指環によって神々の世界の終わりが始まるという内容だが、コスキー演出では、冒頭部分から(俳優が演じる)白髪を長く伸ばし、痩せ衰えたひとりの老女が全裸と見える格好で、よろよろと舞台を横切るところから始まる。
この老女はオペラが上演されている間、舞台にずっと存在している。彼女は実は『指環』の要となる登場人物の一人、大地(=地球)の女神エルダだ。傲慢な神々の長年の行いが大地を荒らし、エルダはこのような姿になってしまっているのである。最後の方にエルダが歌う場面があるが、俳優が照明に照らされている間、オペラ歌手は暗がりの中から歌う。
神々は乗馬服のようなハイソサエティの格好をしている。一方、神々のために城を建設した巨人族はヤクザ者のようなスーツと身のこなし。そして地底に住むニーベルング族のアルベリヒとミーメは貧しい身なりで、恐ろしい顔の被り物をつけた子役たちがさらに虐げられた労働者を演じる。
これはまるで現代社会を鏡で写しているようではないか?コスキー演出は『指環』の世界を、今の人間社会が地球を破壊している様子に見事に重ねているのである。
パッパーノ指揮の元、望みうる最高のキャストが集結
英国ロイヤル・オペラのオーケストラを知り尽くしたパッパーノの指揮も、かつてないほどにパワフルだ。その一方で、次作以降にも重要となるライトモチーフ(物語のさまざまな事象を示す音楽的なモチーフ)群が巧みに鳴らされるのを聴くと、今後の展開への期待に胸がワクワクする。
歌手たちも強力だ。神々の長ヴォータンを歌ったのはクリストファー・モルトマン。はっきりとキャラクターを打ち出した力強い歌唱で魅了した。アルベリヒのクリストファー・パーヴェスは、ヴォータンと同じように欲望にまみれているが、神々と違って何も持たずに生まれてきた不幸な男を迫力を持って演じている。その他の登場人物にも、ワーグナーを上演するのに理想的なキャストが集結している。
《ラインの黄金》で提示された世界観は今後、どのように変化していくのだろうか?それを最大限に楽しむためにも、まずは今回の上演を見逃がさないようにしたい。
2023.12.11
ロイヤル・オペラ『ラインの黄金』タイムテーブルのご案内
ワーグナー畢生の大作『ニーベルングの指環』全四部作の「序夜」にあたるオペラ『ラインの黄金』
アントニオ・パッパーノ指揮、バリー・コスキー新演出で大胆に解釈した《ラインの黄金》。ロイヤル・オペラ・ハウスが4年かけて上演する、ワーグナー四部作『ニーベルングの指環』の第一章が幕を開ける!
オーストラリア出身のバリー・コスキーは現代演劇の考えと手法をオペラに大胆に持ち込み、時にはかなりの物議を醸しつつも、今や世界でもっとも忙しいオペラ演出家の一人。英国ロイヤル・オペラはワーグナーの四部作『ニーベルングの指環(リング)』の待望の新制作をコスキーにゆだねた。指揮は音楽監督としては今シーズンが最後の年となるパッパーノ。序夜《ラインの黄金》の初日が開くと、プレスと観客両方からの絶賛の嵐となった。
(上演日:2023年9月20日)
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【音楽・台本】:リヒャルト・ワーグナー
【指揮】:アントニオ・パッパーノ
【演出】:バリー・コスキー
【美術】:ルーフス・デイドヴィスス
【衣装】:ヴィクトリア・ベーア
【照明】:アレッサンドロ・カルレッティ
ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団
【出演】
ヴォータン:クリストファー・モルトマン
アルベリヒ:クリストファー・パーヴェス
ローゲ:ショーン・パニッカー
フリッカ:マリーナ・プルデンスカヤ
フライア:キアンドラ・ハワース
エルダ(の声):ウィープケ・レームクール
ドンナー:コスタス・スモリギナス
フロー:ロドリック・ディクソン
ミーメ:ブレントン・ライアン
ファーゾルト:インスン・シム
ファーフナー:ソロマン・ハワード
ヴォークリンデ:カタリナ・コンラディ
ヴェルグンデ:ニアフ・オサリバン
フロスヒルデ:マーヴィック・モンレアル
エルダ(俳優):ローズ・ノックス=ピーブルス
2023.12.07
ロイヤル・オペラ『ラインの黄金』現地メディア評
★★★★
整然とした演出は、コスキーのリング・サイクルの魅力的なスタートとなった。
大地の女神エルダの姿が終始登場し、自然界の荒廃というメッセージは明確だ。一様に強力なキャストに弱点はなく、ピットではパッパーノがワーグナーの壮大さと親密さを表現している。
The Guardian
(byAndrew Clements)
★★★★
バリー・コスキーは、4年にわたる新しいリング・サイクルの第1弾として、豪華さを抑え、より本質的なワーグナーのスペクタクルを創り上げた。
The Telegraph
(By Nicholas Kenyon/12 September 2023)
バリー・コスキーによるワーグナーの『ラインの黄金』は、4つのオペラからなる叙事詩の始まりであり、不気味で鮮やかで強烈だ。
The New York Times
(By Zachary Woolfe/12 September 2023)
演出家バリー・コスキーと指揮者アントニオ・パッパーノは、ロンドンの舞台で鮮やかで説得力のあるショーを作り上げた。
Financial Times
(by Richard Fairman/ SEPTEMBER 12 2023)
★★★★
これは、今後数年間にわたって展開されるリングを味わうものになるかもしれない。
クリストファー・モルトマンは真に偉大なヴォータンへの道を歩んでいる。
Evening Standard
(by BARRY MILLINGTON/12 SEPTEMBER 2023)
2023.11.10
イギリス国王チャールズ3世とカミラ王妃両陛下が戴冠式以来はじめてご臨席。特別な観客とともに『ドン・キホーテ』をご鑑賞。
ロイヤル・オペラ・ハウスは11月7日(水)、国民保健サービスの職員(National Health Service、通称NHS)、教師、ウクライナ避難民による合唱団、ロイヤル・バレエ・スクールのメンバーを特別に招待し『ドン・キホーテ』公演を開催した。
国王チャールズ3世とカミラ王妃両陛下のご訪問は戴冠式以来初めてとなり、NHS75周年と招待客の功績、そしてロイヤル・オペラ・ハウスが英国内外の多くの個人、グループ、学校と協力しバレエとオペラを地域社会の中心に据えていることを称えるため、本公演にご臨席された。
両陛下は満員の観客とともにロイヤル・バレエ団による『ドン・キホーテ』の壮大な舞台を楽しまれ、本公演は世界中の1281の映画館に放送された。(※日本公開は2024年1月26日~2月1日)
公演終了後にはバレエ芸術監督のケビン・オヘア、カルロス・アコスタ(『ドン・キホーテ』演出家)、ロイヤル・バレエ団のプリンシパル・ダンサーであるマヤラ・マグリとマシュー・ボールを含むバレエ団メンバーが国王チャールズ3世とカミラ王妃両陛下と会見し、両陛下は彼らの目覚ましい活躍を祝福した。
NHS75周年を記念する本公演には、パンデミック時のNHS職員の働きに感謝するために2020年に始まった〈ROH Thanks the NHS〉の一環として600人以上のNHSスタッフが参加。この取り組みでは、10,000人以上のNHS職員が公演チケットの大幅割引を享受している。
さらに、ロイヤル・オペラ・ハウスのウクライナ人コミュニティへの継続的な支援の一環として、戦争で家を失った130人のウクライナ人で構成されるSongs for Ukraine合唱団が招かれた。この合唱団は歌うことを通じて希望を鼓舞することを目的として昨年設立され、春のデビュー公演の成功を受けて12月にブラッドフォード大聖堂とロイヤル・オペラ・ハウスのポール・ハムリン・ホールで開催される2つの華やかなクリスマス・コンサートで再び共演が予定されている。
2023.11.02
『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2023/24』厳選されたラインナップ全8演目の公開日決定!心揺さぶる舞台の魅力が詰まった日本版予告映像とポスタービジュアル解禁!
世界最高の名門歌劇場である英国ロイヤル・オペラ・ハウスで上演されたバレエとオペラの舞台を、特別映像を交えてスクリーンで体験できる「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン」。
この度、新シーズンを、『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2023/24』と題し、2023年12月15日(金)~2024年9月26日(木)までの期間中、全8演目を各1週間限定にて全国公開することが決定いたしました。ライブでの観劇の魅力とは一味違う、映画館の大スクリーンと迫力ある音響で、日本にいながらにして最高峰のオペラとバレエの公演を堪能できる、至極の体験をお届けします。
「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2023/24」がいよいよ開幕!
厳選された4本のオペラと4本のバレエがラインナップ!
全8演目と公開日が決定&日本版予告映像とポスタービジュアルも到着!
「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン」は、ロンドンのコヴェント・ガーデンにある歌劇場“ロイヤル・オペラ・ハウス” (通称ROH)で上演された世界最高峰のバレエとオペラを映画館で鑑賞できる人気シリーズ。世界最高クラスのパフォーマンスを大スクリーンで体験できることに加え、リハーサルの様子や舞台裏でのインタビューなどの特別映像も堪能できるということで、シーズンを重ねるごとにファンが増えています。
新シーズン、オペラのオープニングを飾るのは、映画『ロード・オブ・ザ・リング』にも影響を与えたとされるワーグナー畢生の大作『ニーベルングの指環』全四部作の「序夜」にあたる『ラインの黄金』(12月15日公開)。今回の新制作では、世界的な人気演出家バリー・コスキーが、その奇抜なアイデアで観るものの想像をはるかに超える舞台を創り上げます。次期音楽監督にチェコの指揮者ヤクブ・フルシャを迎えると発表したROH。新シーズンでは、2002年以来音楽監督を務めるアントニオ・パッパーノのラストシーズンとなります。そして、「ROHシネマシーズン」をスタート時から牽引してきたパッパーノは、その集大成として、19世紀中盤から20世紀初頭のフランス・ドイツ・イタリアのオペラの名作をラインナップ。日本人なら一度は観ておきたい名作オペラ『蝶々夫人』は、2003年に初演されたモッシュ・ライザー&パトリス・コーリエ演出プロダクションを、より日本人らしい所作を取り入れアップデートした2022年改訂版の再演。『カルメン』ではコロラトゥーラ・メゾソプラノの珍しい声を持ち、いま最も期待されるアイグル・アクメチーナのカルメンに大注目!『アンドレア・シェニエ』ではパッパーノがロイヤル・オペラ・ハウス音楽監督として最後のステージに華を添えます。オーソドックスなグランドオペラから斬新な読み替えまで、演劇の国ならではの演出重視のパフォーマンスと、グローバル都市ロンドンを象徴する国際色豊かなアーティストの競演が見どころです。
そしてバレエの幕開けはスペインを舞台にした陽気なコメディ作品『ドン・キホーテ』(2024年1月26日公開)、バレエを観るのが初めての方でも楽しめる快作です。冬の風物詩『くるみ割り人形』、ロイヤル・バレエ版は幾多の「くるみ」の中でも物語性が高く、ファンタジックで家族連れにも大人気です。ロイヤル・バレエは演劇の国英国ならではのドラマティック・バレエも得意ですが、その中でも最高傑作とされる『マノン』は、華麗で退廃的な世界観と究極の愛の姿を見せて、深く心に残る作品となるでしょう。シーズンを締めくくる『白鳥の湖』は言わずと知れたバレエの代名詞。世界トップクラスのダンサーたちが、チャイコフスキーのあまりにも美しく心を揺さぶる旋律に乗せて、圧巻のドラマをお届けします。
この度、到着した日本版予告編には、冒頭、リヒャルト・ワーグナー作曲の『ラインの黄金』の壮大な世界観を感じさせる音楽とともに、シーズンを彩る各作品のワンシーンが次々と登場。後半では、全8作品の厳選されたラインナップの詳細が紹介され、期待の高まる予告映像となっています。併せて到着した日本版ポスターには、『白鳥の湖』の幻想的な名場面をはじめとした各作品のメインカットとともに「映画館の扉を開けるとそこは、バレエとオペラの魔法の空間。」という魅惑的なコピーが添えられ、新シーズンの華々しい幕開けに心躍る仕上がりとなっています。
【全8演目】
◆オペラ演目:①『ラインの黄金』、②『蝶々夫人』、③『カルメン』、④『アンドレア・シェニエ』
◆バレエ演目:①『ドン・キホーテ』、② 『くるみ割り人形』、③『マノン』、④『白鳥の湖』
12月15日(金)より、いよいよ開幕する『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2023/24』が贈る情熱と魅惑に満ちた至福の時間を、是非映画館でご体験ください!
【2023/24 全8演目と公開日】※1週間限定公開※
①ロイヤル・オペラ『ラインの黄金』2023年12月15日(金)
②ロイヤル・バレエ『ドンキホーテ』2024年1月26日(金)
③ロイヤル・バレエ『くるみ割り人形』2024年2月16日(金)
④ロイヤル・バレエ『マノン』2024年4月5日(金)
⑤ロイヤル・オペラ『蝶々夫人』2024年6月7日(金)
⑥ロイヤル・バレエ『白鳥の湖』2024年6月14日(金)
⑦ロイヤル・オペラ『カルメン』2024年9月6日(金)
⑧ロイヤル・オペラ『アンドレアシェニエ』2024年9月20日(金)
<上映劇場>
*札幌シネマフロンティア(北海道)
*フォーラム仙台(宮城)
*TOHOシネマズ 日本橋(東京)
*イオンシネマ シアタス調布(東京)
*TOHOシネマズ 流山おおたかの森(千葉)
*TOHOシネマズ ららぽーと横浜(神奈川)
*ミッドランドスクエア シネマ(愛知)
*イオンシネマ 京都桂川(京都)
*大阪ステーションシティシネマ(大阪)
*TOHOシネマズ 西宮OS(兵庫)
*中洲大洋映画劇場(福岡)※③バレエ『くるみ割り人形』まで上映
*kino cinéma天神(福岡)※④バレエ『マノン』より上映
2023.11.01
本日11月1日は「ワールド・バレエ・デー」
本日11月1日は「ワールド・バレエ・デー」
世界有数の50以上のバレエ団とダンスカンパニーが一同に会する世界的な祭典です。
ロイヤル・バレエ団でもリハーサル、クラス、ディスカッションなどが配信される予定です。
ぜひバレエ界の大スターや新進パフォーマーたちの舞台裏をご覧ください!
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2023.09.15
ロイヤル・オペラ『イル・トロヴァトーレ』タイムテーブルのご案内
ラストを飾るのは、ヴェルディ中期の三大傑作のひとつ『イル・トロヴァトーレ』
ヴェルディ中期の三大傑作といわれる《リゴレット》《イル・トロヴァトーレ》《椿姫》の中で、もっとも幻想的なストーリーを持つのが中世のスペインを舞台にした《イル・トロヴァトーレ》。それは、夢見るような美しい旋律にあふれた傑作オペラ――。
(上演日:2023年6月13日)
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【音楽】:ジュゼッペ・ヴェルディ
【台本】:サルヴァトーレ・カンマラーノ(台本補筆:レオーネ・エマヌエーレ・バルダーレ)
【原作】:アントニオ・ガルシア・グティエレスの戯曲『エル・トロバドール』)
【指揮】:アントニオ・パッパーノ
【演出】:アデル・トーマス
【美術・衣裳】:アンマリー・ウッズ
【照明】:フランク・エヴィン
【振付】:エマ・ウッズ
【ファイト・ディレクター(殺陣師)】:ジョナサン・ホービー
【ドラマツルク】:ベアーテ・ブライデンバッハ
ロイヤル・オペラ合唱団(合唱指揮:ウィリアム・スポールディング)
ロイヤル・オペラハウス管弦楽団(コンサートマスター:シャロン・ロフマン)
【出演】
レオノーラ:レイチェル・ウィリス=ソレンセン
マンリーコ:リッカルド・マッシ
ルーナ伯爵:リュドヴィク・テジエ
アズチェーナ:ジェイミー・バートン
フェルランド:ロベルト・タリアヴィーニ
イネス:ガブリエーレ・クプシーテ
ルイス:マイケル・ギブソン
ロマの老人:ジョン・モリッシー
使者:アンドリュー・オコナー
2023.09.15
オペラ『イル・トロヴァトーレ』を初心者でもわかりやすく解説します
香原斗志(オペラ評論家)
オペラ《イル・トロヴァトーレ》が最高に魅力的な理由
勇猛果敢な、または、おどろおどろしいイメージがある《イル・トロヴァトーレ》には、そういう音楽もあるが、それ以上に、美しいメロディがあふれんばかりに詰めこまれている。耳に最高の幸福をもたらしてくれるオペラだと、アントニオ・パッパーノが指揮する演奏を聴いて、あらためて実感した。
描かれているのは、美しい物語でも幸福な物語でもない。それなのに、なぜこうもメロディが心に染み入るのだろうか。そして、物語に没入させられるのだろうか。
真摯な感情が美しいメロディとからみ合う
物語はじつに刺激的である。
伯爵に母親を火あぶりにされたロマの女のアズチェーナは、復讐のため、伯爵の2人の息子のうち1人をさらって火中に投げたつもりが、誤って自分の息子を――。結局、彼女は手もとに残った男児を育て、それが「トロヴァトーレ(吟遊詩人)」のマンリーコに成長して、宮廷の女官のレオノーラと愛しあっている。だが、ルーナ伯爵、すなわち先代伯爵のもう1人の息子も彼女に思いを寄せていて、マンリーコに激しく嫉妬している。伯爵はとうとうマンリーコを処刑するが、それは自分の弟だった――。
ドラマはこうして終始、スリリングに展開する。このストーリーを荒唐無稽だと後ろ向きに評するムキは昔からあるが、筆者はまったく同意しない。作曲したヴェルディが音楽をとおして、あらゆる場面に深いリアリティをあたえているからである。このため、すぐれた演奏が得られると、俄然、真実味が加わる。
たとえば第4幕。捕らえられたマンリーコへの思いを歌うレオノーラのソロは、メロディがすこぶる美しい。そこには彼女の心情の深さが反映されている。続く場面でレオノーラは、ルーナ伯爵にマンリーコの命乞いをし、代わりに自分のからだを捧げると伝えて毒をあおる。そのアップテンポの音楽に聴き入ってしまうのも、死を賭してでも恋人の命を守りたいレオノーラと、やっと思いを遂げられると信じるルーナ伯爵が、いだく感情はまったく異なってもそれぞれ真剣だからである。
第3幕、マンリーコがレオノーラへの愛を歌うアリアも、うっとりするほど美しくて真摯な思いを裏づけるし、そこにアズチェーナが捕らえられたという知らせが届いて歌う、アリアの勇壮な後半部には、母を救おうという強い決意が表されている。
また、第2幕でマンリーコに向かって、自分の子を火に放り込んでしまったと歌い、「では自分はだれの子なのか」と問われると、「私の子だよ」「大切に育ててきたじゃないか」と答えるアズチェーナ。育てたのは憎き伯爵の子だという思いと、育てながら宿った母親としての思いが複雑に入り組むさまが、音楽で見事に描かれる。
どの場面も真摯な感情が心揺さぶるメロディとからみ合い、美しさと力強さのなかで物語が真に迫る。聴く(見る)側は否応なくドラマのなかに引きずり込まれ、メロディに心を預けざるをえなくなる。
深い感情を注ぎ込む歌手たちと寓話的な演出がマッチ
ただし、いま記したことは、このROHの《イル・トロヴァトーレ》のような質が高い公演であれば、という条件がつく。むろん、作品自体に力があるが、そのポテンシャルを引き出せるかどうかは演奏、そして演出次第である。
パッパーノはこのオペラ全体を覆う夜の雰囲気をたくみに醸し出し、歌手の呼吸を測りながらたっぷり歌わせる。だが、歌手まかせではない。歌手の声を存分に引き出しつつ、ヴェルディが楽譜に記した発想記号にしたがい、声を細かくコントロールさせながら感情を豊かに表現させる。だから、心に染み入るメロディにも勇壮な音楽にも、登場人物の真摯な生きざまが感じられて聴く(見る)人の心を打つ。
マンリーコ役のリッカルド・マッシ(テノール)はスタイリッシュな声と歌唱で、高いドの音(ハイC)も輝かしい。ルーナ伯爵役のリュドヴィク・テジエ(バリトン)は格調高い響きで、たんなる悪役に堕さない。アズチェーナ役のジェイミー・バートン(メッゾ・ソプラノ)は湧き出る声に深い感情が宿る。
レオノーラ役は、体調不良で降板したマリーナ・レベカの代役、若いレイチェル・ウィリス=ソレンセン(ソプラノ)だが、技巧もふくめた歌唱水準の高さもさることながら、純粋で美しい心を表現できないとドラマを弛緩させてしまうこの役を、見事に歌った。フェルランドのロベルト・タリアヴィーニ(バス)も、品格ある声でドラマを引き締めた。
舞台は15世紀のスペイン。演出のアデル・トーマスはあえて時代設定をそのままにし、15世紀のヒエロニムス・ボスや16世紀のピーテル・ブリューゲルの絵画に描かれた、怪奇性に富んだシュールな世界を視覚的に表現した。舞台に寓話的なおもしろさが加わり、耳のほかに目も十分に楽しませてくれる。
2023.08.21
ロイヤル・バレエ『眠れる森の美女』タイムテーブルのご案内
第二次世界大戦後、劇場の眠りを覚ませ、新時代の幕開けを飾った特別な作品それが、
チャイコフスキーの比類なき傑作、ロイヤル・バレエ『眠れる森の美女』
チャイコフスキー三大バレエの中でも、巨匠マリウス・プティパがチャイコフスキーと密接に協力し創り上げられた本作は、第二次世界大戦後にロイヤル・オペラ・ハウスが再開したときに初演され、新時代の幕開けを飾った記念すべき作品として受け継がれてまいりました。ロイヤル・バレエの歴史において特別な演目であり、そしてグランドバレエの魅力がすべて詰まった名作中の名作をぜひお楽しみください。
(上演日:2023年5月24日)
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【振付】:マリウス・プティパ
【改訂振付】:フレデリック・アシュトン、アンソニー・ダウエル、クリストファー・ウィールドン
【演出】:ニネット・ド・ヴァロワ、ニコラス・セルゲイエフに基づきモニカ・メイソン、クリストファー・ニュートン
【音楽】:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
【指揮】:ジョナサン・ロー
【出演】:
オーロラ姫/ヤスミン・ナグディ、
フロリモンド王子/マシュー・ボール、
カラボス/クリステン・マクナリー、
リラの精/マヤラ・マグリ、
澄んだ泉の精/アネット・ブヴォリ、
魔法の庭の精/イザベラ・ガスパリーニ、
森の草地の精/前田紗江、
歌鳥の精:ソフィー・アルナット、
黄金のつる草の精/崔由姫、
フロレスタン/カルヴィン・リチャードソン、
フロレスタンの姉妹/前田紗江、
アネット・ブヴォリフロリナ姫/イザベラ・ガスパリーニ、
青い鳥/ジョセフ・シセンズ
2023.08.17
バレエ『眠れる森の美女』そして今シーズンと来シーズンを解説します
森菜穂美氏(舞踊評論家)
ロイヤル・バレエの2022-23シーズン総括と来シーズンへの展望
―2022-23 ロイヤル・オペラハウス シネマシーズンを振り返るー
ロイヤル・バレエの2022/23シーズンは、ウィリアム・ブレイスウェルとリース・クラークがプリンシパルに昇進し、ますますダンサー陣が充実した中で始まった。
シネマシーズンの開幕を飾ったのは、ケネス・マクミラン振付の『うたかたの恋―マイヤリング―』。ロイヤル・バレエを代表する演技派ダンサーとして高い評価を得ている平野亮一が、愛欲に溺れ、権力闘争に疲弊し、そして求めても得られない母の愛に飢えたハプスブルグ家の皇太子ルドルフ役を熱演。共演はナタリア・オシポワ、マリアネラ・ヌニェス、ラウラ・モレ―ラ、フランチェスカ・ヘイワードと綺羅星のような女性プリンシパルたちで、愛と死の濃厚なドラマを繰り広げて大きな話題を呼び、日本でもアンコール上映されるなどヒットした。
ロイヤル・バレエの歴史と現在を象徴させる意欲的なプログラム『ダイヤモンド・セレブレーション』も話題となった。ロイヤル・バレエのフレンズ会創立60周年記念公演である。ロイヤル・バレエを設立したニネット・ド・ヴァロワの言葉”過去を尊び、未来を見据え、現在に集中すること“は今のロイヤル・バレエでも重視されていること。すなわち、バレエ団の伝統を受け継ぐ作品を大切にしながら、新しい作品も創造し、高いクオリティのパフォーマンスを行うことである。
ロイヤル・バレエを代表する巨匠フレデリック・アシュトンとケネス・マクミランの作品。現在の常任振付家であるウェイン・マクレガーのコンテンポラリー作品と、クリストファー・ウィールドンが4人の男性ダンサーのために創った「FOR FOUR」。対をなすように現役ファースト・ソリストのヴァレンティノ・ズケッティが4人のプリマ・バレリーナのために創った新作「プリマ」。育成プログラム出身の若い振付家による新作や、モダンダンス、ヒップホップなど異ジャンルの振付家の作品も取り入れた新作も挟み、締めくくりはバランシンのクラシカルな名作「ジュエルズ」より「ダイヤモンド」。
『ダイヤモンド・セレブレーション』で上演された「FOR FOUR」、「プリマ」、「ダイヤモンド」は、今年6月に行われたロイヤル・バレエの来日公演「ロイヤル・セレブレーション」でも上演され、来日公演の予習としても見逃せないプログラムとなった。
ロンドンの冬の風物詩『くるみ割り人形』はほぼ毎年、ロイヤル・バレエでは上演されている大人気作品。2022-23シーズンでは、金子扶生が新プリンシパルのウィリアム・ブレイスウェルと共演して金平糖の精を優雅に踊り、クララ役には若手の前田紗江が配役されて、伸びやかで生き生きとした踊りを見せた。『くるみ割り人形』はシネマシーズンでも特に人気のある演目で、主役の金平糖の精はもちろんだが、クララやハンス・ピーター役には、これからプリンシパルに上がっていく注目の若手ダンサーが抜擢されることが多くて、注目されている。
映画化されたベストセラー小説『赤い薔薇ソースの伝説』のバレエ化も話題を呼んだ。『不思議の国のアリス』『冬物語』で成功を収めたクリストファー・ウィールドンが、メキシコを舞台にした禁断の愛と食べ物を主題にした大河ドラマを鮮やかな手腕で新作バレエ作品として創作した。メキシコ音楽や伝統文化を取り入れた官能的な本作は、新しいドラマティック・バレエの名作と高く評価され、アメリカン・バレエ・シアターでも上演された。フランチェスカ・ヘイワード演じる情熱的なティタ、そして強烈な毒母エレナ役ラウラ・モレ―ラの怪演ぶりや、颯爽と場をさらっていくセザール・コラレスの華麗なダンスも忘れがたい。今シーズンで惜しまれながら引退したラウラ・モレ―ラの名女優ぶりは、本作と『うたかたの恋―マイヤリング―』で堪能できた。
舞台装置や衣装などを一新した名作『シンデレラ』の新制作は、今季大ヒットした一作だった。名匠フレデリック・アシュトン振付の本作は、長年幅広い観客に愛され、清らかな心を持つシンデレラが幸せをつかむおとぎ話であるとともに、コミカルな義理の姉妹たちが巻き起こす騒動も楽しくて、憂き世を忘れる爽やかでしみじみとした余韻が残る名作である。ファンタジックな美術を手掛けたのは、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの「となりのトトロ」の舞台美術でローレンス・オリヴィエ賞に輝いたトム・パイ。ロイヤル・バレエばかりかバレエ界を代表するスーパースター・ペアのマリアネラ・ヌニェスとワディム・ムンタギロフの名演もあり、高い人気を呼んだ。アクリ瑠嘉が女装して義理の姉妹役に挑み、中尾太亮の軽やかでチャーミングな道化役の超絶技巧も印象深かった。
そしてシーズンを締めくくったのは、第二次世界大戦後にロイヤル・オペラハウスの再開を果たした作品という、ロイヤル・バレエの歴史にとっても重要な古典の名作「眠れる森の美女」。チャイコフスキーがマリウス・プティパと密接に作業して作り上げたこの上なく美しく華麗な旋律によるグランド・バレエの代表的な作品だ。フランス宮廷を再現した壮麗な舞台美術、多数の出演者を要する大作。またオーロラ姫を踊るダンサーにとっては、16歳の初々しい姫から、幻影の場面での抒情性、そして結婚式で見せる品格と優雅さまで、プリマ・バレリーナに求められる様々な魅力を発揮させる大役である。オーロラ役のヤスミン・ナグディの完璧な技術とエレガントな踊り、王子役マシュー・ボールの貴公子ぶり、注目株イザベラ・ガスパリーニやジョセフ・シセンズの目も覚めるような青い鳥のパ・ド・ドゥなど、クラシック・バレエの魅力があふれる魅惑の舞台である。おりしも、今年の秋は日本のバレエ団による『眠れる森の美女』公演が多く行われ、コロナ禍で眠っていた劇場の目覚めも象徴させているかのようだ。
2023-24シーズンの展望
ロイヤル・オペラハウス・シネマシーズン2023-24は、ロイヤル・バレエのレパートリーの中から選りすぐった人気4作品がラインナップされている。
幕開けは『ドン・キホーテ』、バレエを観るのが初めての方でも楽しめる、スペインを舞台にした陽気なコメディ作品で、たくさんの超絶技巧も詰め込まれています。高い技術を誇るマヤラ・マグリがキトリ役、『眠れる森の美女』では王子役を演じたマシュー・ボールは、庶民的な床屋のバジル役を演じてまったく違った魅力を見せてくれるはず。
クリスマスはこの作品なしでは考えられない『くるみ割り人形』は来シーズンも上演、ロイヤル・バレエのピーター・ライト版は幾多の「くるみ」の中でも物語性が高く、夢と冒険が詰まったファンタジックな世界は、幅広い年齢層に大人気だ。若手プリンシパルのアナ・ローズ・オサリヴァン、マルセリーノ・サンベがフレッシュな魅力で金平糖の精と王子を演じる予定。
ロイヤル・バレエは演劇の国英国ならではのドラマティック・バレエがお家芸。その中でも最高傑作の『マノン』は、パリの裏社交界を舞台にした甘美で退廃的な世界観、究極の愛の姿を見せる。深く心に残る作品であり、根強い人気を誇る。
シーズンを締めくくる『白鳥の湖』は言わずと知れたバレエの代名詞。世界トップクラスのダンサーたちが、チャイコフスキーのあまりにも美しく心を揺さぶる旋律に乗せて、圧巻のドラマに浸りたい。ロイヤル・バレエ版は夭折の天才振付家リアム・スカーレット振付による陰影に富んでドラマチックな「白鳥の湖」だ
この4作品を観れば、ロイヤル・バレエがなぜこんなにも世界的に大人気なのかが実感できる。幕間の解説や出演者へのインタビュー、そして舞台裏の映像で作品への理解も深まり、心揺さぶり胸弾む美しきバレエの世界のとりこになるはず。
また世界的なスーパースターだけでなく、ロイヤル・バレエで活躍する日本人ダンサーたちの踊りや演技も観られるのも、このシネマシーズンの楽しみの一つ。2023-24シーズンでは、前田紗江、中尾太亮がソリストに、五十嵐大地がファースト・アーティストに昇進し、来シーズンは頻繁にスクリーンで出会えるはずだ。高田茜、平野亮一、金子扶生と日本出身プリンシパルの活躍ももちろん期待できる。
近年、若手ダンサーの登竜門であるローザンヌ国際バレエコンクールの上位入賞者の多くは、ロイヤル・バレエスクールのスカラシップを獲得したり、研修生としてロイヤル・バレエに入団したりしており、ローザンヌ出身の新星が頭角を現すことも期待されている。
ロイヤル・バレエの魅力とは
今年6月に開催されたロイヤル・バレエの来日公演では、『ロミオとジュリエット』8公演が毎回違う、8組のダンサーが主演で上演され、ほとんどの公演がソールドアウトとなるなど、ロイヤル・バレエ旋風が日本を吹き荒れた。ロイヤル・バレエの過去と現在、未来を見せる「ロイヤル・セレブレーション」も高く評価された。演劇的バレエなどの伝統を大切にしながらも、果敢に新しい作品に取り組み、さらに世界トップクラスのスターダンサーたちが魅せる。ロイヤル・バレエの大きな強みは、国籍や肌の色に関わらず、優れたダンサーたちをどんどん起用することであり、そのため日本人ダンサーたちの活躍も実現しているのである。
また、リハーサルやクラスレッスンのネット中継などの配信事業、世界中のバレエ団がオンラインで生中継を行う恒例の「ワールド・バレエ・デー」(今年は11月1日を予定)の主催、そして本ロイヤル・オペラハウス・シネマシーズン」による映画館での上映、アウトリーチ活動と、ロイヤル・バレエはバレエを世界中の幅広い人々に広めるのに大きな役割を果たしている。映画館でロイヤル・バレエを観て、ロイヤル・オペラハウスでのロイヤル・バレエの舞台が大画面で観られる幸せをぜひ感じてほしい。
2023.07.03
ロイヤル・オペラ『フィガロの結婚』タイムテーブルのご案内
イギリスを代表する演出家マクヴィカーと、円熟を極めるパッパーノの指揮で贈る至高の舞台。
2006年に英国ロイヤル・オペラで初演されたこのプロダクションは、数ある《フィガロの結婚》の舞台の中でも「決定版!」と言われ大評判となったもの。何度も再演を重ねてきた。しかし今回は、台本を自然に表現できる若手イタリア人を中心とした理想的キャストが実現。中でも気品ある美声と抜群の歌唱力で観客の熱狂的な拍手を受ける伯爵夫人役のロンバルディは最大の聴きどころだ。また、アルカンタラが演じるアルマヴィーヴァ伯爵も超わがままな演技がリアルで面白い。再演にも関わらずマクヴィカー自身が細かいところまで演出をつけ、モーツァルトを知り尽くしたパッパーノがアンサンブルの細部まで鮮やかに指揮をする。劇場が誇る合唱団と俳優たちの演技も必見。
(上演日:2023年4月27日)
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【音楽】:ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
【台本】:ロレンツォ・ダ・ポンテ(原作:ピエール=オーギュスタン・カロン・ド・ボーマルシェの戯曲 『狂おしき一日、またはフィガロの結婚』)
【指揮】:アントニオ・パッパーノ
【演出】:ディヴィッド・マクヴィカー
【出演】
フィガロ:リッカルド・ファッシ、
スザンナ:ジュリア・セメンツァート、
バルトロ:ヘンリー・ウォディントン、
マルチェッリーナ:モニカ・バチェッリ、
ケルビーノ:ハンナ・ヒップ、
アルマヴィーヴァ伯爵:ヘルマン・E・アルカンタラ
ドン・バリージオ:グレゴリー・ボンファッティ、
アルマヴィーヴァ伯爵夫人:フェデリカ・ロンバルディ
アントニオ:ジェレミー・ホワイト、
ドン・クルツィオ:アラスデア・エリオット、
バルバリーナ:ヘレン・ウィザース
2023.06.30
オペラ『フィガロの結婚』を初心者でもわかりやすく解説します
家田 淳(演出家・翻訳家 洗足学園音楽大学准教授)
「フィガロの結婚」の理想形
マクヴィカー演出「フィガロの結婚」は、この作品を安心して楽しめる王道のプロダクション。美術・照明・衣裳がきわめて美しく、大きな窓から取り込んだ明かりが、一日の時間経過を表しつつ、一瞬一瞬を絵画のように照らし出す。
今回の再演の歌手の顔ぶれは若く、人物たちの実年齢に近くて、演技も達者。バロックからモーツァルトのレパートリーに定評のあるチャーミングなスザンナ役ジュリア・セメンツァートを初めとして、フィガロ役のリカルド・ファッシ、伯爵夫人役のフェデリカ・ロンバルディ、憎めない伯爵役のヘルマン・アルカンタラなど、それぞれ役にピッタリで魅力的だ。
しかも今回はマクヴィカー自身が再演演出を手がけているため、芝居がよりイキイキと立ち上がっている。
オペラハウスでは通常、プロダクションが再演される場合、オリジナルの演出家が稽古をすることは滅多になく、劇場付きの再演演出家が担当するのが一般的である。非常に短い稽古時間で仕上げることも多く、劇場によってはいかにもおざなりな演技を見さされることもある。その点、ロイヤル・オペラ・ハウスは再演でも作品のクオリティに目をくばり、稽古にしっかり時間をかける。特に「フィガロの結婚」のように演劇並みに緻密な芝居を要求されるアンサンブルオペラでは、これはとても大事なことだ。
指揮者パッパーノ自身がフォルテピアノでレチタティーヴォ・セッコの伴奏をしていることも、聴きどころのひとつ。
パッパーノとマクヴィカーは相性が良いようで、インタビュー中、パッパーノは「私たちはどちらが指揮者でどちらが演出家とも言えない関係性だよね」と言っている。指揮者と演出家の作品に対するビジョンが必ずしも一致しない場合も多い中、音楽・演技の表現が完全に融合した舞台は、オペラの理想的な形と言える。
18世紀の#MeTooオペラ
さて、「フィガロの結婚」というモーツァルトの代表作品について改めて考えてみると、その新しさに驚かされる。賢い女性たちが手を組んで、セクハラ親父を懲らしめる物語。これは18世紀の#MeTooオペラだ。
作品の中で、機知の点では常に女性の方が男性の先をいっている。
フィガロは一見、婚約者スザンナを守るために上司の伯爵に果敢に立ち向かうヒーローだが、実は作品中、フィガロの計画はほぼどれも失敗に終わる。彼だけではなく、スザンナに言い寄る浮気性の伯爵や、伯爵夫人に恋する小姓ケルビーノもしかりで、男たちはヘマばかりしている。状況を救うのはスザンナであり、伯爵夫人であり、スザンナの恋敵マルチェリーナ、スザンナの従姉妹バルバリーナといった女性陣なのだ。
幕前映像の中で指揮者パッパーノが語っているように、これはフェミニストオペラなのである。こんなオペラはモーツァルト以前には存在しなかった。
このオペラには伯爵から、医者、召使、庭師・農民まで、あらゆる階層の人間が登場する。それぞれに性格描写が細かく人間味をもって描かれており、しかも中心にいるのは貴族ではなく召使のフィガロとスザンナである。完全な身分社会だったフランス革命前のヨーロッパにおいて、ここまで平民が中心になって活躍するオペラを作った人もモーツァルト以前にはいなかった。
音楽的にも、全役の中で一番低い音を歌うのがフィガロで、一番高い音を歌うのがスザンナ。それ以外の人物たちは彼らの間にはさまれている形になっているという、小憎い仕掛けだ。伯爵夫人とスザンナには声が完璧に溶け合う手紙の二重唱を歌わせ、音楽によって身分の差を消している。
つまりモーツァルトは多様性の作曲家でもあった。240年近く前に、現在の私たちの社会に吹いている旋風を先取りしていたとは、改めてモーツァルトの慧眼に感服する。
ディテールが光る舞台
この演出では、設定が18世紀後半スペインから19世紀前半のフランスのシャトーに設定が移されている。視覚的にはそれほど変わりがないように見えるが、18世紀後半と19世紀前半では、フランス革命の前と後であるという違いが大きい。
シャトーでは従者たちがのびのびと気兼ねなく振る舞い、常にあちこちに登場して、伯爵夫妻の様子を観察している。
それでいて、室内の調度品はルイ16世様式で統一されている。世の中は平等になったのに、シャトーのオーナーである伯爵だけはいまだに革命前の世界に閉じこもっていると言いたいかのよう。
そんな演出家のこだわりにも注目すると、いろいろな発見がある舞台だ。
2023.06.21
ロイヤル・バレエ来日公演&「シンデレラ」公開記念トークショーを開催決定!
英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン
ロイヤル・バレエ来日公演&「シンデレラ」公開記念トークショーを開催決定!
英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン「シンデレラ」公開とロイヤル・バレエ来日公演を記念し、特別ゲストを招いてトークショーを開催致します。
■実施日:6月26日(月)
■会場:TOHOシネマズ 日本橋 スクリーン8
■時間:18:30の回(上映前)※予定
■ゲスト:ギャリー・エイヴィス(シニア・レペティトゥール 兼 プリンシパル・キャラクター・アーティスト)
※ゲストの予定は変更になることがございます。また都合により中止となる場合がございます。予めご了承くださいませ。
★詳しくはこちらへ
https://www.tohotheater.jp/theater/073/info/event/roh-cinderella.html
2023.06.13
バレエ『シンデレラ』の魅力、見どころを、を解説します
森菜穂美氏(舞踊評論家)
<ロイヤル・バレエならではのユーモアとペーソスあふれる『シンデレラ』が新制作で登場>
母を亡くすという不幸な境遇にもめげずに明るく健気なシンデレラが、その清らかな心で幸せをつかむという『シンデレラ』の物語は、いつの時代も人々の心に灯りをともしている。ロイヤル・バレエのフレデリック・アシュトン版では、義理の姉妹を男性ダンサーが女装してユーモラスに演じることによって、滑稽さと共に、シンデレラに対する意地悪があまり深刻なものではなく、誰も悪い人が登場しないという作品の温かさを象徴させている。美しく変身したシンデレラが舞踏会に入場するところの、ガラスの靴のトウシューズでつま先立ちのまま一歩一歩階段を下りていく場面の繊細さと初々しい緊張感を見せるところは、本作屈指の名場面である。プロコフィエフの少しダークだが煌めくような華麗な旋律の音楽も印象的でドラマを盛り上げる。
<万人に愛される傑作『シンデレラ』>
巨匠フレデリック・アシュトン振付の『シンデレラ』が初演されたのは1948年、ロイヤル・バレエの前身であるサドラーズ・ウェルズ・バレエ団にて。アシュトンがロイヤル・バレエのために振り付けた初めての全幕作品だった。初演でシンデレラを演じたのは不朽の名画『赤い靴』に主演したモイラ・シアラー、義理の姉妹はアシュトン本人と、名ダンサーとして知られたロバート・ヘルプマン。この『シンデレラ』はアシュトン独特の素早い足捌きと優雅で雄弁な上半身の動きが特徴的。おとぎ話のファンタジックさ、英国らしいおおらかなユーモアと、心優しい人が報われるというハッピーエンドで多くの人に愛される名作となった。
<ローレンス・オリヴィエ賞受賞『となりのトトロ』舞台版の美術デザイナーを起用した話題の新プロダクション>
今回、初演75周年を記念して『シンデレラ』はロイヤル・バレエではおよそ10年ぶりに待望のリバイバルとなり、舞台装置や衣装も一新されての新プロダクションとなった。今回の舞台装置を手掛けたトム・パイは『となりのトトロ』のロイヤル・シェイクスピア・カンパニーによる舞台版『My Neighbor Totoro』で2023年のローレンス・オリヴィエ賞舞台デザイン賞を受賞するなど、数多くの話題作を手掛けてきた。変身シーンなどにプロジェクション・マッピングを巧みに使用し、花のモチーフを多用したデザインは高く評価された。女の子の夢を具現化したようなキラキラ輝くシンデレラのチュチュ、目が覚めるように鮮やかな四季の精の衣装など、新しいプロダクションならではの華やかさも見もの。クローズアップで衣装や美術を見ることができるのも、シネマシーズンならではのお楽しみだ。
<世界的なスーパースターのヌニェス、ムンタギロフが主演、主要な役で多くの日本出身ダンサーが活躍>
シンデレラを演じるのは、ロイヤル・バレエのみならず世界を代表するスーパースター・バレリーナであるマリアネラ・ヌニェス。持ち前の明るい笑顔と完璧なテクニックで、夢をつかむ前向きなヒロインを生き生きと演じている。王子には、ロイヤル・バレエ随一の貴公子ワディム・ムンタギロフ。まさに王子の中の王子と呼ぶべきエレガンス、華麗な技巧で魅了する。優しくシンデレラを導く仙女を気品と温かみのある演技で演じるのは、別公演ではシンデレラ役にも配役されている日本出身のプリマ金子扶生。主役を食うほどの活躍を見せる義理の姉たちは、ロイヤル・バレエを代表する名役者ギャリー・エイヴィスと、日本出身のアクリ瑠嘉が女装して抜群のユーモアで演じる。アクリの父マシモ・アクリも新国立劇場バレエ団でアシュトン版『シンデレラ』の義理の姉を演じており、親子二代でこの役を演じたことになる。さらに道化役には目覚ましい活躍を見せる若手の中尾太亮が高い跳躍や美しいつま先で鮮烈な印象を与える。四季の精のうち秋の精を、やはり日本出身の崔由姫が踊るなど、今回も多くの日本出身のダンサーが活躍を見せているのも嬉しいところだ。
世界トップクラスのスターダンサーたちによる、夢とときめきと笑いに満ちた華やかなバレエ作品。単なるおとぎ話に留まらず、ファンタジーと共にドラマと人間味にあふれたロイヤル・バレエの『シンデレラ』には、観た人誰もが幸せな気持ちになる、バレエの魔法がつまっている。ぜひ映画館の大スクリーンで楽しんでほしい。
2023.06.12
ロイヤル・バレエ『シンデレラ』タイムテーブルのご案内
世界的なスーパースターのヌニェス、ムンタギロフが主演!
日本出身ダンサーが多数活躍する大注目作!!
初演75周年を記念しておよそ10年ぶりに待望のリバイバルとなった「シンデレラ」。舞台装置や衣装も一新されての新プロダクションとなる。舞台装置を手掛けたトム・パイは『となりのトトロ』のロイヤル・シェイクスピア・カンパニーによる舞台版『My Neighbor Totoro』で2023年のローレンス・オリヴィエ賞舞台デザイン賞を受賞するなど、数多くの話題作を手掛け、本作の変身シーンなどにはプロジェクション・マッピングを巧みに使用し、花のモチーフを多用したデザインは高く評価された。
日本出身のダンサーも多数活躍をし、世界トップクラスのスターダンサーたちによる、夢とときめきと笑いに満ちた華やかなバレエ作品。
(上演日:2023年4月12日)
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【振付】:フレデリック・アシュトン
【音楽】:セルゲイ・プロコフィエフ
【舞台美術】:トム・パイ
【衣装デザイン】:アレクサンドラ・バーン
【指揮】:クン・ケッセルズ
【出演】
シンデレラ:マリアネラ・ヌニェス、
王子:ワディム・ムンタギロフ、
シンデレラの義理の姉たち:アクリ瑠嘉、ギャリー・エイヴィス
シンデレラの父:ベネット・ガートサイド、
仙女:金子扶生、
春の精:アナ=ローズ・オサリヴァン、
夏の精:メリッサ・ハミルトン
秋の精:崔由姫、
冬の精:マヤラ・マグリ、
道化:中尾太亮
2023.05.30
オペラ『トゥーランドット』を初心者でもわかりやすく解説します
ドーリア・マンフレーディ事件と『トゥーランドット』
石川 了(ジャーナリスト)
『トゥーランドット』の作曲家ジャコモ・プッチーニにまつわるドーリア・マンフレーディ事件をご存じだろうか。
<ドーリア・マンフレーディ事件>
1903年2月、プッチーニが自動車事故を起こしたあと、プッチーニ家にメイドとして16歳のドーリア・マンフレーディが雇われた。従順な彼女はプッチーニ夫妻に可愛がられるが、プッチーニが社交好きで女好きでもあり、嫉妬深い妻エルヴィーラは夫とメイドの関係を疑い、日に日にドーリアを誹謗中傷した。エルヴィーラからの執拗ないじめに耐えられなくなったドーリアは、1909年1月に命を絶った。検視の結果、ドーリアが処女であることが判明する。マンフレーディ家はエルヴィーラを告訴。プッチーニは多額の示談金と引き換えにドーリアの家族に告訴を取り下げてもらい、ようやく事件は解決するのだった。
<事件がプッチーニに与えたもの>
まるで韓流ドラマのようなスキャンダルは、当時のイタリアのメディアを連日賑わせ、その後のプッチーニ作品にも大きな影響を及ぼした。彼の最後のオペラ『トゥーランドット』では、エルヴィーラとドーリアのキャラクターが、それぞれ氷の姫君トゥーランドットと女奴隷リューに反映されているとも言われる。
原作は18世紀ヴェネツィアの劇作家カルロ・ゴッツィによる戯曲だが、原作にリューは存在しない。しかし、プッチーニのオペラではリューの存在感は際立ち、愛する主人のために自己犠牲を厭わない女性として、美しいアリアも3曲用意されている。これは、プッチーニのドーリアに対する償いの気持ち?それとも…。ちなみに彼自身はドーリアとの関係をきっぱりと否定している。
プッチーニは「リューの死」を書き上げて、1924年11月29日に死去。未完となった『トゥーランドット』は、その後、弟子の作曲家フランコ・アルファーノが補筆して完成する。
<「誰も寝てはならぬ」の真の姿>
英国ロイヤル・オペラハウス(ROH)2022/23シネマシーズンは、オペラの入口のハードルを下げて有名オペラを鑑賞できるのが魅力だ。『トゥーランドット』は、全3幕各45分ほどの長さの中に、美しい旋律とドラマティックなオーケストラ、迫力の合唱があふれ、オペラ初心者でもまるで映画のようなエンターテイメント感覚で楽しめる。
国を恐怖に陥れる冷酷なトゥーランドット姫に一目惚れした異国の王子カラフは、彼女と結ばれるために命を賭けて三つの謎を解く。カラフを拒絶するトゥーランドットに、彼は「自分の名前を当てれば喜んで死にましょう」と逆に謎を出し、彼女は国中に「誰も寝てはならぬ」と御触れを出すのだった…。そんなトゥーランドットを想ってカラフが歌う「誰も寝てはならぬ(Nessun Dorma)」はフィギュアスケートでも有名だが、このアリアを劇中で接してみると、単なる旋律の美しさだけではない、何かこみあげてくるものを感じるはず。「誰も寝てはならぬ」の真の姿は、オペラの中でしか体感できないのだ。
<ロンドンはダイバーシティ>
音楽ファンには、今、欧米で活躍中の国際色豊かな歌手たちも必見だ。タイトルロールを歌うイタリア人ソプラノのアンナ・ピロッツィはイタリア、リューを歌うまだ20代の若きソプラノ、マサバネ・セシリア・ラングワナシャは南アフリカ、ティムールを歌うバス歌手ヴィタリー・コワリョフはウクライナ、そしてカラフ役のテノール、ヨンフン・リーと宰相ピンを歌うバリトン、ハンソン・ユは韓国。ロンドンのエンターテイメント界はまさにダイバーシティだ。筆者的には、しなやかな演技と美しいリリカルヴォイスで喝采を浴びていたピン役のハンソン・ユに注目している。
ドーリア・マンフレーディ事件と『トゥーランドット』。プッチーニとエルヴィーラ、そしてドーリアの、ある意味、現代にも起こり得る人間ドラマに想いを馳せながら、大迫力のスクリーンと臨場感あふれる音響空間で鑑賞する『トゥーランドット』体験。ROH音楽監督アントニオ・パッパーノが導く圧巻の音楽絵巻を堪能したい。
2023.05.29
ロイヤル・オペラ『トゥーランドット』タイムテーブルのご案内
英国ロイヤルの傑作プロダクションと名匠パッパーノの指揮で蘇る!
プッチーニ最後の作品であり、おとぎ話に隠された残酷さや真理、オーケストラのモダンな響きが現代人の感性にマッチする魅力を感じさせる『トゥーランドット』。本作といえば有名なのがテノールのアリア「誰も寝てはならぬ」。今回は韓国出身のヨンフン・リーが情熱的な歌唱でカラフ役を演じている。題名役のトゥーランドットを歌うのはアンナ・ピロッツィ。圧倒的なテクニックと声の威力、そして細やかな演技で、氷のような姫君を見事に浮き彫りにした。
アンドレイ・セルバンの演出は、1984年の初演から英国ロイヤルの傑作プロダクションとして長く愛されてきた名舞台。指揮は英国ロイヤルを音楽監督として長年率いてきたパッパーノが務め、その研ぎ澄まされた感性で音の細部まで表現し、現代的なアプローチで作品の魅力を引き出した演奏は大絶賛された。
(上演日:2023年3月22日)
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【指揮】:アントニオ・パッパーノ
【演出】:アンドレイ・セルバン
【再演演出】:ジャック・ファーネス
【美術・衣裳】:サリー・ジェイコブス
【照明】:F・ミッチェル・ダナ
【キャスト】
トゥーランドット姫:アンナ・ピロッツィ、
カラフ:ヨンフン・リー、
リュー:マサバネ・セシリア・ラングワナシャ、
ティムール:ヴィタリー・コワリョフ、
ピン:ハンソン・ユ、
パン:アレッド・ホール、
ポン:マイケル・ギブソン、
アルトゥム皇帝:アレクサンダー・クラベッツ、
官吏:ブレイズ・マラバ
2023.05.15
ロイヤル・オペラ『セビリアの理髪師』タイムテーブルのご案内
ロッシーニの傑作をカラフルな舞台と躍動感あふれる演奏で堪能する。
ロッシーニのオペラの中でも、世界中のオペラハウスで上演され続けている最高傑作といえば《セビリアの理髪師》。今回の演出はライザー&コーリエが2005年に英国ロイヤル・オペラで手がけ、その後も再演を重ねている人気プロダクション。美しい色彩で、面白い仕掛けが一杯の大団円まであっという間の、一瞬たりとも見逃せない舞台となっている。
(上演日:2023年2月15日)
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【音楽】:ジョアキーノ・ロッシーニ
【台本】:チェーザレ・ステルビーニ (原作:ボーマルシェによる戯曲「セビーリャの理髪師」)
【指揮】:ラファエル・パヤーレ
【演出】:モッシュ・ライザー、パトリス・コーリエ
【美術】:クリスティアン・フェヌイヤ
【衣裳】:アゴスティーノ・カヴァルカ
【照明】:クリストフ・フォレ
ロイヤル・オペラ合唱団(合唱指揮:ウィリアム・スポールディング)
ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団(ゲスト・コンサートマスター:ベンジャミン・マーキス・ギルモア)
フォルテピアノ:マーク・パックウッド
【出演】
ロジーナ:アイグル・アクメチーナ
フィガロ:アンドレイ・フィロンチク
アルマヴィーヴァ伯爵:ローレンス・ブラウンリー
ドン・バジーリオ:ブリン・ターフェル
バルトロ:グラント・ドイル(歌)/ファビオ・カピタヌッチ(演技)
ベルタ:エイリッシュ・タイナン
アンブロージオ:チャーベル・マター
隊長:ダヴィッド・キンバーグ
公証人:アンドリュー・マックネイル
2023.05.09
オペラ『セビリアの理髪師』を初心者でもわかりやすく解説します
家田 淳(演出家・翻訳家、洗足学園音楽大学准教授)
大躍進中のメゾソプラノ、アイグル・アクメチーナを今観ておきたい!
ロイヤル・オペラ・ハウス(以下ROH)「セビリアの理髪師」(モッシュ・ライザー、パトリス・コーリエ演出)は、絵本のようなファンタジックな世界。カラフルな衣裳は18世紀と現代のデザイナーテイストのミックスで、フィガロのいでたちはスーパーマリオのよう。演技達者な歌手達によるハッピーなコメディを存分に楽しめる舞台である。
2005年初演のプロダクションでもう5回目の再演になるが、今回はオリジナル演出家が実際に稽古をつけ、内容をブラッシュアップしている。歌手の演技もディテールが刷新されてフレッシュさを感じられる。
今回の再演で大注目なのが、ロシア出身のメゾソプラノ、アイグル・アクメチーナ。まだ20代後半の若さで現在、世界中の歌劇場を席巻し「新生ネトレプコ」とも称される次世代のスターである。
アクメチーナは若干19歳でROHの養成機関ジェットパーカー・ヤングアーティスツ・プログラムに入所した。そして期待通りに羽ばたき、2019年に同歌劇場でバリー・コスキー演出「カルメン」でタイトルロールを演じたほか、今後もメトやバイエルン歌劇場で「カルメン」タイトルロール、ROHで「ウェルテル」シャルロットなど大舞台での主演が目白押しである。実は日本でも2020年、新国立劇場「こうもり」オルロフスキー役で登場している。
「セビリアの理髪師」ロジーナも持ち役の一つ。アリア”Una voce poco fa(今の歌声は)”ではヴェルヴェットのような声とアジリタの確かさに加え、妖艶な炎で一瞬にして独自の世界に引き込む。キュートなルックスに、毒をもつ妖しさ。目が離せないヒロインなのだ。
ROHのジェットパーカー・ヤング・アーツプログラムについて少し。このプログラムは世界で最も権威あるオペラ養成機関の一つで、国籍は問わないため世界各国から毎年多数の応募があるが、入所できるのは1年に歌手5名、ピアニスト1名、指揮者1名、演出家1名のみ。ある程度プロとしての実績を持つ20代後半から30代前半の人がほとんどで、アクメチーナの19歳での入所は異例中の異例。当時からそれだけずば抜けた才能を見せていたのだろう。
筆者は2014年にこちらのプログラムで半年間研修する機会に恵まれ、演技や語学のレッスンに一緒に参加しながら、若い彼らが学ぶ様子をつぶさに見ることができた。
在籍する歌手は、歌や演技、各国語のレッスンを日々受けながら、ROH本公演における主要な役のカバーを務める。本役の歌手が降板するといきなり主役デビューができるという、大きなチャンスに恵まれる。私が滞在していた半年ほどの間にも、数名が実際に主役デビューを飾り、大手新聞の評で賞賛されていた。
今回の「セビリア」でもう一人の注目は、音楽教師バジリオ役のブリン・ターフェル。今回、ターフェルはバジリオのロールデビューをしているのだ。
言わずと知れた大スターで、普段はオランダ人、ヴォータン、ファルスタッフ、ミュージカルではスウィーニー・トッドなど主役・準主役を歌う歌手でありながら、今さら脇役バジリオにわざわざ挑戦するのは、シリアスもコミカルもこなす演技派ターフェルならではの遊び心であろう。実際、アリア”La calunnia è un venticello(悪口はそよ風のように)”では雇い主バルトロ役の歌手を完全に食ってしまう怪演を見せつつ、全員で呼吸を合わせなければならない1幕フィナーレのようなシーンでは、しっかりアンサンブルの一員に徹している。若い頃は「フィガロの結婚」のほうのフィガロを当たり役としていたが、同じストーリーにおいて今度はフィガロの敵役ペテン師を演じるのも楽しんでいるに違いない。やつれ風情の気持ち悪いロングヘアは本人も気に入ったらしく、公演初日に「こんな音楽教師に教わるのは嫌だろうなあ」というおどけたコメントとともに、ツイッターに自撮りをアップしている。
今年4月には東京・春・音楽祭でソロリサイタル、そして「トスカ」(演奏会形式)にスカルピアで登場し、圧巻のパフォーマンスで喝采を浴びていた。彼が現れた途端、何のセットもないコンサートホールも劇場空間に変身するのである。
ロイヤル・オペラ・ハウス・シネマでは7月に「セビリアの理髪師」の後日譚である「フィガロの結婚」も上演が予定されている。2本とも観て、ストーリーと人物たちのつながりを楽しむのもお勧めしたい。
2023.03.20
バレエ『赤い薔薇ソースの伝説』の魅力、見どころを、を解説します
森菜穂美(舞踊評論家)
魅惑の愛と官能と食べ物の大河ロマン『赤い薔薇ソースの伝説』
大ヒットしたメキシコ映画が『不思議の国のアリス』の名手たちに料理され、英国ロイヤル・バレエの舞台作品に
1992年に日本でもミニシアターで公開されてヒットしたメキシコ映画『赤い薔薇ソースの伝説』を観た方はいるだろうか。禁じられた愛が生み出す官能と食べ物が結びついて、やがてありえないような驚愕の出来事が次々と起きる”マジック・リアリズム“のぶっ飛んだ描写が話題を呼んだ色彩豊かな傑作で、ゴールデングローブ賞の外国語映画賞にノミネートされ、東京国際映画祭では主演女優賞を受賞した。
原題は「Como agua para chocolate」。ラテンアメリカでは、ホットチョコレート(ココア)を作る時にミルクの代わりにお湯にチョコレートを溶かして作るのだが。この「チョコレートのための水」という言葉がメキシコでは「情熱」「激怒」「情愛による官能」という意味があり、原作者のラウラ・エスキヴェルがこの言葉に触発されて小説を書いたという。
ロイヤル・バレエで初演されて大ヒットし、世界中のバレエ団で上演された『不思議の国のアリス』。この傑作バレエを創作した振付家クリストファー・ウィールドン(『パリのアメリカ人』『MJ:ザ・ミュージカル』でトニー賞受賞)、作曲家ジョビー・タルボット、そして美術のボブ・クロウリーのクリエイティブ・チームが『冬物語』に続き、最新作『赤い薔薇ソースの伝説』で結集した。ロイヤル・バレエでの初演は大評判を呼び、今年4月にはアメリカン・バレエ・シアターでも上演される予定だ。
バレエ版ならではのスペクタクルと華麗なダンスが織りなす情熱の大河ドラマ
元となった映画も大胆な展開と演出なのだが、今回のバレエ版は、映画の世界観を尊重しながらも、舞台芸術ならではのスケールの大きなスペクタクル作品に仕上がった。音楽はメキシコ生まれでメキシコ観光大使を務め、ドミンゴに絶賛されるなど今大注目を集めている女性指揮者アロンドラ・デ・ラ・パーラが監修し指揮をした。メキシコの民族楽器を駆使した民族音楽を思わせる魅惑的なスコア、乾いた光と色彩が豊かで文様などメキシコ文化を取り入れたクリエイティブな舞台美術、ミュージカルのように華やかでダイナミックなダンスシーン、極めつけはティタとペドロによる官能的でパッション溢れるデュエットと、物語バレエ作品の魅力がぎゅっと詰まっている。彼らの30年にわたる愛の軌跡が、ドラマチックに、そして文字通り燃え上がるような情熱をこめて料理されている。
禁じられた愛が料理にこめられ、そして不思議な奇跡が起きる!
毒母ママ・エレナに恋人ペドロとの結婚を禁じられたティタは、報われない想いを得意の料理に込める。ティタの料理は、それを食べた人に、時には過去の悲しい恋愛を思い出させ、時には内に秘めた官能に火をつけてとんでもないことが起こる。末娘が幸せになることが許せないママ・エレナは死してなおも、巨大化した亡霊となって彼女を悩ませる。これらの“マジック・リアリズム”的な描写が、名手ウィールドンの巧みな手腕によりバレエでドラマチックに表現されるところが大きな見どころである。
『キャッツ』のヒロイン、フランチェスカ・ヘイワード始めロイヤル・バレエの煌めくプリンシパルたちが演じるドラマ
ロイヤル・バレエのダンサーたちは、踊りだけでなくて演技者としてもトップレベルだ。家族のしきたりと毒母によって悲惨な運命を与えられた、料理上手のヒロインには、映画『キャッツ』で白猫ヴィクトリアを好演し、映画版『ロミオとジュリエット』でもジュリエットを初々しく演じた愛らしいフランチェスカ・ヘイワード。過酷な運命と戦い、30年にもわたる愛を貫く一途さと強さをピュアに情熱的に演じている。ペドロには、しなやかな身体能力に恵まれたチャーミングなマルセリーノ・サンベ。幼馴染として子どもの頃に出会い、愛し合っていたのに残酷な宿命で引き裂かれ、様々な出来事を経ててもなお、熱く愛し合い続けてついに結ばれるまでの強い想いを、二人ともダンスを通じて繊細に表現して物語に観客を引きこむ。
死んでも亡霊となってティタを悩ませる強権的な、しかし秘密を抱えたママ・エレナを演じるのは、ロイヤル・バレエきっての演技派で、今シーズン末に惜しまれて引退するラウラ・モレ―ラ。このほかティタを優しく見守り愛する医師ジョン役にはマシュー・ボーンの『白鳥の湖』で主役である男性の白鳥を演じたマシュー・ボール、眼鏡姿の誠実な男性という今までにない役柄に挑戦した。ペドロと結婚するもののティタに激しく嫉妬して苦しむ長姉ロサウラにマヤラ・マグリ、ティタの料理で官能に火をつけられて妖艶に踊り狂い革命戦士となる次姉ゲルトゥルーディスにミーガン・グレース・ヒンキス、そして馬に乗ってゲルトゥルーディスを連れ去っていくワイルドな革命戦士ホアンには、華麗な超絶技巧で場を支配するセザール・コラレス。6人のプリンシパルが主要な役を演じる贅沢なキャスティングだ。
バレエ作品がこんなにも燃え上がるようにセクシーでドラマチックかつ奇想天外なんて!と観た者まで思わず情熱的な気持ちに火がついてしまう、わくわくさせて魅惑的な逸品が『赤い薔薇ソースの伝説』。魔術的で官能的な世界をぜひ大スクリーンで楽しんでほしい。
2023.03.20
ロイヤル・バレエ『赤い薔薇ソースの伝説』タイムテーブルのご案内
日本でも公開され大ヒットした、メキシコ映画『赤い薔薇ソースの伝説』が、
ロイヤル・バレエの新作として初登場!!
新しい物語バレエの傑作として批評家たちから大絶賛!
ラウラ・エスキヴェルのベストセラー小説を原作に、92年にはゴールデングローブ賞の外国語映画賞にノミネートされ、日本でもミニシアターで公開されてヒットした『赤い薔薇ソースの伝説』。名匠クリストファー・ウィールドンが、『アリス』や『冬物語』のクリエイティブ・チームと組んで生み出した新作は、メキシコを舞台にした禁断の愛と官能、そして料理についての物語。
ティタを演じるのは、映画『キャッツ』や『ロミオとジュリエット』に主演した新星フランチェスカ・ヘイワード。ティタを愛するが彼女の姉と結婚するペドロには、見事な超絶技巧を見せるマルセリーノ・サンベ。ロイヤル・バレエを代表するプリンシパルたちの競演、メキシコ色豊かな音楽、メキシコの大地や建築、民俗性を再現した光あふれる舞台美術など、原作や映画の世界観を体現しながらも、英国バレエ伝統のドラマ性を加え、さらに舞踊芸術ならではの豊潤で生き生きとした舞台は、英米の批評家たちにも絶賛された。ドラマティックでセクシー、情熱的で魔術的な魅惑の2時間半に、観た人誰もが魅了される。
(2022年6月9日上演)
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ラウラ・エスキヴェルの小説に基づく
【振付】:クリストファー・ウィールドン
【台本】:クリストファー・ウィールドン、ジョビー・タルボット
【音楽】:ジョビー・タルボット
【舞台美術】:ボブ・クロウリー
【照明デザイン】:ナターシャ・カッツ
【映像デザイン】 ルーク・ホールズ
【衣装デザイン】:リネット・マウロ
【指揮&音楽コンサルタント】:アロンドラ・デ・ラ・パーラ
2023.03.01
バレエ『くるみ割り人形』延長上映決定!
英国ロイヤル・オペラ・ハウス・シネマシーズン
『くるみ割り人形』延長上映決定!
大好評につき、TOHOシネマズ 日本橋にて延長上映が決定致しました!
~3/9(木)まで
3年ぶりに復活したピーター・ライト版の『くるみ割り人形』。
“金平糖の精”役に金子扶生、“クララ”役は前田紗江が演じ、その他にも日本人が多数出演!
ドラマティックな夢の世界をぜひ堪能ください。
★上映スケジュールは劇場HPをご覧ください
https://hlo.tohotheater.jp/net/schedule/073/TNPI2000J01.do
2023.02.22
バレエ『くるみ割り人形』の魅力、見どころを、を解説します
森菜穂美(舞踊評論家)
冬の風物詩として、最も愛されるバレエ作品である『くるみ割り人形』。E.T.Aホフマンの「くるみ割り人形とねずみの王様」をもとに1892年に誕生した本作は、チャイコフスキーの切なく美しい旋律と幻想的な雪の場面や華麗なディヴェルティスマン、クリスマスを舞台にした少女のファンタジックな成長物語が人気を呼び、様々な振付作品が誕生してきた。
<ロイヤル・バレエ『くるみ割り人形』の魅力とは>
ロイヤル・バレエで上演されているピーター・ライト版は、1984年に初演。ホフマンの原作に登場する、ねずみ捕りを発明家のドロッセルマイヤーが発明したため、彼の甥ハンス・ピーターがねずみの女王の呪いでくるみ割り人形に姿を変えられてしまうというエピソードがプロローグで示される。クララに愛されることで呪いが解け、ハンス・ピーターが元の姿に戻ってドロッセルマイヤーの元に帰ってくるという物語性がはっきりしていることが、大きな魅力の一つとなっている。
ロイヤル・バレエではこの『くるみ割り人形』は初演以来550回も上演されており、この『くるみ割り人形』なしではクリスマスは迎えられない、とチケットもすぐにソールドアウトになる、バレエ団きっての人気演目である。ロイヤル・バレエならではの演劇性とハッピーエンド、大きくなるクリスマスツリーのドラマチックな演出、女の子の夢を具現化したような、甘く豪華絢爛なお菓子の国と金平糖の精の華麗な踊りが観客を幸福感で包む。子どもから大人まで誰もが夢と冒険の世界でワクワクできることが人気の秘訣だ。
<フルバージョンの『くるみ割り人形』が3年ぶりに帰ってきた!>
ロイヤル・バレエの『くるみ割り人形』も、2020年の世界的なパンデミックで試練を迎えた。同年12月に、ねずみと兵隊の戦いの場面に新振付を導入して大人のダンサーが踊り、子役の出演者を減らすなど一部演出を変更して上演されたものの、感染状況の悪化のためわずか4公演の上演で中止となってしまった。2021年の12月には、引き続きこのパンデミック対応版が上演されたが、コロナ禍で沈んでいたロンドン市民に、舞台芸術の美しさと興奮をもたらした。そしてついに今回の2022年上演では、パンデミック以前の、愛らしい子役たちがパーティーシーンや戦いの場面で舞台を駆け回る、にぎやかでハッピーな『くるみ割り人形』が帰ってきた!
<プリマ・バレリーナの輝き、金子扶生とニューヒロイン、前田紗江>
今回のシネマ上映で、主役の金平糖の精を演じるのは金子扶生。登場場面は短いけれども、10数分の中で圧倒的な輝きを見せてクララの夢を体現する役だ。難しい技術を用いながらもそれを感じさせず、砂糖菓子のように甘美に、優雅に舞う。今回は往年の大スター、ダーシー・バッセルに指導を受け、エレガントな中にもダイナミックでスピード感も感じさせる華やかさと豊かな音楽性を見せた。大阪出身の金子は、大怪我のため踊れない時期を経て復活し花開いた。2019年にやはり映画館に中継された『眠れる森の美女』で鮮烈な印象を残し、2021年にプリンシパルに昇進。今年のお正月にはイタリアの国民的スター、ロベルト・ボッレとイタリア国営放送のテレビ番組で共演するなど、今やロイヤル・バレエを代表するスターとなった。すらりとした長身に長い手足で舞台映えする華やかな容姿に加え、クラシック・バレエの技術の高さに定評がある。さらに最近では『うたかたの恋―マイヤリング』でマリー・ラリッシュ伯爵夫人役、『赤い薔薇ソースの伝説』ではママ・エレナ役など演技力を要求される難役でも高く評価されている。
金平糖の精は、なんといっても日本の誇る世界の至宝、吉田都がロイヤル・バレエ時代に得意としていた役であり、3回もDVDに収録されたほどである。金子はこの吉田の金平糖の精に憧れ、何百回もこの映像を観たとのことだが、これからは、世界のバレエ少女たちは金子の金平糖の精に憧れるに違いない。
一方、『くるみ割り人形』の物語上のヒロイン、少女クララ役を演じているのは横浜出身の前田紗江。2014年にローザンヌ国際バレエコンクールで2位に輝き、2018年にロイヤル・バレエに正団員として入団した。『白鳥の湖』ではジークフリート王子の妹、『眠れる森の美女』ではフロリナ王女など主要な役への抜擢が続き、クララ役には2021年にデビュー。伸びやかな表現と正確な技術、明るい笑顔がチャーミングだ。クララ役は未来のスターが演じることが多い役で、現在プリンシパルとして活躍するフランチェスカ・ヘイワード、アナ=ローズ・オサリヴァンらも演じてきた。この版では最初から最後までずっと舞台に出ずっぱりのハードな役である。まだ20代前半の前田のこれからの活躍に期待したい。
<日本人ダンサーの活躍、ほかにも注目の若手スターがたくさん!>
金子、前田のほかにも、別公演で金平糖の精役に抜擢された佐々木万璃子が今回は花のワルツのソリスト役を踊った。若手の中尾太亮が1幕でドロッセルマイヤーの助手役、2幕ではダイナミックな跳躍など超絶技巧を見せる中国の踊りを踊っている。金子のパートナーとして金平糖の精の王子役を踊るのは、映画版『ロミオとジュリエット』でロミオ役を踊り、注目されている貴公子ウィリアム・ブレイスウェル。またくるみ割り人形/ハンス・ピーター役には、次期プリンシパル最有力候補でアフリカ系のジョセフ・シセンズ。ドキュメンタリー映画『バレエ・ボーイズ』に出演したルーカス・ビヨルンボー・ブレンツロドがセクシーなアラビアの踊りで成長した姿を見せるなど、ロイヤル・バレエの魅力的なダンサーが多数出演し、お楽しみがいっぱいの『くるみ割り人形』、お見逃しなく。
2023.02.20
ロイヤル・バレエ『くるみ割り人形』タイムテーブルのご案内
ロンドンの冬の風物詩!ピーター・ライト版が3年ぶりにフルバージョンで復活!
金平糖の精役では金子扶生が魅了し、クララ役に前田紗江が抜擢!
日本出身ダンサーが多数出演、ドラマティックな夢の世界へようこそ!!
クリスマスの時期に世界中で上演され決定版とも言われる英国ロイヤル・バレエのピーター・ライト版『くるみ割り人形』。ロイヤル・バレエで500回以上、上演され愛された本作が、コロナ禍を乗り越え、愛らしい子役たちも大勢出演のフルバージョンが3年ぶりに復活した!
金平糖の精役は、その華やかさとドラマ性でロイヤル・バレエを代表するプリマ・バレリーナとなった金子扶生がエレガントな踊りと磨き抜かれたテクニックで魅了する。王子役には、昨シーズン『白鳥の湖』のシネマ上映に主演してプリンシパルに昇進し、映画版『ロミオとジュリエット』にも主演したウィリアム・ブレイスウェル。そして若手ホープ(2014年ローザンヌ国際バレエコンクール2位)の前田紗江が、伸びやかで現代的なクララを魅力的に演じて初のロイヤル・シネマでの主役級の出演を飾った。くるみ割り人形とハンス・ピーター役を演じるのは、プリンシパル昇格最有力候補、才能豊かなジョセフ・シセンズ。別公演では金平糖の精役に大抜擢された佐々木万璃子が花のワルツのリードを優雅に舞い、中尾太亮が魔術師ドロッセルマイヤーのアシスタント役と中国の踊りを見事な技巧で踊るなど、期待の日本出身のダンサーも随所で登場している。
(上演日:2022年12月8日)
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【振付】:ピーター・ライト
【原振付】:レフ・イワーノフ
【音楽】:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
【美術】:ジュリア・トレヴェリャン・オーマン
【原台本】:マリウス・プティパ(「くるみ割り人形とねずみの王様」E.T.A.ホフマンに基づく)
【プロダクションとシナリオ】:ピーター・ライト
【ステージング】:クリストファー・カー、ギャリー・エイヴィス
【指揮】:バリー・ワーズワース/ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団
【出演】ドロッセルマイヤー:ベネット・ガートサイド、クララ:前田紗江、
ハンス・ピーター&くるみ割り人形:ジョセフ・シセンズ、
金平糖の精:金子扶生王子:ウィリアム・ブレイスウェル、
ドロッセルマイヤーのアシスタント:中尾太亮、シュタルバウム博士:ギャリー・エイヴィス、
ローズ・フェアリー(薔薇の精):マヤラ・マグリ、花のワルツのソリスト:佐々木万璃子
2023.02.13
ロイヤル・バレエ『ダイヤモンド・セレブレーション』タイムテーブルのご案内
15人のプリンシパルが出演!ドラマチック・バレエから世界初演4作品まで。
ダイヤモンドの輝きを見せる贅沢な夢のような一夜のガラ公演!
ロイヤル・バレエの輝かしいプリンシパルたちが贈る豪華なガラ公演。ダイヤモンド・アニバーサリーにふさわしく、ロイヤル・オペラ・ハウスのファン組織“フレンズ・オブ・コヴェント・ガーデン”の60周年を祝うプログラム。過去から現在に至るまでの素晴らしい支援に感謝するものとして、古典、現代作品、そして受け継がれてきた遺産としての作品などから構成され、ロイヤル・バレエの幅広さと多様性を余すことなく披露。更に4作品もの世界初演の新作やクリストファー・ウィールドンの「FOR FOUR」のカンパニー初演、ジョージ・バランシンの古典的な名作「ダイヤモンド」と多彩なプログラムで構成されている。日本出身のプリンシパル、高田 茜、金子扶生の熱演にも注目。
(2022年11月16日上演作品)
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指揮:クン・ケセルス ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団
●「ラ・フィーユ・マル・ガルデ」序曲とパ・ド・ドゥ
振付:フレデリック・アシュトン╱音楽:フェルディナンド・へロルド╱出演:アナ=ローズ・オサリヴァン、アレクサンダ―・キャンベル
●「マノン」1幕 寝室のパ・ド・ドゥ
振付:ケネス・マクミラン╱音楽:ジュール・マスネ╱出演:高田 茜、カルヴィン・リチャードソン
●「クオリア」
振付:ウェイン・マクレガー╱音楽:スキャナー╱出演:メリッサ・ハミルトン、ルーカス・ビヨンボー・ブレンツロド
●「FOR FOUR」(カンパニー初演)
振付:クリストファー・ウィールドン╱音楽:フランツ・シューベルト╱出演:マシュー・ボール、ジェームズ・ヘイ、ワディム・ムンタギロフ、マルセリーノ・サンベ
●「SEE US!!」(世界初演)
振付:ジョセフ・トゥーンガ
音楽:マイケル“マイキーJ”アサンテ
出演:ミカ・ブラッドベリ、ルーカス・ビヨンボー・ブレンツロド、アシュリー・ディーン、レティシア・ディアス、レオ・ディクソン、ベンジャミン・エラ、
オリヴィア・フィンドレイ、ジョシュア・ジュンカー、フランシスコ・セラノ、ジョセフ・シセンズ、アメリア・タウンゼンド、マリアンナ・ツェンベンホイ
●「ディスパッチ・デュエット」(世界初演)
振付:パム・タノウィッツ╱音楽:テッド・ハーン╱出演:アナ=ローズ・オサリヴァン、ウィリアム・ブレイスウェル
●「コンチェルト・プール・ドゥーふたりの天使」(世界初演)
振付:ブノワ・スワン・プフェール╱音楽:サン=ブルー╱出演:ナタリア・オシポワ、スティーヴン・マックレー
●「プリマ」(世界初演)
振付:ヴァレンティノ・ズケッティ╱音楽:カミーユ・サン=サーンス╱出演:フランチェスカ・ヘイワード、金子扶生、マヤラ・マグリ、ヤスミン・ナグディ
●「ジュエルズ」より「ダイヤモンド」
振付:ジョージ・バランシン╱音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー╱出演:マリアネラ・ヌニェス、リース・クラーク
ロイヤル・バレエ団 アーティストたち
2023.01.18
オペラ『ラ・ボエーム』を初心者でもわかりやすく解説します
石川 了(音楽・舞踊ナビゲーター)
なんと言ってもフローレス推し!
2022年9月に3年ぶりの来日を果たしたテノールのスーパースター、フアン・ディエゴ・フローレス。公演に行くことができた方はもちろん、行けなかったオペラファンにとって特に嬉しいフローレス最新の姿が映画館で楽しめる。英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2022/23『ラ・ボエーム』だ。(2022年10月20日公演)
フローレスといえば、何といってもロマンティック・コメディの印象が強い。ロッシーニの『セビリアの理髪師』『チェネレントラ』やニーノ・ロータの『フィレンツェの麦わら帽子』などのドタバタ喜劇はまさに彼の独壇場で、そのフットワークの軽い演技や茶目っ気のある表情、しなやかな音楽性と(彼の代名詞でもある)超高音は、フローレスの最大の魅力であった。
そんな彼も1973年生まれ、つまり2023年に50歳を迎える。高音域だけではなく中音域も充実し、レパートリーはロッシーニやドニゼッティ、ベッリーニといったベルカントものから、マスネ、グノーのようなフランスもの、(役を選ぶが)ヴェルディやプッチーニまで広がった。ロドルフォは一昔前のフローレスなら絶対に歌わなかった役だから、今回の映像は音楽ファンにはたまらない。
愛だけでは命は救えない。
<ボエーム>とは<ボヘミアン>のフランス語。自由に生きることに憧れた芸術家の卵たちを指すが、そのような芸術家気取りの生活をしていても、金がなければ愛する人に薬を買ってあげることもできないのが現実だ。愛だけでは命は救えない。
そう、『ラ・ボエーム』は、実は「病を持つ人を愛するという責任に怖気づき、態度が変わるロドルフォの物語」でもあるのだ。まだまだ青年のようなフローレスの仕草や表情をみていると、青春の苦い思い出がよみがえるのか、そんなことを強く感じてしまう。彼は、歌唱力だけではなく、演技力もブラボーなのだ!
2023.01.16
ロイヤル・オペラ『ラ・ボエーム』タイムテーブルのご案内
オペラ界のスーパースター、フローレスが英国ロイヤルの《ラ・ボエーム》に出演!
貧しい芸術家たちの“青春の歌”を感情豊かに歌い上げる。
イタリアオペラの巨匠プッチーニの若き日の傑作で、ミュージカル『レント』の原作としても知られる『ラ・ボエーム』。若くて貧乏な詩人ロドルフォは、可憐な娘ミミと恋に落ちる。芸術家たちが一緒に暮らす屋根裏部屋から、クリスマス・イヴのお祭り騒ぎへ、だがやがて楽しい時はうつろい、辛い別れが訪れる。誰でも一度は経験したことのある若さゆえのきらめきと絶望を、胸を打つメロディーで歌い上げる《ラ・ボエーム》は、数あるオペラの中でももっとも愛される名作の一つだ。
英国ロイヤルで2017年に初演されたリチャード・ジョーンズ演出のプロダクションは、近年多い現代的な読み替えではなく、台本の指定に沿った時代と設定で劇が進行する。詩人ロドルフォを歌うのはオペラ界のトップに君臨するテノール歌手、フアン・ディエゴ・フローレス。第1幕の屋根裏部屋でロドルフォとミミが出会う場面では、フローレスの歌のフレージングの美しさが聴きどころだ。第1幕の後半にある彼の有名なアリア「冷たい手を」でも、輝かしいハイC(高音のド)がオペラハウスに響き渡る。ミミを歌うのはソプラノのアイリーン・ペレス。感情がこもった歌が素晴らしく、健気で愛情深いミミ役を演じている。画家マルチェッロには注目のハンサムなバリトン、アンドレイ・ジリホフスキーが出演。奔放なムゼッタ役にはやはりスター歌手のダニエル・ドゥ・ニースが出演して観客を魅了する。ちなみに第2幕は合唱が大きな聴きどころで、それに加えて子供たちのコーラスも抜群の可愛さだ。またカフェのボーイ役などの俳優たちの演技も見ていて飽きない。第3幕以降はロドルフォとミミ、マルチェッロとムゼッタの二組のカップルの葛藤と別れが描かれ、それもロドルフォとミミには永遠の別れが待っている。原作の小説家ミュルジェールは当時の自分達のリアル・ライフを小説にし、それを若きプッチーニが共感を持ってオペラ化した。ここには青春のすべてがある。
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【音楽】ジャコモ・プッチーニ
【指揮】ケヴィン・ジョン・エドゥセイ
【演出】リチャード・ジョーンズ
【出演】マルチェッロ:アンドレイ・ジリホフスキー /
ロドルフォ:フアン・ディエゴ・フローレス / コッリーネ:マイケル・モフィディアン /
ショナール:ロス・ラムゴビン / ベノア:ジェレミー・ホワイト /
ミミ:アイリーン・ペレス / ムゼッタ:ダニエル・ドゥ・ニース
2022.12.27
オペラ『アイーダ』を初心者でもわかりやすく解説します
石川 了(音楽・舞踊ナビゲーター)
あまりにもタイムリーな・・・
2022年、ウクライナでは悲惨な戦争が続き、年末には日本でも戦後の安全保障を大きく転換する閣議決定がなされた。身近に“戦争”という言葉を意識せざるを得ない昨今だが、新たな年を迎えるにあたり、ガツンと一発、衝撃的なオペラが映画館で上映される。英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2022/23《アイーダ》だ。(2022年10月12日上演)
《アイーダ》といえば、エジプトのエキゾチックな雰囲気と、象やキリンも登場する煌びやかな第2幕「凱旋の場」を思い起こす方も多いだろう。しかし、このロバート・カーセンによる新演出プロダクションでは、そのような異国情緒や動物などは一切登場しない。ステージを支配するのは、武器を持った軍服の兵士たち。そう、この《アイーダ》は、地下に無数の核兵器ミサイルを保有する現代の架空の軍事国家が舞台となる。
観客は、否応なしにさまざまな国や紛争を思い浮かべるだろう。ウクライナとロシア、イスラエルとパレスチナ解放機構、イラン・イラク戦争、もしくは北朝鮮や中国、アメリカだってイメージする方がいるかもしれない。世界の至るところで紛争が起きているからこそ、カーセン版《アイーダ》はあまりにもタイムリーだ。
オペラは生きもの
このような“読み替え”は、オペラではよく行われている。オペラファンには「音楽を邪魔する」として読み替え演出を否定する方もいるが、筆者はどちらかといえば歓迎派だ。もちろん読み替えオペラがすべて成功しているとは思わない。しかし、オペラは博物館で展示されるものではなく、ステージで上演される生きものである。その時代に則した感性を作品に注入することで、作品は生き残っていく。この演出は、1871年の初演からおよそ150年経った現代を反映したひとつの帰結かもしれない。
片思いの痛み
もちろん、ヴェルディの音楽は今なお色褪せることはない。この《アイーダ》を今回のプロダクションで会話とモノローグの芝居としてみると、有名な「凱旋の場」だけではない、オペラの素晴らしさが際立ってくる。
たとえば、会話の場面では、アイーダとアムネリスの胸の探り合い(第2幕第1場)、恋人から軍事機密を聞き出すよう強要する父アモナスロとアイーダ、情報を流してしまうラダメスとアイーダ(第3幕)、審判を待つラダメスを説得するアムネリス(第4幕第1場)など、物語の設定が現代であることで、ヴェルディの音楽と台詞がとてもリアルに感じる。
モノローグでは、「清きアイーダ」「勝ちて帰れ」などの有名アリアのほかに、第4幕第1場のラダメス審判のアムネリスに注目したい。
愛するラダメスから見向きもされず、彼の最期に及んで「あなたの慈悲が最も不名誉」とまで言われるアムネリスは、王女なのに、彼が裏切り者として処刑される判決にどうすることもできない。ここまで報われないアムネリスを、ブランドの服を着て権力も美貌も併せ持つ現代女性にすると、現実にもいそうに思えるし、彼女の哀しみが私たちにも経験したことがある片思いの痛みのように身近に感じてくる。ヴェルディも、この作品で一番共感するキャラクターがアムネリスだったのではないか。
平和への願い
アイーダとラダメスは、核兵器ミサイルが眠る格納庫に生き埋めになる。決して開くことがないその地下扉が開くときは、核兵器が使用されるときであり、世界は滅びることを暗示する。この演出では、最後のアムネリスの祈りの音楽に、そうはならないように世界の平和への願いが込められている。深い余韻に包まれたラストシーンの意味を、皆さまとともに考えたい。
2022.12.19
ロイヤル・オペラ『アイーダ』タイムテーブルのご案内
ヴェルディの『アイーダ』が現代の社会を映す鏡になる!
英国ロイヤルの新演出が描く、軍事国家の危険と戦争の犠牲となる男女の悲劇―。
オペラの人気演目「アイーダ」は、古代エジプトを舞台に、エチオピア人奴隷のアイーダがエジプト軍の将軍ラダメスへの愛と祖国の間で引き裂かれる悲劇。19世紀イタリアの巨匠ヴェルディのスペクタクル・オペラとして、エキゾチックな舞台と大規模な合唱やバレエのシーンで良く知られている。
だが2022年、英国ロイヤル・オペラが発表した「アイーダ」新演出版で巨匠ロバート・カーセンが創りあげたのは、古代エジプトとエチオピアという設定を完全に排除した物語だった。現代のいくつかの国の要素を取り入れて考案したという架空の国家が舞台となり、軍事力に頼る全体主義が個人の幸福を左右する様を、カーセンらしい完成度の高い筆致で描き出す。国家元首(エジプト王)とその娘(アムネリス)はブランドの服に身を固め、軍隊の揃った敬礼を満足そうに受ける。鳴り響くトランペットが軍隊の入場を告げて始まる<凱旋の場>では、戦死した兵士たちを悼む儀式や、軍のデモンストレーションを表現するダンスが演じられる。人間社会のあやうさと、愛し合う男女の苦悩は、時代と国を超えて観客に迫ってくる。
音楽面での充実も演出に負けていない。音楽監督パッパーノの指揮は、華々しいシーンは堂々たる演奏で、主人公たちの対話は細かい心理を感情豊かに歌わせる。主役歌手たちも超一流の布陣。タイトル役アイーダのエレナ・スティヒナ、ラダメスのフランチェスコ・メーリ、アムネリスのアグニエツカ・レーリス、アモナズロのリュドヴィク・テジエ、そして注目のバス歌手ソロマン・ハワードまで、世界で活躍する国籍も様々な歌手が顔を揃えた。英国ロイヤルが誇る合唱団は<凱旋の場>を始めとするシーンでスリリングな歌を聴かせる。あらゆる意味で『今』を感じさせる舞台と言える。終演後の観客のブラボーの声は盛大で、イギリスのオペラ・レビューでも高い評価を得、今後も受け継がれていくであろうプロダクションとなった。
(2022年10月12日上演作品)
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【作曲】ジュゼッペ・ヴェルディ 【演出】ロバート・カーセン 【指揮】アントニオ・パッパ-ノ
【出演】エレナ・スティヒナ / フランチェスコ・メーリ / アグニエツカ・レーリス / リュドヴィク・テジエ / ソロマン・ハワード / シム・インスン 他
2022.12.12
ロイヤル・バレエ『うたかたの恋 ーマイヤリングー』タイムテーブルのご案内
平野亮一が堂々シーズン・オープニングアクトの主演を飾り絶賛された
ドラマティック・バレエの傑作がスクリーンに登場!
1889年、オーストリア=ハンガリー帝国の皇太子ルドルフが、17歳の愛人マリー・ヴェッツェラと心中したマイヤリング事件。
英国バレエを代表する巨匠ケネス・マクミランは、1978年にこの実話をバレエ化。両親に愛されず、政略結婚を強いられ、宮廷内の策略など政治的にも翻弄されてきた皇太子ルドルフは次から次へと愛人を作り、苦悩し病んでいくー。本作は、『ロミオとジュリエット』、『マノン』と並んで彼の最高傑作となった。
ルドルフ皇太子を演じるのは、日本出身の平野亮一。バレエ作品には珍しく男性が主人公である本作で6人もの女性ダンサーと超絶技巧のパ・ド・ドゥを繰り広げる。いつかは演じてみたいと男性バレエダンサーたちが熱望するこの役のシーズン初日に抜擢され、さらに、その模様が世界中の映画館で中継されたのは、平野の高い演技力とパートナーリング技術の確かさが信頼を勝ち取っている証。辛口で有名な英国の批評家たちから大絶賛を浴び、主要紙すべてで4つ星を獲得した。
ルドルフ皇太子を取り巻く登場人物たちも、ナタリア・オシポワ、ラウラ・モレーラ、マリアネラ・ヌニェス、フランチェスカ・ヘイワードとロイヤル・バレエを代表する綺羅星のようなスター揃い。またルドルフが唯一心を許す御者のブラットフィッシュには、日本出身で上昇気流に乗るアクリ瑠嘉が扮し、軽妙で鮮やかな踊りと心温まる人間性を見せてくれる。
(2022年10月5日上演作品)
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【振付】:ケネス・マクミラン 【音楽】:フランツ・リスト
【美術】:ニコラス・ジョージアディス 【指揮】:クン・ケセルズ
【出演】ルドルフ皇太子(オーストリア・ハンガリー帝国皇太子):平野亮一
マリー・ヴェッツェラ(ルドルフの愛人) ナタリア・オシポワ
ラリッシュ伯爵夫人(ルドルフの元愛人):ラウラ・モレ―ラ
皇妃エリザベート(ルドルフの母):イツィアール・メンディザバル
ステファニー王女(ルドルフの妻) フランチェスカ・ヘイワード
ミッツィー・カスパー(高級娼婦でルドルフの愛人):マリアネラ・ヌニェス
ブラットフィッシュ(ルドルフのお気に入りの御者):アクリ瑠嘉
4人のハンガリー将校 リース・クラーク 他
2022.12.06
特別編:オペラ『蝶々夫人』を解説します
家田 淳(演出家・翻訳家 洗足学園音楽大学准教授)
多様性の時代におけるオペラ
2021年秋のこと。
「ロイヤル・オペラ・ハウスが、演目から人種差別的な要素を撤廃する方針」というニュースを、たまたまネットで目にした。
近年、欧米では#MeToo運動、Black Lives Matter運動に背を押され、エンタテインメント業界でも人種・性的マイノリティを積極的に登用したり、マイノリティの社会をフィーチャーした作品を作る動きが盛んで、有色人種や女性を入れて多様性を出すことは、一時的なトレンドにとどまらない大きな流れになっている。
「ついにオペラも時代の波に乗ったか」と感心しながら記事を読んだ数日後、ロイヤル・オペラ・ハウスから一通のメール。
なんと劇場が「蝶々夫人」の既存演出をアップデートするプロジェクトを立ち上げるので、日本側の代表の一人として参加してもらえないか、という打診だった。
「蝶々夫人」は言わずと知れた明治の長崎を舞台にしたプッチーニの名作だが、欧米で上演される場合、そこに登場する日本は80年代のハリウッド映画に描かれるような妙ちくりんなフジヤマ・サムライ・ニンジャのジャパンであることが、残念ながら多かった。
このロイヤル・オペラ・ハウスの既存プロダクション(2003年初演)も、比較的ましな方ではあるものの、衣裳やメイクは、もうどこから突っ込んでいいか判らないほど間違いだらけ。日本人役のメイクは歌舞伎風の白塗りで、目は吊り目、着物は単なるVネックのローブ。明治時代なのに髪型は平安時代。
そこについにメスが入るのか…!! 時代は変わるものだ。果たして自分がその重責に相応しいのか不安には思いつつも、オンラインで会議に出席して意見を述べたり、専門家を紹介して会議の通訳や資料の翻訳をする形で、2022年春、改訂「蝶々夫人」が上演されるまでプロジェクトに参画した。
アップデートの現場では
劇場側の真摯な姿勢は、差別されてきた側の日本人の方が頭が下がるほど。「20世紀初頭の西洋優位の価値観で書かれたこのオペラを、レパートリーに残しておくべきなのか?」というそもそも論に始まり、「バタフライ(蝶々さん)の家の使用人たちの姿勢や態度が卑屈すぎる。日本人を格下に置くような演技を修正すべき」「衣裳、メイクはできるだけリアルにしたい」といった提案が次々となされた。
ただ衣裳については、本来であれば一から作り直すか、現地に日本人の専門家が飛んで現物を使って手取り足取り教えないことには、とても小手先で直せる範囲ではない。しかしコロナ禍でのプロジェクト、こちらはオンライン参加にとどまるしかできず、どこまで意図が伝わり正確に現場に反映されるのか、フラストレーションもあった。
舞台衣裳デザイナーの半田悦子氏を招いて、衣裳とヘアメイクの具体的な改善点を伝えていた時のこと。大量の参考写真やイラストを見せながら、一つ一つの役柄についてダメ出しをしていくが、Zoomではなかなかニュアンスが伝わりづらい。
しびれをきらした半田氏がズバリ一言。「あの、皆さんは、こういう吊り目のメイクが日本人らしい顔を表しているとお考えなのでしょうか?」
…シーン。
向こう側の空気が凍りついたのが、画面越しでもわかった。
(「えっ、違うの?」「でもそれって言っちゃいけないやつだよね(汗)」)という彼らの脳内セリフが見える。
しばしの沈黙ののち、向こうから一言。「それこそが、私たちが教えてほしいことなのです」
半田氏、少しため息をついて「ええとですね、日本人の女性は、自分を可愛く見せるために、目は丸みをもって描きます」 なるほど、と納得の空気。
そうか。日本人といえば吊り目なんだ、今でも。
いわゆるアジア人ステレオタイプが、今そこにいる人たちの頭の中にもしっかり生きていることが、露わになった瞬間であった。
更に別の回で、キャスティングが話題になった際の話。参加者の一人として呼ばれていた若い中国人メゾソプラノ歌手が、明るく言い放った。「私にはしょっちゅうスズキ役のオファーが来るけど、断っています。一度受けるとその役ばっかりが来て、他の役ができなくなってしまうから」
軽くガツンとやられた。もし私だったら、ヨーロッパの歌劇場からオファーがもらえるだけで嬉しいと思ってしまう気がする。少なくとも過去にはアジア人歌手はそうやって、バタフライやスズキのスペシャリストとして生きていくケースが多かったのではないだろうか?
近年は中国人や韓国人の歌手が世界の歌劇場で大躍進しているが、この歌手も「人種枠」はハナから念頭になく、むしろお断りなわけだ。時代はどんどん進んでいるのだなあ。
この「人種枠で特定の役に縛られると、歌手本人のキャリアが狭められてしまう問題」についても色々と意見が出た結果、「アジア人の役にはアジア人を積極的に起用する。ただし『人種だけではなく実力で選んでいる』と歌手本人に示すために、例えばスズキ役をオファーする場合には、別の作品の役も同時にオファーすれば良いのでないか」というところで締め括られた。
また、演技面ではムーヴメントの専門家の上村苑子氏が現地で稽古に参加し、歌手に和の所作を指導した。その様子は付録映像で紹介されている。
心からの敬意を
このようなプロセスを経てお披露目となったのが、このシネマシーズンで上映される「蝶々夫人」。衣裳の細部などは完全とは言えないものの、欧米で上演される「蝶々夫人」の舞台としては相当に自然かつリアルで、音楽とドラマに集中できる仕上がりとなっているのではないだろうか。
何より、こういった問題認識がなされ、劇場をあげて解決に取り組もうという姿勢、オペラ・ハウスもまた現代社会を担う一端であり、発信する作品は社会に対して責任があるという信条は学ぶべきことが多く、心から敬意を表したいと思う。
2022.12.05
ロイヤル・オペラ『蝶々夫人』タイムテーブルのご案内
あのミュージカルの原作で、フィギュアスケートの選曲としても知られる『蝶々夫人』
英国ロイヤルの名舞台が日本をリスペクトした改訂版で帰ってくる!
明治時代の長崎を舞台に、アメリカ海軍士官ピンカートンの現地妻となった蝶々さんが、夫に捨てられ日本の社会から孤立し、ついには愛する息子まで奪われ…という悲劇を、イタリア・オペラならではの旋律美で余す所なく描き出す。
19世紀末から20世紀初頭にかけてヨーロッパで起こった日本ブームによって、日本をテーマにした絵画、小説、演劇などに加え、日本を題材にしたオペラがいくつも生まれたが、その中の決定版がプッチーニ作曲の『蝶々夫人』。アリアはフィギュアスケートの音楽などに使われ、大ヒットしたミュージカル「ミス・サイゴン」の原作としても知られている。
モッシュ・ライザー&パトリス・コーリエによる演出は、2003年に英国ロイヤル・オペラで初演されたもの。今回の上演は、近年の芸術分野に求められるアジア文化への尊重という課題を反映して、劇場側が、舞台のムーヴメントを指導する上村苑子氏、衣裳デザイナー半田悦子氏、ロンドン大学日本近現代史 博士鈴木里奈氏、演出家の家田 淳氏をコンサルタントとして招き、1年かけてアップデートし作り上げた改訂版。
蝶々さんを歌ったのは、イタリアを代表するソプラノ歌手・マリア・アグレスタ。蝶々さんは15歳の少女として登場し、第2幕以降はその3年後というごく若い娘の役でありながら、厚みのあるオーケストラを突き抜けて響く声も必要。マリア・アグレスタは、リリック・ソプラノであり、丸みを帯びた美声と情熱的な歌唱、そして舞台を支配するカリスマ性でロンドンの観客を熱狂させた。
(2022年9月27日上演作品 上映時間3時間14分)
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【作曲】ジャコモ・プッチーニ
【演出】モシェ・レイザー&パトリス・コーリエ
【指揮】ニコラ・ルイゾッティ
【出演】マリア・アグレスタ、ジョシュア・ゲレーロ 他
2022.11.24
『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2022/23』全13演目の公開日決定!日本版予告映像とポスタービジュアル解禁!バレエは、世界が絶賛した平野亮一主演『うたかたの恋 ーマイヤリングー』で開幕!!
世界最高の名門歌劇場である英国ロイヤル・オペラ・ハウスで上演されたバレエとオペラの舞台を、特別映像を交えてスクリーンで体験できる「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン」。“ロイヤル・オペラ・ハウス”は、9月8日に崩御したエリザベス2世が長年パトロンを務めてきたことでも知られています。 この度、新シーズンを、『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2022/23』と題し、2022年12月9日(金)~2023年9月28日(木)までの期間中、史上最大のスケールとなる全13演目を、各1週間限定にて全国公開することが決定いたしました。ライブでの観劇の魅力とは一味違う、映画館の大スクリーンと迫力ある音響で、日本にいながらにして最高峰のオペラとバレエの公演を堪能できる、至極の体験をお届けします。
未だかつてないスケールで贈る「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2022/23」がいよいよ開幕!
選りすぐられた6本のバレエと7本のオペラ!
日本版予告映像とポスタービジュアルが到着&全13演目と公開日が決定!
「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン」は、ロンドンのコヴェント・ガーデンにある歌劇場“ロイヤル・オペラ・ハウス” (通称ROH)で上演された世界最高峰のバレエとオペラを映画館で鑑賞できる人気シリーズ。世界最高クラスのパフォーマンスを大スクリーンで体験できることに加え、リハーサルの様子や舞台裏でのインタビューなどの特別映像も堪能できるということで、シーズンを重ねるごとにファンが増えています。
新シーズン、オペラのオープニングは、日本を舞台にしたプッチーニ作曲、悲劇の傑作オペラ『蝶々夫人』(12月9日公開)が日本をリスペクトした改定版で幕を開けます。続いて、バレエのオープニングは、ドラマティック・バレエの傑作、 平野亮一が堂々と主役を演じた『うたかたの恋 ーマイヤリングー』(12月16日公開)。英国で10月5日に上演された本作は、主要紙すべてで4つ星を獲得、彼の演技は、辛口で有名な英国の批評家たちから大絶賛を浴び、世界に生中継されたことでも話題を呼びました。また、日本出身で上昇気流に乗るアクリ瑠嘉も出演。日本にゆかりのあるオペラの演目、そして、バレエは、日本出身のダンサーたちがオープニングを飾るという大注目の新シーズン。以降の作品も、あまりにも有名な演目が揃い踏みで、史上最大規模の13作品はどれも見逃せません。
この度、到着した日本版予告編には、冒頭、ヴェルディ作曲の『イル・トロヴァトーレ』のスケール感あふれる音楽とともに、シーズンを彩る各作品のワンシーンが次々と登場、後半は、プッチーニ作曲『蝶々夫人』より、「ある晴れた日に」の美しいアリアと共に、全13作品の豪華ラインナップの詳細が紹介され、期待高まる予告編となっています。併せて到着した日本版ポスターには、各作品のシーンカットと「人生を満たす、情熱のオペラ、魅惑のバレエ。」というコピーと共に「女王陛下に、愛と感謝を込めて。」と長年、ROHのパトロンを務めてきたエリザベス女王2世へ向けての思いが添えられ、世界屈指の名門による選りすぐりの名プログラム全13演目がずらりと並びます。
【全13演目】
◆バレエ演目:①『うたかたの恋 ーマイヤリングー』、② 『ダイヤモンド・セレブレーション』、③『くるみ割り人形』、 ④『赤い薔薇ソースの伝説』、⑤『シンデレラ』、⑥『眠れる森の美女』
◆オペラ演目:①『蝶々夫人』、②『アイーダ』、③『ラ・ボエーム』、④『セビリアの理髪師』、⑤『トゥーランドット』、 ⑥『フィガロの結婚』、⑦『イル・トロヴァトーレ』
12月9日(金)より、いよいよ開幕する『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2022/23』が贈る情熱と魅惑に満ちた至福の時間を、是非映画館でご体験ください!
【2022/23 全13演目と公開日】※1週間限定公開※
①ロイヤル・オペラ『蝶々夫人』:2022年12月9日(金)
②ロイヤル・バレエ『うたかたの恋 ーマイヤリングー』:2022年12月16日(金)
③ロイヤル・オペラ『アイーダ』:2023年1月6日(金)
④ロイヤル・オペラ『ラ・ボエーム』:2023年1月20日(金)
⑤ロイヤル・バレエ『ダイヤモンド・セレブレーション』:2023年2月17日(金)
⑥ロイヤル・バレエ『くるみ割り人形』:2023年2月24日(金)
⑦ロイヤル・バレエ『赤い薔薇ソースの伝説』:2023年3月24日(金)
⑧ロイヤル・オペラ『セビリアの理髪師』:2023年5月19日(金)
⑨ロイヤル・オペラ『トゥーランドット』:2023年6月2日(金)
⑩ロイヤル・バレエ『シンデレラ』:2023年6月16日(金)
⑪ロイヤル・オペラ『フィガロの結婚』:2023年7月7日(金)
⑫ロイヤル・バレエ『眠れる森の美女』:2023年8月25日(金)
⑬ロイヤル・オペラ『イル・トロヴァトーレ』:2023年9月22日(金)
<上映劇場>
*札幌シネマフロンティア(北海道)
*フォーラム仙台(宮城)
*TOHOシネマズ 日本橋(東京)
*イオンシネマ シアタス調布(東京)
*TOHOシネマズ 流山おおたかの森(千葉)
*TOHOシネマズ ららぽーと横浜(神奈川)
*ミッドランドスクエア シネマ(愛知)
*イオンシネマ 京都桂川(京都)
*大阪ステーションシティシネマ(大阪)
*TOHOシネマズ 西宮OS(兵庫)
*中洲大洋映画劇場(福岡)
2022.07.15
ロイヤル・バレエ『白鳥の湖』タイムテーブルのご案内
天才振付家の新演出で一新、生まれ変わったあの「白鳥の湖」がシーズンのフィナーレを飾る!!
日本人ダンサーの活躍にも注目!
チャイコフスキーのあまりにも美しく心を揺さぶる旋律に乗せた、クラシック・バレエの不朽の名作『白鳥の湖』。2018年5月、ロイヤル・バレエ団によって31年ぶりに新演出によるプロダクションに一新された本作が、スクリーンに帰ってきました!従来の白鳥たちが舞う湖畔のシーンはそのままに、気鋭の美術家ジョン・マクファーレンによる絢爛たる舞台美術と初演当時弱冠31歳の天才振付家、故リアム・スカーレットによる新しい振付を加えたプロダクション。英国バレエ伝統の演劇性を強調した、鮮烈で壮麗な「白鳥の湖」決定版です。
2022年5月19日に収録された今回のシネマでは、昨年の出産から舞台復帰を果たした英国バレエ界の名花、ローレン・カスバートソンがオデットとオディールを繊細に、詩情豊かに演じます。ジークフリート王子役は、映画版『ロミオとジュリエット』のフレッシュなロミオ役で人気が急上昇し、この5月プリンシパルに昇進した新星ウィリアム・ブレイスウェル。女王の側近で、その正体は悪魔ロットバルトを、ロイヤル・バレエを代表する名優ギャリー・エイヴィスが持ち前のカリスマ性で重厚に演じます。
王子と友情を越えた強い絆で結ばれている友人ベンノ役には、日本出身で躍進が続くアクリ瑠嘉。また大きな白鳥の一人には、『くるみ割り人形』の薔薇の精などで抜擢が続く佐々木万璃子、小さな4羽の白鳥の一人と、イタリアの王女には注目の前田紗江。この他にも随所に日本人ダンサーの活躍が見られるのも見どころのひとつです。今回の公演はローレン・カスバートソンのロイヤル・バレエ団在籍20周年を記念し特別なカーテンコールが行われました。衝撃と感動の幕切れ、壮麗な愛の傑作をぜひともスクリーンでご堪能下さい。
(2022年5月19日上演作品)
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【振付】:リアム・スカーレット(マリウス・プティパ、レフ・イワーノフ原振付に基づく)【追加振付】:フレデリック・アシュトン(3幕ナポリの踊り)
【音楽】:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー 【演出】:リアム・スカーレット【美術】:ジョン・マクファーレン 【指揮】:ガブリエル・ハイネ
【出演】 オデット/オディール:ローレン・カスバートソン ジークフリート王子:ウィリアム・ブレイスウェル 女王:クリスティーナ・アレスティス
ロットバルト:ギャリー・エイヴィス ベンノ:アクリ瑠嘉 ジークフリートの妹たち:イザベラ・ガスパリーニ、ミーガン・グレース・ヒンキス
2022.07.11
英国ロイヤル・バレエ『白鳥の湖』公開記念&ロイヤル・バレエ・ガラ来日公演記念 日本への思い、日本人ダンサーへの称賛を熱く語る!!
英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパルダンサーで、
本作ではジークフリート王子を演じるウィリアム・ブレイスウェルが登壇!
『白鳥の湖』公開&ガラ来日公演記念トークショーを実施しました!!
7月15日(金)から全国公開となる英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン「白鳥の湖」の先行上映前に、ゲストを呼んでのトークショーを実施。当初登壇を予定していたケヴィン・オヘア芸術監督の日本到着が遅れ、急遽、本作「白鳥の湖」でジークフリート王子を演じるプリンシパルダンサーのウィリアム・ブレイスウェル氏が登壇することになった。ブレイスウェル氏は、7月13日(水)から渋谷のBunkamuraオーチャード・ホールで始まるロイヤル・バレエ・ガラ公演の為に来日、日本に到着してから間もないにもかかわらず、疲れをみせず、日本のファンに向けて温かいメッセージを寄せてくれた。
まず冒頭では、「お招きをいただきありがとうございます。この場に来られたことがとても光栄で、ご覧いただけることを嬉しく思っています。この数年世界は大変で、さらにこの数日、日本は大変な時期だった思いますが、「白鳥の湖」を観て楽しんで欲しいです」と挨拶。続いて、今期シネマシーズンのラストを飾る「白鳥の湖」の見どころについては、「リアム・スカーレットの振付、ジョン・マクファーレンのセットデザイン、さらには、チャイコフスキーの音楽とこの三つが一緒になることで素晴らしい作品になっています。個人的には、第一幕のジークフリート王子が狩りに行くシーンが好きです。また、オデット&オディール役の大ベテランのローレン・カスバートソンとは、過去に一度だけ「くるみ割り人形」で踊ったことがあったのですが、ケヴィン・オヘア芸術監督が私とローレンの相性が良いということで、才能溢れる彼女と再び踊れることができ、とても幸せでした。また、彼女が産後に初めてフルの作品にでるということで、一緒に役柄を追求する場にいれたことも大変光栄でした。」とコメント。
来期のシネマシーズンのラインナップ(「うたかたの恋 -マイヤリング-」「くるみ割り人形」「ダイアモンド・セレブレーション」「赤い薔薇ソースの伝説」「シンデレラ」「眠れる森の美女」)より「くるみ割り人形」で金子扶生(ふみ)さんのシュガープラム(金平糖の精)とのパ・ド・ドゥで王子役を踊ることについては、「金子扶生さんとは以前も踊ったことがあるのですが、他のダンサーにはだせないエレガントで技術的な素晴らしさを持ち合わせ、それは夢のような体験です」と最大の賛辞を贈った。
また、7月13日からのガラ公演に関しては、「何よりも日本に来れたことが嬉しくて、とても楽しみにしていました。Aプロでは、佐々木万璃子さんと「白鳥の湖」2幕のパ・ド・ドゥを踊るのですが、彼女ほど努力する人はないのではと思うほど、この数週間、一生懸命に稽古されていました。努力家でそして美しい人です。「白鳥の湖」では大きな白鳥を演じていて、こちらも素晴らしいので楽しみにしてください。Bプロでは、大ベテランのマリアネラ・ヌニェスさんと「グラン・パ・クラシック」を初めて踊ります。彼女も初めてとのことですが、彼女ほどの大ベテランが新しいことに挑戦するのは珍しいなと思いました。完璧主義者で、ディテールにこだわって稽古されているので、私も対等に踊るために稽古を苦労しました」とエピソードを披露した。
また、日本のバレエファンへ向けて「日本は大好きな国の一つで、日本で踊れることが楽しみで仕方ありません。日本のお客様は温かくて、バレエに対しての敬意を感じます。本当に心の底から感謝しています。また実は、今日ご覧いただく「白鳥の湖」のシネマ公演直後に舞台袖で、ケヴィン・オヘア芸術監督から、プリンシパルの昇進を告げられて、大泣きしました。そんなこともあり、この作品は私にとってとても特別な作品になりました。皆様に是非楽しんでいただきたいです。」と温かいメッセージを寄せ、場内は大きな拍手でイベントは終了した。
2022.07.05
【出演者変更のお知らせ】英国ロイヤル・バレエ「白鳥の湖」公開記念& ロイヤル・バレエ・ガラ来日公演記念 7/10(日)トークショー開催!
7月10日(日)TOHOシネマズ日本橋にて予定していましたトークショー付先行上映ですが、
ゲストとして予定していました英国ロイヤル・バレエ団 ケヴィン・オヘア芸術監督につきまして
昨日ロイヤル・バレエ・ガラ公演の招聘元を通し、以下の連絡が入りました。
「ケヴィン・オヘア氏の来日が急遽予定よりも遅れることになり、トークイベントへの出演が不可能になりました。その為「白鳥の湖」の王子役でプリンシパル・ダンサーのウィリアム・ブレイスウェルが先に日本に到着予定になっていますので、同団内で代わりに出演の打診をした所、快諾してもらいました」
上記がバレエ団より入ったとのことでした。
急な変更で、ケヴィン・オヘア氏のお話を楽しみにされて来場されるお客様には、本当に申しわけありませんが、
ぜひウィリアム・ブレイスウェル氏のお話を楽しんで頂ければ幸いです。 東宝東和株式会社
『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2021/22』より、フィナーレを飾る6作目は、チャイコフスキーによる美しくも心揺さぶる旋律に乗せたクラッシック・バレエの不朽の名作『白鳥の湖』が、7月15日(金)より全国公開。
2018年5月、ロイヤル・バレエ団によって31年ぶりに新演出で一新された本作は、従来の白鳥たちが舞う湖畔のシーンはそのままに、気鋭の美術家ジョン・マクファーレンによる絢爛たる舞台美術と初演当時弱冠31歳の天才振付家、故リアム・スカーレットによる新しい振付を加え、高い評価を得ているプロダクション。ライブでの観劇とは一味違う体験を、再びお届けします。
チケットは、7/6(水)0:00~(TOHOシネマズ会員は7/5(火)21:00~先行)、劇場HPにて販売開始となります(料金:一般3,700円/学生2,500円)。
7月10日(日)13:00開演 @TOHOシネマズ日本橋
https://hlo.tohotheater.jp/net/schedule/073/TNPI2000J01.do
2022.06.10
ロイヤル・オペラ『椿姫』タイムテーブルのご案内
ロンドンの観客が熱狂し、新たな伝説が生まれたー
アレクサンドル・デュマ・フィスの戯曲をヴェルディがオペラ化した『椿姫』は、『リゴレット』と並ぶ中期三大傑作の一つ。舞台は19世紀半ばのパリ、貴族や富豪たちの寵愛をほしいままにしていた高級娼婦ヴィオレッタは、青年アルフレードとの真実の愛に目覚めるも、やがて引き返すことのできない事態へと進んでいく悲劇の物語。英国ロイヤル・オペラの『椿姫』は、巨匠リチャード・エアが1994年に初演出し、以来上演され続けている人気の看板プロダクションです。エアの演出は伝統的なスタイルを保持しながらも、気品のあるスタイリッシュな美しさで登場人物たちのドラマを際立たせます。
ヴィオレッタを演じるのは、南アフリカ出身のソプラノ歌手プリティ・イェンデ。しなやかで光沢のある稀にみる美声の持ち主で、今やオペラ界に欠かせない存在としてスター歌手になった彼女は、2019年パリ・オペラ座の『椿姫』ヴィオレッタ役でブレイク。本作では卓越したテクニックと芸術性、気取りのない自然なスタイルで、善良な若い娘が純愛を貫く姿を情熱的に演じています。また、アルフレード役のスティーヴン・コステロは愛情深い恋人を好演、彼の父ジェルモンはブルガリア出身のバリトン歌手ウラディーミル・ストヤノフが格調高い歌と演技を披露します。指揮は若きイタリア人マエストロ、ジャコモ・サグリパンティ。ワルツのリズムに乗った透明感のある弦楽の響きが美しく、しかも緊迫した場面の推進力も見事。
円熟期のプリティ・イェンデの絶唱にロンドンの観客が熱狂、名舞台『椿姫』に新たな伝説が生まれました。
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【作曲】:ジュゼッペ・ヴェルディ 【台本】:フランチェスコ・マリア・ピアーヴェ(原作:アレクサンドル・デュマ・フィスの戯曲『椿姫』)
【指揮】:ジャコモ・サグリパンティ 【演出】:リチャード・エア 【美術】:ボブ・クロウリー
【出演】:ヴィオレッタ・ヴァレリー:プリティ・イェンデ アルフレード・ジェルモン:スティーヴン・コステロ
アンニーナ:クセニア・ニコライエワ ジョルジョ・ジェルモン:ウラディーミル・ストヤノフ
2022.06.07
オペラ『椿姫』を初心者でもわかりやすく解説します
石川了(音楽・舞踊ナビゲーター)
大ヒット映画「プリティ・ウーマン」と「椿姫」
もう30年以上も前になるが、世界的に大ヒットした『プリティ・ウーマン』という映画を覚えているだろうか。リチャード・ギア扮する敏腕実業家のエドが、LA出張中に、ジュリア・ロバーツ扮する高級娼婦ヴィヴィアンと一緒に過ごすうちにお互いに惹かれ合い、境遇の差を越えて結ばれるというロマンティック・コメディだ。
映画の中で、エドがヴィヴィアンと一緒に盛装してオペラを観に行く、その演目が『椿姫』である。第1幕冒頭の華やかなパーティーの音楽から、ヴィオレッタのアリア「花から花へ」、第2幕の別離の絶唱「私を愛してアルフレード、私があなたを愛するくらい」、そして終幕のヴィオレッタの死へと続く。ヴィオレッタとヴィヴィアン、2人の高級娼婦の心情を重ね合わせるようなジュリア・ロバーツの表情が、とても印象的であった。
エドがバラの花束を持ってヴィヴィアンを迎えに行くラストでは、前述の第2幕の別離の絶唱がドラマティックに奏でられる。ハッピーエンドになぜ別離の音楽が? まあそれはご愛嬌として、筆者にとって『プリティ・ウーマン』は、宣伝文句だった現代版『マイ・フェア・レディ』というより、ヴィオレッタが幸福をつかんだ現代版『椿姫』という感覚の方が近い映画であった。
ロンドンの観客が熱狂し、新たな伝説が生まれた「椿姫」!
“プリティ”つながりでいえば、英国ロイヤル・オペラハウス シネシーズン2021-22『椿姫』でヒロインのヴィオレッタを演じるのが、1985年南アフリカ生まれのソプラノ、プリティ・イェンデだ。
筆者は以前クラシック音楽専門チャンネル「クラシカ・ジャパン」で、若手アーティストを紹介する「明日のスターたち」というシリーズを編成したのだが、2012年収録の同番組で、彼女がベッリーニの歌劇『清教徒』の狂乱の場を圧倒的な声で歌っていたのを思い出す。あれから10年、30代半ばのイェンデは、ヴィオレッタを歌うのに欠かせないコロラトゥーラ(コロコロ転がすように歌う軽めの声)と強くドラマティックな声の両方を兼ね備えたソプラノに変貌した。この映像で、その成長ぶりを実感できるのが嬉しい。
英国ロイヤル・オペラハウス(ROH)公演は、国際色ゆたかなアーティストたちの饗宴も楽しさのひとつ。アルフレードを歌うスティーブン・コステロは、1981年生まれのアメリカ人テノール。海外ドラマ『ベター・コール・サウル』『ブレイキング・バッド』や映画『Mr.ノーバディ』の主演俳優ボブ・オデンカークに少し似ているところも、ドラマ好きには注目してほしいポイントだ。アルフレードの父親ジェルモン役は、当初予定のディミトリ・プラタニアスが病気のため降板し、今や50代のベテランとなったブルガリア人バリトン、ウラディーミル・ストヤノフが代役で出演した。
指揮は、本公演でROHデビューを果たした気鋭のイタリア人指揮者ジャコモ・サグリパンティ。日本デビューとなった2020年2月の東京二期会『椿姫』公演も記憶に新しい。この『椿姫』では、マエストロ独特のテンポ感が見どころで、歌とオーケストラの多少のズレも何のその、ライブならではの緊張感と音楽の推進力が、映画館で観るオペラの面白さを倍増させている。なお、第3幕が始まる前に挿入されるイェンデとサグリパンティのピアノ稽古は必見!お見逃しなく。
プリティ・イェンデの「椿姫」に全員号泣必至!
1994年12月初演のリチャード・エア演出が、30年近く経った今なお上演されていること自体、このプロダクションのロンドンでの根強い人気を物語っていると言えよう。サー・ゲオルグ・ショルティが指揮し、ルーマニア人ソプラノのアンジェラ・ゲオルギューが一夜でスター誕生となった初演の模様は、テレビやDVDで観たことのある方も多いだろう。
筆者は、2008年1月に現地ロンドンで、エア演出の『椿姫』を観劇した。キャストは、当時人気絶頂のアンナ・ネトレプコとディミトリ・ホロストフスキー、人気が出始めたばかりのヨナス・カウフマン、指揮はマウリツィオ・ベニーニという布陣だった。初日の公演チケットを、当日の早朝に並んでゲット。筆者も家族も、そして周りに座っていた朝一緒に並んだオヤジたちも全員号泣した、あの興奮は忘れられない。
身を堕としたヒロインが真実の愛に目覚め、一時の幸福を味わうが、恋人の父親に仲を引き裂かれ、最後に孤独に死んでいく。再演の度に歌手が変わっても、一人の女性の命が燃え尽きようとする一瞬の輝きに、誰もが胸が熱くなるストーリーとヴェルディの音楽。『椿姫』は、『プリティ・ウーマン』のヴィヴィアンのようなオペラを観たことがない人でも、必ず泣けるオペラなのだ。
映画館の中では、泣いたって大丈夫。ただし、必ずハンカチは持っていくように。
2022.05.19
ロイヤル・オペラ『リゴレット』タイムテーブルのご案内
ヴェルディの悲劇的オペラの傑作が特別記念上演!
最強の制作陣×ドリーム・キャストで贈る、新たなる「リゴレット」誕生!!
ヴィクトル・ユゴーの戯曲「王は愉しむ」をもとにしたヴェルディの悲劇的オペラの傑作『リゴレット』。シーズンのオープニング・アクトで上演されたのは、オペラ芸術監督のオリバー・ミアーズが監督就任後初めて演出を手掛けるニュー・プロダクション。指揮は、英国ロイヤルとの長年のコラボにおいても「リゴレット」を指揮するのは初めてという音楽監督のアントニオ・パッパーノ。ミアーズとパッパーノによる最強の組み合わせと言える今回の舞台は、思い切りのよいドラマチックな表現で、1851年の初演から171年を迎えた特別記念上演にふさわしく、ロンドンの聴衆を熱狂させました。
最大の見どころともいえるのが、現在望みうる最高の歌い手たちによる心揺さぶる名演。世間知らずの恋する乙女・ジルダを演じるのは、ソプラノのトップ歌手リセット・オロペサ。ジルダの心情を見事に表現し尽くし、辛口批評で知られるガーディアン紙が「オロペサの比類なきジルダ」と絶賛。さらに、テノールのリパリット・アヴェティシャンは自分勝手だが憎めないマントヴァ公を輝かしい声で、ブリンドリー・シェラットはコワモテ殺し屋・スパラフチーレを迫力ある低音で、ラモーナ・ザハリアはスパラフチーレの妹マッダレーナを濃厚な美声で好演しました。そして極めつきに、スペインの名歌手カルロス・アルバレスが、タイトル・ロールのリゴレットの苦悩を、声と演技の至芸で表し、聴衆に深い感動を与えます。ドリーム・キャストによる本公演は、まさに「リゴレット」の決定版といえます。(2021年9月24日上演作品)
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【作曲】:ジュゼッペ・ヴェルディ 【台本】:フランチェスコ・マリア・ピアーヴェ(原作:ヴィクトル・ユゴー「王は愉しむ」)
【指揮】:アントニオ・パッパーノ 【演出】:オリバー・ミアーズ 【美術】:サイモン・リマ・ホールズワース 【衣裳】:イローナ・カラス
【出演】マントヴァ公爵:リパリット・アヴェティシャン リゴレット:カルロス・アルバレス ジルダ:リセット・オロペサ スパラフチーレ:ブリンドリー・シェラット マッダレーナ:ラモーナ・ザハリア ジョヴァンナ:クセニア・ニコライエワ モンテローネ:エリック・グリーン
2022.05.17
オペラ『リゴレット』を初心者でもわかりやすく解説します
石川了(音楽・舞踊ナビゲーター)
新演出版で今が旬の歌手たちの競演!
パルマでの出来事
今でも忘れられない、2012年パルマのヴェルディ・フェスティバル「リゴレット」を取材したときの出来事を紹介したい。
休憩時にトイレに行くと、一人のおじいさんが口笛を吹きながら用を足していた。音楽は、「リゴレット」第三幕の四重唱。すると、トイレに居た男性たちも次々とその旋律を口笛で吹き始め、テアトロ・レージョ(パルマ王立歌劇場)の男子トイレが口笛による「リゴレット」の四重唱で満たされた。
そう、「リゴレット」の魅力は、この誰もが口ずさめる(口笛でも吹ける)音楽なのだ。
「リゴレット」は、19世紀のイタリアの作曲家ジュゼッペ・ヴェルディの中期三大傑作のひとつ(他二作は「椿姫」「イル・トロヴァトーレ」)。マントヴァ公爵に仕える道化師リゴレットは、一人娘のジルダを公爵にもてあそばれ、殺し屋スパラフチーレに彼の殺害を依頼するが、公爵を愛するジルダは身代わりとなって殺されるというストーリーだ。
ヴェルディは、若くして2人の子供と妻マルゲリータを亡くし、二番目の妻ジュゼッピーナ・ストレッポーニは私生児の母であったことから世間の冷たい視線を浴びた。そのような悲しみや苦しみ、そしてヴェルディの父親としての亡き子供たちへの想いが、身体に障害を持つ道化という社会的弱者を主人公に、父娘の愛情を描く心揺さぶられる音楽ドラマを生んだのだと思う。
新プロダクションでのパフォーマンス
本作は英国ロイヤル・オペラ・ハウスのシーズンの開幕を飾った公演で、演出家のオリバー・ミアーズにとっては、ROHオペラ・ディレクターとして2017年3月に就任以来、初演出となる新プロダクションだ。
この演出では、富と特権を享受する好色なマントヴァ公爵が、美術品の目利きでもあるという設定がユニーク。第一幕では、会員制クラブ風の部屋にティツィアーノの傑作『ウルビーノのヴィーナス』が大きく飾られ、公爵は「女性」と「美術品」の収集家で、両方ともモノ扱いしているという性格が暗示される。
格差、ジェンダー、社会の分断といった問題も反映され、古典(クラシック)は決して古臭いものではなく、現代にも通じるテーマであることを感じる舞台だ。
タイトルロールを歌うスペインのバリトン、カルロス・アルバレスは、4年前の筆者のインタビューで、リゴレット役には特別な想いがあると語っている。
「1993年ミラノ・スカラ座の新制作「リゴレット」で、リッカルド・ムーティよりタイトルロールのオファーをいただきました。彼は声楽的に私の声がリゴレットに合っていると確信していましたが…私は思ったのです。リゴレットをやるには、もう少し歳を取らなくちゃいけない。もう少し人生の苦悩も知らなくてはならないし、ましてや父親であるという経験も必要なのではと。まだ26歳でしたからね。だからマエストロに手紙を書いて丁重にお断りしました。でも50歳を越えて、今がリゴレットを演じるときです。」
大学の医学部に行きながら声楽家になったアルバレス。さまざまな経験を重ねた今、彼のリゴレットは、まさに旬を迎えている。
この「リゴレット」では、ジルダを歌うソプラノのリセット・オロペサがキューバ系アメリカ人(2022年9月に来日予定)、マントヴァ公爵のテノール、リパリット・アヴェテイスヤンがアルメニア人、スパラフチーレ役のバス、ブリンドリー・シェラットが英国人、マッダレーナを歌うメゾ・ソプラノのラモーナ・ザハリアがルーマニア人と、国際都市ロンドンの歌劇場らしく、出演者がインターナショナル。ROHシネマシーズンは、今欧米で活躍する国際色ゆたかな歌手たちのパフォーマンスを観ることができるのも魅力だ。
パッパーノ!
最後に指揮者、ROH音楽監督アントニオ・パッパーノを紹介したい。
彼は1959年生まれ。両親はイタリア人で、ロンドン生まれのアメリカ育ちというコスモポリタンだ。21歳の時、ニューヨーク・シティ・オペラでコレペティトゥア(ピアノを弾きながら歌手に音楽稽古をつける人)としてキャリアをスタート。その後、バルセロナやリセウ歌劇場やフランクフルト歌劇場、シカゴ・リリック・オペラ、さらにバイロイト音楽祭ではダニエル・バレンボイムのアシスタントを務めるなど、歌劇場に育てられた生粋の劇場人である。1992年よりブリュッセルのモネ劇場音楽監督を10年間務め、現在は、サンタ・チェチーリア国立音楽院管弦楽団音楽監督(2005~ )も兼任している。
劇場とシンフォニーオーケストラの両方を熟知するパッパーノだけに、この「リゴレット」でも、歌手の歌いやすいテンポや音量のバランス、ドラマを牽引するオーケストラの緩急自在なコントロールなど、劇場指揮者としての手腕をスクリーンで堪能したい。特に、パッパーノのリハーサルシーンは必見。マエストロ、メチャ歌がうまい!
海外情報によると、1億円以上とも報じられるパッパーノの年収に批判もあるらしいが、この映像でもおわかりのように、彼が登場するだけでBravo!が出るほど、ロンドンっ子たちからの絶大な信頼を勝ち得ているようだ。
そのパッパーノも2024年7月をもってROH音楽監督を退任し、同年9月よりロンドン交響楽団音楽監督に就任予定。さあ、次のROH音楽監督は誰に?
2022.04.07
ロイヤル・バレエ『ロミオとジュリエット』タイムテーブルのご案内
英国ドラマティック・バレエの最高峰!!
伝説の初演から530回以上も上演、今なお新鮮さを失わない、ケネス・マクミラン版!
1965年に初演されて以来、世界中で現代の偉大な古典作品と評価されているケネス・マクミラン振付の『ロミオとジュリエット』。ルドルフ・ヌレエフとマーゴ・フォンテーンが主演した伝説の初演からこれまで、530回以上も上演され、ロイヤル・バレエの演技性と、あまりにも美しく儚いロマンティックなバルコニーシーンの二人に心奪われる、まさに英国ドラマティックバレエの最高峰といえる作品です。 主演は、ジュリエット役に、昨年プリンシパルに昇格し、ニューヒロインとして今後の活躍が期待される英国出身のアナ=ローズ・オサリバン、ロミオ役には、しなやかで高い身体能力を誇る若手プリンシパルのマルセリーノ・サンベ。ロイヤル・バレエ・スクールで同級生、私生活でも仲が良いという2人が、運命に翻弄された恋人たちをフレッシュに、ロマンティックに好演。ロミオの親友・マキューシオには端正な実力派のジェームズ・ヘイ、ジュリエットの従兄弟でロミオの恋敵となるティボルトには、マシュー・ボーンの『白鳥の湖』でザ・スワン/ザ・ストレンジャーを演じたこともあるトーマス・ホワイトヘッドと魅力的なキャスティング。また佐々木万璃子がジュリエットの友人役で華を添えています。 シネマシーズンのお楽しみ、幕間の映像では名ジュリエットとして知られ、現在は指導者として活躍するリャーン・ベンジャミンと、カフカ原作『変身』等強烈な個性で知られ、本年ローレンス・オリヴィエ賞にノミネートされているエドワード・ワトソンが作品の魅力を語っているほか、主演陣のインタビュー、迫力あるソード・ファイトなどのリハーサル映像と見どころが盛りだくさんとなっています!
(2022年2月3日上演作品)
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【振付】ケネス・マクミラン 音楽】セルゲイ・プロコフィエフ 指揮】ジョナサン・ロー
【出演】
ジュリエット:アナ=ローズ・オサリバン ロミオ:マルセリーノ・サンベ
マキューシオ:ジェームズ・ヘイ ティボルト:トーマス・ホワイトヘッド ベンヴォーリオ:レオ・ディクソン パリス:ニコル・エドモンズ
キャピュレット夫人:クリステン・マクナリー キャピュレット卿:ギャリー・エイヴィス エスカラス:ルーカス・B・ブレンスロッド
ロザライン:クレア・カルヴァート 乳母:ロマニー・パイダク ローレンス神父╱モンタギュー卿:フィリップ・モーズリー
2022.04.06
バレエ『ロミオとジュリエット』を初心者でもわかりやすく解説します
森 菜穂美 (舞踊評論家)
2022年は「ロミオとジュリエット」の当たり年!
今年2022年は日本のバレエ界では『ロミオとジュリエット』の当たり年。国内バレエ団でもK-Ballet Company、東京バレエ団、松山バレエ団、NBAバレエ団と上演が続きます。また映画では『ロミオとジュリエット』を下敷きにしたミュージカル映画の金字塔『ウェスト・サイド・ストーリー』が巨匠スピルバーグの手でリメイクされ、アカデミー賞にもノミネートされ、助演女優賞を受賞しました。他にも昨年11月にリリースされた、アイドルグループなにわ男子のデビュー曲「初心LOVE(うぶらぶ)」では、「二人はめげないロミジュリ」という一節が登場するなど、耳にも形を変えて飛び込んできています。
時代を超えて
400年以上前に生まれた『ロミオとジュリエット』がなぜ、今も多くの人々に支持されるのでしょうか?そして1965年初演の、ケネス・マクミランの振付による『ロミオとジュリエット』はなぜ数ある『ロミオとジュリエット』の中でも決定版と言われているのでしょうか?そこには、今だからこそ心に響く普遍的なメッセージがあるからです。
二つの名家キャピュレット家とモンタギュー家の争いは、2022年の世界に暗い影を落としたロシアとウクライナの紛争に見られるように、今も絶えない国際紛争や、Black Lives Matterに象徴されるような人種差別や貧富の差、格差による分断を象徴するように感じられます。スピルバーグ版『ウェスト・サイド・ストーリー』が生まれたのは、この分断がより顕著になってきた今だからこそ伝えたいメッセージがあるという背景からでした。憎しみの連鎖がより大きな悲劇を生み、無垢だったはずの若者が悲劇を迎えてしまうことで争いの虚しさを伝えています。
ジュリエットは世界で最初のフェミニスト
もう一つ忘れてはならないのは、ジュリエットの描き方です。マクミラン版の『ロミオとジュリエット』を踊った歴代のダンサーの中でも、特にこの役を当たり役としたロイヤル・バレエ団、元プリンシパルのアレッサンドラ・フェリ、そして現役でジュリエットを踊っているロイヤル・バレエ団プリンシパルのサラ・ラムは共に、「ジュリエットは世界で最初のフェミニスト」だと語っています。ジュリエットは14歳と少女の設定ですが、その彼女が、たった一人で家の権威に立ち向かい、両親の意思に反して愛を貫く決意をして勇気ある選択をします。バレエの中では、わずか数日間の間に大人への階段を駆け上り、成長していくジュリエットの姿が印象的ですが、このような強いヒロイン像が400年以上も前に生まれたことに、シェイクスピアの先進性を感じます。
スピルバーグ版の『ウェスト・サイド・ストーリー』のヒロイン、マリアも自分の方から積極的にロミオにキスをし、そして働いてお金を稼ぎ、大学に行って学ぶという夢を語るなど、自立した女性として描かれています。
踊らない振付
もちろん、プロコフィエフ作曲による音楽の魅力もバレエ『ロミオとジュリエット』の大きな魅力の一つです。甘美な「バルコニーのパ・ド・ドゥ」、重厚な「騎士たちの踊り」(CMでもおなじみ)、躍動感のある市場の踊り。時に雄大で時に繊細、ドラマティックで華麗な旋律が心を揺さぶります。登場人物のキャラクターを象徴させるライトモチーフの使い方も印象的です。
そしてマクミラン版『ロミオとジュリエット』の魅力は、何より3つのパ・ド・ドゥの振付の巧みさと音楽との一体化です。「バルコニーのパ・ド・ドゥ」での恋のときめきと高揚感、疾走感は比類のないものです。
さらにそれまでのバレエ作品では見られなかった、常識を覆すような振付も登場します。象徴的なのは、3幕で窮地に追い込まれたジュリエットが、バレエダンサーにも関わらずベッドの上にただ座り、身動きもせず、ただ前を見据える屈指の名場面。雄弁な音楽が流れていき、ジュリエットが愛を貫く決意をする心情が伝わってきます。
最終場面、墓所で仮死状態になったジュリエットとロミオのパ・ド・ドゥは、「死体は踊らないのでは?」と初演当初には賛否両論を巻き起こしましたが、作品の悲劇性を強調する場面として強烈な印象を残します。マクミランは、若い二人が両家の対立の結果、むごたらしく死ぬ様子をこの作品で描きたかったと語り、ダンサーには醜く見えることを恐れるなと伝えていました。
次世代を代表するフレッシュなダンサー
ドラマティック・バレエの最高峰である『ロミオとジュリエット』は演技力に優れた英国ロイヤル・バレエを代表する作品です。街の人々や貴族など一人一人の登場人物が、その人の人生を舞台上で生きています。
ジュリエット役のアナ=ローズ・オサリバンは27歳、昨年プリンシパルに昇格したばかりのフレッシュなダンサー。ロイヤル・バレエ・スクール育ちの英国人で、若き日のキャメロン・ディアスを思わせる煌めく青い瞳、愛らしい微笑みが印象的です。往年の名バレリーナ、レスリー・コリアに伝授された正確なテクニックと音楽性に加え、ナチュラルでデリケートなニュアンスを伝える演技力も素晴らしく、これからも楽しみなニューヒロインです。
ロミオ役のマルセリーノ・サンベはポルトガル出身、アフリカン・ダンスからバレエの世界に入りました。天性の身体能力から導き出される超絶技巧とリズム感もさることながら、明るくチャーミングなキャラクターも魅力的です。ロイヤル・バレエでは史上2番目の黒人男性プリンシパル・ダンサーです。
二人はロイヤル・バレエ・スクールの同級生として長くパートナーシップを築いてきており、『ロミオとジュリエット』ではその相性の良さが最大限に発揮されています。彼らの「バルコニーのパ・ド・ドゥ」の清新さには、思わず胸がキュンとします。原作ではロミオもジュリエットも10代という若さであるため、初々しくエネルギーにあふれたこの若手キャストによる舞台は特にリアリティが感じられます。
このシネマシーズンでは、生の舞台の興奮を楽しめますが、特にドラマ性が高い『ロミオとジュリエット』は、出演者の顔の表情のクローズアップも要所で登場し、生の舞台では得られない体験もできます。幕間のインタビューやリハーサル映像も楽しいですが、本作では2013年までプリンシパルとして活躍し、新国立劇場バレエ団にもこの役でゲスト出演するなど名ジュリエットの一人であるリャーン・ベンジャミンと、先日引退し指導者になったエドワード・ワトソン、二人の元プリンシパルによる生のトークも興味深くファンには見逃せません。
~ご参考まで~
https://www.nbs.or.jp/stages/2022/romeo/index.html
http://www.matsuyama-ballet.com/newprogram/romeo_juliet_all.html
2022.03.10
ロイヤル・オペラ『トスカ』タイムテーブルのご案内
逮捕された恋人の命を助ける条件として、警察長官スカルピアがトスカに求めたものは?
スリルとサスペンスに満ちた傑作オペラを重厚なセットで堪能!
プッチーニの傑作オペラ《トスカ》。激動の時代のローマを舞台に、悪の手によって引き裂かれる恋人たちの物語。アリア「歌に生き、愛に生き」に代表されるイタリア・オペラならではの美しいメロディが本作では目白押しです。この情熱とスリルに満ちたストーリーが、ジョナサン・ケントの写実的な演出に、英国ロイヤルならではの重厚なセットと衣裳の美しさも加わり、その世界観をスクリーンで十二分に堪能できます。演劇的にきめ細かいアプローチが深く味わえるのは、細部にわたり映し出される映像だからこそと言えます。
歌手には、一流アーティストたちが集結。トスカ役に、その美貌に加え、声と演技が高く評価され、イギリスの評論でも「神々しいディーバ」と絶賛されたエレナ・スティヒナ、そして、カヴァラドッシ役には、当初予定されていたブライアン・イメルが不調により降板し、若手のフレディ・デ・トンマーゾが出演、イタリア的な音色で聴衆を圧倒し、劇場では拍手とブラボーが飛び交いました。スカルピアのアレクセイ・マルコフは、説得力たっぷりに悪役を演じます。
本作では、近年イタリアを含むヨーロッパ各地で大躍進を遂げているウクライナ出身の女性指揮者オクサナ・リーニフがタクトを取り、エレガントでありながらダイナミックな世界を表現していることにもご注目ください。
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【作曲】ジャコモ・プッチーニ【原作】ヴィクトリアン・サルドゥ「ラ・トスカ」【指揮】オクサナ・リーニフ
【演出】ジョナサン・ケント【再演演出】エイミー・レーン【デザイン】ポール・ブラウン
【出演】 カヴァラドッシ:フレディ・デ・トンマーゾ、 トスカ:エレナ・スティヒナ、 スカルピア:アレクセイ・マルコフ
2022.03.09
オペラ『トスカ』を初心者でもわかりやすく解説します
石川了(音楽・舞踊ナビゲーター)
海外ドラマにも匹敵するストーリー~《トスカ》はドラマ好きにも面白い!
まるでジェットコースタードラマ!
『24 -TWENTY FOUR-』『ウォーキング・デッド』『愛の不時着』『イカゲーム』…。皆さんはどんな海外ドラマがお好きだろうか。今やアメリカ、韓国のみならず、中国や東南アジア、北欧、トルコなどのドラマも視聴可能になり、海外ドラマの人気はジャンルや老若男女を問わない。そんなドラマ好きが、もしクラシック音楽にちょっと興味があり、オペラも一度は観てみたいと思っているなら、この「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2021/22」の《トスカ》は、そのきっかけとしてオススメだ。
オペラ自体は2時間位と見やすく、ストーリーは恋愛から疑い、嫉妬、罠、拷問、殺人へと一気に展開する、まるでジェットコースタードラマ。《蝶々夫人》《ラ・ボエーム》《トゥーランドット》で知られるイタリアの作曲家ジャコモ・プッチーニの音楽はどこまでも美しく、1話40分を3話分(全3幕)イッキ見する感覚で楽しめる。
オペラの宝石
舞台は、ナポレオン軍がヨーロッパを席巻中の1800年6月。共和国が廃止され、ナポリ王国の警察長官スカルピアが恐怖政治を敷くローマ。共和派の画家カヴァラドッシは脱獄したアンジェロッティをかくまうが、カヴァラドッシの恋人トスカは彼の行動を疑う。スカルピアはトスカの嫉妬心を利用して罠にかけ、カヴァラドッシを逮捕し拷問にかける。トスカは、カヴァラドッシの命と引き替えに彼女の身体を要求してきたスカルピアを殺害。恋人たちはスカルピアの手から逃れたようにみえたのだが…。
カヴァラドッシがトスカへの愛を歌う「妙なる調和」、トスカに罠を仕掛けたスカルピアの「行け、トスカ~テ・デウム」、自らの過酷な運命に絶望するトスカの絶唱「歌に生き、愛に生き」、処刑を前にカヴァラドッシがトスカを想う「星は光りぬ」など、緊迫のドラマに散りばめられた名アリアの数々は、このオペラの宝石だ。
旬のアーティスト!
この「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2021/22《トスカ》」は、日本ではあまり知られていないヨーロッパで今旬のアーティストにも注目したい。日本の音楽ファンにとっては、噂で聞く彼らの活躍ぶりを自分の目と耳でチェックできる絶好の機会だ。
まずはトスカを演じる1986年ロシア生まれのソプラノ、エレナ・スティヒナ。2019年ザルツブルク音楽祭《メデイア》を皮切りに、マリインスキー歌劇場《炎の天使》(ヴァレリー・ゲルギエフ指揮)やミラノ・スカラ座《サロメ》(リッカルド・シャイー指揮)など、主要歌劇場で評判となっている若手ソプラノだ。カヴァラドッシを歌う1994年英国生まれのフレディ・デ・トンマーゾは、20代半ばにして名門レーベル、デッカ・クラシックスと契約したテノールの若き逸材。スカルピアを演じるラッセル・クロウ似のアレクセイ・マルコフは、マリインスキー歌劇場来日公演でもおなじみのロシアのイケメンバリトンだ。
指揮は、本公演でロイヤル・オペラ・ハウスデビューを飾った1978年ウクライナ出身の女性指揮者オクサナ・リーニフ。2021年にバイロイト音楽祭初の女性として《さまよえるオランダ人》を指揮。2022年1月からボローニャ歌劇場音楽監督(イタリアの歌劇場初の女性監督)に就任。破竹の勢いで、今もっとも目が離せないオペラ指揮者だ。
彼女は、バイエルン州立歌劇場の当時の音楽総監督キリル・ペトレンコ(現在はベルリン・フィル首席指揮者・芸術監督)のアシスタントを務め、劇場たたき上げのキャリアを積み上げてきた。この《トスカ》では、歌手とオーケストラをコントロールし、歌手の声を守りながらオーケストラも存分に歌わせる、師匠譲りの歌心と絶妙なバランス感覚が素晴らしい。第2幕と第3幕の休憩時に挿入される彼女のインタビューとリハーサル風景も必見だ。
ドラマファンにとってもクラシック音楽ファンにとっても、「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン」は、感染対策が万全な映画館における新しいエンターテイメントとして楽しめるはずだ。海外ドラマのワクワク・ハラハラをオペラでも共有できる《トスカ》を、オペラハウスの臨場感が味わえる大スクリーンと迫力のサウンドで、ぜひ一度体験してみてほしい。
2022.02.18
ロイヤル・バレエ『くるみ割り人形』タイムテーブルのご案内
世界中で上演される名作バレエの決定版、人気のピーター・ライト振付『くるみ割り人形』。
大きくなるクリスマス・ツリー、美しい雪の精たち、そしてお菓子の国で繰り広げられる華やかな宴。
2020年4月から新型コロナウイルスの影響によってロンドンのロイヤル・オペラ・ハウスは長い間閉鎖され、同年12月には、演出を一部変更して『くるみ割り人形』が上演されるも、わずか4公演で中止に。その後、徐々に復活し、昨年12月には、中止となった公演はあったものの、無事に上演され、パンデミック下で沈んでいた人々に舞台の魔法で喜びと希望を与えてくれました。
当初、金平糖の精役は高田茜が出演予定でしたが、怪我のために降板、代わりに若手実力派ヤスミン・ナグディが優雅で洗練された踊りで魅了します。王子役には、驚くべき高い跳躍と輝かしいテクニックの持ち主セザール・コラレス。
くるみ割り人形とハンス・ピーター役には、日本出身で上昇気流に乗るアクリ瑠嘉。クララ役は同じく若手の可憐なイザベル・ガスパリーニ。花のワルツをリードするローズ・フェアリー役は日本出身の崔由姫が華やかに舞い、他にも前田紗江、佐々木万璃子、佐々木須弥奈、五十嵐大地など期待の日本人ダンサーも随所で登場しています。
映画館上映ならではの幕間映像では、高田茜やアクリ瑠嘉らのリハーサルシーンやインタビューもお楽しみ頂けます。
ロイヤル・バレエならではの豪華さとドラマティックさ満載の夢の世界へ、ようこそ!(2021年12月9日上演作品)
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【振付】ピーター・ライト【音楽】ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー【指揮】クン・ケセルス
【出演】ドロッセルマイヤー:クリストファー・サウンダーズ
クララ:イザベラ・ガスパリーニ、 ハンス・ピーター/くるみ割り人形:アクリ瑠嘉
金平糖の精:ヤスミン・ナグディ、 王子:セザール・コラレス、 ローズ・フェアリー(薔薇の精):崔由姫 ほか
2021.12.24
『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2021/22』日本版予告映像とポスタービジュアル解禁!全6演目の公開日決定! プリンシパル高田茜さん、金子扶生さんのコメントも到着!
世界最高の名門歌劇場「英国ロイヤル・オペラ・ハウス」で上演されたバレエとオペラの舞台、そして、特別映像をスクリーンで体験できる人気シリーズ『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン』の最新作を、『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2021/22』と題し、2022年2月18日(金)~7月21日(木)までの期間中、全6演目を各1週間限定にて全国公開することが決定いたしました。昨シーズンは新型コロナウイルスの影響によってロイヤル・オペラ・ハウスは長い間閉鎖されていましたが、来年は遂に、バレエとオペラを愛し応援してくださる皆様の元に帰って来ます。
『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン』は、ロンドンのコヴェント・ガーデンにある歌劇場“ロイヤル・オペラ・ハウス” (通称ROH)で上演された世界最高峰のバレエとオペラを映画館で鑑賞できる人気シリーズ。世界最高クラスのパフォーマンスを大スクリーンで体験できることに加え、リハーサルの様子や舞台裏でのインタビューなどの特別映像も堪能できるということで、シネマシーズンを重ねるごとにファンが増えています。
この度、到着した日本版予告編には、冒頭、プロコフィエフ作曲『ロミオとジュリエット』の荘厳なオーケストラ音楽とともにシネマシーズンを彩る人気演目のワンシーンやリハーサルの様子が次々と登場、シネマシーズンならではの場面がおさめられています。最後は、大きな拍手とチャイコフスキー作曲『くるみ割り人形』の音楽にのせてラインナップが紹介され、臨場感あふれる鑑賞体験への期待が高まる予告編となっています。併せて到着した日本版ポスターには、ロイヤル・オペラ『椿姫』、ロイヤル・バレエ『白鳥の湖』のカットと共に「再開の時、そして再会の時。ロンドンで再び、白鳥たちが舞い、ディーバたちが歌う。」というコピーと、世界屈指の名門による選りすぐりの名プログラム全6演目がずらりと並び、新型コロナウイルスの影響で延期していた英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズンが遂に“再開”、あの感動と興奮に“再会”となります。
【全6演目】
◆バレエ演目:『くるみ割り人形』、『ロミオとジュリエット』、『白鳥の湖』
◆オペラ演目:『トスカ』、『リゴレット』、『椿姫』
また、今年5月、ロイヤル・バレエ団に在籍している金子扶生さんがプリンシパルに、佐々木万璃子さんがファーストアーティストに昇格したことは日本でも大きなニュースとなって報じられました。既に、高田茜さん、平野亮一さんはプリンシパルとして活躍中ですが、他にも、
アクリ瑠嘉さん、崔由姫さんなど、日本出身のダンサーが現役で活躍しており、その姿を日本で観られることでも大きな注目を集めています。
そして、この度、プリンシパルの高田茜さんと金子扶生さんよりシネマシーズン開幕によせてコメントが到着しました!!
高田 茜さん(プリンシパル)
やっとROHシネマシーズンで、皆様に舞台をお届けできる日が来ました!夢の世界の「くるみ割り人形」、心に深く残る恋物語「ロミオとジュリエット」、一度は是非観てほしいロイヤル・バレエ団の「白鳥の湖」です。ロンドンの舞台の空気を是非、お楽しみください!
金子扶生さん(プリンシパル)
ロイヤル・バレエ団のメンバーは、いつも日本のファンの皆様からの心あたたまる励ましに感謝しています。シネマシーズン2021/22は選りすぐりの演目をご覧いただきます。スクリーンを通して素晴らしい音楽に包まれて私たちのベストパフォーマンスを味わっていただけると幸いです。
2022年2月18日(金)より、いよいよ開幕する『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2021/22』が贈る感動と至福の時間を、是非映画館でご体験ください!
【2021/22 全6演目と公開日】
●ロイヤル・バレエ『くるみ割り人形』:2022年2月18日(金)~2月24日(木)
●ロイヤル・オペラ『トスカ』:2022年3月11日(金)~3月17日(木)
●ロイヤル・バレエ『ロミオとジュリエット』:2022年4月8日(金)~4月14日(木)
●ロイヤル・オペラ『リゴレット』:2022年5月20日(金)~5月26日(木)
●ロイヤル・オペラ『椿姫』:2022年6月10日(金)~6月16日(木)
●ロイヤル・バレエ『白鳥の湖』:2022年7月15日(金)~7月21日(木)
<上映劇場>
*TOHOシネマズ 日本橋(東京)
*イオンシネマ シアタス調布(東京)
*TOHOシネマズ ららぽーと横浜(神奈川)
*TOHOシネマズ 流山おおたかの森(千葉)
*ミッドランドスクエアシネマ(愛知)
*イオンシネマ 京都桂川(京都)
*大阪ステーションシティシネマ(大阪)
*TOHOシネマズ 西宮OS(兵庫)
*サツゲキ(北海道)
*フォーラム仙台(宮城)
*中州大洋映画劇場(福岡)
2021.05.19
英国ロイヤル・バレエ <祝>金子扶生さん プリンシパル昇進!そして佐々木万璃子さんはファースト・アーティストに昇進!
英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズンを楽しみにして下さっている皆様
既にご存知の方もいらっしゃいますが、嬉しいニュースがロンドンから届きました。
先シーズン「眠れる森の美女」で主役のオーロラ姫を演じた金子扶生(ふみ)さんが最高位のプリンシパルに昇進しました!!!怪我を克服しながら実績を積んできた金子さん、シネマシーズンでも「眠れる森の美女」以前から重要な役をたくさん任されて期待に応えてきました。これからも益々のご活躍を楽しみにしたいと思います。
英国ロイヤル・バレエでは、既に高田 茜さん、平野亮一さんもプリンシパルとして活躍中ですが、今回、同バレエ団に在籍している佐々木万璃子さんもファースト・アーティストに昇進しました。金子さん、佐々木さん、お二人とも おめでとうございます!
それから今回の昇進のニュースには、シネマシーズンでもおなじみのセザール・コラレスさん、9月からはマヤラ・マグリさん、アナ = ローズ・オサリヴァンさんもプリンシパルに昇進するほか、ファースト・ソリストにミーガン・グレース・ヒンキスさん、カルヴィン・リチャードソンさん、ニコル・エドモンズさんが昇進しています。
またコロナ禍で長らく閉まっていたロイヤル・オペラ・ハウスは17日(現地時間)からロイヤル・オペラの「皇帝ティートの慈悲」で ようやく再開し、ロイヤル・バレエは18日(現地時間)「21世紀の振付家たち」で再開されました。金子扶生さんがプリンシパルとして初めて舞台に立つのは、20日(現地時間)の「21世紀の振付家たち」の中の「ウィズイン・ザ・ゴールデン・アワー」になります。
(なお、金子さんはロイヤル・オペラの「皇帝ティートの慈悲」にも出演中です)
英国ロイヤル・バレエでは、今回昇進した金子扶生さん、佐々木万璃子さんのほか、プリンシパルの高田茜さん、平野亮一さん、ファースト・ソリストのアクリ瑠嘉さん、崔由姫さん、ファースト・アーティストの桂千理さん、アーティストの中尾太亮さん、前田紗江さん、佐々木須弥奈さん、研修生の五十嵐大地さんと、多くの日本出身のダンサーが活躍中です。
今後の皆さんのご活躍を楽しみに応援していきたいと思います。
2021年5月19日
東宝東和株式会社
2020.12.24
英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズンのファンの皆様へ
師走の候、皆様におかれましては、ご清祥のこととお慶び申し上げます。
平素より英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズンへのご愛顧を頂戴しまして厚く御礼申し上げます。今年度のシネマシーズン2019/20につきましては、新型コロナウイルス感染症の影響により、予定しておりました演目の上映中止が相次ぎ、ファンの皆様に作品をお届けする事が叶わず、残念なシーズンでありました事を大変心苦しく思っております。
またご周知の通り英国ロンドンでは、更なる感染拡大によりロックダウンに至っているとのニュースが入っております。例年通りであれば、既に来シーズンの日程、演目などのアナウンスは終わっている所でありますが、いまだ本国より現況、情報が入ってきておりません。本国から正式なアナウンスがあり、公開への準備が整いましたところで改めてご案内申し上げ、更なるご厚情を賜りたいと考えております。
例年とは異なるクリスマス、年末年始となりますが、本国のロイヤル・オペラの関係者、オーケストラ、合唱の団員の方々、ロイヤル・バレエ団のダンサー、及びスタッフの皆様方の健康と、一日も早い劇場の復活を祈ると共に、日本でのシネマシーズンを楽しみにして下さっています皆様方の健康をお祈り申し上げます。
2020年12月24日
東宝東和株式会社
2020.09.03
バレエ『眠れる森の美女』 金子扶生さんへの電話インタビューが届きました
「ファンの皆さんに、そして同僚や教師など皆さんに応援していただけることが私のパワーになります」
9月4日(金)より再公開される英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン、ロイヤル・バレエ『眠れる森の美女』。降板したローレン・カスバートソンに代わり、映画館中継の当日に急きょ主役のオーロラ役を務めた金子扶生(ふみ)。突然のキャスト変更にも関わらず落ち着いた演技で見事に代役を務め、ひときわ華やかな存在感、エレガントで美しく正確な踊りで観客を魅了してニューヒロインの誕生を印象づけた。ロンドンでステイホーム生活を送っている最中の彼女に、この公演についての電話インタビューが届きました。
リラの精役を踊る予定が、当日の午後に急きょ主役を踊ることに。
Q: 今回、映画館中継の当日に急きょオーロラ役に抜擢されましたが、当初はリラの精を踊る予定だったところ、当日の午後に変更を伝えられた際の気持ちはいかがでしたか?
金子扶生(以下 金子):「こんな急な代役での主演は初めての経験でした。ここまでのプレッシャーを感じたのも初めてでした。火曜日の公演だったのですが、その前の土曜日にローレン・カスバートソンさんが一度『眠れる森の美女』のオーロラ役を踊っていて、その時も私はリラの精を踊っていました。1幕が終わってからローレンさんがあまり調子良くないと言っていて、それでも2幕を踊っていました。この『眠れる森の美女』では2幕と3幕の間の休憩がないのですが、もう彼女が踊れないということになりました。私はまだリラの精の衣装を着ていたのですが、ケヴィン・オヘア監督がオーロラを踊ってくださいと言って、その日は3幕だけオーロラ役を踊りました。その時もびっくりだったのですが、月曜日にはローレンさんは大丈夫ということで火曜日は踊る予定と監督からも聞いていたので、私はリラの精役に集中していました」
「映画館中継当日の午後2時くらいに、この日もローレンさんが踊れないとなったので、急遽パートナーのフェデリコ・ボネッリさんと振りを確認することになり、振りを合わせてそのまま舞台に出ることになりました。普段は1か月以上かけて練習して役の準備をするのですが、その時はもう1か月以上オーロラ役を踊っていない状態だったので、不安で泣いてしまったりもしたのです。映画館中継もあったので、怖かったのです。でも出るからには気持ちを切り替えて思い切って舞台に立ちました。」
Q:王子役のフェデリコ・ボネッリさんとの共演はいかがでしたか?
金子:「フェデリコ・ボネッリさんとは、一度クリストファー・ウィールドン振付の『冬物語』で主役を一緒に踊らせていただいたきりです。でも彼は本当に素晴らしいパートナーなので、安心して踊ることができました」
カンパニーみんなの応援で力をもらい、大役を踊りきる。
Q:今回の「眠れる森の美女」の映像を拝見すると、周りの共演者の皆さん、そして司会のダーシー・バッセルさんが扶生さんに対して見守る気持ちを込めていて、とても応援されているのを感じました。舞台に立っていらした扶生さんも、同僚の皆さんからのサポートは感じられましたか?
金子:「カンパニーのすべて、みんながとても応援してくれました。いつもそうなのですが、皆さんいい人ばかりで、本当にそこに救われました。この舞台の前も皆さんはとても応援してくださって、急なことだったのに手紙やプレゼントも贈ってくれたり楽屋で応援してくれたり。これがないと踊り切れなかったと思います。」
「(オーロラ役としても名高い)ダーシー・バッセルさんは面白い方なのですが、とても私を応援してくださっています。私が11月にオーロラ役のデビューをしたときにずっとコーチングをしてくださいました。役デビューが終わって一度バイバイ、という感じだったのですが、当日はいきなり私がオーロラ役になって驚かれていました。が、この当日も応援してくださいました。経験を積んでこられたバレリーナの方たちがこうしてコーチングしてくださるのはとても貴重だと思います。」
「私の16歳のバースデー・パーティにようこそ!」
Q:『眠れる森の美女』のオーロラ姫を演じて、ご自身で最も印象に残っているシーンなどはありますか?
金子:「『眠れる森の美女』の中では、やはりローズ・アダージオが一番印象的なシーンですね。登場するところからローズ・アダージオまでが一番大事というか、緊張します。いきなり舞台に出てきて、とても緊張するバランスがあります。これを最初にしなければなりません。ここを踊るのを楽しめたら、嬉しいです。ローズ・アダージオは音楽が素晴らしくて、音楽を聴くだけで体が震えて、音楽に助けられました。主役を演じる時、ずっと舞台に立っていたらだんだん体も慣れてくるのですが、オーロラ役は最初が見せ場なので、難しいですね。1幕は若々しい16歳の姫です。友達と言っていたのが、「私の16歳のバースデー・パーティにようこそ❤」、それくらいの楽しい気持ちで踊ります。2幕はもっと繊細な感じで。この幕での衣装が大好きなのです。3幕は結婚式でクラシックな踊りをします。体力的にも大変なバレエですが、特に1幕が一番体力的にきつい作品です。今回のこの中継の時には頭が真っ白になりました。だからお客様に応援していただくのが力になります。」
※なお、この1幕のローズ・アダージオをリハーサルするシーンは、この映画館上映での幕間映像で上映される。ダーシー・バッセルとケヴィン・オヘアが金子さんを指導する様子を観ることができる。
Q.ロイヤル・バレエでは3月半ばに急に公演がキャンセルされて、ダンサーの皆さんは自粛期間に入りました。その間はどのように過ごされていましたか?
金子:「ロイヤル・バレエの舞台が3月にキャンセルされてしまったのですが、2週間後に『白鳥の湖』のオデット、オディール役のデビューの予定でした。ずっとこの役を練習し続けていたのですが、急に劇場が止まってしまったのでかなりショックで落ち込んでしまいました。でもここでも立ち直って、狭い家の中でできる限りのことをしていました。ピラティスといった家でできることを見つけ、自分の体に向き合うようになりました。今までは踊って疲れてまた次の日になるという繰り返しの毎日だったので、この自粛期間で自分の体に向き合う時間ができましたね。ローリング・ストーンズの曲を使った「ゴースト・ライト」やアシュトン財団の映像など、いくつかの映像プロジェクトにも参加しました。」
Q: 6月27日には、有料配信されたロイヤル・オペラハウスの無観客公演に出演されて、リース・クラークさんと踊られました。
金子:「この公演ではマクミラン振付の『コンチェルト』に出演しましたが、これも急に出演してほしいと電話がかかってきたのです。1週間ほど練習しました。3か月間は家でだけで踊っていたので、かなりチャレンジングでしたが、楽しく踊ることができました。舞台に戻ってこられるだけで嬉しかったです。ケネス・マクミランの『コンチェルト』は名作で素晴らしい作品なので、もう少し時間をかけて練習して、指導もしっかり受けてから出演したかったのですが、1週間でできることをやりました。『コンチェルト』は、ジャンプや回転がたくさん入ったとてもハードな第3楽章は踊ったことがあったのですが、ガラっと違う美しい第2楽章は今回が踊るのがほとんど初めてでした。6年位前に日本で平野亮一さんと踊ったので久しぶりということになります。」
「少しでも劇場でバレエを観ている気持ちになっていただけたら」
Q: 本作で劇場へ久々に足を運ぶ方も多いと思いますが、そんな日本のファンの方へ、金子さんからのメッセージをお願いいたします。
金子:「コロナ禍など、このような暗いニュースがある中、そして劇場にも足を運べなくなっている中、少しでも映画館で劇場にいるような気持になっていただけたら嬉しいです。こうして応援していただけることでパワーをもらえます。日本の皆さんにはいつも応援していただきありがとうございます。」
最近では“クマ”という名前の子犬も飼い始めたという金子さん、おっとりとした上品な口調の中に、愛らしさと意志の強さが伝わってくる。今後ますますの活躍が期待される。
英国ロイヤル・バレエの『眠れる森の美女』は、第二次世界大戦後の1946年に、ロイヤル・オペラハウスの再オープニングを飾った作品。今回の上映の幕間の映像では、その当時、戦後の物資がない中で衣装や舞台装置を苦労して揃えた逸話なども披露される。戦争で傷ついた人々の心を美しいバレエが癒し、英国の復興を後押しした。コロナ禍で傷ついたバレエファンの心も、この素晴らしい『眠れる森の美女』で輝いた新しいヒロイン、金子扶生で癒されることだろう。事態が落ち着いて、バレエが観られる平和な毎日となることが待ち遠しい。
2020.08.19
ロイヤル・オペラ『フィデリオ』<タイムテーブルのご案内>
2020年はベートーヴェン生誕250周年にあたるアニバーサリー・イヤー!ベートーヴェンが手がけ完成させた唯一のオペラ作品がシネマシーズンに登場! 100万人に1人の声の持ち主と言われるノルウェー人ソプラノ、リーゼ・ダヴィドセンが、男装で<フィデリオ>に臨み熱唱!
18世紀後半、政治犯として投獄され監獄に囚われた夫、フロレスタンを救い出す為に、レオノーレは男装し<フィデリオ>と名乗り、監獄の仕事に就く。救出の機会を伺うが、政敵ピツァロが夫を亡き者にしようとやってきて。。。
第1幕は当時の時代考証に合わせた重厚な舞台装置で展開されるが、第2幕は超現実的な設定で舞台上にスクリーンを設置する等、前衛的な演出でクライマックスへと突き進む。
ベートーヴェン作曲の唯一のオペラ作品となるが、レオノーレが夫フロレスタンへの愛を歌う「訪れよ、希望よ」とフロレスタンの歌う「人の世の美しき春にも」などのアリアが知られている。指揮はロイヤル・オペラ・ハウスの顔、アントニオ・パッパーノ。
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【作曲】ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
【演出】 トビアス・クラッツアー
【指揮】 アントニオ・パッパーノ
【出演】レオノーレ/フィデリオ:リーゼ・ダヴィドセン
フロレスタン:ディヴィッド・バット・フィリップ
ピツァロ:シモン・ニール
マルツェリーネ:アマンダ・フォーサイス
ロッコ:ゲオルク・ツェッペンフェルト
2020.08.13
オペラ『ラ・ボエーム』を初心者でもわかりやすく解説します
石川了(音楽・舞踊プロデューサー)
<何気ない日常がこんなに愛おしい―――胸を熱くする『ラ・ボエーム』>
コロナ禍の中で―――音楽を楽しむ選択肢
誤解を恐れずに言えば、数百年の間、戦争や革命、疫病や社会の変化に適合しながら生き残ってきたクラシック音楽は、ウィルスのようなものだと思う。その音楽に触れた者を幸せにし、死ぬまで夢中にさせるウィルス。クラシック音楽はきっと、今回のコロナ禍でも自らの存在価値を急速に変容させながら、その楽しみ方を多種多様に増殖させていくのだ。
しかし、今はまだ、大人数の飛沫が懸念されるオペラは、通常の形での再開が厳しい。だから、生のオペラが叶わないならば、大きなスクリーンと劇場の音場を持つ映画館でのオペラ鑑賞を、音楽を楽しむ選択肢の一つに加えてみてはどうだろう。
夢を糧に生きる若者たちを描いたオペラ
その第一歩として最適なのが、8月14日から上映予定の英国ロイヤル・オペラ公演『ラ・ボエーム』だ。
お金は無くても夢を糧に生きる若者たちの日常を描いた、イタリアの作曲家ジャコモ・プッチーニ(1858~1924)4作目のオペラで、作曲家自らの青春時代が投影された瑞々しいサウンドが、約2時間という映画のようなコンパクトな長さに凝縮されている。その余りに切ないストーリーと音楽に、オペラをあまり観たことがない方でも涙腺崩壊必至だ。
原作は、フランスの文人アンリ・ミュルジェールの実体験に基づく小説『ボヘミアンの生活の情景』。因みに、ボエームとはボヘミアンのフランス語で、自由に生きることに憧れた19世紀パリの芸術家の卵たち(もしくは芸術家気取りの若者たち)のことを指す。
オペラでは、詩人ロドルフォと画家マルチェッロ、音楽家ショナール、哲学者コルリーネが、ひとつ屋根の下で、その日暮らしの生活に四苦八苦。薪も買えず自らの作品(紙)をストーヴに燃やして暖をとる始末だ。大家の家賃の催促をあの手この手で逃れ、なけなしの稼ぎで買った1匹の魚とワインをみんなで分け合う彼ら。そんな中、ロドルフォはお針子ミミと出会い、お互いに心を寄せ合う。一方、マルチェッロと歌手ムゼッタは愛し合っているのに喧嘩ばかり。しかし、ミミの病気は進行し、彼女はロドルフォに別れを切り出す。そして、ミミはみんなに見守られながら死んでいく・・・。
ロドルフォとミミが出会うアリア「冷たき手を」「私の名はミミ」、彼らが心を寄せ合う二重唱「愛らしい乙女よ」、マルチェッロの気を引きたいムゼッタのアリア「私が街を歩くと」、ロドルフォに別れを告げるミミのアリア「さようなら、あなたの愛の呼ぶ声に」、2組のカップルの別離の四重唱「楽しい朝の目覚めも、さようなら」、別れた恋人を忘れられないロドルフォとマルチェッロの二重唱「もう帰らないミミ」、病気のミミを助けようと自分の外套を売るコルリーネのアリア「古い外套よ、聞いてくれ」など、誰もが一度は耳にしたことがある名旋律が満載だ。
ソニア・ヨンチェヴァ独壇場の最終幕
今回の映像は、日本での知名度は低いが歌に演技に秀でた歌手が多く出演し、いい意味でスター歌手のカリスマに邪魔されないリアルな芝居が楽しめるのがポイント。まさにシェイクスピアの国、英国ならではの演劇オペラが堪能できる。演出は演劇畑でも知られるリチャード・ジョーンズ。舞台装置はミュージカル『タイタニック』のスチュワート・ラングで、特に第2幕は、舞台がパリの雑踏からカフェ・モミュスのレストランに自然に転換するなど、驚きの連続だ。
歌手では、やはりミミを歌うブルガリア生まれのソプラノ、ソニア・ヨンチェヴァに注目だろう。東欧出身らしい豊潤な声と確かな演技力で、英国ロイヤル・オペラとNYメトロポリタン歌劇場を中心に世界中で活躍している。特に、第3幕はヨンチェヴァの独壇場。最終幕のミミの死も、その迫真の演技から目が離せない。
『ラ・ボエーム』は、今青春を謳歌している若者たちにも、若き日に青春を謳歌した熟年層にも胸を熱くするオペラだ。
幸い、国内の映画館は再開され、館内の換気やソーシャルディスタンスの確保など、観客と従業員の安全のためのさまざまな感染予防対策が講じられている。今こそ、ウィズコロナ社会の新しい生活様式の中で、映画館でクラシック音楽を楽しむ第一歩を踏み出してみようじゃないか!
2020.08.05
ロイヤル・オペラ『ラ・ボエーム』<タイムテーブルのご案内>
誰もが忘れられない青春の歌。活気にあふれた19世紀のパリを舞台に
若者たちの愛と死を描くプッチーニの傑作
「冷たき手を」「私の名はミミ」「私が街を歩けば」「さらば古外套よ」など、オペラを愛する人なら誰でも聴いたことがある名アリアの数々。ミュージカル『レント』の原作としても知られている《ラ・ボエーム》は、初めてオペラを観る人にも真っ先に薦めたい作品だ。プッチーニの旋律はなぜこんなにも人の心を捉え、揺さぶるのだろうか?誰もが一度は若者だった。そして将来の夢をかなえようと葛藤していたはずだ。プッチーニ自身の人生も投影されている若き芸術家たちの物語は、観客の胸を熱くさせる。
英国ロイヤル・オペラで40年以上ものあいだ上演されてきた伝統的な《ラ・ボエーム》の舞台が新しくなったのは2017年のこと。リチャード・ジョーンズの演出は、よりモダンでシンプルな舞台装置と、細部に凝った演技が特徴だ。特に映像ではその良さが堪能できるだろう。第1幕の屋根裏部屋のグレーを基調にした色彩から、第2幕のパリの華やかなクリスマス・イヴへの変化も見事。ヒロインのミミにはスター歌手ソニア・ヨンチェヴァが出演、リリックな声と情熱的な歌唱で涙を誘う。詩人ロドルフォは容姿と声のバランスがとれたテノール、チャールズ・カストロノボが出演。他にもムゼッタのシモーナ・ミハイ、マルチェッロのアンジイ・フィロニチックを始めとする若々しいキャストが出演。指揮のエマニュエル・ヴィヨームはプッチーニの書いたオーケストラの色彩を引き出し高い評価を得た。更に英国ロイヤル・オペラの合唱団は歌も達者だが、各々が役者としても秀逸で、第2幕における彼らの活躍も見逃せない。
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【作曲】ジャコモ・プッチーニ
【演出】リチャード・ジョーンズ
【指揮】エマニュエル・ヴィヨーム
【出演】ミミ:ソニア・ヨンチェヴァ
ロドルフォ:チャールズ・カストロノボ
ムゼッタ:シモーナ・ミハイ
マルチェッロ:アンジイ・フィロニチック 他
2020.08.05
ロイヤル・バレエ『コッペリア』<タイムテーブルのご案内>(再上映)
コミカルな人形振りから、クラシック・バレエの粋まで楽しめる
ロマンティック・コメディの名作が、久しぶりにロイヤルの舞台に帰ってくる!
『コッペリア』はE.T.A.ホフマンの小説「砂男」を原作とし、1870年にパリ・オペラ座で初演。美しい人形コッペリアに恋したフランツとその恋人スワニルダ、そしてコッペリアを生み出したコッペリウス博士が織りなす、ロマンティック・コメディ。
英国ロイヤル・バレエで踊られているのは、バレエ団創設者ニネット・ド・ヴァロア版で、1954年の初演からレパートリーとして大切に踊られてきた。クラシック・バレエの技巧からコミカルな人形振り、民族舞踊までちりばめられ、ドリープ作曲による美しいメロディと共に、幅広い世代に愛されている。マリアネラ・ヌニェスのコメディエンヌぶり、ワディム・ムンタギロフの華麗な超絶テクニックは必見。
尚、特別映像の中にはデビュー時のヌニェスの姿が映るが、その時主役スワニルダ役を演じたのは吉田都だった。
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【振付】二ネット・ド・ヴァロア(イワ-ノフ、チェケッティ原振付)
【音楽】レオ・ドリーブ 【指揮】バリー・ワーズワース
【出演】スワニルダ:マリアネラ・ヌニェス フランツ:ワディム・ムンタギロフ
コッペリウス博士:ギャリー・エイヴィス 市長:クリストファー・サウンダース 宿屋の主人:エリコ・モンテス
スワニルダの友人:ミカ・ブラッドベリ、イザベラ・ガスパリーニ、ハンナ・グレンネル、ミーガン・グレース・ヒンキス、ロマニー・パイダク、レティシア・ストック
ペザントの女性:マヤラ・マグリ 公爵:ルーカス・ビヨルンボー・ブレンツロド
オーロラ(曙):クレア・カルヴァート 祈り:アネット・ブヴォル
2020.07.15
8月公開作品 決定についてのお知らせ
新型コロナウィルスの影響により公開変更を重ねてきました英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2019/20ですが8月14日(金)からの公開が新たに決定致しました。つきましては以下の通り発表をさせて頂きます。
新しい日程及び作品(7月15日付け)
・8月14日(金)ロイヤル・オペラ「ラ・ボエーム」1月29日収録作品
・8月21日(金)ロイヤル・バレエ「コッペリア」(再上映)2019年12月10日収録作品
・8月28日(金)ロイヤル・オペラ「フィデリオ」3月13日収録作品
・9月4日(金)ロイヤル・バレエ「眠れる森の美女」(再上映)1月16日収録作品
※公開劇場
TOHOシネマズシャンテ、TOHOシネマズ日本橋、イオンシネマ シアタス調布、TOHOシネマズ流山おおたかの森、TOHOシネマズららぽーと横浜、TOHOシネマズ名古屋ベイシティ、大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズ西宮OS、イオンシネマ京都桂川、札幌シネマフロンティア、フォーラム仙台、中洲大洋劇場
※今シーズン公開を予定していましたロイヤル・バレエ「ザ・チェリスト」「ダンシズ・アット・ア・ギャザリング」につきましては諸般の事情から公開ができなくなりました。
代わりまして、今年1月に公開し、御好評を頂きました「コッペリア」を再上映させて頂きます。ロイヤル・オペラ「フィデリオ」につきましては、3月16日ロイヤル・オペラ・ハウス閉鎖の3日前に既発表とは別のキャストにて収録されていたものになります。9月4日からのロイヤル・バレエ「眠れる森の美女」は6月に公開しました作品の再上映です。金子扶生(ふみ)がオーロラ姫を演じ堂々のシネマシーズン主役デビューを飾った作品です。それぞれの作品に共通しますがシネマシーズンならではの映画館でしか味わえない、大画面での細部まで堪能できる映像と迫力ある音響で臨場感をお楽しみ頂ければ幸いです。
英国ロイヤル・オペラ・ハウスと共に今後の皆様のご健康をお祈り致します。来シーズンに向けての更なるご厚情を賜りたく、切にお願い申し上げます。
2020年7月15日
東宝東和株式会社
2020.06.15
ロイヤル・バレエ『眠れる森の美女』<タイムテーブルのご案内>
金子扶生 堂々の主役(オーロラ姫)でスクリーンに登場!
初々しくも緊張感にあふれたローズ・アダージオから、抒情的でロマンティックな幻影のパ・ド・ドゥ、そして華麗なグラン・パ・ド・ドゥまで、オーロラ姫の役はクラシック・バレエの中でも技術的にも、表現的にも難しい大役。映画館上映では当初ローレン・カスバートソンが踊る予定だったが、収録当日に怪我によって降板。急きょ当日はリラの精を踊る予定だったファースト・ソリストの金子扶生が異例の抜擢で見事に踊りきり、堂々とした華やかさと優雅でクリアな踊りにより新世代スターの誕生を印象づけた。端正なパートナーリング技術と、エレガンスを備えたフェデリコ・ボネッリの王子、そして超絶技巧を見せる青い鳥にマシュー・ボール、フロリナ姫にヤスミン・ナグディと人気の若手プリンシパルを配置した贅沢なキャスティング。これぞ究極の古典バレエという見ごたえたっぷりの壮麗な世界を体験してほしい。
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【振付】マリウス・プティパ
【追加振付】フレデリック・アシュトン、アンソニー・ダウエル、クリストファー・ウィールドン
【プロダクション】モニカ・メイソン(ニネット・ド・ヴァロワとニコライ・セルゲイエフに基づく)【美術】オリバー・メッセル【デザイン追加】ピーター・ファーマー
【音楽】ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー【指揮】サイモン・ヒューイット
【出演】オーロラ姫:金子扶生 フロリムント王子:フェデリコ・ボネッリ
国王フロレスタン24世:クリストファー・サウンダース お妃:エリザベス・マクゴリアン カタラビュット:トーマス・ホワイトヘッド
カラボス:クリステン・マクナリー フロリナ姫:ヤスミン・ナグディ 青い鳥:マシュー・ボール
英国の王子:ギャリー・エイヴィス フランスの王子:ニコル・エドモンズ インドの王子:デヴィッド・ドネリー ロシアの王子:トーマス・モック
伯爵夫人:クリスティーナ・アレスティス フロレスタン:ジェームズ・ヘイ フロレスタンの姉妹:マヤラ・マグリ、アナ・ローズ・オサリヴァン
長靴を履いた猫:ポール・ケイ 白猫:レティシア・ストック 赤ずきん:ロマニー・パイダク 狼:ニコル・エドモンズ
~プロローグ~
澄んだ泉の精&騎士:ロマニー・パイダク&アクリ瑠嘉 魔法の庭の精&騎士:マヤラ・マグリ&ヴァレンティノ・ズケッティ 森の草地の精&騎士:クレア・カルヴァート&カルヴィン・リチャードソン 歌鳥の精:アナ・ローズ・オサリヴァン&ジェームズ・ヘイ 黄金のつる草の精&騎士:崔 由姫&セザール・コラレス リラの精&騎士:ジーナ・ストーム=ジェンセン&ニコル・エドモンズ
2020.06.05
ロイヤル・バレエ『ドン・キホーテ』<タイムテーブルのご案内>
元プリンシパルで世界的スター、カルロス・アコスタが振付けたバレエの楽しさが詰まった陽気な作品。
主役キトリはプリンシパル・ダンサーの高田茜!
ガラ公演でも頻繁に上演される3幕の結婚式の華やかなパ・ド・ドゥには、32回転のグラン・フェッテ、男性ダンサーのダイナミックな跳躍など見せ場がたっぷりある一方、2幕では、森の女王や妖精たちが登場し美しいクラシック・バレエの粋が味わえる。闘牛士や踊り子、ジプシーなど生き生きとしてパワフルな登場人物たちのコミカルなやり取りとスピーディな場面展開が、憂鬱な気持ちも吹き飛ばしてくれる最高の娯楽作だ。日本人プリンシパルの高田茜が主演するのも話題である。
英国ロイヤル・バレエ芸術監督ケヴィン・オヘアは、就任後の最初の大きな仕事として、しばらく上演が途絶えていた『ドン・キホーテ』の新しいプロダクションを構想。2013年、バレエ団を代表する人気ダンサー、カルロス・アコスタが抜擢され初の全幕作品に取り組み、初演では自ら主演した。舞台上でダンサーたちが賑やかな掛け声をかけ、テーブルや馬車の上でも踊り、スペインの街角の雰囲気を出すために、街の人々もたっぷりと踊りを見せる等、陽気な娯楽性をさらに追求した。また2幕では、ロマンティックなパ・ド・ドゥが加えられたほか、ジプシーの野営地では舞台上にミュージシャンが登場して演奏し、新しい振付も登場してエキゾチックな雰囲気を盛り上げた。舞台装置が出演者によって動かされることでさらに活気ある舞台に仕上がり、3幕のフィナーレもより祝祭性の高いものに。ドラマティックな演技を得意とするロイヤル・バレエのダンサーたちは作品に厚みを加え、一人一人の物語がくっきりと浮かび上がってより魅力的な舞台となった。
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【振付】マリウス・プティパ 【追加振付】カルロス・アコスタ 【音楽】レオン・ミンクス 【指揮】マーティン・イエーツ
【出演】ドン・キホーテ:クリストファー・サウンダーズ、サンチョ・パンサ:フィリップ・モーズリー、キトリ:高田茜、バジル:アレクサンダー・キャンベル
エスパーダ:ヴァレンティノ・ズケッティ、メルセデス:マヤラ・マグリ、キトリの友人:崔由姫、ベアトリス・スティクス=ブルネル
キューピッド:アナ・ローズ・オサリヴァン、ドルシネア:ララ・ターク、ドリアードの女王:金子扶生
ロレンツォ(キトリの父):ギャリー・エイヴィス、ガマーシュ:トーマス・ホワイトヘッド
2020.06.05
ロイヤル・バレエ『マノン』<タイムテーブルのご案内>
美しい少女マノンの愛の悲劇を描いたフランスの小説「マノン・レスコー」をもとにした、ケネス・マクミラン振付作品。恋に落ちたマノンとデ・グリューは駆け落ちするが――。
英国ロイヤル・バレエ団で活躍する日本人プリンシパルの平野亮一がマノンの兄レスコー役で出演。確かな技術に裏打ちされた酔っ払いの演技とダンスも必見!
バレエの中でも最もドラマティックで破滅的な作品のひとつである、ケネス・マクミラン振付の『マノン』。美しく衝動的な少女マノンは、若くハンサムな学生デ・グリューと出会って恋に落ちる。しかし、兄レスコーの手引きから富豪ムッシューG.M.から愛人にならないかと誘われたマノンは、デ・グリューとの愛と、G.M.との豪華な生活の間で引き裂かれる――。
原作はアベ・プレヴォによる18世紀のフランスの小説「マノン・レスコー」でオペラや映画にもなった。マクミランは1974年のバレエ初演時、オペラ版も手掛けたジュール・マスネの音楽を用いたが、オペラと同じ曲は一切使用していない。現在のバージョンは2011年に今回の指揮も手掛けたマーティン・イエーツが、マスネの既成の曲を最初からまるでこのバレエのための音楽として書かれたように再構成して完成させた。最後のマノンとデ・グリューが逃げ込んだ沼地で繰り広げる“沼地のパ・ド・ドゥ”が胸を打つ。
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【振付】ケネス・マクミラン 【音楽】ジュール・マスネ 【指揮】マーティン・イエーツ
【出演】サラ・ラム(マノン)、ワディム・ムンタギロフ(デ・グリュー)、平野亮一(レスコー)、イツァール・メンディザバル(レスコーの愛人)、ギャリー・エイヴィス(G.M.)
2020.06.01
公開決定についてのお知らせ
新型コロナウィルスの影響により公開変更を重ねてきました英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズンですが、映画館の再開に伴いまして6月5日(金)からの公開が決まりました。つきましては以下の発表をさせて頂きます。
以下新しい日程及び作品(6月1日付け<※一部劇場を除く>
<6月公開作:英国ロイヤル・バレエで活躍する日本人ダンサー作品特集>
・6月5日(金)ロイヤル・バレエ「マノン」(平野亮一)シーズン2017/18作品
・6月12日(金)ロイヤル・バレエ「ドン・キホーテ」(高田茜)シーズン2018/19作品
・6月19日(金)~2週間 ロイヤル・バレエ「眠れる森の美女」(金子扶生)
併せまして「眠れる森の美女」以降、公開が予定されています「ラ・ボエーム」、「ザ・チェリスト」「ダンシズ・アット・ア・ギャザリング」、「フィデリオ」につきましては公開日の調整などが決まり次第改めて発表させて頂きます。
英国ロイヤル・オペラ・ハウスと共に今後の皆様のご健康をお祈り致します。また更なるご厚情を賜りたく、切にお願い申し上げます。
2020年6月1日
東宝東和株式会社
2020.05.07
再度の公開変更についてのお知らせ
先日5月1日に英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2019/20 で5月8日(金)からの公開作品につきまして以下の発表をさせて頂きました。
以下変更日程及び作品(5月1日付け)<※一部劇場を除く>
<5月公開作:英国ロイヤル・バレエで活躍する日本人ダンサー作品特集>
・5月8日(金)ロイヤル・バレエ「マノン」(平野亮一)シーズン2017/18作品
・5月15日(金)ロイヤル・バレエ「ドン・キホーテ」(高田茜)シーズン2018/19作品
・5月22日(金)~2週間 ロイヤル・バレエ「眠れる森の美女」(金子扶生)
※大変残念ではありますが5月4日の緊急事態宣言の延長を受けまして映画館の休館が
続いております。それに伴いまして公開が延期となります。改めて公開が決まり次第、発表させて頂きますのでご了承下さいますよう、お願い申し上げます。
※併せまして「眠れる森の美女」以降、公開が予定されていました「ラ・ボエーム」、「ザ・チェリスト」「ダンシズ・アット・ア・ギャザリング」、「フィデリオ」につきましても同様に公開日の調整などが決まり次第改めて発表させて頂きます。
英国ロイヤル・オペラ・ハウスと共に1日でも早くエンタテインメントを楽しめる日常が戻る事と、皆様のご健康をお祈り致します。また更なるご厚情を賜りたく、切にお願い申し上げます。
2020年5月7日
東宝東和株式会社
2020.05.01
公開変更についてのお知らせ
平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
このたび、英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2019/20 で5月8日(金)より公開が予定されておりましたロイヤル・バレエ「眠れる森の美女」以下、今シーズン予定されていました作品につきまして、ロイヤル・オペラ・ハウス側からの要請と協議の結果、下記の通り公開日の変更、及び予定されておりました作品の上映中止となりましたことをお知らせ致します。
以下、予定されていました公開日及び作品です。
・5月8日(金)ロイヤル・バレエ「眠れる森の美女」
・5月15日(金)ロイヤル・オペラ「ラ・ボエーム」
・5月22日(金)ロイヤル・バレエ「ザ・チェリスト」「ダンシズ・アット・ア・ギャザリング」
・5月29日(金)ロイヤル・オペラ「フィデリオ」
・7月17日(金)ロイヤル・バレエ「白鳥の湖」
・7月24日(金)ロイヤル・オペラ「カヴァレリア・ルスティカーナ」「道化師」
・7月31日(金)ロイヤル・バレエ「ダンテ・プロジェクト」
・8月7日(金)ロイヤル・オペラ「エレクトラ」
残念ながらロンドンのロイヤル・オペラ・ハウスが3月16日の公演を最後にその後の公演がすべて中止となってしまいました。また日本でも緊急事態宣言により映画館が休館中でもあります。つきましては以下の通り公開作品の変更及び公開日程の変更をご案内させて頂く事になりました。楽しみにお待ち頂いておりますお客様には大変申し訳ありませんが、何卒ご了承頂きますよう、宜しくお願い申し上げます。
以下変更とさせて頂きます。またコロナウイルスの影響により、更に変更なども生じる可能性もございます。併せてご了承の程お願い申し上げます。
以下変更日程及び作品(5月1日付け)<※一部劇場を除く>
<5月公開作:英国ロイヤル・バレエで活躍する日本人ダンサー作品特集>
・5月8日(金)ロイヤル・バレエ「マノン」(平野亮一)
・5月15日(金)ロイヤル・バレエ「ドン・キホーテ」(高田茜)
・5月22日(金)~2週間 ロイヤル・バレエ「眠れる森の美女」(金子扶生)
※5月公開作につきましては、過去シーズン2017/18 と 2018/19において好評を博した日本人ダンサー、プリンシパルの平野亮一さん出演の「マノン」と、同じくプリンシパルの高田茜さんが主役キトリを演じた「ドン・キホーテ」、更にシネマシーズンで堂々の主役に抜擢された金子扶生(ふみ)さんの「眠れる森の美女」をお届け致します。
※「眠れる森の美女」以降、本来5月に公開が予定されていました「ラ・ボエーム」、「ザ・チェリスト」「ダンシズ・アット・ア・ギャザリング」、「フィデリオ」につきましては、作品の字幕入れ作業の完成と公開日の調整などが決まり次第改めて発表させて頂きます。
※予定されていました「白鳥の湖」から「エレクトラ」までの4本につきましては、本国での公演が中止となりました為、残念ではありますが、公開が叶わなく上映中止となります。
※5月1日以降6日までの連休期間中に、再度緊急事態宣言の延長により、映画館の休館が
延長になる場合は、それに伴いまして公開が延期となります。追って発表させて頂きますのでご了承下さいますよう、お願い申し上げます。
英国ロイヤル・オペラ・ハウスと共に皆様のご健康をお祈り致します。また更なるご厚情を賜りたく、切にお願い申し上げます。
2020年5月1日
東宝東和株式会社
2020.01.14
ロイヤル・バレエ『コッペリア』<タイムテーブルのご案内>
コミカルな人形振りから、クラシック・バレエの粋まで楽しめる
ロマンティック・コメディの名作が、久しぶりにロイヤルの舞台に帰ってくる!
『コッペリア』はE.T.A.ホフマンの小説「砂男」を原作とし、1870年にパリ・オペラ座で初演。美しい人形コッペリアに恋したフランツとその恋人スワニルダ、そしてコッペリアを生み出したコッペリウス博士が織りなす、ロマンティック・コメディ。
英国ロイヤル・バレエで踊られているのは、バレエ団創設者ニネット・ド・ヴァロア版で、1954年の初演からレパートリーとして大切に踊られてきた。クラシック・バレエの技巧からコミカルな人形振り、民族舞踊までちりばめられ、ドリープ作曲による美しいメロディと共に、幅広い世代に愛されている。マリアネラ・ヌニェスのコメディエンヌぶり、ワディム・ムンタギロフの華麗な超絶テクニックは必見。
尚、特別映像の中にはデビュー時のヌニェスの姿が映るが、その時主役スワニルダ役を演じたのは吉田都だった。
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【振付】二ネット・ド・ヴァロア(イワ-ノフ、チェケッティ原振付)
【音楽】レオ・ドリーブ 【指揮】バリー・ワーズワース
【出演】スワニルダ:マリアネラ・ヌニェス フランツ:ワディム・ムンタギロフ
コッペリウス博士:ギャリー・エイヴィス 市長:クリストファー・サウンダース 宿屋の主人:エリコ・モンテス
スワニルダの友人:ミカ・ブラッドベリ、イザベラ・ガスパリーニ、ハンナ・グレンネル、ミーガン・グレース・ヒンキス、ロマニー・パイダク、レティシア・ストック
ペザントの女性:マヤラ・マグリ 公爵:ルーカス・ビヨルンボー・ブレンツロド
オーロラ(曙):クレア・カルヴァート 祈り:アネット・ブヴォル
2020.01.08
ロイヤル・バレエ『コンチェルト/エニグマ・ヴァリエーション/ライモンダ 第3幕』<タイムテーブルのご案内>
『コンチェルト』は、ドミトリー・ショスタコーヴィッチのピアノ協奏曲2番に乗せたマクミラン振付による作品。闊達な第1楽章、バーレッスンを模したパ・ド・ドゥが比類なき美しさを見せるゆっくりとした第2楽章、そして第1、第2楽章のソリストにコール・ド・バレエを加えて楽譜の上を走り回るような第3楽章。全編に渡るダンサーたちの見事な音楽性と目を見張るダイナミックな技巧もさることながら、ヤスミン・ナグディと平野亮一による第2楽章の甘美な抒情性は観る者を惹きつけてやまない。
『エニグマ・ヴァリエーション』は、作曲家エルガーが「エニグマ・ヴァリエーション」(エニグマ変奏曲)を作曲した時のドラマを、彼を取り巻く人々の友情を中心に描いた作品。まだ知名度も低く自信喪失気味のエルガーが、著名な指揮者からの電報を不安気に待つ間、妻や友人たちが集まって彼を励ます。アシュトン特有の技巧を凝らしたステップで登場人物それぞれの個性が描かれていて観る者を飽きさせない。マシュー・ボールが踊る超絶技巧が凝らされたトロイトのヴァリエーション、名曲「ニムロッド」、フランチェスカ・ヘイワードが踊る吃音のある少女ドラベラの愛らしいソロ、アクリ瑠嘉による犬になってしまった男シンクレアのユーモラスなソロなど見所は枚挙にいとまがない。
『ライモンダ第3幕』はマリウス・プティパによるロシア・クラシック・バレエの粋を集めた古典絵巻を、ルドルフ・ヌレエフが再振付した壮麗な作品。第3幕は、貴族ライモンダと、十字軍から帰ってきて恋のライバルを倒した騎士ジャン・ド・ブリエンヌの結婚式。ハンガリー民族舞踊風のチャルダッシュと、華麗なグラン・パ・クラシック、6つものヴァリエーションで彩られゴージャスなことこの上ない。金子扶生が踊る軽やかなピチカートのソロ、当代トップダンサーのふたり、ワディム・ムンタギロフのエレガントかつ鮮やかな踊り、女王の風格たっぷりで強靭なナタリア・オシポワによる有名なソロと見せ場が満載。異国情緒漂うグラズノフの美しい音楽、ダンサーたちが舞台を埋め尽くすフィナーレと、バレエの華やかさ、高揚感を存分に堪能できる。
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<ロイヤル・バレエ『コンチェルト/エニグマ・ヴァリエーション/ライモンダ 第3幕』タイムテーブル>
『コンチェルト』
【振付】ケネス・マクミラン 【音楽】ドミトリー・ショスタコーヴィッチ 【美術】ユルゲン・ローゼ 【ピアノ】ケイト・シップウェイ
【出演】アナ=ローズ・オサリヴァン/ジェームズ・ヘイ/ヤスミン・ナグディ/平野亮一/ マヤラ・マグリ
『エニグマ・ヴァリエーション』
【振付】フレデリック・アシュトン 【音楽】エドワード・エルガー
【出演】クリストファー・サウンダース/ラウラ・モレーラ/マシュー・ボール/ベネット・ガートサイド/フランチェスカ・ヘイワード/アクリ瑠嘉
『ライモンダ第3幕』
【振付】ルドルフ・ヌレエフ 【音楽】アレクサンドル・グラズノフ 【指揮】パーヴェル・ソロキン 【指揮】パーヴェル・ソロキン
【出演】ナタリア・オシポワ/ワディム・ムンタギロフ/金子扶生
2019.12.27
オペラ『ドン・パスクワーレ』を初心者でもわかりやすく解説します
石川了(音楽・舞踊プロデューサー)
●愛と年の差!
19世紀初頭のオペラ・ブッファ(喜劇的オペラ)は、『セビリアの理髪師』もそうですが、年配の金持ち男が若い娘に手を出し、彼女とその恋人、彼らの恋の成就を助ける知恵者の三人にコテンパにやられるという物語が結構存在します。70歳の資産家が若い娘と結婚しようとして痛い目に会う、ドニゼッティの傑作『ドン・パスクワーレ』もまさに同じ系統といえるでしょう。
このオペラに関して、さすがに70歳での結婚は如何なものかと眉をひそめる方もいるかもしれませんが、ドン・パスクワーレは独身だから結婚も自由、「年の差婚」という言葉があるように、お互いの同意さえあれば結婚に年齢差は関係ありません。また、物語の根底には、彼の莫大な遺産も狙う若者たちの思惑もあるから、年齢が決して遠くはない筆者としては、ドン・パスクワーレだけがここまでヒドイ目に会うのは許せないなあと、彼に同情しちゃいます。もちろん筆者にこんな莫大な資産はありませんが…。
このように、『ドン・パスクワーレ』は現代につながる身近な要素も満載で、だからこそ1843年にパリで初演されて以来、ある意味エイジハラスメント的な内容があっても、ドニゼッティ作曲の美しい音楽と共に、今なお世界中で愛されているのでしょう。
●まるで海外ドラマ!
そんな『ドン・パスクワーレ』を演出したのは、現在世界中の歌劇場で引っ張りだこのイタリア人演出家、ダミエーレ・ミキエレット。彼の演出の特徴は、大胆な設定と鋭い人間洞察。ミキエレットは、このオペラの演出に当たり、下記のようにコメントしています。
「舞台に自分の人生やイマジネーションを重ね、現実世界に結び付けるのは自然なことです。」
設定を現代に移した彼の『ドン・パスクワーレ』では、車やスマホも登場。主人公の子供時代の風景も挿入され、彼が住む家が母親と暮らしていたときのままになっていることがわかります。過去の思い出にしがみつく、70歳なのに子供のままのドン・パスクワーレ。この主人公のキャラクター設定は重要で、『ドン・パスクワーレ』というストーリーに、現代的な強い説得力を与えています。
主人公と母親との思い出をぶち壊しにするノリーナと、主人公の主治医マラテスタとの関係も何か怪しいし、彼女の恋人でドン・パスクワーレの甥エルネストは「甥っ子は役立たず、ご老人の悩みの種」と合唱で歌われるようにボーっと生きている。「こんな人たち、現実にいるよね」と呟いてしまう登場人物たちは結構リアルで、まるで海外ドラマを観ているかのよう。ラストまで目が離せません。
●声の饗宴!
この公演では、錚々たる人気歌手たちの声の饗宴が楽しめるのも嬉しい。ドン・パスクワーレ役のブリン・ターフェルはウェールズ出身のバス・バリトンで、この映像は彼が初めて同役に挑んだ熱演の記録となりました。ノリーナを歌うロシア出身の美人ソプラノ、オルガ・ペレチャッコは、本公演が英国ロイヤル・オペラデビュー。マラテスタ役を演じるオーストリア出身のイケメンバリトン、マルクス・ウェルバはサントリーホールのホール・オペラ「モーツァルト&ダ・ポンテ三部作」で日本でもおなじみ。エルネスト役のイオアン・ホテアは1990年ルーマニア生まれの若手テノールです。
今回のキャストは国籍もさまざまで、その上イタリア人もいないため、イタリア的ベルカントのカラーはあまり感じられないかもしれませんが、このようなオペラ・ブッファを映画館で鑑賞するポイントとして、歌唱だけではなく、彼らの表情のアップや演技、汗の一粒一粒にも注目いただけると楽しさ倍増ですよ。
英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズンのいいところは、オペラ本編のみならず、合間に挿入されるインタビューが作品の理解や公演の見どころに役立つこと。今回は、音楽学者フローラ・ウィルソンが語る19世紀パリのオペラ事情、歌手たちが綴るストーリーと人物キャラクター説明、指揮者エヴェリーノ・ピドによる作品解説、そしてミキエレットと装置デザーナーのパオロ・ファンティン、衣裳デザイナーのアゴスティーノ・カヴァルカによる演出意図など、今回の『ドン・パスクワーレ』プロダクションの魅力がさまざまな角度から理解できるので、開演前と休憩後のスタートに遅れないように座席にお戻りくださいね。
Brexitが現実化した今、なかなか英国には行きづらい状況かもしれませんが、英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズンで、ロンドンのコヴェントガーデンのあの雰囲気を、日本の映画館でたっぷり楽しみましょう。
2019.12.26
ロイヤル・オペラ『ドン・パスクワーレ』<タイムテーブルのご案内>
ミキエレットが演出する、舞台を現代に移した「ドン・パスクワーレ」
老人いじめ?女性の権利を獲得するための闘い?ドニゼッティ最後のオペラ・ブッファ(喜歌劇)「ドン・パスクワーレ」は、金満家の老人ドン・パスクワーレが、言うことを聞かない甥エルネストを懲らしめようとして、彼と恋人のノリーナ、そして彼らの友人マラテスタの策略にかかり大変な目にあってしまう物語。
2019年春にパリ・オペラ座で上演されて大人気を得たミキエレットの演出がロイヤル・オペラ・ハウスでも上演、現代的で辛口な切り口が大きな話題となった。英国で圧倒的な人気を誇るウェールズ出身のバス・バリトン、サー・ブリン・ターフェルが初めてタイトルロールのドン・パスクワーレ役を演じ、台詞の細かいニュアンスまで素晴らしい表現で役を熱演している。
ヨーロッパで人気抜群のロシア人ソプラノ、オルガ・ペレチャッコが英国ロイヤル・オペラ・ハウスへのデビューとしてノリーナ役を歌い、抜群のテクニックと演技力で高い評価を得た他、気の弱い青年エルネスト役のテノール、イオアン・ホテア、スタイリッシュなマラテスタ役のバリトン、マルクス・ヴェルバなどが活躍。ノリーナの登場のアリア「あの騎士の眼差しは」は、映画撮影のセットでアシスタントとして働くノリーナによって歌われるなど、ヴィヴィッドで活気あふれる舞台。
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<ロイヤル・オペラ『ドン・パスクワーレ』タイムテーブル>
【作曲】 ガエターノ・ドニゼッティ
【演出】 ダミアーノ・ミキエレット
【指揮】 エヴェリーノ・ピド
【出演】 ドン・パスクワーレ:ブリン・ターフェル、ノリーナ:オルガ・ペレチャッコ、エルネスト:イオアン・ホテア、マラテスタ:マルクス・ヴェルバ
2019.12.18
ロイヤル・オペラ『ドン・ジョバンニ』<タイムテーブルのご案内>
ROHの人気プロダクションがシネマシーズン オープニングに登場!
2015年 英国ロイヤル・オペラ来日公演で話題になったカスパー・ホルテン演出のモーツァルト《ドン・ジョバンニ》。2014年に新制作されて以来、現地ロンドンでもすでに三度目の再演となる人気プロダクション。エス・デブリンによる美術は時代を特定せず、白く塗られた二階建ての建物が回転し、そこに様々なイメージや文字が投影される。まるでドン・ジョバンニの心の迷宮を目の当たりにしているかのような、夢と現の間をさまよう舞台がモーツァルトの音楽に呼応する。アニャ・ヴァン・クラフによる衣裳もため息がでるほど美しい。
今回のプロダクションの最大の魅力はアーウィン・シュロットの演ずるタイトルロール。ウルグアイ出身のバス・バリトン歌手シュロットは、オペラ界のトップ・スター、アンナ・ネトレプコの元夫としても知られるが、ドン・ジョバンニは彼の最大の当たり役。男の色気が溢れる歌唱と演技、そして艶のある美声にロンドンの聴衆が熱狂した。
他の出演者も充実している。イタリア人歌手ロベルト・タリアヴィーニが端正な歌と若々しい演技でレポレッロを演じている他、ドン・ジョバンニに翻弄される女性たちは、クリスタルな美声と抜群の歌唱技術を持つマリン・ビストロームがドンナ・アンナを、ミルト・パパタナシュが情熱的なドンナ・エルヴィーラを、ルイーズ・オールダーが溌剌としたゼルリーナを演じている。ドン・オッターヴィオはダニエル・ベーレ、騎士長はペトロス・マゴウラス、マゼットはレオン・コザヴィッチ。指揮のハルトムート・ヘンヒェンはモーツァルトの傑作を堂々としたテンポで描き出す。
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<ロイヤル・オペラ『ドン・ジョバンニ』タイムテーブル>
【作曲】ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト
【演出】カスパー・ホルテン
【指揮】ハルトムート・ヘンヒェン
【出演】ドン・ジョバンニ:アーウィン・シュロット、レポレッロ:ロベルト・タリアヴィーニ、ドンナ・アンナ:マリン・ビストローム
ドンナ・エルヴィーラ:ミルト・パパタナシュ、ゼルリーナ:ルイーズ・オールダー、ドン・オッターヴィオ:ダニエル・ベーレ
騎士長:ペトロス・マゴウラス、マゼット:レオン・コザヴィッチ
2019.12.10
オペラ『ドン・ジョバンニ』を初心者でもわかりやすく解説します
石川了(音楽・舞踊プロデューサー)
<史上最強のプレイボーイ=ドン・ジョバンニ>
モーツァルトの『ドン・ジョバンニ』といえば、イタリアで640人、ドイツで231人、スペインで1003人の女性をモノにした(と歌われている)史上最強のプレイボーイ、ドン・ジョバンニが主人公。いきなりレイプシーン!から始まり、最後は主人公の地獄落ちで終わるというドラマもなかなかすごい。
こんな不道徳な内容なのに、1787年プラハで初演されて以来、今もなお世界中で上演される人気の理由は、何と言ってもモーツァルトの音楽だ。2幕構成で3時間弱という少し長いオペラだが、有名な「序曲」に始まり、「カタログの歌」「手を取り合って」「彼女の心の安らぎこそが」「シャンペンの歌」「ぶってよマゼット」「セレナード」「薬屋の歌」「あの恩知らずは私を裏切り」「私の恋人を慰めて」、そして映画『アマデウス』でも印象的な「地獄落ち」の音楽など、こんなにたくさんのポピュラーなアリアや重唱が登場するオペラは他にはないだろう。
登場人物のキャラクターも魅力的。主人公のドン・ジョバンニは、「年齢も体型も肌色も関係なく、全ての女性を平等に愛する」男性。身分が高く金持ちで、容姿もばっちり、たぶん人間も大きい。手癖が悪い以外は、あらゆる女性を虜にする、まさに理想の男性といえるかもしれない。
面白いのは彼を巡る3人の女性たちで、この公演ではとても興味深い描かれ方をしている。いきなりレイプされるドンナ・アンナは復讐に燃えるのだが、それでもドン・ジョバンニに惚れているとしか見えないし、婚約者ドン・オッターヴィオには見向きもしない。ツェルリーナはもっと小悪魔で、自分からドン・ジョバンニに迫りながら、拗ねた夫マゼットとよりを戻すためにあの手この手を尽くす。ドンナ・エルヴィーラの愛はストレートだが、少しストーカー的と言えるのではないだろうか。
演出は、英国ロイヤル・オペラの前オペラディレクター、カスパー・ホルテン。当プロダクションは2014年2月に初演され、この映像は4回目の再演を収録したもの。2015年の同歌劇場来日公演でもお披露目されたので、リアルでご覧になった方も多いだろう。
その来日記者会見で、演出家はドン・ジョバンニを「彼が恐れるのは、地獄の炎ではなく孤独である。孤独を恐れるがあまり、彼はあらゆる女性を誘惑し現実を忘れようとしているのだ」と解釈していた。そんなドン・ジョバンニの地獄落ちはどのように描かれるのか。人間の偽善や存在の脆さが浮かび上がる、シェイクスピアの国ならではの演劇的な舞台が展開する。
また、オペラから映画、ファッションまで幅広いジャンルを横断する舞台デザイナーで、アデルやビヨンセ、カニエ・ウェスト、レディ・ガガ、U2といった多くのミュージシャンのクリエイティブ・ディレクターとしても活躍するエス・デヴリンの装置も見どころ。
ぐるぐる回転する二階建ての白い建物と、そこに投影されるプロジェクション・マッピングは来日公演でも話題を呼んだが、それは映像で観ても迫力満点。プロジェクション・マッピングを手掛けたのはロンドン五輪閉会式の映像クリエイティブ・ディレクター、ルーク・ホールズ。
タイトルロールを演じるウルグアイ出身のアーウィン・シュロットは、現代最高のドン・ジョバンニの一人と言われている。歌姫アンナ・ネトレプコのハートを射止め(現在は離婚)、そのエキゾチックで精悍な顔立ちと男の色気を醸し出す立ち姿、そして深みのあるバリトンヴォイスは、見た目も声もドン・ジョバンニそのものだ。スクリーンにアップで映るシュロットの憂いのある瞳と表情も、女性からすると堪らないだろう。
オペラを一度でいいから観てみたいが、値段も敷居も高いと思っている方には、映画館でのオペラ映像体験がその第一歩として最適ではないだろうか。値段はお手頃だし、臨場感あふれる音響も映画館ならでは。さらに劇場では見えにくい歌手たちの表情も楽しめる。
「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン」では、公演映像のみならず、指揮者・演出家・歌手などへのインタビューや作品解説、リハーサル風景もたっぷり追加され、オペラをできるだけわかりやすく鑑賞できるような創意工夫が嬉しい。
しかし、オペラはやはり生が一番。ロンドンに行った際にはコヴェント・ガーデンにお出掛けして、英国ロイヤル・オペラ・ハウスで生オペラを是非体験してみてほしい!
2019.11.20
「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2019/20」 日本版予告映像とポスタービジュアルが到着!さらに全12演目の公開日も決定!
「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2019/20」いよいよ開幕!
日本版予告映像とポスタービジュアルが到着&全12演目の公開日が決定致しました!
『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン』は、ロンドンのコヴェント・ガーデン、ロイヤル・オペラ・ハウスで上演されたロイヤル・バレエ団、ロイヤル・オペラによる世界最高峰のバレエとオペラを、映画館で鑑賞できる人気シリーズ!ロイヤル・バレエ団には、最高位のプリンシパルとして、日本出身の高田茜さん、平野亮一さんが在籍、他にも金子扶美さん、アクリ瑠嘉さん、崔 由姫さんなどが現役で活躍しており、その姿を日本で観られることでも大きな注目を集めています!
この度到着した日本版予告編には、華やかなオーケストラ音楽とともにシネマシーズンを彩る人気演目のワンシーンが続々登場し、ライブ観劇しているような臨場感あふれる鑑賞体験への期待が高まる映像となっています。さらに、出演者らの細やかな表情や仕草をクローズアップで捉えたシーンや、普段は目にすることのないリハーサルの様子など、シネマシーズンならではの場面も多数収録。昨シーズンに引き続き、本シーズンでも全ての上映作品には、人気の高いナビゲーターによる舞台裏でのインタビューや特別映像が追加され、スペシャルな映像を映画館の大スクリーンと迫力ある音響でお楽しみ頂けます!
また併せて到着した日本版ポスターには、ロイヤル・オペラ『フィデリオ』、ロイヤル・バレエ『眠れる森の美女』のカットと共に「伝統の重みを味わい、新しい挑戦に胸が高鳴る。」というコピーが添えられており、英国名門歌劇場が誇る情熱的なオペラと幻想的なバレエの世界に引き込まれるビジュアルに仕上がっています。
2020年1月3日(金)よりいよいよ開幕する『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2019/20』が贈る感動と至福の時間を、是非映画館でご体験ください!
【『2019/20』全12演目公開日】
●ロイヤル・オペラ『ドン・ジョバンニ』:1月3日(金)
●ロイヤル・オペラ『ドン・パスクワーレ』:1月10日(金)
●ロイヤル・バレエ『コンチェルト/エニグマ・ヴァリエーション/ライモンダ 第3幕』:1月17日(金)
●ロイヤル・バレエ『コッペリア』:1月24日(金)
●ロイヤル・バレエ『眠れる森の美女』:5月8日(金)
●ロイヤル・オペラ『ラ・ボエーム』:5月15日(金)
●ロイヤル・バレエ『ザ・チェリスト/ダンシズ・アット・ア・ギャザリング』:5月22日(金)
●ロイヤル・オペラ『フィデリオ』:5月29日(金)
●ロイヤル・バレエ『白鳥の湖』:7月17日(金)
●ロイヤル・オペラ『カヴァレリア・ルスティカーナ/道化師』:7月24日(金)
●ロイヤル・バレエ『ダンテ・プロジェクト』:7月31日(金)
●ロイヤル・オペラ『エレクトラ』:8月7日(金)
※札幌シネマフロンティアのみ公開日が異なる演目がございます。
【上映劇場】
*TOHOシネマズ シャンテ
*TOHOシネマズ 日本橋
*イオンシネマ シアタス調布
*TOHOシネマズ ららぽーと横浜
*TOHOシネマズ 流山おおたかの森
*TOHOシネマズ 名古屋ベイシティ
*イオンシネマ 京都桂川
*大阪ステーションシティシネマ
*TOHOシネマズ 西宮OS
*札幌シネマフロンティア
*フォーラム仙台
*中州大洋映画劇場
2019.09.09
今シーズンもアンコール上映が決定!バレエ6作品に加え、人気のオペラ作品もラインナップ!!『運命の力』『椿姫』、『ドン・キホーテ』『ロミオとジュリエット』他、 大人気演目を再び映画館で!!
今シーズン『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2018/19』にて上映されたバレエ6作品とオペラの人気作品が、TOHOシネマズ シャンテとTOHOシネマズ 日本橋限定で、9月20日(金)よりアンコール上映されることが決定いたしました!
ロンドンのコヴェント・ガーデン、英国ロイヤル・オペラ・ハウスで上演された世界最高峰のバレエとオペラを全国の映画館で鑑賞できる『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン』。すべての上映作品に、ロイヤル・オペラ・ハウスで人気の高い案内人による舞台裏でのインタビューや特別映像等が追加されており、そのボリュームある内容や迫力ある音響で、日本にいながらも実際の劇場で観劇しているような臨場感を味わう事が出来るとともに、大スクリーンに映し出されるひとつひとつ細やかな表情や美しい映像を楽しめると、人気を博しています。
この度、今シーズン上映され大好評を博したバレエ6演目と、人気の高いオペラ2演目のアンコール上映が決定。ロイヤル・オペラでは、25年間上演されて続けている人気プロダクション『椿姫』やオペラ界の2大スター、ソプラノのアンナ・ネトレプコとテノールのヨナス・カウフマンが11年ぶりにロンドンで共演した『運命の力』の2演目がラインナップ。チケット争奪戦を極めた超貴重演目を日本にいながら存分に堪能することが出来る。また今年6月に3年ぶりの来日公演を行ったロイヤル・バレエ団には、日本人プリンシパルの平野亮一さんや高田茜さん他、日本人ダンサーが多数在籍。ファーストソリストの金子扶生さんも出演した『ドン・キホーテ』では、高田さんが全幕主演を務めた他、平野さんは、7月の来日公演で話題になったマシュー・ボーン演出の『白鳥の湖』に主演し日本でも人気急上昇となったマシュー・ボールとともに、トリプルビルの新作『メデューサ』に出演しており、その大活躍ぶりを大スクリーンで間近に感じることが出来る。その他『くるみ割り人形』や『ロミオとジュリエット』など王道の名作から近年のチャレンジングな作品まで幅広い演目がラインナップ。『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2018/19』の演目を映画館の大スクリーンで見ることが出来る最後のチャンスをお見逃しなく!
<『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2018/2019』アンコール上映>
9月20日(金)
・ロイヤル・バレエ 『うたかたの恋』
9月21日(土)
・ロイヤル・バレエ 『ラ・バヤデール』
9月22日(日)
・ロイヤル・バレエ 『くるみ割り人形』
9月23日(月・祝)
・ロイヤル・バレエ 『ドン・キホーテ』
9月24日(火)
・ロイヤル・バレエ 『ウィズイン・ザ・ゴールデン・アワー / メデューサ / フライト・パターン』
9月25日(水)
・ロイヤル・バレエ 『ロミオとジュリエット』
9月26日(木)
・ロイヤル・オペラ『椿姫』 ※TOHOシネマズ シャンテのみ上映
・ロイヤル・オペラ『運命の力』 ※TOHOシネマズ 日本橋のみ上映
【TOHOシネマズ シャンテのスケジュール】
https://hlo.tohotheater.jp/net/schedule/081/TNPI2000J01.do
【TOHOシネマズ 日本橋のスケジュール】
https://hlo.tohotheater.jp/net/schedule/073/TNPI2000J01.do
2019.08.21
ロイヤル・バレエ『ロミオとジュリエット』<タイムテーブルのご案内>
運命に翻弄され、短い生を熱く駆け抜けた恋人たちを描いたウィリアム・シェイクスピアの不朽の名作
1940年初演のラヴロフスキー版(初演キーロフ・バレエ)を始め、様々な振付家がバレエ化に挑戦してきたが、巨匠ケネス・マクミラン振付の本作はドラマティック・バレエに秀でたロイヤル・バレエの最良の部分を見せる決定版。プロコフィエフによる圧巻の音楽がロマンティックなパ・ド・ドゥや生き生きした群衆シーンを鮮やかに彩り、ニコラス・ジョージアディスによる重厚華麗な舞台美術によって16世紀のヴェローナが再現される。
1965年にコヴェント・ガーデンで初演されたマクミランの『ロミオとジュリエット』は、実に40分間も拍手が鳴りやまず、43回ものカーテンコールが行われるという大成功を収めた。初演を踊ったのはマーゴ・フォンテーンだが、実際にはリン・シーモアとクリストファー・ゲイブルのために振付けられた。ロイヤル・バレエにおいては400回以上も上演され、ツアー公演でも人気を集めている。20世紀バレエの最高傑作と言っても過言ではない。
数日間で大人への階段を駆け上るジュリエット、燃え上がる恋心を抑えられないロミオの高揚感が振付へと昇華したバルコニーのパ・ド・ドゥはすべてのバレエ作品のデュエットの中でも最も甘美で忘れがたい場面。ロミオにマキューシオ、ベンヴォーリオが加わった”3バカトリオ”の友情も微笑ましく、疾走感のある群衆シーンやドラマティックな旋律に乗った重厚な騎士たちの踊り、悲痛な墓場でのパ・ド・ドゥなど、名場面に事欠かない。今回は愛らしいヤスミン・ナグディと、マシュー・ボーンの『白鳥の湖』に主演して話題沸騰中のマシュー・ボールという、ロイヤル・バレエの新世代を象徴する若手プリンシパルペアが主演して、初々しく情熱的な恋に観客の胸も高鳴りっぱなしとなることだろう。
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<ロイヤル・バレエ『ロミオとジュリエット』タイムテーブル>
【振付】ケネス・マクミラン 【音楽】セルゲイ・プロコフィエフ【指揮】パーヴェル・ソローキン
【出演】ジュリエット:ヤスミン・ナグディ/ロミオ:マシュー・ボール
マキューシオ:ヴァレンティノ・ズケッティ/ティボルト:ギャリー・エイヴィス/ベンヴォーリオ:ベンジャミン・エラ/パリス:ニコル・エドモンズ
キャピュレット卿:クリストファー・サウンダーズ/キャピュレット夫人:クリスティナ・アレスティス/乳母:クリステン・マクナリー
三人の娼婦:ベアトリス・スティクス=ブルネル、ミカ・ブラッドベリ、ロマニー・パジャック
マンドリン・ダンス:マルセリーノ・サンベ/ローレンス神父:ジョナサン・ハウエルズ/ロザライン:金子扶生
2019.08.21
篠井英介、土屋アンナがシネマシーズンで 不朽の名作『ロミオとジュリエット』の世界を体感! 絶賛コメント到着!!
8月23日(金)より今シーズン11作目、今期のフィナーレを飾るロイヤル・バレエ『ロミオとジュリエット』が公開!
この度、一足先に本作を鑑賞し、英国ロイヤル・バレエ団ならではの『ロミオとジュリエット』の世界に誘われた篠井英介さんと土屋アンナさんよりコメントが到着いたしました!
■篠井英介(俳優)
マシュー・ボーンの「白鳥の湖」で見事にスワンとストレンジャーを踊り切ったマシュー・ボール。
この「ロミオとジュリエット」のロミオを踊るために生まれてきたような美しさ、初々しさ、すばらしさ。
英国ロイヤル・バレエならではの豪華で品の良い舞台に夢を見たように酔った!
■土屋アンナ(モデル、歌手、女優)
ダンサー2人の熱い表現力に引き込まれ、繊細な表情1つ1つに心を揺り動かされて最後に涙した。
この名作にきっと多くの人が感動するだろう。
シネマでのバレエは、特等席で観たような気分で幸せだった。
8月23日(金)より公開の『ロミオとジュリエット』の詳細はこちら
2019.08.16
『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2019/20』のラインナップ 全12演目発表!!
この度、本シーズン『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2018/19』に続き、『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2019/20』の劇場公開全12演目が決定!
『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2019/20』では、ロイヤル・バレエ『眠れる森の美女』やロイヤル・バレエ『白鳥の湖』、ロイヤル・オペラ『ラ・ボエーム』など人気作品12演目がラインナップ。
さらに、ロイヤル・オペラ『フィデリオ』には”キング・オブ・テノール”ヨナス・カウフマンが出演予定など、豪華出演者たちの競演にも注目です。また、ロイヤル・バレエ団では、プリンシパルの高田茜さん、平野亮一さんを始めとして、8月23日(金)から公開となる本シーズン『ロミオとジュリエット』にも出演しているファースト・ソリストの金子扶生さんなど日本人ダンサーが多数在籍。日本人ダンサーの来シーズンにおける活躍も日本で見られるチャンス!シネマシーズンならではのスペシャルな映像も楽しめる、感動のバレエとオペラを、映画館の大スクリーンでぜひご堪能下さい。
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<『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2019/2020』全12演目>
・ロイヤル・オペラ『ドン・ジョバンニ』
・ロイヤル・オペラ『ドン・パスクワ-レ』
・ロイヤル・バレエ『コンチェルト』『エニグマ変奏曲』『ライモンダ第3幕』
・ロイヤル・バレエ『コッペリア』
・ロイヤル・バレエ『眠れる森の美女』
・ロイヤル・オペラ『ラ・ボエーム』
・ロイヤル・バレエ キャシー・マーストン新作 リアム・スカーレット新作
・ロイヤル・オペラ『フィデリオ』
・ロイヤル・バレエ 『白鳥の湖』
・ロイヤル・オペラ『カヴァレリア・ルスティカーナ』『道化師』
・ロイヤル・バレエ 『ダンテ・プロジェクト』
・ロイヤル・オペラ『エレクトラ』
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2019.06.24
ロイヤル・バレエ『ウィズイン・ザ・ゴールデン・アワー』『メデューサ』『フライト・パターン』<タイムテーブルのご案内>
世界中で引っ張りだこの現代振付家3人による全く違った個性の、刺激的で、クオリティの高いダンスを堪能できるトリプル・ビル!
「ウィズイン・ザ・ゴールデン・アワー」は、「不思議の国のアリス」、「冬物語」、「パリのアメリカ人」と大ヒットを飛ばした現代の名匠、クリストファー・ウィールドンの2008年の作品。
新作「メデューサ」で初めてロイヤル・バレエに作品を創作して話題を呼んでいるシディ・ラルビ・シェルカウイは、日本でも「TeZukA」や「プルートゥ」などを演出し、大の日本の漫画好きとしても知られている。多様なバックグラウンドを持つ異才で、世界中でプロジェクトを同時進行させている。本作はギリシャ神話のメデューサの物語に基づく。
「フライト・パターン」は、カナダ出身の女性振付家クリスタル・パイトによる2017年初演の作品。本作は、戦乱から逃れようと困難な旅を続ける難民たちの姿を描いたパワフルで心に訴えかける作品で、ローレンス・オリヴィエ賞を受賞するなど高い評価を得た。パイト作品に多く見られる群舞を巧みに使い、36人のダンサーたちが忘れがたい印象を残す。
『ウィズイン・ザ・ゴールデン・アワー』『メデューサ』『フライト・パターン』
<タイムテーブル>
■『ウィズイン・ザ・ゴールデン・アワー』
【振付】クリストファー・ウィールドン
【音楽】エツィオ・ボッソ、アントニオ・ヴィヴァルディ
【衣装】ジャスパー・コンラン
【指揮】ジョナサン・ロウ
【出演】ベアトリス・スティクス=ブルネル/フランチェスカ・ヘイワード/サラ・ラム/
ワディム・ムンタギロフ/ヴァレンティノ・ズケッティ/アレクサンダー・キャンベル/
ハナ・グレンネル/金子扶生/マヤラ・マグリ/アナ=ローズ・オサリヴァン/アクリ瑠嘉/デヴィッド・ドネリー/テオ・ドゥブレイル/カルヴィン・リチャードソン
■『メデューサ』
【振付】シディ・ラルビ・シェルカウイ
【音楽】ヘンリー・パーセル
【電子音楽】オルガ・ヴォイチェホヴスカ
【衣装】オリヴィア・ポンプ
【指揮】アンドリュー・グリフィス
【出演】メデューサ:ナタリア・オシポワ/アテナ:オリヴィア・カウリー/ペルセウス:マシュー・ボール/ポセイドン:平野亮一
(ソプラノ)エイリッシュ・タイナン/(カウンターテノール)ティム・ミード/(ヴィオラ・ダ・ガンバ)市瀬礼子/(テオルボ)トビー・カー
■『フライト・パターン』
【振付】クリスタル・パイト
【音楽】ヘンリク・ミコワイ・グレツキ
【指揮】ジョナサン・ロウ
【出演】クリステン・マクナリー/マルセリーノ・サンベ/
カルヴィン・リチャードソン/ジョセフ・シセンズ/イザベラ・ガスパリーニ/ベンジャミン・エラ/アシュリー・ディーン
(ソプラノ)フランチェスカ・チエジナ
2019.06.12
オペラ『ファウスト』を初心者でもわかりやすく解説します
石川了(クラシック音楽専門TVチャンネル「クラシカ・ジャパン」編成)
【名前だけは知っている、名前だけは聞いたことがある-原作「ファウスト」】
ゲーテの戯曲『ファウスト』(全2部)は、歴史の教科書にも登場する文学作品なので、タイトルだけでも知っている方は多いと思うが、実際に読んだことのある方はどれくらいいるだろうか。
悪魔メフィストフェレスに魂を売って永遠の若さを手に入れた老博士ファウスト。彼は清純な乙女マルグリートと恋に落ちるが彼女を捨て、彼の子を宿したマルグリートは生まれたばかりのわが子を殺し、牢に繋がれ錯乱。彼女の魂は神のもとに召されていく…。
なかなか陰惨な物語だが、実は自分も原作を読んだことがなく、数あるクラシック音楽から『ファウスト』を知ったというのが正直なところ。シューベルトの歌曲『糸を紡ぐグレートヒェン』(グレートヒェンとはマルグリートの愛称)やベルリオーズの劇的物語『ファウストの劫罰』、シューマンの『ゲーテのファウストからの情景』、ワーグナーの『ファウスト』序曲、リストの『ファウスト交響曲』、ボーイトの歌劇『メフィストーフェレ』、ブゾーニの歌劇『ファウスト博士』、マーラーの交響曲第8番『千人の交響曲』第2部など、『ファウスト』が作曲家に与えた影響の大きさは計り知れない。
【作曲家グノーと言えば「アヴェ・マリア」だけど・・・】
中でも、原作の第1部をオペラ化したグノーの歌劇『ファウスト』は、物語を知る上で、ロマンティックなメロドラマとして一番わかりやすい作品ではないか。
グノーといえば、バッハ『平均律クラヴィーア曲集』第1巻第1曲の前奏曲に旋律をかぶせた美しい『アヴェ・マリア』が有名だが、このオペラも本当に音楽が美しい。オルガンの響きは天国を描き、一方で単独でも演奏されるバレエ音楽「ワルプルギスの夜」は地獄を描くなど、その色彩豊かな音楽はドラマティック。
ファウストが歌う「この清らかな住まい」やマルグリートの「宝石の歌」、メフィストフェレスの「金の小牛の歌」といった有名アリアも満載で、どんなに劇的になってもフランス語の柔らかな響きが洗練されたリリシズムを生んでいる。音楽ファンなら一度は耳にしたことのある旋律にあふれているのだ。
【メフィストフェレスの七変化?】
この映像は、英国ロイヤル・オペラで2004年の初演以来5度目となる、スコットランド生まれのデイヴィッド・マクヴィカー演出プロダクションの再演。指揮は、東京フィルハーモニー交響楽団桂冠指揮者としておなじみのイスラエル生まれのダン・エッティンガー。 ファウストにはアメリカのテノール、マイケル・ファビアーノ。メフィストフェレスにはウルグアイ生まれのバリトン、アーウィン・シュロット。マルグリートにはロシアのソプラノ、イリーナ・ルング。
原作の舞台は16世紀ドイツだが、マクヴィカー版は普仏戦争の1870年代パリに設定。ファウストとマルグリートは“キャバレー地獄”で出会い、「ワルプルギスの夜」では白いチュチュのバレリーナたちが妊婦マルグリートを愚弄しながら踊り狂う。挑発的で演劇的、ミュージカルのような流れもあり、舞台装置は豪華絢爛。19世紀フランス・オペラを代表する「グランド・オペラ」のエッセンスを満喫できる。
特に、シュロットのメフィストフェレスは、ファウストとの丁々発止もテンポよく、ファッションショーのようなさまざまなコスチュームで大活躍。「ワルプルギスの夜」での黒の女王様姿には唖然とし、休憩時間のシュロットとエッティンガーの対談はまさにロック!さすが、あのアンナ・ネトレプコの元夫だけあって、そのイケメンぶりとニヒルな微笑みはメフィストフェレスにうってつけだ。
この9月に来日する英国ロイヤル・オペラの演目でもある『ファウスト』。来日公演に行く方には予習として最適だ。来日公演に行けない方は、映画館ならではの迫力の大画面と圧巻のサウンドをたっぷりとお楽しみいただきたい。
2019.06.10
ロイヤル・オペラ『ファウスト』<タイムテーブルのご案内>
輝かしい名曲の数々。フランス・オペラの傑作、グノー《ファウスト》を豪華な舞台と魅力的なキャストで!
フランス・オペラの輝ける宝石のような傑作、グノー作曲の《ファウスト》が英国ロイヤル・オペラのシネマシーズンに登場する。悪魔メフィストフェレスとの契約で若さを取り戻したファウストは、清純な乙女マルグリートの愛を得るが、すぐに彼女を捨て絶望の淵に突き落とす。グノーはこの物語を、美しい旋律と輝かしい管弦楽で描き、音楽そのものが救済となるような奇跡のオペラが生まれた。
《ファウスト》は、秋に予定されている英国ロイヤル・オペラ来日公演の演目でもある。2004年に初演されたマクヴィカー演出の舞台はこの歌劇場を代表する名舞台だ。物語を16世紀ドイツから、オペラが初演されたパリの第二帝政期に移し、普仏戦争を目前にした文化の爛熟と退廃を感じさせる美しい舞台に仕上げている。出演歌手たちも豪華。悪魔メフィストフェレスには艶のある美声のアーウィン・シュロット。情熱的でエレガントなファウストにはMETでも活躍するマイケル・ファビアーノ。美しく一途なマルグリートにイリーナ・ルング。マルグリートの兄ヴァランティンは圧倒的な存在感のステファン・デグー。ダン・エッティンガーの指揮も迫力だ。
《ファウスト》の聴きどころは数え切れない。ヴァランティンのアリア「祖国を離れる前に」、メフィストフェレスの「金の小牛のロンド」、ファウストが歌う「この清らかな住まい」、マルグリートの「宝石の歌」。有名なワルツや勇壮な合唱曲もある。そしてフィナーレを飾るマルグリート、ファウスト、メフィストフェレスの三重唱は、オペラの歴史に刻まれたもっとも美しい瞬間の一つだろう。
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【演出】デイビット・マクヴィカー
【音楽】シャルル・グノー
【指揮】ダン・エッティンガー
【出演】マイケル・ファビアーノ(ファウスト)、アーウィン・シュロット(メフィストフェレス)、イリーナ・ルング(マルグリート)、ステファン・デグー(ヴァランティン)
2019.05.24
ロイヤル・オペラ『運命の力』<タイムテーブルのご案内>
これ以上はありえない豪華キャスト!!ロンドンで熱狂を巻き起こしたネトレプコとカウフマンの《運命の力》が登場!
3月21日の初日、英国ロイヤル・オペラのロビーは異様な熱気に包まれていた。今やキャリアの頂点にあるオペラ界の2大スター、ソプラノのアンナ・ネトレプコとテノールのヨナス・カウフマンがヴェルディの《運命の力》で共演するのだ。ロンドンで二人が一緒に歌うのは11年前の《椿姫》以来。一人でもソールド・アウト必至のスターが、最高の演目で共演とあって、チケットの争奪戦は熾烈を極めた。そして初日の幕が開き、「この公演の実現はありえない幸運」「スター達の輝かしい声」などの絶賛の声が相次いでいる。
ヴェルディの《運命の力》は1862年にロシア、サンクトペテルブルクの帝室歌劇場で初演された。美しい旋律で有名な序曲から始まり、過酷な〈運命〉に翻弄される主人公たちのドラマが息をもつかせぬ展開となる。18世紀スペインを舞台にした、貴族の娘レオノーラとインカ帝国の血を引くドン・アルヴァーロの悲恋物語だ。ネトレプコが情感豊かに愛ゆえに苦悩するヒロインを歌い、カウフマンはドン・アルヴァーロの暗い情熱を体当たりで演じる。敵役であるレオノーラの兄ドン・カルロに最高のバリトン歌手ルドヴィク・テジエ、僧院長にはフェルッチョ・フルラネットを迎え、ロイヤル・オペラの音楽監督パッパーノの指揮というこれ以上ない布陣だ。演出はクリストフ・ロイ。映像を巧みに使い、モダンな切り口ながら敬虔な精神性を損なわない舞台が評価された。
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<ロイヤル・オペラ『運命の力』タイムテーブル>
【作曲】ジュゼッペ・ヴェルディ
【演出】クリストフ・ロイ
【指揮】アントニオ・パッパーノ
【出演】アンナ・ネトレプコ(レオノーラ)、ヨナス・カウフマン(ドン・アルヴァーロ)、ルドヴィク・テジエ(ドン・カルロ)他
2019.05.17
【ロイヤル・バレエ】トリプル・ビル『ウィズイン・ザ・ゴールデン・アワー』 /『メデューサ』 / 『フライト・パターン』解説文が到着!
世界中で引っ張りだこの現代振付家3人による話題のトリプル・ビル『ウィズイン・ザ・ゴールデン・アワー』 /『メデューサ』 / 『フライト・パターン』の解説文が到着!
『フライト・パターン』は、カナダ出身の女性振付家クリスタル・パイトによる2017年初演の作品。パリ・オペラ座に振付けた『シーズンズ・カノン』がブノワ賞を受賞するなど、今最も注目を集める振付家の一人で、アソシエイト・コレオグラファーを務めるNDT(ネザーランド・ダンス・シアター)の6月に予定されている来日公演でも作品が上演される。『フライト・パターン』は、戦乱から逃れようと困難な旅を続ける難民たちの姿を描いたパワフルで心に訴えかける作品で、ローレンス・オリヴィエ賞を受賞するなど高い評価を得た。パイト作品に多く見られる群舞を巧みに使い、36人のダンサーたちが忘れがたい印象を残す。
『ウィズイン・ザ・ゴールデン・アワー』は、『不思議の国のアリス』、『冬物語』、『パリのアメリカ人』と大ヒットを飛ばした現代の名匠、クリストファー・ウィールドンの2008年の作品。サンフランシスコ・バレエの75周年を記念して創作され、純粋なダンスの美しさが楽しめる。衣装はジャズパー・コンランによるもので、弦楽による音楽はイタリアの作曲家エツィオ・ボッソとヴィヴァルディ。平野亮一、ローレン・カスバートソン、サラ・ラム、ワディム・ムンタギロフらによる3つのパ・ド・ドゥを中心に、7組のダンサーが華麗に踊り、ウィールドンのアンサンブルの使い方の巧みさが光る。
新作『メデューサ』で初めてロイヤル・バレエに作品を創作して話題を呼んでいるシディ・ラルビ・シェルカウイは、日本でも「TeZukA」や「プルートゥ」などを演出し、大の日本の漫画好きとしても知られている。フラメンコのマリア・パヘスからアクラム・カーン、さらに少林寺の武僧たちともコラボレーションし、多様なバックグラウンドを持つ異才で、現在はロイヤル・フランダース・バレエの芸術監督を務めながら世界中でプロジェクトを同時進行させている。ギリシャ神話のメデューサの物語に基づく本作は、現代作品にも才能を発揮しているナタリア・オシポワをメデューサ役に起用し、マシュー・ボールが演じるペルセウス、平野亮一によるポセイドンなど彼女を取り巻くキャラクターが、独特のうねるようなスタイルで鮮やかに描かれる。
いずれも全く違った個性をもつ3本の作品は刺激的で、ロイヤル・バレエのトップスターによる最先端で、クオリティの高いダンスを堪能できるトリプル・ビル。ダンスの最前線を大画面で体験してほしい。
2019.05.17
オペラ『運命の力』を初心者でもわかりやすく解説します
石川了(クラシック音楽専門TVチャンネル「クラシカ・ジャパン」編成)
<歌唱・容姿・演技の三拍子揃ったスーパースターが奇跡の競演!
現代最高のソプラノ、アンナ・ネトレプコ&“キング・オブ・テノール”ヨナス・カウフマンが贈る2019年オペラ界最大の話題作『運命の力』>
【誰もが耳にしたことがある旋律】
ヴェルディの歌劇「運命の力」といえば、とにかく序曲が有名だ。オーケストラのコンサートでは単独で取り上げられることも多く、吹奏楽にも編曲されている。テレビ番組のBGMで使われることも。あの冒頭の“タラララ、タラララ、タラララ~ラララ”という旋律は、誰もが耳にしたことがあるに違いない。
ただ、オペラ全幕にお目にかかることは滅多にない。ヴェルディ中期から後期に至る過渡期の作品のせいか、「リゴレット」「椿姫」「イル・トロヴァトーレ」といった中期の傑作や「アイーダ」以降の後期作品に比べると、確かに存在感が薄い。尺も長く、話の展開も冗長な部分もある。主役級には力強いドラマティックな声が求められるため、歌える歌手が少ないことも理由だろう。
しかし、そんなデメリットを全く感じさせない、むしろもっと歌手たちを観て聴いていたい!と思わせるのが、この英国ロイヤル・オペラ公演。人気実力ともに現代最高のソプラノ、アンナ・ネトレプコと、甘いマスクの“キング・オブ・テノール”ヨナス・カウフマンが、主役のレオノーラとドン・アルヴァーロを歌っているのだ。
この美男美女の二人は、意外にオペラでの共演が少ない。クラシカ・ジャパンでは彼らが出演した2011年ベルリンでの野外ガラを放送しているが、あくまでこれはコンサート。2014年バイエルン州立歌劇場『マノン・レスコー』では本番直前にネトレプコが降板。筆者は、2008年1月の英国ロイヤル・オペラ『椿姫』で、ネトレプコとカウフマンの共演を観ており、今回はおそらくロンドンではそれ以来の快挙だろう。よくぞ二人ともキャンセルせずに共演が実現しました!
【カウフマンの独壇場&魅了するネトレプコ!】
物語の舞台は、18世紀半ばのセビリアとオーストリア継承戦争の戦場となっているイタリア。レオノーラの父カラトラーヴァ侯爵は、彼女の恋人ドン・アルヴァーロにインカの血が入っていることを理由に二人の結婚を認めない。レオノーラとドン・アルヴァーロが駆け落ちしようとしているところに、銃が暴発して侯爵が死に、彼女の兄ドン・カルロは家族の不名誉を晴らすべく復讐の旅に出るが、決闘でドン・アルヴァーロに殺され、隠遁していたレオノーラは瀕死の兄に殺され、ドン・アルヴァーロは自らの不幸な運命を呪う。
この映像では、何といってもカウフマンのドン・アルヴァーロが必見だ。テノールなのにちょっと暗めの声色がドン・アルヴァーロの悲しい運命を象徴しているかのよう。そこに、情熱的な歌唱と輝かしい高音、そして苦悩に満ちた表情が加わり、まさにカウフマンの独壇場だ。やはり彼は苦悩する男がよく似合う。
ネトレプコも“歌う女優”の本領発揮。彼女が凄いのは、本番までに体型や外見をきっちり調整してくるところ。もちろん表情や立ち振る舞いも美しく、声も力強く、歌の安定感も抜群だ。筆者が個人的に好きなのは、彼女の死に際の演技とカーテンコール。今回のレオノーラもさりげなくリアルに軽いショックを観客に与える死に方をしながら、その数十秒後のカーテンコールで満面の笑みで歓声に応える無邪気なネトレプコに、多くの観客は魅了されてしまうのではないだろうか。
ドン・カルロにルドヴィク・テジエ、グァルディアーノ神父はフェルッチョ・フルラネット、狂言廻し的なメリトーネ修道士にはアレッサンドロ・コルベッリなど、脇役に至るまで万全の配役。考えてみると、このオペラは全体的に男性的な色合いが強く、その中でレオノーラが紅一点という構成なので、合唱含め、男声が充実しているとオペラ全体が締まる。特に、ドン・アルヴァーロとドン・カルロは、二人の出会いから2度の決闘まで絡むシーンが多く、カウフマンとテジエの迫真の演技と歌唱が見どころだ。
【マエストロのパワー炸裂!ヴェルディへの熱い想い 】
この公演のもう一人の主役が、オーケストラを指揮するアントニオ・パッパーノ。彼の血がたぎるような音楽作りがダイナミックで、愛と友情、名誉、復讐、戦争、宗教を描いたヴェルディの音楽に計り知れないエネルギーを与えている。パッパーノのピアノを弾きながらの音楽解説も、今回はいつも以上にパワーが炸裂しているので、マエストロの熱きヴェルディへの想いをガッチリと受け止めてみよう。
オペラを大河ドラマと考えると、歌唱・容姿・演技の三拍子揃ったスーパースターは、オペラを圧倒的に面白くしていると思う。やはり見た目は重要だ。今回はネトレプコとカウフマンが、この全く救いのない悲劇を映画的な興奮に誘ってくれたと言えよう。
因みに、ネトレプコとカウフマンの次の共演予定は、2021年ザルツブルク・イースター音楽祭「トゥーランドット」だとか。指揮はクリスティアン・ティ-レマン。これも実現したら凄いことになりそうだ。
2019.04.26
ロイヤル・バレエ『ドン・キホーテ』<タイムテーブルのご案内>
元プリンシパルで世界的スター、カルロス・アコスタが振付けたバレエの楽しさが詰まった陽気な作品。
ガラ公演でも頻繁に上演される3幕の結婚式の華やかなパ・ド・ドゥには、32回転のグラン・フェッテ、男性ダンサーのダイナミックな跳躍など見せ場がたっぷりある一方、2幕では、森の女王や妖精たちが登場し美しいクラシック・バレエの粋が味わえる。闘牛士や踊り子、ジプシーなど生き生きとしてパワフルな登場人物たちのコミカルなやり取りとスピーディな場面展開が、憂鬱な気持ちも吹き飛ばしてくれる最高の娯楽作だ。日本人プリンシパルの高田茜が主演するのも話題である。
英国ロイヤル・バレエ芸術監督ケヴィン・オヘアは、就任後の最初の大きな仕事として、しばらく上演が途絶えていた『ドン・キホーテ』の新しいプロダクションを構想。2013年、バレエ団を代表する人気ダンサー、カルロス・アコスタが抜擢され初の全幕作品に取り組み、初演では自ら主演した。舞台上でダンサーたちが賑やかな掛け声をかけ、テーブルや馬車の上でも踊り、スペインの街角の雰囲気を出すために、街の人々もたっぷりと踊りを見せる等、陽気な娯楽性をさらに追求した。また2幕では、ロマンティックなパ・ド・ドゥが加えられたほか、ジプシーの野営地では舞台上にミュージシャンが登場して演奏し、新しい振付も登場してエキゾチックな雰囲気を盛り上げた。舞台装置が出演者によって動かされることでさらに活気ある舞台に仕上がり、3幕のフィナーレもより祝祭性の高いものに。ドラマティックな演技を得意とするロイヤル・バレエのダンサーたちは作品に厚みを加え、一人一人の物語がくっきりと浮かび上がってより魅力的な舞台となった。
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【振付】マリウス・プティパ 【追加振付】カルロス・アコスタ
【音楽】レオン・ミンクス 【指揮】マーティン・イエーツ
【出演】
ドン・キホーテ:クリストファー・サウンダーズ、サンチョ・パンサ:フィリップ・モーズリー、
キトリ:高田茜、バジル:アレクサンダー・キャンベル
エスパーダ:ヴァレンティノ・ズケッティ、メルセデス:マヤラ・マグリ、
キトリの友人:崔由姫、ベアトリス・スティクス=ブルネル
キューピッド:アナ・ローズ・オサリヴァン、ドルシネア:ララ・ターク、
ドリアードの女王:金子扶生
ロレンツォ(キトリの父):ギャリー・エイヴィス、ガマーシュ:トーマス・ホワイトヘッド
2019.04.26
ロイヤル・オペラ『運命の力』現地レポートが到着!~オールスターキャストで実現した「偉大な公演」~
A・ネトレプコ、J・カウフマンという現在のオペラ界最大のスターに、現代最高のヴェルディ・バリトンと評価されるL・テジエ、イタリアを代表する現代最高のバスのひとりF・フルラネットら望みうる限りのドリームキャストを揃え、そしてヴェルディの解釈には定評のある音楽監督のA・パッパーノが指揮をとったロイヤル・オペラ『運命の力』。
一般発売前にチケットがほぼ完売するという異常事態が起きた今シーズン随一の話題作を、音楽評論家の加藤浩子氏が、日本公開に先駆けて余すところなくレポート!
オールスターキャストで実現した「偉大な公演」〜《運命の力》公演レポート
ヴェルディの《運命の力》は、タイトルや序曲がよく知られているわりには名演に出会うことが難しいオペラである。力のある歌手が何人も必要なことに加え、物語が複雑に感じられることも一因かもしれない。
だが、メインのストーリーは単純である。大貴族の令嬢レオノーラとインカ帝国の血を引く混血児のドン・アルヴァーロが愛し合い、駆け落ちしようとして失敗。その際にアルヴァーロがレオノーラの父の侯爵を誤って殺してしまったため、侯爵の息子にしてレオノーラの兄であるドン・カルロに追われる身になる。合間に息抜きをかねたユーモラスな情景が挟まれるが、いちばんのテーマは復讐だ。アルヴァーロはカルロに決闘を挑まれて殺してしまい、侯爵家の血が絶える。望まないのに侯爵家を滅ぼしてしまったアルヴァーロ。それこそが「運命の力」というわけだ。
暗い物語のなかの一筋の救いが、アルヴァーロの恋人レオノーラの存在。最後は兄の手にかかって命を落としてしまうが、天使のように清らかな生き方を貫く。ヴェルディの音楽は、劇的な物語を時にダイナミックに時に華麗に表現する。次から次へと現れる、息長く雄大で情熱的な旋律は、本作の最大の魅力だ。「歌えば歌うほど、このオペラが好きになるの。声にとってはとても『歌いやすく(=comfortable)』書かれているんです」(ロイヤルオペラのトレイラー、および公演前のプレイベントにおけるネトレプコの発言)。
ロイヤルオペラでこの3月にプレミエを迎えた《運命の力》は、A・ネトレプコ、J・カウフマンという現在のオペラ界最大のスターに、現代最高のヴェルディ・バリトンと評価されるL・テジエ、イタリアを代表する現代最高のバスのひとりF・フルラネットら望みうる限りのドリームキャストを揃え、しかもヴェルディの解釈には定評のある音楽監督のA・パッパーノが指揮をとるとあって、今シーズン随一の話題公演となった。加えてネトレプコとカウフマンの顔合わせは全10公演のうち5公演だったため、彼らが出る公演のチケットは一般発売前にほぼ完売という異常事態が出現した。
果たして、公演は素晴らしいものだった。「偉大な」と形容してもいいかもしれない。とにかく、すべてが揃っていた。歌手も、指揮も、演出も。
歌手たちはまさに適材適所。主役級がすべて声楽的な面で役柄にあっており、このキャスティングが彼らの人気に負うものではなく演目にふさわしい「旬」のものであることを痛感した。レオノーラは今回が初役というネトレプコは、近年増した声量と、伸びやかでクリーミーな高音を生かし、第2幕の修道院に入る決意を歌うアリア「とうとう着いた、神よ感謝します」や、第4幕冒頭の、心の平和を願う有名なアリア「神よ、平和を与え給え」で客席を魅了。第2幕幕切れの修道院に入るシーンでの合唱に伴われたソロ「天使のなかの聖処女よ」では、光り輝くヴェールのような奇跡的な音楽が出現した。
悲劇の主人公アルヴァーロを歌ったカウフマンは、翳りのある美声に密度が加わり、声量も増してまさに充実の時を迎えた印象。彼の声に聴かれる一種悲壮な音色は、悲劇的な運命に巻き込まれた純粋な青年にぴったりだ。第3幕のアリア「君よ天使の腕に抱かれて」は、心理的な表現を得意とするカウフマンならではの、アルヴァーロの悲しみが心に響く名唱となった。
カルロを演じたテジエは、主役3人のなかではもっともイタリア的な輝かしく開放的な美声を持ち、イタリア・オペラを聴く快楽に浸らせてくれる。第4幕のアルヴァーロとの決闘の二重唱では、「運命の力」や「許し」を暗示する切なくも美しい旋律が2人のパワフルな声に乗って応酬する、白熱のクライマックスが出現した。
僧侶役を担当した2人のイタリア人バス、修道院長のフルラネットとメリトーネ修道士役のコルベッリも、それぞれの個性を生かした名演。フルラネットの荘重さ、コルベッリの飄々とした持ち味が、役柄にぴたりとはまっていた。また冒頭でアルヴァーロに殺されるカラトラーヴァ侯爵には、1940年生まれで半世紀以上のキャリアを誇る大ベテランのロバート・ロイドが扮し、健在ぶりを示した。
しかし音楽面での最高の立役者は、指揮のアントニオ・パッパーノだろう。ネトレプコはプレトークでパッパーノの「音楽への愛、歌手への愛」を強調していたが、そのことを想像させてくれる音楽作りだった。本作の醍醐味である大きなうねりと豊かなスケール感をたっぷりと味あわせてくれつつ、歌手の「歌」も存分に聴かせる。上演時間が長く、本筋と関係のないエピソードが盛り込まれるため、指揮者によってはだれてしまうこともある《運命の力》という作品が、これほど豊饒な音楽に満ちていると教えてくれる指揮はめったにない。そして劇的な瞬間を演出するオーケストラの鮮やかなことといったら!第4幕の大詰めで、レオノーラがドン・カルロの剣に倒れる箇所、兄妹の再会と殺人という究極の瞬間が、ひらめく剣の輝きが見えるように鋭利に聴こえたのは初めてだった。
クリストフ・ロイの演出(オランダ国立歌劇場との共同制作)は、舞台を20世紀前半におきかえ、人間関係をていねいに描いたわかりやすいもの。全編は、戦場という設定の第3幕を除いて同じ部屋のなかで演じられるが、この限られた空間が、登場人物の人間関係の逼塞感〜カラトラーヴァ侯爵一家の家族関係や人種間の軋轢〜に連動しているように感じられた。序曲が演奏されている間、舞台ではレオノーラの少女時代の家族関係がパントマイムで演じられる。幼いころから信心深いレオノーラ、ちょっとぐれているようなドン・カルロ(成人してからの彼はアルコールを手放せない)、そして厳格な父の侯爵。この伏線があると、全体の見通しがぐっとよくなる。
一方、スペクタクルな群衆場面は、舞台後方の扉向こうに設けられた階段も活用しつつ、躍動的に演出されていた。多くの場面を見守る磔刑のキリストの十字架も、作品の宗教性を訴えて効果的だった。伝統的な演出で「歌」のオペラとして演出されることがまだまだ多い《運命の力》だが、このくらい演劇性があったほうが、物語が理解しやすくなる。
旬の歌手と演出家、そして作品を把握した指揮者。すべてに恵まれたロイヤルオペラの《運命の力》は、これぞオペラ!の快感に心ゆくまで浸らせてくれた。ぜひ、一人でも多くの方に見ていただきたい。オペラってすばらしい、と思っていただけることは間違いないから。
2019.04.03
ロイヤル・オペラ『椿姫』<タイムテーブルのご案内>
心揺さぶられるオペラの最高傑作―ヴェルディの『椿姫』を、英国ロイヤル・オペラの人気プロダクションで観る!
19世紀半ばのパリ、高級娼婦ヴィオレッタは貴族や富豪たちの寵愛をほしいままにしていた。だが金銭ではなく愛を捧げる青年、アルフレードとの真実の愛にヴィオレッタが目覚めた時、彼女の人生は引き返すことのできない悲劇へと進んでいく…。イタリア・オペラの巨匠ヴェルディが作曲した《椿姫》は、いつの時代も変わらずに私たちの心を揺さぶる。
英国ロイヤル・オペラの『椿姫』は、巨匠リチャード・エアが25年前に演出し、それ以来上演され続けている人気のプロダクション。エアの演出は、気品あるスタイリッシュな美しさで登場人物たちのドラマを際立たせる。ヴィオレッタ役は、歌と演技の両方に最高の技量が求められ、ソプラノ歌手なら誰もが一度は歌いたいと夢見ている役。これまでもゲオルギュー、フレミング、ネトレプコなどのスター歌手たちが英国ロイヤルの舞台を飾ってきた。今回出演するエルモネラ・ヤオは、この役を200回以上も演じているというヴィオレッタ歌い。その稀にみる歌唱テクニックに支えられた迫力の演技は、芝居だとは到底思えない真実味をそなえている。第2幕のヴィオレッタとジェルモンの対話、そして第3幕の死の床にあるヴィオレッタの絶唱は、観客の熱い涙を誘う。恋人アルフレードに情熱的なテノール、チャールズ・カストロノボ、そしてアルフレードの父ジェルモンにはプラシド・ドミンゴと共演者も豪華な顔ぶれ。もっとも感動的な『椿姫』の舞台がここに生まれた。
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<ロイヤル・オペラ『椿姫』タイムテーブル>
【作曲】ジュゼッペ・ヴェルディ
【演出】リチャード・エア
【指揮】アントネッロ・マナコルダ
【出演】エルモネラ・ヤオ(ヴィオレッタ)、チャールズ・カストロノボ(アルフレード・ジェルモン)、プラシド・ドミンゴ(ジョルジョ・ジェルモン)他
2019.04.02
オペラ『椿姫』を初心者でもわかりやすく解説します
石川了(クラシック音楽専門TVチャンネル「クラシカ・ジャパン」編成)
<涙なくしては見られない最高のメロドラマ>
【衰え知らずのプラシド・ドミンゴ!】
プラシド・ドミンゴといえば、故ルチアーノ・パヴァロッティ、ホセ・カレーラスと並ぶ「三大テノール」の一人としてお馴染みですよね。そんな彼も、現在78歳。普通に考えて悠々自適の引退生活を送っていてもおかしくない年齢ですが、ドミンゴの舞台への情熱は衰えることなく、何と近年は声域を低くし、バリトンの役柄でまだまだバリバリの現役として歌い続けています。
この英国ロイヤル・オペラ『椿姫』でも、ドミンゴはアルフレードではなく、その父親ジェルモンを歌っています。1980年代にフランコ・ゼッフィレッリ監督の映画『ラ・トラヴィアータ – 椿姫 -』(劇場公開時タイトルは『トラヴィアータ 1985・椿姫』)ではテノールのアルフレードを歌い、今回はバリトンのジェルモンを歌う。その両方が映像で残されているアーティストも皆無ではないでしょうか。
ドミンゴの凄いところは、俳優のような演技力と、どんな舞台でも破綻しない安定した歌唱力。この『椿姫』では何といってもジェルモンの有名なアリア『プロヴァンスの海と陸』が見どころ。声はやはりテノールだと思うのですが、語り口の上手さ、ちょっとした泣きの入るところなど、まさにドミンゴ!白髪で、年齢を重ねた彫りの深い顔つきも、年老いた父親のリアルさが出ていて目が離せません。
【映画監督としても知られる演出家 リチャード・エア】
このリチャード・エア演出版は、1994年ゲオルグ・ショルティの指揮で初演された伝統のプロクダション。初演でヴィオレッタを演じたのがアンジェラ・ゲオルギューで、英国ロイヤル・オペラではルキノ・ヴィスコンティ以来27年ぶりの新演出ということで、当時大きな話題を呼び大成功を収めました。
2019年で25周年というプロダクションの人気の秘密は、『アイリス』『あるスキャンダルの覚え書き』など映画監督としても知られるエアのリアルな人間描写ではないでしょうか。読み替えをしないオーソドックスな展開の中で、例えば第2幕のフローラのパーティーの女性たちが高級娼婦で、ここで踊るロマの女性たちとの(女性同士の)微妙な関係など、なかなか細かいところがリアル。ヴィオレッタの常に持っている孤独、愛するアルフレードとの微妙な距離感などは、映画『アイリス』で描かれたアイリス・マードックと彼女を複雑な想いで介護する夫ジョン・ベイリーとの冷徹な描写にも共通しています。
今回の上映の休憩時に、エアと美術のボブ・クロウリーが、初演時のショルティとの関係や制作エピソードを語っていますが、このプロダクションを理解する手がかりにもなっていますのでお見逃しなく。
【ヴィオレッタ歌い~ダイナミックな歌唱と美貌のエルモネラ・ヤオ】
私自身、2008年1月に、このプロダクション再演の初日を現地で観ています。ヴィオレッタは出産前のアンナ・ネトレプコ、アルフレードはまだそれほど有名ではなかったヨナス・カウフマン、そしてジェルモンには今は亡きディミトリ・ホロストフスキーという夢のようなキャスト。当日券限定66枚を朝から並んでゲットし、あまりの素晴らしさに大号泣した記憶があります。
ゲオルギューから始まり、多くのソプラノが歌い継いできたエア版ヴィオレッタ。今回演じるのは、ダイナミックな歌唱と美貌で現在大人気のアルバニア人ソプラノ、エルモネラ・ヤオ。第1幕から薄幸な娼婦にぴったりの儚い美しさが魅力。第3幕の死に様もドラマティック。近年オペラは映像公開されるので、歌手にも声だけでなく演技・容姿が求められる時代。そういう意味でヤオは、今の時代に求められるものを持って生まれたスターと言えます。
19世紀パリの社交界を舞台に、高級娼婦ヴィオレッタが青年アルフレードと出会い、彼を愛しながら別れを決意、一人寂しく死んでいくという『椿姫』は、『リゴレット』『イル・トロヴァトーレ』と並ぶヴェルディ中期三部作です。この3作に共通するのは、主人公が社会の底辺の人たちであること(『リゴレット』は道化、『イル・トロヴァトーレ』はロマの吟遊詩人)。当時ヴェルディは、父親違いの3児の母でもあったソプラノ歌手ジュゼッピーナ・ストレッポーニと同棲しており、敬虔なカトリック信者が多いイタリアでは冷たい視線を浴びていました。『椿姫』は、このようなヴェルディとジュゼッピーナの境遇が反映されているとも言われています。
オペラを観たことない人に、私が最初にオススメしている作品が、この『椿姫』。音楽が美しいし、ストーリーもわかりやすい。さらにそれほど長くない。言葉がわからなくても、ヴェルディの音楽が描く一人の女性の悲恋が美しく切なく、涙なくしては見られない最高のメロドラマ。それが『椿姫』なのです。
2019.03.14
ロイヤル・オペラ『スペードの女王』<タイムテーブルのご案内>
ロシアの小説家プーシキンの短編小説『スペードの女王』をもとに、
チャイコフスキーとその弟がよりドラマティックに作り替えた野心的なオペラ。
貧しい兵士ゲルマンはリーザという美しい女性と恋に落ちる。
しかし、リーザは彼の友人のエレツキー公爵の婚約者だった―。
手に入れたいのは愛か?成功か?
若い士官ゲルマンは、伯爵家の娘リーザに燃えるような恋をしている。だがリーザにはエレツキー公爵という婚約者がいた。ゲルマンは身分違いの恋を成就させるために、賭け事に必ず勝てる3枚のカードの秘密をリーザの祖母、伯爵夫人から聞き出そうとするのだが…。
帝政ロシアのサンクトペテルブルクを舞台に、野心に満ちた青年士官が狂気に取り憑かれ、自分と恋人を破滅へ追い込むまでを描いた名作。プーシキンの小説を原作にチャイコフスキーがオペラ化した。《白鳥の湖》《くるみ割り人形》《眠りの森の美女》などのバレエや、オペラ《エフゲニー・オネーギン》でおなじみの優美な音楽に加え、悪徳をはらんだドラマチックな展開が息をもつかせない。
英国ロイヤル・オペラの《スペードの女王》は、ノルウェー出身の売れっ子演出家ステファン・ヘアハイムが手がけ大評判になったプロダクションの上演である。ヘアハイムは舞台にチャイコフスキーを登場させ、この悲劇を作曲家自身の不幸と重ね合わせて読み解いた。スター歌手たちの出演も魅力だ。ゲルマン役にはアレクサンドルス・アントネンコに代わりセルゲイ・ポリャコフ、そして今回の演出ではチャイコフスキー役も兼ねるエレツキー公爵役に演技派のウラディーミル・ストヤノフ、美貌のリーザにエヴァ=マリア・ウェストブロック、そして老伯爵夫人役にフェシリティ・パーマーが出演する。パッパーノの指揮はチャイコフスキーのドラマを浮き彫りにしてくれるだろう。
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<ロイヤル・オペラ『スペードの女王』タイムテーブル>
【作曲】ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
【演出】ステファン・ヘアハイム
【指揮】アントニオ・パッパーノ
【出演】セルゲイ・ポリャコフ(ゲルマン)、ウラディーミル・ストヤノフ(エレツキー公爵)
エヴァ=マリア・ウェストブロック(リーザ)、フェシリティ・パーマー(伯爵夫人)
2019.03.13
オペラ『スペードの女王』を初心者でもわかりやすく解説します
石川了(クラシック音楽専門TVチャンネル「クラシカ・ジャパン」編成)
<なぜ、どうしようもない男(ゲルマン)に惚れてしまうのか?>
【賭博の必勝法】
チャイコフスキーが亡くなる3年前の1890年に発表した『スペードの女王』。チャイコフスキーのオペラといえば、作曲家30代後半の『エフゲニー・オネーギン』(1879年初演)の方が有名かもしれませんが、ちょうど50歳の時のこの作品も、近年ではザルツブルク音楽祭などさまざまな歌劇場や音楽祭で取り上げられる人気作です。
この映像は、ノルウェーの鬼才ステファン・ヘアハイムが演出し、2016年にマリス・ヤンソンス指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団で初演された、オランダ国立歌劇場と英国ロイヤル・オペラハウスの共同プロダクション。ロンドン公演の指揮は、もちろん英国ロイヤル・オペラが誇る音楽監督アントニオ・パッパーノです。
原作は、1834年に発表されたロシアの国民的作家アレクサンドル・プーシキンの中編小説。
貧しいゲルマンは純情な乙女リーザの恋心を利用し、彼女の後見人で「スペードの女王」と呼ばれた老伯爵夫人から賭博に必勝する秘訣を聞き出そうとしますが、誤って殺してしまいます。その後、伯爵夫人が夢枕に立ち、カードの秘密「3、7、エース」をゲルマンに教えると、彼はリーザを捨て、賭博場に向かいます。ゲルマンは「3、7」と賭けて勝ち続けますが、最後の勝負でエースに賭けたはずの手には、なぜかスペードの女王が…。
プーシキンはこの作品で、人間のエゴや野心、当時の新たな資本主義社会を、幻想とリアリズムで描き、後のゴーリキーやドストエフスキーに大きな影響を与えました。
オペラは、エレツキー公爵というリーザの婚約者を創造し、エレツキー公爵はリーザを愛し、彼女はゲルマンを愛するという三角関係を新たに設定。原作ではリーザは別の男性と結婚しますが、オペラでは彼女はゲルマンの本性を知って絶望し自殺します。作曲家の弟モデストによるオペラ台本は、原作の持つ社会性を重視するのではなく、ヒロインのリーザに、より多くのドラマ性を持たせたと言ってもよいでしょう。
【チャイコフスキーの絶頂期】
オペラ『スペードの女王』は、何といってもチャイコフスキー絶頂期の美しくダイナミックな音楽が見どころ。この作品の前後にはバレエの傑作『眠れる森の美女』と『くるみ割り人形』が作曲され、バレエ・ファンにはそれらの面影も見えてくるのではないでしょうか。メランコリックで、時にホラーの要素も醸し出し、18世紀の音楽様式も登場するなど、『スペードの女王』はチャイコフスキーの壮大な実験の場であったと言えるかもしれません。
パッパーノは、切れ味鋭い怒涛のカンタービレで、この陰惨な物語を力強く牽引。オペラの悲劇性と怪奇性を高める、その音楽作りは圧倒的です。幕間の彼のピアノ付き音楽解説では、パッパーノのカンタービレがなぜこんなに素晴らしいのかをご理解いただけると思いますので、絶対にお見逃しなく。
【同性愛に苦しんだチャイコフスキー】
この映像では、チャイコフスキー本人も登場し、一人の歌手がエレツキー公爵とチャイコフスキーの二役を演じます。2016年のオランダ公演同様、ロシアのバリトン歌手ウラディーミル・ストヤノフが、チャイコフスキーの風貌そのままにエレツキー公爵を演じ、冒頭からラストまで出ずっぱりの大熱演。このオペラの一番美しいエレツキー公爵のアリア「私は貴女を愛しています」も必見です。
チャイコフスキーが同性愛者であったことは広く知られていますが、このオペラを作曲しているとき、彼はゲルマン役のテノール歌手に夢中でした。この演出では、その同性愛に苦しみながら『スペードの女王』を作曲するチャイコフスキーの姿が、本来の物語と同時並行で描かれているのもポイント。ステージに置かれた鳥籠のオルゴールからは『魔笛』が流れ、チャイコフスキーのモーツァルトへの敬愛ぶりも暗示。ヘアハイムによる、こだわりのチャイコフスキー像にも注目してみてください。
なぜリーザは、お金も立場もあって人間的にも素晴らしいエレツキー伯爵ではなく、どうしようもないゲルマンに惚れてしまうのか。破滅と知りながら惹かれてしまう人間の性は、どの時代も変わることなく存在するのだなあと、この作品を観て思ってしまいます。
まさにオペラには人生が詰まっている。だからこそ、人はオペラにハマるのかもしれませんね。
2019.01.31
TOHOシネマズ 日本橋、営業中止のお知らせ
TOHOシネマズ 日本橋、営業中止のお知らせ
TOHOシネマズ日本橋は、設備点検のため、1月26日(土)18:00以降より営業を中止させていただいております。
営業再開の見込みに関しましては、分かり次第TOHOシネマズ日本橋の劇場ホームページにて、お知らせいたします。
2019.01.29
ロイヤル・バレエ『くるみ割り人形』<タイムテーブルのご案内>
チャイコフスキーの美しい旋律に乗せて、クリスマスの魔法と少女クララの成長が描かれる。
お菓子の国での金平糖の精の甘くキラキラした踊りは女の子なら誰もが憧れる夢の世界。
新しい主要キャストたちで贈る話題のバレエ。
冬の風物詩として大人から子供まで世界中で大人気の『くるみ割り人形』。チャイコフスキーの美しいメロディに乗せて、夢と魔法がいっぱいつまったこの作品。クラシック・バレエの粋である華やかなパ・ド・ドゥやキラキラした群舞に加え、真夜中に大きくなるクリスマス・ツリー、ねずみの王様との戦い、超絶技巧のキャラクターダンスとバレエの楽しさが揃っている。1984年初演のピーター・ライト版は、数ある『くるみ割り人形』の決定版ともいえる名作で、ホフマンの原作の要素を加えてドロッセルマイヤーの甥ハンス・ピーターが登場。クララとともに大活躍する。ロイヤル・バレエきっての人気作品で現地ではチケット争奪戦が繰り広げられている。
ロイヤル・オペラハウス・シネマシーズンではおなじみの『くるみ割り人形』だが今回は出演者を一新。クララには愛らしい新星アナ・ローズ・オサリヴァン、ハンス・ピーターにはゴムまりのような跳躍力とテクニックを誇る若手マルセリーノ・サンベ。光り輝く金平糖の精と王子を、ロイヤル・バレエを代表する世界的スター、マリアネラ・ヌニェスとワディム・ムンタギロフが演じる。これぞクラシック・バレエというふたりの気品と音楽性、クリスタルのように研ぎ澄まされた美しさには思わず涙がこぼれることだろう。ロックスターのような存在感とスタイリッシュさのドロッセルマイヤーは、この役を当たり役としているギャリー・エイヴィスが颯爽と演じる。花のワルツでソロを踊る薔薇の精には美貌とエレガンスを誇る名花、金子扶生。クリスマスは終わっても、クリスマスの浮き浮きする気持ちをよみがえらせてくれる、素敵なバレエの魔法を体験してほしい。
なお、今回の「くるみ割り人形」で主演するマリアネラ・ヌニェスは、ロイヤル・バレエに入団して昨年で20周年を記念した。名実ともにロイヤル・バレエを代表する人気スターとなった彼女の芸術性を称えて製作された、スペシャル・ショート・フィルム「NELA」が本邦初公開で「くるみ割り人形」の幕間に上映される。ヌニェスの鍛え抜かれた肉体が、ニーナ・シモンの歌声に乗せて躍動する美しい映像も併せてお楽しみいただけるのでお見逃しなく。
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【振付】ピーター・ライト 【音楽】ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
【指揮】バリー・ワーズワース
【出演】ドロッセルマイヤー:ギャリー・エイヴィス クララ:アナ・ローズ・オサリヴァン
ハンス・ピーター(ドロッセルマイヤーの甥)/くるみ割り人形:マルセリーノ・サンベ
金平糖の精:マリアネラ・ヌニェス、王子:ワディム・ムンタギロフ
薔薇の精:金子扶生 他
2019.01.16
ロイヤル・バレエ『ラ・バヤデール』<タイムテーブルのご案内>
シネマシーズン バレエ第二弾は、エキゾチックな古典バレエ作品『ラ・バヤデール』
古代インドを舞台に、一人の戦士をめぐって舞姫と藩主の娘が火花を散らし、陰謀、裏切り、毒殺、横恋慕と濃厚な恋愛ドラマが展開する。婚約式で繰り広げられる華麗な踊りの数々には酔わされ、影の王国で白いチュチュの群舞が一糸乱れぬ動きを見せる静謐で幽玄な世界にはクラシック・バレエの美の極致がある。戦士ソロルのダイナミックな踊りは男性バレエダンサーにとって高難度で、超絶技巧の限りを尽くしたもの。ソ連から亡命後国際的に活躍した偉大なバレリーナ、ナタリア・マカロワによる演出は、よりドラマ性を重視しており、『ラ・バヤデール』の決定版と言われている。
ニキヤ役のマリアネラ・ヌニェス、ガムザッティ役のナタリア・オシポワは、世界のバレエ界でもトップの人気と実力を誇るスターで、この2大バレリーナが共演して対決する贅沢な趣向。ソロル役のワディム・ムンタギロフも、世界最高レベルのクラシック・テクニックを誇る貴公子。やはり高度な技術が要求されるブロンズ・アイドル(黄金の仏像)役には、プリンシパルのアレクサンダー・キャンベルが配役。さらに影の王国のヴァリエーション(ソロ)にプリンシパルの高田茜、ヤスミン・ナグディ、日本出身の崔由姫という、映画館中継ならではの配役。冒頭で派手な跳躍を見せる苦行僧マグダヴェーヤにアクリ瑠嘉、婚約式で華やかな踊りを披露するパ・ダクシオンに金子扶生が出演するなど、日本人ダンサーも活躍。ロイヤル・バレエの総力を結集し、滅多にない豪華キャストで贈る華麗なクラシック・バレエの饗宴となった。
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【振付】マリウス・プティパ 【追加振付】ナタリア・マカロワ
【音楽】レオン・ミンクス 【指揮】ボリス・グルージン
【出演】マリアネラ・ヌニェス(ニキヤ) ワディム・ムンタギロフ(ソロル)ナタリア・オシポワ(ガムザッティ)ギャリー・エイヴィス(ハイ・ブラーミン 大僧正)トーマス・ホワイトヘッド(ラジャ 国王)他
2019.01.07
ロイヤル・オペラ『ワルキューレ』 <タイムテーブルのご案内>
兄妹の禁断の愛、夫婦の断絶、父と娘の葛藤、そして英雄誕生の兆し。あらゆる人間ドラマが有り、飽きさせない。数あるオペラの中でも圧倒的な傑作「ワルキューレ」がオペラ・シーズンの開幕を告げる!
ワーグナーが生涯を賭けて生みだした4部作〈ニーベルングの指環〉の中で、ダントツの人気を誇るのが2作目の「ワルキューレ」。神々の世界から人間界の物語への転換となる事件が、息詰まる衝撃的なタッチで描かれる。その音楽は、第1幕では禁じられた愛の陶酔、第2幕では激しい衝突、そして第3幕では、映画「地獄の黙示録」にも使われた有名な“ワルキューレの騎行”が、巨匠パッパーノのタクトでエキサイティングに鳴り響く。だがそれは父と娘が永遠の別れを告げる感動のエンディングへの序奏にすぎない。
神々の長ヴォータン役にはバイロイト音楽祭でも常連のジョン・ランドグレン、2年前にMET開幕公演でワーグナー「トリスタンとイゾルデ」に主演したニーナ・シュテンメとスチュアート・スケルトンがブリュンヒルデとジークムントに扮する。他にもジークリンデはエミリー・マギー、フンディングはエイン・アンガー、そしてフリッカはサラ・コノリーとスター歌手たちが揃い迫力たっぷりの歌唱を聴かせている。英国の演劇人キース・ウォーナーの演出は2005年にロイヤル・オペラで初演された定評あるもの。格調高くスペクタクルな舞台が物語を際立たせている。
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<ロイヤル・オペラ『ワルキューレ』タイムテーブル>
【作曲】 リヒャルト・ワーグナー【演出】 キース・ウォーナー
【指揮】 アントニオ・パッパーノ
【出演】スチュアート・スケルトン(ジークムント)、エミリー・マギー(ジークリンデ)、
ジョン・ランドグレン(ヴォータン)ニーナ・シュテンメ(ブリュンヒルデ)
2018.12.26
オペラ『ワルキューレ』を初心者でもわかりやすく解説します
石川了(クラシック音楽専門TVチャンネル「クラシカ・ジャパン」編成)
「ワルキューレの騎行」と言えば 何を連想?
フランシス・フォード・コッポラ監督の映画『地獄の黙示録』といえば、ヘリに搭載されたスピーカーから流れる「ワルキューレの騎行」をBGMに、ベトナムの村落が次々と爆撃されるシーンを思い起こす方も多いのではないでしょうか。
コンサートでも単独で演奏されることが多い「ワルキューレの騎行」は、元々は19世紀ドイツの作曲家、リヒャルト・ワーグナーの楽劇『ワルキューレ』第3幕冒頭の楽曲。そして『ワルキューレ』は楽劇四部作『ニーベルングの指環』の第2番目の作品なのです。
『ニーベルングの指環』は、世界を支配できるパワーを持った黄金の指環を巡り、神族と人間、地底のニーベルング族による愛と欲と裏切りが交錯する大河ドラマ。全四作通すと上演時間は何と15時間という超大作です。
序夜『ラインの黄金』では、ライン河の黄金で作られた指環に呪いがかけられ、権力欲に囚われる神々の世界を翻弄します。第1夜『ワルキューレ』では、神々の長ヴォータンが人間女性との間にもうけた双子の兄妹の愛と、ワルキューレ(ヴォータンの娘たちで、英雄を天空に導く女戦士)の一人ブリュンヒルデが神々の世界を追放されるまでを綴ります。第2夜『ジークフリート』では、兄妹の息子ジークフリートが黄金の指環と人間となったブリュンヒルデを獲得。第3夜『神々の黄昏』では、ジークフリートの死と神々の世界の崩壊、そして指環がライン河に還るまでを描きます。
兄妹の禁断の愛は『スター・ウォーズ』のルークとレイア姫のようですし、指環の呪いは『ロード・オブ・ザ・リング』、権力に囚われた者の策謀とその中に咲く愛の物語は、まさに『ゲーム・オブ・スローンズ』の世界。ストーリーだけでも映画的な展開だと思いませんか。
『スター・ウォーズ』&「ロード・オブ・ザ・リング」&「ゲーム・オブ・スローンズ」&『ゴッドファーザー』 !!!
特に、『ワルキューレ』は、話の展開も早くてわかりやすく、ワーグナー作品の中でも一番の人気タイトル。第1幕は、ジークムントとジークリンデの愛の物語で、しばしばコンサート形式でも上演される有名な場面です。しかし、筆者がオススメなのは、第2幕以降。
神々の長ヴォータンが正妻のフリッカに自らの不貞を非難され、不義の息子ジークムントの殺害を約束する場面で始まり、その要因を最愛の娘ブリュンヒルデに愚痴る父親。死を告げにジークムントに会いに行ったブリュンヒルデは人間の愛の深さに気づき、父の命令に背いて兄妹を助けることを決意。しかし、ジークムントは殺され、ブリュンヒルデはジークムントの子を身篭ったジークリンデを救出し「生きよ!」と諭します。ヴォータンは命令に背いたブリュンヒルデに永遠の別れを告げ、彼女の神性を剥奪し、長い眠りについた娘を炎に包みます。彼女を目覚めさせることができるのは、炎を越えられる恐れを知らない英雄のみ。その場面に、まだ登場していない次作からの主人公ジークフリートのテーマが流れるのです。
今、自分で原稿を書いていて涙が出そうになるくらい、『ワルキューレ』は、男女の純愛や夫と妻の葛藤、父と息子の親愛、父と娘の情愛といった人間ドラマが物語の核となっていて、ある意味、マフィアの権力争いとファミリードラマが同時並行で描かれたコッポラ監督の映画『ゴッドファーザー』のような味わいもできるのです。
アントニオ・パッパ―ノの気合い!
英国ロイヤル・オペラ・ハウスの新たなシネマシーズンのオペラ開幕を飾る『ワルキューレ』は、同劇場では3度目のリバイバルとなる2005年キース・ウォーナー演出のプロダクション。新国立劇場の同じ演出家による「東京リング」(2001~2004)とは全く異なる世界であり、今回が最後の再演とも言われているので、「東京リング」をご覧になった方は比較の意味でも注目です。
同劇場音楽監督アントニオ・パッパーノの気合の入った音楽作りも圧巻。ワーグナーの特徴のひとつ、ライトモティーフ(特定の人物や状況と結びつけられる短い主題や動機)は、あるときは人物の行動や感情、状況の変化を象徴的に示唆し、あるときは物語の先を予告したりしますが、そのライトモティーフのひとつひとつに情感を込めながら音楽的統一を図り、オーケストラ全体で物語をグイグイ引っ張っていくパッパーノの手腕に、思わず時間が経つのを忘れてしまいます。
歌手では、やはりブリュンヒルデ演じるニーナ・シュテンメの力強い歌声は見どころ。ヴォータン役のジョン・ランドグレンの鬼気迫る演技やジークムント役のテノール、スチュワート・スケルトンの柔らかな美声、わずかな出番ながら圧倒的な存在感を放つメゾ・ソプラノ、サラ・コノリーのフリッカも必見です。
休憩時に、『ラインの黄金』から『ワルキューレ』の間に起こった出来事をウォーナー自身が解説するので、こちらもお見逃しなく。
ワーグナーの世界へ!
ワーグナーは上演時間も長く、よほどの音楽ファンじゃないと取っつきづらいのは確かですが、『ワルキューレ』はワーグナー入門として最適の作品だと思います。
筆者自身のワーグナー鑑賞のコツは、とにかく映画的に楽しむこと。実際、ワーグナーは自分で台本も書いているし、彼が現代に生きていたら、きっとコッポラやベルトリッチのような映画を撮っていたかもしれませんね。
だから、スクリーンで楽しめるこの機会に、皆さんも勇気を出して、ワーグナーの世界に一歩踏み出してみてほしい。一旦ハマるとなかなか抜けられませんが。
2018.12.06
『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2018/19』ロイヤル・バレエ『うたかたの恋』解説
英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2017/18の開幕を飾るのは、ハプスブルグ家をめぐる陰謀と愛欲に彩られたドラマティック・バレエの傑作『うたかたの恋』。
1889年、オーストリア=ハンガリー帝国の皇太子ルドルフが、17歳の愛人マリー・ヴェッツェラと心中したマイヤーリンク事件。ハプスブルグ家を揺るがし、1918年に帝国が崩壊する予兆となった。この事件は『うたかたの恋』という題名で2度映画化され、また『マイヤーリング』の題名でオードリー・ヘップバーン主演でもテレビ映画化されている。さらにミュージカルとして宝塚歌劇団で上演されるなど広く知られている。
英国バレエを代表する巨匠ケネス・マクミランは、1978年にこの実話をバレエ化した。両親に愛されず、政略結婚を強いられ、宮廷内の策略など政治的にも翻弄されてきた皇太子ルドルフは次から次へと愛人を作り、苦悩し病んでいく。バレエ作品には珍しく男性が主人公であり、6人もの女性ダンサーとパ・ド・ドゥ(デュエット)を踊り、高い演技力を要求されるルドルフ役。男性ダンサーならいつかは演じてみたいと熱望する難役である。パ・ド・ドゥの名手であり、人間の暗部を描くのに長けたマクミランの手腕が発揮され、19世紀末の帝国の宮廷の人間模様が、ドラマティックにそして官能的に、陰影に富んで描かれる。『うたかたの恋』は、『ロミオとジュリエット』、『マノン』と並んで彼の最高傑作のひとつであり、2010年のロイヤル・バレエ来日公演でも上演されている。ロイヤル・バレエならではの演劇性がたっぷり味わえる重厚な人間ドラマだ。
1992年、この作品の再演初日を上演中のロイヤル・オペラ・ハウスの楽屋で、マクミランは心臓発作を起こして急逝した。この公演には、本シネマシーズンの司会を務めるダーシー・バッセルもミッツィ・カスパー役で出演していた。
大きな怪我を克服したスティーヴン・マックレーの舞台復帰は、この『うたかたの恋』のルドルフ役。超絶技巧ぶりと明るいキャラクターで知られるマックレーが、愛欲と麻薬に溺れ苦悶する皇太子という難しい役に並々ならぬ意欲で挑んだ。死によってのみ成就する永遠の愛に憧れ、ルドルフを大胆に挑発する少女マリー・ヴェッツェラには、演技力とテクニックを併せ持ったサラ・ラム。前回の上演ではラリッシュ伯爵夫人役を演じていた彼女が、ファム・ファタルぶりを発揮し、死に魅せられてルドルフと絡みつき、すべてを焼き尽くすような鮮烈なデュエットを見せる。ルドルフを立ち直らせようと腐心する元愛人ラリッシュ伯爵夫人には演技派ラウラ・モレーラ、ダーシー・バッセルも演じていた高級娼婦ミッツィ・カスパー役は、伸び盛りの若手マヤラ・マグリが魅惑的なダンスで印象を残す。ハンガリー独立運動に加担することをそそのかす4人の高官には、マルセリーノ・サンベ、リース・クラーク、カルヴィン・リチャードソン、トーマス・モックと若手ホープの男性ダンサーたちを起用。
音楽はハンガリーと切っても切り離せないフランツ・リストを使用し、ジョン・ランチベリーが編曲。酒場のシーンにはメフィスト・ワルツ、それぞれのパ・ド・ドゥには超絶技巧練習曲から選曲して使用。フランツ・ヨーゼフの誕生日の宴では、彼の愛人であるカタリーナ・シュラットが歌手によって演じられ独唱し(「Ich scheide(我は別れゆく)」)、帝国の黄昏を象徴させている。美術は、マクミラン作品の数々を手掛けたニコラス・ジョージアディスで、オーストリア=ハンガリー帝国の宮廷を再現する重厚で華麗な舞台装置や衣装には目を瞠る。
2018.12.06
スティーヴン・マックレー完全復活!記念イラスト公開
「バレエヒーロー・ファンタジー/ダンの冒険」の作者、
足立たかふみ先生に公開を記念してイラストを描いていただきました!
<<クリックすると、大きいサイズで見られます>>
本シーズン最初の作品『うたかたの恋』は12/7(金) 開幕します!
▶作品詳細はこちら
2018.11.22
ロイヤル・バレエ『うたかたの恋』 <タイムテーブルのご案内>
シネマシーズンの開幕を飾るのは、ハプスブルグ家をめぐる陰謀と愛欲に彩られたドラマティック・バレエの傑作『うたかたの恋』。
1889年、オーストリア=ハンガリー帝国の皇太子ルドルフが、17歳の愛人マリー・ヴェッツェラと心中したマイヤーリンク事件。英国バレエを代表する巨匠ケネス・マクミランは、映画化で有名なこの実話をバレエ化した。母エリザベート皇后に愛されず、政略結婚を強いられ、宮廷内の策略にも翻弄されてきた皇太子ルドルフは次から次へと愛人を作り、苦悩し病んでいく。バレエ作品には珍しく男性が主人公であり、演技力を要求されるルドルフ役は、男性ダンサーならいつかは演じてみたい難役。人間の暗部を描くのに長けたマクミランの手腕が発揮され、19世紀末の帝国の宮廷の人間模様がドラマティックにそして官能的に、陰影に富んで描かれる。
超絶技巧で知られる人気者スティーヴン・マックレーが、怪我を克服し、愛欲と麻薬に溺れ苦悶する皇太子という役に並々ならぬ意欲で挑んだ。死によってのみ成就する永遠の愛に憧れ、ルドルフを大胆に挑発する少女マリー・ヴェッツェラには、演技力とテクニックを併せ持ったサラ・ラム。二人はすべてを焼き尽くすような鮮烈なデュエットを見せる。ルドルフを立ち直らせようと腐心する元愛人ラリッシュ伯爵夫人には演技派ラウラ・モレーラ。ロイヤル・バレエならではの演劇性がたっぷり味わえる重厚な人間ドラマとなっている。
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【振付】ケネス・マクミラン 【音楽】フランツ・リスト 【指揮】クン・ケセルス
【出演】スティーヴン・マックレー(皇太子ルドルフ)、サラ・ラム(マリー・ヴェッツェラ男爵令嬢)、ラウラ・モレーラ(ラリッシュ伯爵夫人:ルドルフの元愛人)、クリステン・マクナリー(エリザベート皇后:ルドルフの母)、ミーガン・グレース・ヒンギス(ステファニー王女:ルドルフの妻)、ギャリー・エイヴィス(皇帝フランツ・ヨーゼフ:ルドルフの父)、マヤラ・マグリ(ミッツイ・カスパー:ルドルフ馴染みの高級娼婦)ジェームズ・ヘイ(ブラットフィッシュ:ルドルフ付き御者、芸人) 他
2018.10.31
「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2018/19」 日本版予告映像とポスタービジュアルが到着!さらに全11演目の公開日も決定!
「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2018/19」いよいよ開幕!
日本版予告映像とポスタービジュアルが到着&全11演目の公開日が決定致しました!
『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン』は、ロンドンのコヴェント・ガーデン、ロイヤル・オペラ・ハウスで上演されたロイヤル・バレエ団、ロイヤル・オペラによる世界最高峰のバレエとオペラを、映画館で鑑賞できる人気シーズン!ロイヤル・バレエ『ロミオとジュリエット』、ロイヤル・オペラ『椿姫』といった人気作品11演目を含む本シーズンのラインナップが発表され、王道の名作から近年のチャレンジングな作品まで、世界最高峰のクオリティで演じられるプロフェッショナルな公演を日本でも楽しめるということで、話題を呼んでいます。またロイヤル・バレエ団には、主役ダンサー・プリンシパルとして、日本人ダンサーの高田茜さん、平野亮一さんが在籍し現役で活躍中。その姿を日本で観られることでも大きな注目を集めています!
この度、到着した日本版予告編は、カウントダウンとともに幕が上がる臨場感溢れるシーンからスタート。さらに、各演目のワンシーンに加え、製作スタッフの作品に懸ける思いや、出演者らのリハーサルの様子も収録されており、世界最高レベルといわれるクオリティに早くも期待高まる映像となっております。昨シーズンに引き続き、本シーズンでも全ての上映作品には、人気の高いナビゲーターによる舞台裏でのインタビューや特別映像が追加されており、シネマシーズンならではのスペシャルな映像が、映画館の大スクリーンと迫力ある音響でお楽しみ頂けます!また、併せて到着した日本版ポスターには、ロイヤル・オペラ『椿姫』、ロイヤル・バレエ『ロミオとジュリエット』のカットと共に「スクリーンに、喝采を。カーテンコールに、心からの拍手を。」というコピーが添えられており、情熱的なオペラと幻想的なバレエの世界観が1枚に凝縮されたビジュアルに仕上がっています。
さらに、今シーズンの日本公開を記念して、英国ロイヤル・オペラ・ハウスの音楽監督・指揮者のアントニオ・パッパーノと、芸術監督のケヴィン・オヘアから日本のファンに向けたコメントが到着!「今シーズンは「ワルキューレ」や「運命の力」などの大作を含む、素晴らしいオペラのプロダクションをお届けすることに興奮しています。実力のある歌手たちの迫力ある歌声と我々ロイヤル・オペラ・ハウスのオーケストラの美しい音楽のつまったパフォーマンスをお楽しみください。(アントニオ・パッパーノ)」「ロイヤル・バレエは、有名なクラシックからコンテンポラリーまで、素晴らしい踊りと感情豊かなパフォーマンスをお届けできることを嬉しく思います。日本の皆様の温かな応援にいつも感謝し、我々のバレエを皆さんと共有できることを楽しみにしています。(ケヴィン・オヘア)」と自信をのぞかせています。
12月7日(金)よりいよいよ開幕する『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2018/19』が贈る感動と至福の時間を、是非映画館でご体験ください!
【2018/19』全11演目公開日】
~2018年~
●ロイヤル・バレエ『うたかたの恋』12月7日(金)
~2019年~
●ロイヤル・オペラ『ワルキューレ』1月11日(金)
●ロイヤル・バレエ『ラ・バヤデール』1月18日(金)
●ロイヤル・バレエ『くるみ割り人形』2月1日(金)
●ロイヤル・オペラ『スペードの女王』3月15日(金)
●ロイヤル・オペラ『椿姫』4月5日(金)
●ロイヤル・バレエ『ドン・キホーテ』5月17日(金)
●ロイヤル・オペラ『運命の力』5月24日(金)
●ロイヤル・オペラ『ファウスト』6月14日(金)
●ロイヤル・バレエ『ウィズイン・ザ・ゴールデン・アワー/シディ・ラルビ・シェルカウイ 新作 / フライト・パターン』6月28日(金)
●ロイヤル・バレエ『ロミオとジュリエット』8月23日(金)
【上映劇場】
*TOHOシネマズ 日比谷
*TOHOシネマズ 日本橋
*イオンシネマ シアタス調布
*TOHOシネマズ ららぽーと横浜
*TOHOシネマズ 流山おおたかの森
*TOHOシネマズ 名古屋ベイシティ
*イオンシネマ 京都桂川
*大阪ステーションシティシネマ
*TOHOシネマズ 西宮OS
*ディノスシネマズ札幌劇場
*フォーラム仙台
*中州大洋映画劇場