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2023.11.10

イギリス国王チャールズ3世とカミラ王妃両陛下が戴冠式以来はじめてご臨席。特別な観客とともに『ドン・キホーテ』をご鑑賞。

ロイヤル・オペラ・ハウスは11月7日(水)、国民保健サービスの職員(National Health Service、通称NHS)、教師、ウクライナ避難民による合唱団、ロイヤル・バレエ・スクールのメンバーを特別に招待し『ドン・キホーテ』公演を開催した。
国王チャールズ3世とカミラ王妃両陛下のご訪問は戴冠式以来初めてとなり、NHS75周年と招待客の功績、そしてロイヤル・オペラ・ハウスが英国内外の多くの個人、グループ、学校と協力しバレエとオペラを地域社会の中心に据えていることを称えるため、本公演にご臨席された。



両陛下は満員の観客とともにロイヤル・バレエ団による『ドン・キホーテ』の壮大な舞台を楽しまれ、本公演は世界中の1281の映画館に放送された。(※日本公開は2024年1月26日~2月1日)
公演終了後にはバレエ芸術監督のケビン・オヘア、カルロス・アコスタ(『ドン・キホーテ』演出家)、ロイヤル・バレエ団のプリンシパル・ダンサーであるマヤラ・マグリとマシュー・ボールを含むバレエ団メンバーが国王チャールズ3世とカミラ王妃両陛下と会見し、両陛下は彼らの目覚ましい活躍を祝福した。



NHS75周年を記念する本公演には、パンデミック時のNHS職員の働きに感謝するために2020年に始まった〈ROH Thanks the NHS〉の一環として600人以上のNHSスタッフが参加。この取り組みでは、10,000人以上のNHS職員が公演チケットの大幅割引を享受している。



さらに、ロイヤル・オペラ・ハウスのウクライナ人コミュニティへの継続的な支援の一環として、戦争で家を失った130人のウクライナ人で構成されるSongs for Ukraine合唱団が招かれた。この合唱団は歌うことを通じて希望を鼓舞することを目的として昨年設立され、春のデビュー公演の成功を受けて12月にブラッドフォード大聖堂とロイヤル・オペラ・ハウスのポール・ハムリン・ホールで開催される2つの華やかなクリスマス・コンサートで再び共演が予定されている。

2023.11.02

『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2023/24』厳選されたラインナップ全8演目の公開日決定!心揺さぶる舞台の魅力が詰まった日本版予告映像とポスタービジュアル解禁!

世界最高の名門歌劇場である英国ロイヤル・オペラ・ハウスで上演されたバレエとオペラの舞台を、特別映像を交えてスクリーンで体験できる「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン」。
この度、新シーズンを、『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2023/24』と題し、2023年12月15日(金)~2024年9月26日(木)までの期間中、全8演目を各1週間限定にて全国公開することが決定いたしました。ライブでの観劇の魅力とは一味違う、映画館の大スクリーンと迫力ある音響で、日本にいながらにして最高峰のオペラとバレエの公演を堪能できる、至極の体験をお届けします。

「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2023/24」がいよいよ開幕!
厳選された4本のオペラと4本のバレエがラインナップ!
全8演目と公開日が決定&日本版予告映像とポスタービジュアルも到着!

「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン」は、ロンドンのコヴェント・ガーデンにある歌劇場“ロイヤル・オペラ・ハウス” (通称ROH)で上演された世界最高峰のバレエとオペラを映画館で鑑賞できる人気シリーズ。世界最高クラスのパフォーマンスを大スクリーンで体験できることに加え、リハーサルの様子や舞台裏でのインタビューなどの特別映像も堪能できるということで、シーズンを重ねるごとにファンが増えています。
新シーズン、オペラのオープニングを飾るのは、映画『ロード・オブ・ザ・リング』にも影響を与えたとされるワーグナー畢生の大作『ニーベルングの指環』全四部作の「序夜」にあたる『ラインの黄金』(12月15日公開)。今回の新制作では、世界的な人気演出家バリー・コスキーが、その奇抜なアイデアで観るものの想像をはるかに超える舞台を創り上げます。次期音楽監督にチェコの指揮者ヤクブ・フルシャを迎えると発表したROH。新シーズンでは、2002年以来音楽監督を務めるアントニオ・パッパーノのラストシーズンとなります。そして、「ROHシネマシーズン」をスタート時から牽引してきたパッパーノは、その集大成として、19世紀中盤から20世紀初頭のフランス・ドイツ・イタリアのオペラの名作をラインナップ。日本人なら一度は観ておきたい名作オペラ『蝶々夫人』は、2003年に初演されたモッシュ・ライザー&パトリス・コーリエ演出プロダクションを、より日本人らしい所作を取り入れアップデートした2022年改訂版の再演。『カルメン』ではコロラトゥーラ・メゾソプラノの珍しい声を持ち、いま最も期待されるアイグル・アクメチーナのカルメンに大注目!『アンドレア・シェニエ』ではパッパーノがロイヤル・オペラ・ハウス音楽監督として最後のステージに華を添えます。オーソドックスなグランドオペラから斬新な読み替えまで、演劇の国ならではの演出重視のパフォーマンスと、グローバル都市ロンドンを象徴する国際色豊かなアーティストの競演が見どころです。
そしてバレエの幕開けはスペインを舞台にした陽気なコメディ作品『ドン・キホーテ』(2024年1月26日公開)、バレエを観るのが初めての方でも楽しめる快作です。冬の風物詩『くるみ割り人形』、ロイヤル・バレエ版は幾多の「くるみ」の中でも物語性が高く、ファンタジックで家族連れにも大人気です。ロイヤル・バレエは演劇の国英国ならではのドラマティック・バレエも得意ですが、その中でも最高傑作とされる『マノン』は、華麗で退廃的な世界観と究極の愛の姿を見せて、深く心に残る作品となるでしょう。シーズンを締めくくる『白鳥の湖』は言わずと知れたバレエの代名詞。世界トップクラスのダンサーたちが、チャイコフスキーのあまりにも美しく心を揺さぶる旋律に乗せて、圧巻のドラマをお届けします。

この度、到着した日本版予告編には、冒頭、リヒャルト・ワーグナー作曲の『ラインの黄金』の壮大な世界観を感じさせる音楽とともに、シーズンを彩る各作品のワンシーンが次々と登場。後半では、全8作品の厳選されたラインナップの詳細が紹介され、期待の高まる予告映像となっています。併せて到着した日本版ポスターには、『白鳥の湖』の幻想的な名場面をはじめとした各作品のメインカットとともに「映画館の扉を開けるとそこは、バレエとオペラの魔法の空間。」という魅惑的なコピーが添えられ、新シーズンの華々しい幕開けに心躍る仕上がりとなっています。

【全8演目】
◆オペラ演目:①『ラインの黄金』、②『蝶々夫人』、③『カルメン』、④『アンドレア・シェニエ』
◆バレエ演目:①『ドン・キホーテ』、② 『くるみ割り人形』、③『マノン』、④『白鳥の湖』

12月15日(金)より、いよいよ開幕する『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2023/24』が贈る情熱と魅惑に満ちた至福の時間を、是非映画館でご体験ください!

【2023/24 全8演目と公開日】※1週間限定公開※
①ロイヤル・オペラ『ラインの黄金』2023年12月15日(金)
②ロイヤル・バレエ『ドンキホーテ』2024年1月26日(金)
③ロイヤル・バレエ『くるみ割り人形』2024年2月16日(金)
④ロイヤル・バレエ『マノン』2024年4月5日(金)
⑤ロイヤル・オペラ『蝶々夫人』2024年6月7日(金)
⑥ロイヤル・バレエ『白鳥の湖』2024年6月14日(金)
⑦ロイヤル・オペラ『カルメン』2024年9月6日(金)
⑧ロイヤル・オペラ『アンドレアシェニエ』2024年9月20日(金)

<上映劇場>
*札幌シネマフロンティア(北海道)
*フォーラム仙台(宮城)
*TOHOシネマズ 日本橋(東京)
*イオンシネマ シアタス調布(東京)
*TOHOシネマズ 流山おおたかの森(千葉)
*TOHOシネマズ ららぽーと横浜(神奈川)
*ミッドランドスクエア シネマ(愛知)
*イオンシネマ 京都桂川(京都)
*大阪ステーションシティシネマ(大阪)
*TOHOシネマズ 西宮OS(兵庫)
*中洲大洋映画劇場(福岡)※③バレエ『くるみ割り人形』まで上映
*kino cinéma天神(福岡)※④バレエ『マノン』より上映

2023.11.01

本日11月1日は「ワールド・バレエ・デー」

本日11月1日は「ワールド・バレエ・デー」
世界有数の50以上のバレエ団とダンスカンパニーが一同に会する世界的な祭典です。
ロイヤル・バレエ団でもリハーサル、クラス、ディスカッションなどが配信される予定です。

ぜひバレエ界の大スターや新進パフォーマーたちの舞台裏をご覧ください!

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2023.09.15

ロイヤル・オペラ『イル・トロヴァトーレ』タイムテーブルのご案内

 

史上最大のスケールでお贈りしたシーズンもいよいよフィナーレへ!
ラストを飾るのは、ヴェルディ中期の三大傑作のひとつ『イル・トロヴァトーレ』

ヴェルディ中期の三大傑作といわれる《リゴレット》《イル・トロヴァトーレ》《椿姫》の中で、もっとも幻想的なストーリーを持つのが中世のスペインを舞台にした《イル・トロヴァトーレ》。それは、夢見るような美しい旋律にあふれた傑作オペラ――。
(上演日:2023年6月13日)


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【音楽】:ジュゼッペ・ヴェルディ
【台本】:サルヴァトーレ・カンマラーノ(台本補筆:レオーネ・エマヌエーレ・バルダーレ)
【原作】:アントニオ・ガルシア・グティエレスの戯曲『エル・トロバドール』)
【指揮】:アントニオ・パッパーノ
【演出】:アデル・トーマス
【美術・衣裳】:アンマリー・ウッズ
【照明】:フランク・エヴィン
【振付】:エマ・ウッズ
【ファイト・ディレクター(殺陣師)】:ジョナサン・ホービー
【ドラマツルク】:ベアーテ・ブライデンバッハ
ロイヤル・オペラ合唱団(合唱指揮:ウィリアム・スポールディング)
ロイヤル・オペラハウス管弦楽団(コンサートマスター:シャロン・ロフマン)

【出演】
レオノーラ:レイチェル・ウィリス=ソレンセン
マンリーコ:リッカルド・マッシ
ルーナ伯爵:リュドヴィク・テジエ
アズチェーナ:ジェイミー・バートン
フェルランド:ロベルト・タリアヴィーニ
イネス:ガブリエーレ・クプシーテ
ルイス:マイケル・ギブソン
ロマの老人:ジョン・モリッシー
使者:アンドリュー・オコナー

2023.09.15

オペラ『イル・トロヴァトーレ』を初心者でもわかりやすく解説します

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香原斗志(オペラ評論家)

オペラ《イル・トロヴァトーレ》が最高に魅力的な理由

勇猛果敢な、または、おどろおどろしいイメージがある《イル・トロヴァトーレ》には、そういう音楽もあるが、それ以上に、美しいメロディがあふれんばかりに詰めこまれている。耳に最高の幸福をもたらしてくれるオペラだと、アントニオ・パッパーノが指揮する演奏を聴いて、あらためて実感した。
描かれているのは、美しい物語でも幸福な物語でもない。それなのに、なぜこうもメロディが心に染み入るのだろうか。そして、物語に没入させられるのだろうか。

真摯な感情が美しいメロディとからみ合う

物語はじつに刺激的である。
伯爵に母親を火あぶりにされたロマの女のアズチェーナは、復讐のため、伯爵の2人の息子のうち1人をさらって火中に投げたつもりが、誤って自分の息子を――。結局、彼女は手もとに残った男児を育て、それが「トロヴァトーレ(吟遊詩人)」のマンリーコに成長して、宮廷の女官のレオノーラと愛しあっている。だが、ルーナ伯爵、すなわち先代伯爵のもう1人の息子も彼女に思いを寄せていて、マンリーコに激しく嫉妬している。伯爵はとうとうマンリーコを処刑するが、それは自分の弟だった――。
ドラマはこうして終始、スリリングに展開する。このストーリーを荒唐無稽だと後ろ向きに評するムキは昔からあるが、筆者はまったく同意しない。作曲したヴェルディが音楽をとおして、あらゆる場面に深いリアリティをあたえているからである。このため、すぐれた演奏が得られると、俄然、真実味が加わる。

たとえば第4幕。捕らえられたマンリーコへの思いを歌うレオノーラのソロは、メロディがすこぶる美しい。そこには彼女の心情の深さが反映されている。続く場面でレオノーラは、ルーナ伯爵にマンリーコの命乞いをし、代わりに自分のからだを捧げると伝えて毒をあおる。そのアップテンポの音楽に聴き入ってしまうのも、死を賭してでも恋人の命を守りたいレオノーラと、やっと思いを遂げられると信じるルーナ伯爵が、いだく感情はまったく異なってもそれぞれ真剣だからである。
第3幕、マンリーコがレオノーラへの愛を歌うアリアも、うっとりするほど美しくて真摯な思いを裏づけるし、そこにアズチェーナが捕らえられたという知らせが届いて歌う、アリアの勇壮な後半部には、母を救おうという強い決意が表されている。
また、第2幕でマンリーコに向かって、自分の子を火に放り込んでしまったと歌い、「では自分はだれの子なのか」と問われると、「私の子だよ」「大切に育ててきたじゃないか」と答えるアズチェーナ。育てたのは憎き伯爵の子だという思いと、育てながら宿った母親としての思いが複雑に入り組むさまが、音楽で見事に描かれる。

どの場面も真摯な感情が心揺さぶるメロディとからみ合い、美しさと力強さのなかで物語が真に迫る。聴く(見る)側は否応なくドラマのなかに引きずり込まれ、メロディに心を預けざるをえなくなる。

深い感情を注ぎ込む歌手たちと寓話的な演出がマッチ

ただし、いま記したことは、このROHの《イル・トロヴァトーレ》のような質が高い公演であれば、という条件がつく。むろん、作品自体に力があるが、そのポテンシャルを引き出せるかどうかは演奏、そして演出次第である。
パッパーノはこのオペラ全体を覆う夜の雰囲気をたくみに醸し出し、歌手の呼吸を測りながらたっぷり歌わせる。だが、歌手まかせではない。歌手の声を存分に引き出しつつ、ヴェルディが楽譜に記した発想記号にしたがい、声を細かくコントロールさせながら感情を豊かに表現させる。だから、心に染み入るメロディにも勇壮な音楽にも、登場人物の真摯な生きざまが感じられて聴く(見る)人の心を打つ。

マンリーコ役のリッカルド・マッシ(テノール)はスタイリッシュな声と歌唱で、高いドの音(ハイC)も輝かしい。ルーナ伯爵役のリュドヴィク・テジエ(バリトン)は格調高い響きで、たんなる悪役に堕さない。アズチェーナ役のジェイミー・バートン(メッゾ・ソプラノ)は湧き出る声に深い感情が宿る。
レオノーラ役は、体調不良で降板したマリーナ・レベカの代役、若いレイチェル・ウィリス=ソレンセン(ソプラノ)だが、技巧もふくめた歌唱水準の高さもさることながら、純粋で美しい心を表現できないとドラマを弛緩させてしまうこの役を、見事に歌った。フェルランドのロベルト・タリアヴィーニ(バス)も、品格ある声でドラマを引き締めた。

舞台は15世紀のスペイン。演出のアデル・トーマスはあえて時代設定をそのままにし、15世紀のヒエロニムス・ボスや16世紀のピーテル・ブリューゲルの絵画に描かれた、怪奇性に富んだシュールな世界を視覚的に表現した。舞台に寓話的なおもしろさが加わり、耳のほかに目も十分に楽しませてくれる。

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2023.08.21

ロイヤル・バレエ『眠れる森の美女』タイムテーブルのご案内

 

史上最大のスケールでお贈りした今シーズンも、いよいよフィナーレへ!
第二次世界大戦後、劇場の眠りを覚ませ、新時代の幕開けを飾った特別な作品それが、
チャイコフスキーの比類なき傑作、ロイヤル・バレエ『眠れる森の美女』

チャイコフスキー三大バレエの中でも、巨匠マリウス・プティパがチャイコフスキーと密接に協力し創り上げられた本作は、第二次世界大戦後にロイヤル・オペラ・ハウスが再開したときに初演され、新時代の幕開けを飾った記念すべき作品として受け継がれてまいりました。ロイヤル・バレエの歴史において特別な演目であり、そしてグランドバレエの魅力がすべて詰まった名作中の名作をぜひお楽しみください。
(上演日:2023年5月24日)


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【振付】:マリウス・プティパ
【改訂振付】:フレデリック・アシュトン、アンソニー・ダウエル、クリストファー・ウィールドン
【演出】:ニネット・ド・ヴァロワ、ニコラス・セルゲイエフに基づきモニカ・メイソン、クリストファー・ニュートン
【音楽】:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
【指揮】:ジョナサン・ロー
【出演】:
オーロラ姫/ヤスミン・ナグディ、
フロリモンド王子/マシュー・ボール、
カラボス/クリステン・マクナリー、
リラの精/マヤラ・マグリ、
澄んだ泉の精/アネット・ブヴォリ、
魔法の庭の精/イザベラ・ガスパリーニ、
森の草地の精/前田紗江、
歌鳥の精:ソフィー・アルナット、
黄金のつる草の精/崔由姫、
フロレスタン/カルヴィン・リチャードソン、
フロレスタンの姉妹/前田紗江、
アネット・ブヴォリフロリナ姫/イザベラ・ガスパリーニ、
青い鳥/ジョセフ・シセンズ

2023.08.17

バレエ『眠れる森の美女』そして今シーズンと来シーズンを解説します

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森菜穂美氏(舞踊評論家)

ロイヤル・バレエの2022-23シーズン総括と来シーズンへの展望

―2022-23 ロイヤル・オペラハウス シネマシーズンを振り返るー
ロイヤル・バレエの2022/23シーズンは、ウィリアム・ブレイスウェルとリース・クラークがプリンシパルに昇進し、ますますダンサー陣が充実した中で始まった。

シネマシーズンの開幕を飾ったのは、ケネス・マクミラン振付の『うたかたの恋―マイヤリング―』。ロイヤル・バレエを代表する演技派ダンサーとして高い評価を得ている平野亮一が、愛欲に溺れ、権力闘争に疲弊し、そして求めても得られない母の愛に飢えたハプスブルグ家の皇太子ルドルフ役を熱演。共演はナタリア・オシポワ、マリアネラ・ヌニェス、ラウラ・モレ―ラ、フランチェスカ・ヘイワードと綺羅星のような女性プリンシパルたちで、愛と死の濃厚なドラマを繰り広げて大きな話題を呼び、日本でもアンコール上映されるなどヒットした。

ロイヤル・バレエの歴史と現在を象徴させる意欲的なプログラム『ダイヤモンド・セレブレーション』も話題となった。ロイヤル・バレエのフレンズ会創立60周年記念公演である。ロイヤル・バレエを設立したニネット・ド・ヴァロワの言葉”過去を尊び、未来を見据え、現在に集中すること“は今のロイヤル・バレエでも重視されていること。すなわち、バレエ団の伝統を受け継ぐ作品を大切にしながら、新しい作品も創造し、高いクオリティのパフォーマンスを行うことである。
ロイヤル・バレエを代表する巨匠フレデリック・アシュトンとケネス・マクミランの作品。現在の常任振付家であるウェイン・マクレガーのコンテンポラリー作品と、クリストファー・ウィールドンが4人の男性ダンサーのために創った「FOR FOUR」。対をなすように現役ファースト・ソリストのヴァレンティノ・ズケッティが4人のプリマ・バレリーナのために創った新作「プリマ」。育成プログラム出身の若い振付家による新作や、モダンダンス、ヒップホップなど異ジャンルの振付家の作品も取り入れた新作も挟み、締めくくりはバランシンのクラシカルな名作「ジュエルズ」より「ダイヤモンド」。
『ダイヤモンド・セレブレーション』で上演された「FOR FOUR」、「プリマ」、「ダイヤモンド」は、今年6月に行われたロイヤル・バレエの来日公演「ロイヤル・セレブレーション」でも上演され、来日公演の予習としても見逃せないプログラムとなった。

ロンドンの冬の風物詩『くるみ割り人形』はほぼ毎年、ロイヤル・バレエでは上演されている大人気作品。2022-23シーズンでは、金子扶生が新プリンシパルのウィリアム・ブレイスウェルと共演して金平糖の精を優雅に踊り、クララ役には若手の前田紗江が配役されて、伸びやかで生き生きとした踊りを見せた。『くるみ割り人形』はシネマシーズンでも特に人気のある演目で、主役の金平糖の精はもちろんだが、クララやハンス・ピーター役には、これからプリンシパルに上がっていく注目の若手ダンサーが抜擢されることが多くて、注目されている。

映画化されたベストセラー小説『赤い薔薇ソースの伝説』のバレエ化も話題を呼んだ。『不思議の国のアリス』『冬物語』で成功を収めたクリストファー・ウィールドンが、メキシコを舞台にした禁断の愛と食べ物を主題にした大河ドラマを鮮やかな手腕で新作バレエ作品として創作した。メキシコ音楽や伝統文化を取り入れた官能的な本作は、新しいドラマティック・バレエの名作と高く評価され、アメリカン・バレエ・シアターでも上演された。フランチェスカ・ヘイワード演じる情熱的なティタ、そして強烈な毒母エレナ役ラウラ・モレ―ラの怪演ぶりや、颯爽と場をさらっていくセザール・コラレスの華麗なダンスも忘れがたい。今シーズンで惜しまれながら引退したラウラ・モレ―ラの名女優ぶりは、本作と『うたかたの恋―マイヤリング―』で堪能できた。

舞台装置や衣装などを一新した名作『シンデレラ』の新制作は、今季大ヒットした一作だった。名匠フレデリック・アシュトン振付の本作は、長年幅広い観客に愛され、清らかな心を持つシンデレラが幸せをつかむおとぎ話であるとともに、コミカルな義理の姉妹たちが巻き起こす騒動も楽しくて、憂き世を忘れる爽やかでしみじみとした余韻が残る名作である。ファンタジックな美術を手掛けたのは、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの「となりのトトロ」の舞台美術でローレンス・オリヴィエ賞に輝いたトム・パイ。ロイヤル・バレエばかりかバレエ界を代表するスーパースター・ペアのマリアネラ・ヌニェスとワディム・ムンタギロフの名演もあり、高い人気を呼んだ。アクリ瑠嘉が女装して義理の姉妹役に挑み、中尾太亮の軽やかでチャーミングな道化役の超絶技巧も印象深かった。

そしてシーズンを締めくくったのは、第二次世界大戦後にロイヤル・オペラハウスの再開を果たした作品という、ロイヤル・バレエの歴史にとっても重要な古典の名作「眠れる森の美女」。チャイコフスキーがマリウス・プティパと密接に作業して作り上げたこの上なく美しく華麗な旋律によるグランド・バレエの代表的な作品だ。フランス宮廷を再現した壮麗な舞台美術、多数の出演者を要する大作。またオーロラ姫を踊るダンサーにとっては、16歳の初々しい姫から、幻影の場面での抒情性、そして結婚式で見せる品格と優雅さまで、プリマ・バレリーナに求められる様々な魅力を発揮させる大役である。オーロラ役のヤスミン・ナグディの完璧な技術とエレガントな踊り、王子役マシュー・ボールの貴公子ぶり、注目株イザベラ・ガスパリーニやジョセフ・シセンズの目も覚めるような青い鳥のパ・ド・ドゥなど、クラシック・バレエの魅力があふれる魅惑の舞台である。おりしも、今年の秋は日本のバレエ団による『眠れる森の美女』公演が多く行われ、コロナ禍で眠っていた劇場の目覚めも象徴させているかのようだ。

2023-24シーズンの展望
ロイヤル・オペラハウス・シネマシーズン2023-24は、ロイヤル・バレエのレパートリーの中から選りすぐった人気4作品がラインナップされている。

幕開けは『ドン・キホーテ』、バレエを観るのが初めての方でも楽しめる、スペインを舞台にした陽気なコメディ作品で、たくさんの超絶技巧も詰め込まれています。高い技術を誇るマヤラ・マグリがキトリ役、『眠れる森の美女』では王子役を演じたマシュー・ボールは、庶民的な床屋のバジル役を演じてまったく違った魅力を見せてくれるはず。

クリスマスはこの作品なしでは考えられない『くるみ割り人形』は来シーズンも上演、ロイヤル・バレエのピーター・ライト版は幾多の「くるみ」の中でも物語性が高く、夢と冒険が詰まったファンタジックな世界は、幅広い年齢層に大人気だ。若手プリンシパルのアナ・ローズ・オサリヴァン、マルセリーノ・サンベがフレッシュな魅力で金平糖の精と王子を演じる予定。

ロイヤル・バレエは演劇の国英国ならではのドラマティック・バレエがお家芸。その中でも最高傑作の『マノン』は、パリの裏社交界を舞台にした甘美で退廃的な世界観、究極の愛の姿を見せる。深く心に残る作品であり、根強い人気を誇る。

シーズンを締めくくる『白鳥の湖』は言わずと知れたバレエの代名詞。世界トップクラスのダンサーたちが、チャイコフスキーのあまりにも美しく心を揺さぶる旋律に乗せて、圧巻のドラマに浸りたい。ロイヤル・バレエ版は夭折の天才振付家リアム・スカーレット振付による陰影に富んでドラマチックな「白鳥の湖」だ

この4作品を観れば、ロイヤル・バレエがなぜこんなにも世界的に大人気なのかが実感できる。幕間の解説や出演者へのインタビュー、そして舞台裏の映像で作品への理解も深まり、心揺さぶり胸弾む美しきバレエの世界のとりこになるはず。

また世界的なスーパースターだけでなく、ロイヤル・バレエで活躍する日本人ダンサーたちの踊りや演技も観られるのも、このシネマシーズンの楽しみの一つ。2023-24シーズンでは、前田紗江、中尾太亮がソリストに、五十嵐大地がファースト・アーティストに昇進し、来シーズンは頻繁にスクリーンで出会えるはずだ。高田茜、平野亮一、金子扶生と日本出身プリンシパルの活躍ももちろん期待できる。

近年、若手ダンサーの登竜門であるローザンヌ国際バレエコンクールの上位入賞者の多くは、ロイヤル・バレエスクールのスカラシップを獲得したり、研修生としてロイヤル・バレエに入団したりしており、ローザンヌ出身の新星が頭角を現すことも期待されている。

ロイヤル・バレエの魅力とは
今年6月に開催されたロイヤル・バレエの来日公演では、『ロミオとジュリエット』8公演が毎回違う、8組のダンサーが主演で上演され、ほとんどの公演がソールドアウトとなるなど、ロイヤル・バレエ旋風が日本を吹き荒れた。ロイヤル・バレエの過去と現在、未来を見せる「ロイヤル・セレブレーション」も高く評価された。演劇的バレエなどの伝統を大切にしながらも、果敢に新しい作品に取り組み、さらに世界トップクラスのスターダンサーたちが魅せる。ロイヤル・バレエの大きな強みは、国籍や肌の色に関わらず、優れたダンサーたちをどんどん起用することであり、そのため日本人ダンサーたちの活躍も実現しているのである。

また、リハーサルやクラスレッスンのネット中継などの配信事業、世界中のバレエ団がオンラインで生中継を行う恒例の「ワールド・バレエ・デー」(今年は11月1日を予定)の主催、そして本ロイヤル・オペラハウス・シネマシーズン」による映画館での上映、アウトリーチ活動と、ロイヤル・バレエはバレエを世界中の幅広い人々に広めるのに大きな役割を果たしている。映画館でロイヤル・バレエを観て、ロイヤル・オペラハウスでのロイヤル・バレエの舞台が大画面で観られる幸せをぜひ感じてほしい。

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2023.07.03

ロイヤル・オペラ『フィガロの結婚』タイムテーブルのご案内

 

これぞモーツァルト!これぞ《フィガロの結婚》!
イギリスを代表する演出家マクヴィカーと、円熟を極めるパッパーノの指揮で贈る至高の舞台。

2006年に英国ロイヤル・オペラで初演されたこのプロダクションは、数ある《フィガロの結婚》の舞台の中でも「決定版!」と言われ大評判となったもの。何度も再演を重ねてきた。しかし今回は、台本を自然に表現できる若手イタリア人を中心とした理想的キャストが実現。中でも気品ある美声と抜群の歌唱力で観客の熱狂的な拍手を受ける伯爵夫人役のロンバルディは最大の聴きどころだ。また、アルカンタラが演じるアルマヴィーヴァ伯爵も超わがままな演技がリアルで面白い。再演にも関わらずマクヴィカー自身が細かいところまで演出をつけ、モーツァルトを知り尽くしたパッパーノがアンサンブルの細部まで鮮やかに指揮をする。劇場が誇る合唱団と俳優たちの演技も必見。
(上演日:2023年4月27日)


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【音楽】:ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
【台本】:ロレンツォ・ダ・ポンテ(原作:ピエール=オーギュスタン・カロン・ド・ボーマルシェの戯曲 『狂おしき一日、またはフィガロの結婚』)
【指揮】:アントニオ・パッパーノ
【演出】:ディヴィッド・マクヴィカー

【出演】
フィガロ:リッカルド・ファッシ、
スザンナ:ジュリア・セメンツァート、
バルトロ:ヘンリー・ウォディントン、
マルチェッリーナ:モニカ・バチェッリ、
ケルビーノ:ハンナ・ヒップ、
アルマヴィーヴァ伯爵:ヘルマン・E・アルカンタラ
ドン・バリージオ:グレゴリー・ボンファッティ、
アルマヴィーヴァ伯爵夫人:フェデリカ・ロンバルディ
アントニオ:ジェレミー・ホワイト、
ドン・クルツィオ:アラスデア・エリオット、
バルバリーナ:ヘレン・ウィザース

2023.06.30

オペラ『フィガロの結婚』を初心者でもわかりやすく解説します

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家田 淳(演出家・翻訳家 洗足学園音楽大学准教授)

「フィガロの結婚」の理想形

 マクヴィカー演出「フィガロの結婚」は、この作品を安心して楽しめる王道のプロダクション。美術・照明・衣裳がきわめて美しく、大きな窓から取り込んだ明かりが、一日の時間経過を表しつつ、一瞬一瞬を絵画のように照らし出す。
 今回の再演の歌手の顔ぶれは若く、人物たちの実年齢に近くて、演技も達者。バロックからモーツァルトのレパートリーに定評のあるチャーミングなスザンナ役ジュリア・セメンツァートを初めとして、フィガロ役のリカルド・ファッシ、伯爵夫人役のフェデリカ・ロンバルディ、憎めない伯爵役のヘルマン・アルカンタラなど、それぞれ役にピッタリで魅力的だ。

 しかも今回はマクヴィカー自身が再演演出を手がけているため、芝居がよりイキイキと立ち上がっている。
 オペラハウスでは通常、プロダクションが再演される場合、オリジナルの演出家が稽古をすることは滅多になく、劇場付きの再演演出家が担当するのが一般的である。非常に短い稽古時間で仕上げることも多く、劇場によってはいかにもおざなりな演技を見さされることもある。その点、ロイヤル・オペラ・ハウスは再演でも作品のクオリティに目をくばり、稽古にしっかり時間をかける。特に「フィガロの結婚」のように演劇並みに緻密な芝居を要求されるアンサンブルオペラでは、これはとても大事なことだ。

 指揮者パッパーノ自身がフォルテピアノでレチタティーヴォ・セッコの伴奏をしていることも、聴きどころのひとつ。
 パッパーノとマクヴィカーは相性が良いようで、インタビュー中、パッパーノは「私たちはどちらが指揮者でどちらが演出家とも言えない関係性だよね」と言っている。指揮者と演出家の作品に対するビジョンが必ずしも一致しない場合も多い中、音楽・演技の表現が完全に融合した舞台は、オペラの理想的な形と言える。

18世紀の#MeTooオペラ

 さて、「フィガロの結婚」というモーツァルトの代表作品について改めて考えてみると、その新しさに驚かされる。賢い女性たちが手を組んで、セクハラ親父を懲らしめる物語。これは18世紀の#MeTooオペラだ。
 
 作品の中で、機知の点では常に女性の方が男性の先をいっている。
 フィガロは一見、婚約者スザンナを守るために上司の伯爵に果敢に立ち向かうヒーローだが、実は作品中、フィガロの計画はほぼどれも失敗に終わる。彼だけではなく、スザンナに言い寄る浮気性の伯爵や、伯爵夫人に恋する小姓ケルビーノもしかりで、男たちはヘマばかりしている。状況を救うのはスザンナであり、伯爵夫人であり、スザンナの恋敵マルチェリーナ、スザンナの従姉妹バルバリーナといった女性陣なのだ。

 幕前映像の中で指揮者パッパーノが語っているように、これはフェミニストオペラなのである。こんなオペラはモーツァルト以前には存在しなかった。
 このオペラには伯爵から、医者、召使、庭師・農民まで、あらゆる階層の人間が登場する。それぞれに性格描写が細かく人間味をもって描かれており、しかも中心にいるのは貴族ではなく召使のフィガロとスザンナである。完全な身分社会だったフランス革命前のヨーロッパにおいて、ここまで平民が中心になって活躍するオペラを作った人もモーツァルト以前にはいなかった。
 音楽的にも、全役の中で一番低い音を歌うのがフィガロで、一番高い音を歌うのがスザンナ。それ以外の人物たちは彼らの間にはさまれている形になっているという、小憎い仕掛けだ。伯爵夫人とスザンナには声が完璧に溶け合う手紙の二重唱を歌わせ、音楽によって身分の差を消している。
 つまりモーツァルトは多様性の作曲家でもあった。240年近く前に、現在の私たちの社会に吹いている旋風を先取りしていたとは、改めてモーツァルトの慧眼に感服する。

ディテールが光る舞台

 この演出では、設定が18世紀後半スペインから19世紀前半のフランスのシャトーに設定が移されている。視覚的にはそれほど変わりがないように見えるが、18世紀後半と19世紀前半では、フランス革命の前と後であるという違いが大きい。
 シャトーでは従者たちがのびのびと気兼ねなく振る舞い、常にあちこちに登場して、伯爵夫妻の様子を観察している。
 それでいて、室内の調度品はルイ16世様式で統一されている。世の中は平等になったのに、シャトーのオーナーである伯爵だけはいまだに革命前の世界に閉じこもっていると言いたいかのよう。
 そんな演出家のこだわりにも注目すると、いろいろな発見がある舞台だ。

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2023.06.21

ロイヤル・バレエ来日公演&「シンデレラ」公開記念トークショーを開催決定!

英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン
ロイヤル・バレエ来日公演&「シンデレラ」公開記念トークショーを開催決定!

英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン「シンデレラ」公開とロイヤル・バレエ来日公演を記念し、特別ゲストを招いてトークショーを開催致します。

■実施日:6月26日(月)
■会場:TOHOシネマズ 日本橋 スクリーン8
■時間:18:30の回(上映前)※予定
■ゲスト:ギャリー・エイヴィス(シニア・レペティトゥール 兼 プリンシパル・キャラクター・アーティスト)
※ゲストの予定は変更になることがございます。また都合により中止となる場合がございます。予めご了承くださいませ。

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https://www.tohotheater.jp/theater/073/info/event/roh-cinderella.html