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2022.07.15

ロイヤル・バレエ『白鳥の湖』タイムテーブルのご案内



天才振付家の新演出で一新、生まれ変わったあの「白鳥の湖」がシーズンのフィナーレを飾る!!
日本人ダンサーの活躍にも注目!

 チャイコフスキーのあまりにも美しく心を揺さぶる旋律に乗せた、クラシック・バレエの不朽の名作『白鳥の湖』。2018年5月、ロイヤル・バレエ団によって31年ぶりに新演出によるプロダクションに一新された本作が、スクリーンに帰ってきました!従来の白鳥たちが舞う湖畔のシーンはそのままに、気鋭の美術家ジョン・マクファーレンによる絢爛たる舞台美術と初演当時弱冠31歳の天才振付家、故リアム・スカーレットによる新しい振付を加えたプロダクション。英国バレエ伝統の演劇性を強調した、鮮烈で壮麗な「白鳥の湖」決定版です。
2022年5月19日に収録された今回のシネマでは、昨年の出産から舞台復帰を果たした英国バレエ界の名花、ローレン・カスバートソンがオデットとオディールを繊細に、詩情豊かに演じます。ジークフリート王子役は、映画版『ロミオとジュリエット』のフレッシュなロミオ役で人気が急上昇し、この5月プリンシパルに昇進した新星ウィリアム・ブレイスウェル。女王の側近で、その正体は悪魔ロットバルトを、ロイヤル・バレエを代表する名優ギャリー・エイヴィスが持ち前のカリスマ性で重厚に演じます。
 王子と友情を越えた強い絆で結ばれている友人ベンノ役には、日本出身で躍進が続くアクリ瑠嘉。また大きな白鳥の一人には、『くるみ割り人形』の薔薇の精などで抜擢が続く佐々木万璃子、小さな4羽の白鳥の一人と、イタリアの王女には注目の前田紗江。この他にも随所に日本人ダンサーの活躍が見られるのも見どころのひとつです。今回の公演はローレン・カスバートソンのロイヤル・バレエ団在籍20周年を記念し特別なカーテンコールが行われました。衝撃と感動の幕切れ、壮麗な愛の傑作をぜひともスクリーンでご堪能下さい。
(2022年5月19日上演作品)

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【振付】:リアム・スカーレット(マリウス・プティパ、レフ・イワーノフ原振付に基づく)【追加振付】:フレデリック・アシュトン(3幕ナポリの踊り)
【音楽】:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー 【演出】:リアム・スカーレット【美術】:ジョン・マクファーレン 【指揮】:ガブリエル・ハイネ
【出演】 オデット/オディール:ローレン・カスバートソン  ジークフリート王子:ウィリアム・ブレイスウェル  女王:クリスティーナ・アレスティス
ロットバルト:ギャリー・エイヴィス  ベンノ:アクリ瑠嘉  ジークフリートの妹たち:イザベラ・ガスパリーニ、ミーガン・グレース・ヒンキス

2022.07.11

英国ロイヤル・バレエ『白鳥の湖』公開記念&ロイヤル・バレエ・ガラ来日公演記念 日本への思い、日本人ダンサーへの称賛を熱く語る!!

英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパルダンサーで、
本作ではジークフリート王子を演じるウィリアム・ブレイスウェルが登壇!
『白鳥の湖』公開&ガラ来日公演記念トークショーを実施しました!!

7月15日(金)から全国公開となる英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン「白鳥の湖」の先行上映前に、ゲストを呼んでのトークショーを実施。当初登壇を予定していたケヴィン・オヘア芸術監督の日本到着が遅れ、急遽、本作「白鳥の湖」でジークフリート王子を演じるプリンシパルダンサーのウィリアム・ブレイスウェル氏が登壇することになった。ブレイスウェル氏は、7月13日(水)から渋谷のBunkamuraオーチャード・ホールで始まるロイヤル・バレエ・ガラ公演の為に来日、日本に到着してから間もないにもかかわらず、疲れをみせず、日本のファンに向けて温かいメッセージを寄せてくれた。

まず冒頭では、「お招きをいただきありがとうございます。この場に来られたことがとても光栄で、ご覧いただけることを嬉しく思っています。この数年世界は大変で、さらにこの数日、日本は大変な時期だった思いますが、「白鳥の湖」を観て楽しんで欲しいです」と挨拶。続いて、今期シネマシーズンのラストを飾る「白鳥の湖」の見どころについては、「リアム・スカーレットの振付、ジョン・マクファーレンのセットデザイン、さらには、チャイコフスキーの音楽とこの三つが一緒になることで素晴らしい作品になっています。個人的には、第一幕のジークフリート王子が狩りに行くシーンが好きです。また、オデット&オディール役の大ベテランのローレン・カスバートソンとは、過去に一度だけ「くるみ割り人形」で踊ったことがあったのですが、ケヴィン・オヘア芸術監督が私とローレンの相性が良いということで、才能溢れる彼女と再び踊れることができ、とても幸せでした。また、彼女が産後に初めてフルの作品にでるということで、一緒に役柄を追求する場にいれたことも大変光栄でした。」とコメント。

来期のシネマシーズンのラインナップ(「うたかたの恋 -マイヤリング-」「くるみ割り人形」「ダイアモンド・セレブレーション」「赤い薔薇ソースの伝説」「シンデレラ」「眠れる森の美女」)より「くるみ割り人形」で金子扶生(ふみ)さんのシュガープラム(金平糖の精)とのパ・ド・ドゥで王子役を踊ることについては、「金子扶生さんとは以前も踊ったことがあるのですが、他のダンサーにはだせないエレガントで技術的な素晴らしさを持ち合わせ、それは夢のような体験です」と最大の賛辞を贈った。

また、7月13日からのガラ公演に関しては、「何よりも日本に来れたことが嬉しくて、とても楽しみにしていました。Aプロでは、佐々木万璃子さんと「白鳥の湖」2幕のパ・ド・ドゥを踊るのですが、彼女ほど努力する人はないのではと思うほど、この数週間、一生懸命に稽古されていました。努力家でそして美しい人です。「白鳥の湖」では大きな白鳥を演じていて、こちらも素晴らしいので楽しみにしてください。Bプロでは、大ベテランのマリアネラ・ヌニェスさんと「グラン・パ・クラシック」を初めて踊ります。彼女も初めてとのことですが、彼女ほどの大ベテランが新しいことに挑戦するのは珍しいなと思いました。完璧主義者で、ディテールにこだわって稽古されているので、私も対等に踊るために稽古を苦労しました」とエピソードを披露した。

また、日本のバレエファンへ向けて「日本は大好きな国の一つで、日本で踊れることが楽しみで仕方ありません。日本のお客様は温かくて、バレエに対しての敬意を感じます。本当に心の底から感謝しています。また実は、今日ご覧いただく「白鳥の湖」のシネマ公演直後に舞台袖で、ケヴィン・オヘア芸術監督から、プリンシパルの昇進を告げられて、大泣きしました。そんなこともあり、この作品は私にとってとても特別な作品になりました。皆様に是非楽しんでいただきたいです。」と温かいメッセージを寄せ、場内は大きな拍手でイベントは終了した。

2022.07.05

【出演者変更のお知らせ】英国ロイヤル・バレエ「白鳥の湖」公開記念& ロイヤル・バレエ・ガラ来日公演記念 7/10(日)トークショー開催!

7月10日(日)TOHOシネマズ日本橋にて予定していましたトークショー付先行上映ですが、
ゲストとして予定していました英国ロイヤル・バレエ団 ケヴィン・オヘア芸術監督につきまして
昨日ロイヤル・バレエ・ガラ公演の招聘元を通し、以下の連絡が入りました。

「ケヴィン・オヘア氏の来日が急遽予定よりも遅れることになり、トークイベントへの出演が不可能になりました。その為「白鳥の湖」の王子役でプリンシパル・ダンサーのウィリアム・ブレイスウェルが先に日本に到着予定になっていますので、同団内で代わりに出演の打診をした所、快諾してもらいました」

上記がバレエ団より入ったとのことでした。
急な変更で、ケヴィン・オヘア氏のお話を楽しみにされて来場されるお客様には、本当に申しわけありませんが、
ぜひウィリアム・ブレイスウェル氏のお話を楽しんで頂ければ幸いです。  東宝東和株式会社

『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2021/22』より、フィナーレを飾る6作目は、チャイコフスキーによる美しくも心揺さぶる旋律に乗せたクラッシック・バレエの不朽の名作『白鳥の湖』が、7月15日(金)より全国公開。

2018年5月、ロイヤル・バレエ団によって31年ぶりに新演出で一新された本作は、従来の白鳥たちが舞う湖畔のシーンはそのままに、気鋭の美術家ジョン・マクファーレンによる絢爛たる舞台美術と初演当時弱冠31歳の天才振付家、故リアム・スカーレットによる新しい振付を加え、高い評価を得ているプロダクション。ライブでの観劇とは一味違う体験を、再びお届けします。

チケットは、7/6(水)0:00~(TOHOシネマズ会員は7/5(火)21:00~先行)、劇場HPにて販売開始となります(料金:一般3,700円/学生2,500円)。

7月10日(日)13:00開演 @TOHOシネマズ日本橋 
https://hlo.tohotheater.jp/net/schedule/073/TNPI2000J01.do

2022.06.10

ロイヤル・オペラ『椿姫』タイムテーブルのご案内



ロンドンの観客が熱狂し、新たな伝説が生まれたー

 アレクサンドル・デュマ・フィスの戯曲をヴェルディがオペラ化した『椿姫』は、『リゴレット』と並ぶ中期三大傑作の一つ。舞台は19世紀半ばのパリ、貴族や富豪たちの寵愛をほしいままにしていた高級娼婦ヴィオレッタは、青年アルフレードとの真実の愛に目覚めるも、やがて引き返すことのできない事態へと進んでいく悲劇の物語。英国ロイヤル・オペラの『椿姫』は、巨匠リチャード・エアが1994年に初演出し、以来上演され続けている人気の看板プロダクションです。エアの演出は伝統的なスタイルを保持しながらも、気品のあるスタイリッシュな美しさで登場人物たちのドラマを際立たせます。
 ヴィオレッタを演じるのは、南アフリカ出身のソプラノ歌手プリティ・イェンデ。しなやかで光沢のある稀にみる美声の持ち主で、今やオペラ界に欠かせない存在としてスター歌手になった彼女は、2019年パリ・オペラ座の『椿姫』ヴィオレッタ役でブレイク。本作では卓越したテクニックと芸術性、気取りのない自然なスタイルで、善良な若い娘が純愛を貫く姿を情熱的に演じています。また、アルフレード役のスティーヴン・コステロは愛情深い恋人を好演、彼の父ジェルモンはブルガリア出身のバリトン歌手ウラディーミル・ストヤノフが格調高い歌と演技を披露します。指揮は若きイタリア人マエストロ、ジャコモ・サグリパンティ。ワルツのリズムに乗った透明感のある弦楽の響きが美しく、しかも緊迫した場面の推進力も見事。
円熟期のプリティ・イェンデの絶唱にロンドンの観客が熱狂、名舞台『椿姫』に新たな伝説が生まれました。

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【作曲】:ジュゼッペ・ヴェルディ 【台本】:フランチェスコ・マリア・ピアーヴェ(原作:アレクサンドル・デュマ・フィスの戯曲『椿姫』)
【指揮】:ジャコモ・サグリパンティ 【演出】:リチャード・エア 【美術】:ボブ・クロウリー
【出演】:ヴィオレッタ・ヴァレリー:プリティ・イェンデ  アルフレード・ジェルモン:スティーヴン・コステロ
アンニーナ:クセニア・ニコライエワ  ジョルジョ・ジェルモン:ウラディーミル・ストヤノフ

2022.06.07

オペラ『椿姫』を初心者でもわかりやすく解説します

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石川了(音楽・舞踊ナビゲーター)

大ヒット映画「プリティ・ウーマン」と「椿姫」
 もう30年以上も前になるが、世界的に大ヒットした『プリティ・ウーマン』という映画を覚えているだろうか。リチャード・ギア扮する敏腕実業家のエドが、LA出張中に、ジュリア・ロバーツ扮する高級娼婦ヴィヴィアンと一緒に過ごすうちにお互いに惹かれ合い、境遇の差を越えて結ばれるというロマンティック・コメディだ。
 映画の中で、エドがヴィヴィアンと一緒に盛装してオペラを観に行く、その演目が『椿姫』である。第1幕冒頭の華やかなパーティーの音楽から、ヴィオレッタのアリア「花から花へ」、第2幕の別離の絶唱「私を愛してアルフレード、私があなたを愛するくらい」、そして終幕のヴィオレッタの死へと続く。ヴィオレッタとヴィヴィアン、2人の高級娼婦の心情を重ね合わせるようなジュリア・ロバーツの表情が、とても印象的であった。
 エドがバラの花束を持ってヴィヴィアンを迎えに行くラストでは、前述の第2幕の別離の絶唱がドラマティックに奏でられる。ハッピーエンドになぜ別離の音楽が? まあそれはご愛嬌として、筆者にとって『プリティ・ウーマン』は、宣伝文句だった現代版『マイ・フェア・レディ』というより、ヴィオレッタが幸福をつかんだ現代版『椿姫』という感覚の方が近い映画であった。

ロンドンの観客が熱狂し、新たな伝説が生まれた「椿姫」!
 “プリティ”つながりでいえば、英国ロイヤル・オペラハウス シネシーズン2021-22『椿姫』でヒロインのヴィオレッタを演じるのが、1985年南アフリカ生まれのソプラノ、プリティ・イェンデだ。
 筆者は以前クラシック音楽専門チャンネル「クラシカ・ジャパン」で、若手アーティストを紹介する「明日のスターたち」というシリーズを編成したのだが、2012年収録の同番組で、彼女がベッリーニの歌劇『清教徒』の狂乱の場を圧倒的な声で歌っていたのを思い出す。あれから10年、30代半ばのイェンデは、ヴィオレッタを歌うのに欠かせないコロラトゥーラ(コロコロ転がすように歌う軽めの声)と強くドラマティックな声の両方を兼ね備えたソプラノに変貌した。この映像で、その成長ぶりを実感できるのが嬉しい。
 英国ロイヤル・オペラハウス(ROH)公演は、国際色ゆたかなアーティストたちの饗宴も楽しさのひとつ。アルフレードを歌うスティーブン・コステロは、1981年生まれのアメリカ人テノール。海外ドラマ『ベター・コール・サウル』『ブレイキング・バッド』や映画『Mr.ノーバディ』の主演俳優ボブ・オデンカークに少し似ているところも、ドラマ好きには注目してほしいポイントだ。アルフレードの父親ジェルモン役は、当初予定のディミトリ・プラタニアスが病気のため降板し、今や50代のベテランとなったブルガリア人バリトン、ウラディーミル・ストヤノフが代役で出演した。

 指揮は、本公演でROHデビューを果たした気鋭のイタリア人指揮者ジャコモ・サグリパンティ。日本デビューとなった2020年2月の東京二期会『椿姫』公演も記憶に新しい。この『椿姫』では、マエストロ独特のテンポ感が見どころで、歌とオーケストラの多少のズレも何のその、ライブならではの緊張感と音楽の推進力が、映画館で観るオペラの面白さを倍増させている。なお、第3幕が始まる前に挿入されるイェンデとサグリパンティのピアノ稽古は必見!お見逃しなく。

プリティ・イェンデの「椿姫」に全員号泣必至!
 1994年12月初演のリチャード・エア演出が、30年近く経った今なお上演されていること自体、このプロダクションのロンドンでの根強い人気を物語っていると言えよう。サー・ゲオルグ・ショルティが指揮し、ルーマニア人ソプラノのアンジェラ・ゲオルギューが一夜でスター誕生となった初演の模様は、テレビやDVDで観たことのある方も多いだろう。
筆者は、2008年1月に現地ロンドンで、エア演出の『椿姫』を観劇した。キャストは、当時人気絶頂のアンナ・ネトレプコとディミトリ・ホロストフスキー、人気が出始めたばかりのヨナス・カウフマン、指揮はマウリツィオ・ベニーニという布陣だった。初日の公演チケットを、当日の早朝に並んでゲット。筆者も家族も、そして周りに座っていた朝一緒に並んだオヤジたちも全員号泣した、あの興奮は忘れられない。
 身を堕としたヒロインが真実の愛に目覚め、一時の幸福を味わうが、恋人の父親に仲を引き裂かれ、最後に孤独に死んでいく。再演の度に歌手が変わっても、一人の女性の命が燃え尽きようとする一瞬の輝きに、誰もが胸が熱くなるストーリーとヴェルディの音楽。『椿姫』は、『プリティ・ウーマン』のヴィヴィアンのようなオペラを観たことがない人でも、必ず泣けるオペラなのだ。
 映画館の中では、泣いたって大丈夫。ただし、必ずハンカチは持っていくように。

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2022.05.19

ロイヤル・オペラ『リゴレット』タイムテーブルのご案内



ヴェルディの悲劇的オペラの傑作が特別記念上演!
最強の制作陣×ドリーム・キャストで贈る、新たなる「リゴレット」誕生!!

 ヴィクトル・ユゴーの戯曲「王は愉しむ」をもとにしたヴェルディの悲劇的オペラの傑作『リゴレット』。シーズンのオープニング・アクトで上演されたのは、オペラ芸術監督のオリバー・ミアーズが監督就任後初めて演出を手掛けるニュー・プロダクション。指揮は、英国ロイヤルとの長年のコラボにおいても「リゴレット」を指揮するのは初めてという音楽監督のアントニオ・パッパーノ。ミアーズとパッパーノによる最強の組み合わせと言える今回の舞台は、思い切りのよいドラマチックな表現で、1851年の初演から171年を迎えた特別記念上演にふさわしく、ロンドンの聴衆を熱狂させました。
 最大の見どころともいえるのが、現在望みうる最高の歌い手たちによる心揺さぶる名演。世間知らずの恋する乙女・ジルダを演じるのは、ソプラノのトップ歌手リセット・オロペサ。ジルダの心情を見事に表現し尽くし、辛口批評で知られるガーディアン紙が「オロペサの比類なきジルダ」と絶賛。さらに、テノールのリパリット・アヴェティシャンは自分勝手だが憎めないマントヴァ公を輝かしい声で、ブリンドリー・シェラットはコワモテ殺し屋・スパラフチーレを迫力ある低音で、ラモーナ・ザハリアはスパラフチーレの妹マッダレーナを濃厚な美声で好演しました。そして極めつきに、スペインの名歌手カルロス・アルバレスが、タイトル・ロールのリゴレットの苦悩を、声と演技の至芸で表し、聴衆に深い感動を与えます。ドリーム・キャストによる本公演は、まさに「リゴレット」の決定版といえます。(2021年9月24日上演作品)

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【作曲】:ジュゼッペ・ヴェルディ   【台本】:フランチェスコ・マリア・ピアーヴェ(原作:ヴィクトル・ユゴー「王は愉しむ」)
【指揮】:アントニオ・パッパーノ  【演出】:オリバー・ミアーズ  【美術】:サイモン・リマ・ホールズワース  【衣裳】:イローナ・カラス
【出演】マントヴァ公爵:リパリット・アヴェティシャン  リゴレット:カルロス・アルバレス  ジルダ:リセット・オロペサ  スパラフチーレ:ブリンドリー・シェラット  マッダレーナ:ラモーナ・ザハリア  ジョヴァンナ:クセニア・ニコライエワ  モンテローネ:エリック・グリーン

2022.05.17

オペラ『リゴレット』を初心者でもわかりやすく解説します

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石川了(音楽・舞踊ナビゲーター)

新演出版で今が旬の歌手たちの競演!
パルマでの出来事
 今でも忘れられない、2012年パルマのヴェルディ・フェスティバル「リゴレット」を取材したときの出来事を紹介したい。
 休憩時にトイレに行くと、一人のおじいさんが口笛を吹きながら用を足していた。音楽は、「リゴレット」第三幕の四重唱。すると、トイレに居た男性たちも次々とその旋律を口笛で吹き始め、テアトロ・レージョ(パルマ王立歌劇場)の男子トイレが口笛による「リゴレット」の四重唱で満たされた。
 そう、「リゴレット」の魅力は、この誰もが口ずさめる(口笛でも吹ける)音楽なのだ。

 「リゴレット」は、19世紀のイタリアの作曲家ジュゼッペ・ヴェルディの中期三大傑作のひとつ(他二作は「椿姫」「イル・トロヴァトーレ」)。マントヴァ公爵に仕える道化師リゴレットは、一人娘のジルダを公爵にもてあそばれ、殺し屋スパラフチーレに彼の殺害を依頼するが、公爵を愛するジルダは身代わりとなって殺されるというストーリーだ。
 ヴェルディは、若くして2人の子供と妻マルゲリータを亡くし、二番目の妻ジュゼッピーナ・ストレッポーニは私生児の母であったことから世間の冷たい視線を浴びた。そのような悲しみや苦しみ、そしてヴェルディの父親としての亡き子供たちへの想いが、身体に障害を持つ道化という社会的弱者を主人公に、父娘の愛情を描く心揺さぶられる音楽ドラマを生んだのだと思う。

新プロダクションでのパフォーマンス
 本作は英国ロイヤル・オペラ・ハウスのシーズンの開幕を飾った公演で、演出家のオリバー・ミアーズにとっては、ROHオペラ・ディレクターとして2017年3月に就任以来、初演出となる新プロダクションだ。
この演出では、富と特権を享受する好色なマントヴァ公爵が、美術品の目利きでもあるという設定がユニーク。第一幕では、会員制クラブ風の部屋にティツィアーノの傑作『ウルビーノのヴィーナス』が大きく飾られ、公爵は「女性」と「美術品」の収集家で、両方ともモノ扱いしているという性格が暗示される。
 格差、ジェンダー、社会の分断といった問題も反映され、古典(クラシック)は決して古臭いものではなく、現代にも通じるテーマであることを感じる舞台だ。

 タイトルロールを歌うスペインのバリトン、カルロス・アルバレスは、4年前の筆者のインタビューで、リゴレット役には特別な想いがあると語っている。
 「1993年ミラノ・スカラ座の新制作「リゴレット」で、リッカルド・ムーティよりタイトルロールのオファーをいただきました。彼は声楽的に私の声がリゴレットに合っていると確信していましたが…私は思ったのです。リゴレットをやるには、もう少し歳を取らなくちゃいけない。もう少し人生の苦悩も知らなくてはならないし、ましてや父親であるという経験も必要なのではと。まだ26歳でしたからね。だからマエストロに手紙を書いて丁重にお断りしました。でも50歳を越えて、今がリゴレットを演じるときです。」
大学の医学部に行きながら声楽家になったアルバレス。さまざまな経験を重ねた今、彼のリゴレットは、まさに旬を迎えている。
 この「リゴレット」では、ジルダを歌うソプラノのリセット・オロペサがキューバ系アメリカ人(2022年9月に来日予定)、マントヴァ公爵のテノール、リパリット・アヴェテイスヤンがアルメニア人、スパラフチーレ役のバス、ブリンドリー・シェラットが英国人、マッダレーナを歌うメゾ・ソプラノのラモーナ・ザハリアがルーマニア人と、国際都市ロンドンの歌劇場らしく、出演者がインターナショナル。ROHシネマシーズンは、今欧米で活躍する国際色ゆたかな歌手たちのパフォーマンスを観ることができるのも魅力だ。

パッパーノ!
 最後に指揮者、ROH音楽監督アントニオ・パッパーノを紹介したい。
 彼は1959年生まれ。両親はイタリア人で、ロンドン生まれのアメリカ育ちというコスモポリタンだ。21歳の時、ニューヨーク・シティ・オペラでコレペティトゥア(ピアノを弾きながら歌手に音楽稽古をつける人)としてキャリアをスタート。その後、バルセロナやリセウ歌劇場やフランクフルト歌劇場、シカゴ・リリック・オペラ、さらにバイロイト音楽祭ではダニエル・バレンボイムのアシスタントを務めるなど、歌劇場に育てられた生粋の劇場人である。1992年よりブリュッセルのモネ劇場音楽監督を10年間務め、現在は、サンタ・チェチーリア国立音楽院管弦楽団音楽監督(2005~ )も兼任している。
 劇場とシンフォニーオーケストラの両方を熟知するパッパーノだけに、この「リゴレット」でも、歌手の歌いやすいテンポや音量のバランス、ドラマを牽引するオーケストラの緩急自在なコントロールなど、劇場指揮者としての手腕をスクリーンで堪能したい。特に、パッパーノのリハーサルシーンは必見。マエストロ、メチャ歌がうまい!
 海外情報によると、1億円以上とも報じられるパッパーノの年収に批判もあるらしいが、この映像でもおわかりのように、彼が登場するだけでBravo!が出るほど、ロンドンっ子たちからの絶大な信頼を勝ち得ているようだ。

 そのパッパーノも2024年7月をもってROH音楽監督を退任し、同年9月よりロンドン交響楽団音楽監督に就任予定。さあ、次のROH音楽監督は誰に?

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2022.04.07

ロイヤル・バレエ『ロミオとジュリエット』タイムテーブルのご案内



英国ドラマティック・バレエの最高峰!!
伝説の初演から530回以上も上演、今なお新鮮さを失わない、ケネス・マクミラン版!

1965年に初演されて以来、世界中で現代の偉大な古典作品と評価されているケネス・マクミラン振付の『ロミオとジュリエット』。ルドルフ・ヌレエフとマーゴ・フォンテーンが主演した伝説の初演からこれまで、530回以上も上演され、ロイヤル・バレエの演技性と、あまりにも美しく儚いロマンティックなバルコニーシーンの二人に心奪われる、まさに英国ドラマティックバレエの最高峰といえる作品です。 主演は、ジュリエット役に、昨年プリンシパルに昇格し、ニューヒロインとして今後の活躍が期待される英国出身のアナ=ローズ・オサリバン、ロミオ役には、しなやかで高い身体能力を誇る若手プリンシパルのマルセリーノ・サンベ。ロイヤル・バレエ・スクールで同級生、私生活でも仲が良いという2人が、運命に翻弄された恋人たちをフレッシュに、ロマンティックに好演。ロミオの親友・マキューシオには端正な実力派のジェームズ・ヘイ、ジュリエットの従兄弟でロミオの恋敵となるティボルトには、マシュー・ボーンの『白鳥の湖』でザ・スワン/ザ・ストレンジャーを演じたこともあるトーマス・ホワイトヘッドと魅力的なキャスティング。また佐々木万璃子がジュリエットの友人役で華を添えています。  シネマシーズンのお楽しみ、幕間の映像では名ジュリエットとして知られ、現在は指導者として活躍するリャーン・ベンジャミンと、カフカ原作『変身』等強烈な個性で知られ、本年ローレンス・オリヴィエ賞にノミネートされているエドワード・ワトソンが作品の魅力を語っているほか、主演陣のインタビュー、迫力あるソード・ファイトなどのリハーサル映像と見どころが盛りだくさんとなっています!
(2022年2月3日上演作品)

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【振付】ケネス・マクミラン 音楽】セルゲイ・プロコフィエフ 指揮】ジョナサン・ロー
【出演】
ジュリエット:アナ=ローズ・オサリバン  ロミオ:マルセリーノ・サンベ  
マキューシオ:ジェームズ・ヘイ  ティボルト:トーマス・ホワイトヘッド  ベンヴォーリオ:レオ・ディクソン  パリス:ニコル・エドモンズ
キャピュレット夫人:クリステン・マクナリー  キャピュレット卿:ギャリー・エイヴィス  エスカラス:ルーカス・B・ブレンスロッド
ロザライン:クレア・カルヴァート  乳母:ロマニー・パイダク  ローレンス神父╱モンタギュー卿:フィリップ・モーズリー

2022.04.06

バレエ『ロミオとジュリエット』を初心者でもわかりやすく解説します

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森 菜穂美 (舞踊評論家)

2022年は「ロミオとジュリエット」の当たり年!
 今年2022年は日本のバレエ界では『ロミオとジュリエット』の当たり年。国内バレエ団でもK-Ballet Company、東京バレエ団、松山バレエ団、NBAバレエ団と上演が続きます。また映画では『ロミオとジュリエット』を下敷きにしたミュージカル映画の金字塔『ウェスト・サイド・ストーリー』が巨匠スピルバーグの手でリメイクされ、アカデミー賞にもノミネートされ、助演女優賞を受賞しました。他にも昨年11月にリリースされた、アイドルグループなにわ男子のデビュー曲「初心LOVE(うぶらぶ)」では、「二人はめげないロミジュリ」という一節が登場するなど、耳にも形を変えて飛び込んできています。

時代を超えて
 400年以上前に生まれた『ロミオとジュリエット』がなぜ、今も多くの人々に支持されるのでしょうか?そして1965年初演の、ケネス・マクミランの振付による『ロミオとジュリエット』はなぜ数ある『ロミオとジュリエット』の中でも決定版と言われているのでしょうか?そこには、今だからこそ心に響く普遍的なメッセージがあるからです。
 二つの名家キャピュレット家とモンタギュー家の争いは、2022年の世界に暗い影を落としたロシアとウクライナの紛争に見られるように、今も絶えない国際紛争や、Black Lives Matterに象徴されるような人種差別や貧富の差、格差による分断を象徴するように感じられます。スピルバーグ版『ウェスト・サイド・ストーリー』が生まれたのは、この分断がより顕著になってきた今だからこそ伝えたいメッセージがあるという背景からでした。憎しみの連鎖がより大きな悲劇を生み、無垢だったはずの若者が悲劇を迎えてしまうことで争いの虚しさを伝えています。

ジュリエットは世界で最初のフェミニスト
 もう一つ忘れてはならないのは、ジュリエットの描き方です。マクミラン版の『ロミオとジュリエット』を踊った歴代のダンサーの中でも、特にこの役を当たり役としたロイヤル・バレエ団、元プリンシパルのアレッサンドラ・フェリ、そして現役でジュリエットを踊っているロイヤル・バレエ団プリンシパルのサラ・ラムは共に、「ジュリエットは世界で最初のフェミニスト」だと語っています。ジュリエットは14歳と少女の設定ですが、その彼女が、たった一人で家の権威に立ち向かい、両親の意思に反して愛を貫く決意をして勇気ある選択をします。バレエの中では、わずか数日間の間に大人への階段を駆け上り、成長していくジュリエットの姿が印象的ですが、このような強いヒロイン像が400年以上も前に生まれたことに、シェイクスピアの先進性を感じます。
 スピルバーグ版の『ウェスト・サイド・ストーリー』のヒロイン、マリアも自分の方から積極的にロミオにキスをし、そして働いてお金を稼ぎ、大学に行って学ぶという夢を語るなど、自立した女性として描かれています。

踊らない振付
 もちろん、プロコフィエフ作曲による音楽の魅力もバレエ『ロミオとジュリエット』の大きな魅力の一つです。甘美な「バルコニーのパ・ド・ドゥ」、重厚な「騎士たちの踊り」(CMでもおなじみ)、躍動感のある市場の踊り。時に雄大で時に繊細、ドラマティックで華麗な旋律が心を揺さぶります。登場人物のキャラクターを象徴させるライトモチーフの使い方も印象的です。
 そしてマクミラン版『ロミオとジュリエット』の魅力は、何より3つのパ・ド・ドゥの振付の巧みさと音楽との一体化です。「バルコニーのパ・ド・ドゥ」での恋のときめきと高揚感、疾走感は比類のないものです。
さらにそれまでのバレエ作品では見られなかった、常識を覆すような振付も登場します。象徴的なのは、3幕で窮地に追い込まれたジュリエットが、バレエダンサーにも関わらずベッドの上にただ座り、身動きもせず、ただ前を見据える屈指の名場面。雄弁な音楽が流れていき、ジュリエットが愛を貫く決意をする心情が伝わってきます。
 最終場面、墓所で仮死状態になったジュリエットとロミオのパ・ド・ドゥは、「死体は踊らないのでは?」と初演当初には賛否両論を巻き起こしましたが、作品の悲劇性を強調する場面として強烈な印象を残します。マクミランは、若い二人が両家の対立の結果、むごたらしく死ぬ様子をこの作品で描きたかったと語り、ダンサーには醜く見えることを恐れるなと伝えていました。

次世代を代表するフレッシュなダンサー
 ドラマティック・バレエの最高峰である『ロミオとジュリエット』は演技力に優れた英国ロイヤル・バレエを代表する作品です。街の人々や貴族など一人一人の登場人物が、その人の人生を舞台上で生きています。
ジュリエット役のアナ=ローズ・オサリバンは27歳、昨年プリンシパルに昇格したばかりのフレッシュなダンサー。ロイヤル・バレエ・スクール育ちの英国人で、若き日のキャメロン・ディアスを思わせる煌めく青い瞳、愛らしい微笑みが印象的です。往年の名バレリーナ、レスリー・コリアに伝授された正確なテクニックと音楽性に加え、ナチュラルでデリケートなニュアンスを伝える演技力も素晴らしく、これからも楽しみなニューヒロインです。
 ロミオ役のマルセリーノ・サンベはポルトガル出身、アフリカン・ダンスからバレエの世界に入りました。天性の身体能力から導き出される超絶技巧とリズム感もさることながら、明るくチャーミングなキャラクターも魅力的です。ロイヤル・バレエでは史上2番目の黒人男性プリンシパル・ダンサーです。
 二人はロイヤル・バレエ・スクールの同級生として長くパートナーシップを築いてきており、『ロミオとジュリエット』ではその相性の良さが最大限に発揮されています。彼らの「バルコニーのパ・ド・ドゥ」の清新さには、思わず胸がキュンとします。原作ではロミオもジュリエットも10代という若さであるため、初々しくエネルギーにあふれたこの若手キャストによる舞台は特にリアリティが感じられます。

 このシネマシーズンでは、生の舞台の興奮を楽しめますが、特にドラマ性が高い『ロミオとジュリエット』は、出演者の顔の表情のクローズアップも要所で登場し、生の舞台では得られない体験もできます。幕間のインタビューやリハーサル映像も楽しいですが、本作では2013年までプリンシパルとして活躍し、新国立劇場バレエ団にもこの役でゲスト出演するなど名ジュリエットの一人であるリャーン・ベンジャミンと、先日引退し指導者になったエドワード・ワトソン、二人の元プリンシパルによる生のトークも興味深くファンには見逃せません。

~ご参考まで~
https://www.nbs.or.jp/stages/2022/romeo/index.html

http://www.matsuyama-ballet.com/newprogram/romeo_juliet_all.html

https://nbaballet.org/official/romeo_and_juliet/

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2022.03.10

ロイヤル・オペラ『トスカ』タイムテーブルのご案内



逮捕された恋人の命を助ける条件として、警察長官スカルピアがトスカに求めたものは?
スリルとサスペンスに満ちた傑作オペラを重厚なセットで堪能!

プッチーニの傑作オペラ《トスカ》。激動の時代のローマを舞台に、悪の手によって引き裂かれる恋人たちの物語。アリア「歌に生き、愛に生き」に代表されるイタリア・オペラならではの美しいメロディが本作では目白押しです。この情熱とスリルに満ちたストーリーが、ジョナサン・ケントの写実的な演出に、英国ロイヤルならではの重厚なセットと衣裳の美しさも加わり、その世界観をスクリーンで十二分に堪能できます。演劇的にきめ細かいアプローチが深く味わえるのは、細部にわたり映し出される映像だからこそと言えます。
歌手には、一流アーティストたちが集結。トスカ役に、その美貌に加え、声と演技が高く評価され、イギリスの評論でも「神々しいディーバ」と絶賛されたエレナ・スティヒナ、そして、カヴァラドッシ役には、当初予定されていたブライアン・イメルが不調により降板し、若手のフレディ・デ・トンマーゾが出演、イタリア的な音色で聴衆を圧倒し、劇場では拍手とブラボーが飛び交いました。スカルピアのアレクセイ・マルコフは、説得力たっぷりに悪役を演じます。
本作では、近年イタリアを含むヨーロッパ各地で大躍進を遂げているウクライナ出身の女性指揮者オクサナ・リーニフがタクトを取り、エレガントでありながらダイナミックな世界を表現していることにもご注目ください。

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【作曲】ジャコモ・プッチーニ【原作】ヴィクトリアン・サルドゥ「ラ・トスカ」【指揮】オクサナ・リーニフ
【演出】ジョナサン・ケント【再演演出】エイミー・レーン【デザイン】ポール・ブラウン
【出演】 カヴァラドッシ:フレディ・デ・トンマーゾ、 トスカ:エレナ・スティヒナ、 スカルピア:アレクセイ・マルコフ