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2023.03.20

バレエ『赤い薔薇ソースの伝説』の魅力、見どころを、を解説します

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森菜穂美(舞踊評論家)

魅惑の愛と官能と食べ物の大河ロマン『赤い薔薇ソースの伝説』

大ヒットしたメキシコ映画が『不思議の国のアリス』の名手たちに料理され、英国ロイヤル・バレエの舞台作品に

1992年に日本でもミニシアターで公開されてヒットしたメキシコ映画『赤い薔薇ソースの伝説』を観た方はいるだろうか。禁じられた愛が生み出す官能と食べ物が結びついて、やがてありえないような驚愕の出来事が次々と起きる”マジック・リアリズム“のぶっ飛んだ描写が話題を呼んだ色彩豊かな傑作で、ゴールデングローブ賞の外国語映画賞にノミネートされ、東京国際映画祭では主演女優賞を受賞した。

原題は「Como agua para chocolate」。ラテンアメリカでは、ホットチョコレート(ココア)を作る時にミルクの代わりにお湯にチョコレートを溶かして作るのだが。この「チョコレートのための水」という言葉がメキシコでは「情熱」「激怒」「情愛による官能」という意味があり、原作者のラウラ・エスキヴェルがこの言葉に触発されて小説を書いたという。

ロイヤル・バレエで初演されて大ヒットし、世界中のバレエ団で上演された『不思議の国のアリス』。この傑作バレエを創作した振付家クリストファー・ウィールドン(『パリのアメリカ人』『MJ:ザ・ミュージカル』でトニー賞受賞)、作曲家ジョビー・タルボット、そして美術のボブ・クロウリーのクリエイティブ・チームが『冬物語』に続き、最新作『赤い薔薇ソースの伝説』で結集した。ロイヤル・バレエでの初演は大評判を呼び、今年4月にはアメリカン・バレエ・シアターでも上演される予定だ。

バレエ版ならではのスペクタクルと華麗なダンスが織りなす情熱の大河ドラマ

元となった映画も大胆な展開と演出なのだが、今回のバレエ版は、映画の世界観を尊重しながらも、舞台芸術ならではのスケールの大きなスペクタクル作品に仕上がった。音楽はメキシコ生まれでメキシコ観光大使を務め、ドミンゴに絶賛されるなど今大注目を集めている女性指揮者アロンドラ・デ・ラ・パーラが監修し指揮をした。メキシコの民族楽器を駆使した民族音楽を思わせる魅惑的なスコア、乾いた光と色彩が豊かで文様などメキシコ文化を取り入れたクリエイティブな舞台美術、ミュージカルのように華やかでダイナミックなダンスシーン、極めつけはティタとペドロによる官能的でパッション溢れるデュエットと、物語バレエ作品の魅力がぎゅっと詰まっている。彼らの30年にわたる愛の軌跡が、ドラマチックに、そして文字通り燃え上がるような情熱をこめて料理されている。

禁じられた愛が料理にこめられ、そして不思議な奇跡が起きる!

毒母ママ・エレナに恋人ペドロとの結婚を禁じられたティタは、報われない想いを得意の料理に込める。ティタの料理は、それを食べた人に、時には過去の悲しい恋愛を思い出させ、時には内に秘めた官能に火をつけてとんでもないことが起こる。末娘が幸せになることが許せないママ・エレナは死してなおも、巨大化した亡霊となって彼女を悩ませる。これらの“マジック・リアリズム”的な描写が、名手ウィールドンの巧みな手腕によりバレエでドラマチックに表現されるところが大きな見どころである。

『キャッツ』のヒロイン、フランチェスカ・ヘイワード始めロイヤル・バレエの煌めくプリンシパルたちが演じるドラマ

ロイヤル・バレエのダンサーたちは、踊りだけでなくて演技者としてもトップレベルだ。家族のしきたりと毒母によって悲惨な運命を与えられた、料理上手のヒロインには、映画『キャッツ』で白猫ヴィクトリアを好演し、映画版『ロミオとジュリエット』でもジュリエットを初々しく演じた愛らしいフランチェスカ・ヘイワード。過酷な運命と戦い、30年にもわたる愛を貫く一途さと強さをピュアに情熱的に演じている。ペドロには、しなやかな身体能力に恵まれたチャーミングなマルセリーノ・サンベ。幼馴染として子どもの頃に出会い、愛し合っていたのに残酷な宿命で引き裂かれ、様々な出来事を経ててもなお、熱く愛し合い続けてついに結ばれるまでの強い想いを、二人ともダンスを通じて繊細に表現して物語に観客を引きこむ。

死んでも亡霊となってティタを悩ませる強権的な、しかし秘密を抱えたママ・エレナを演じるのは、ロイヤル・バレエきっての演技派で、今シーズン末に惜しまれて引退するラウラ・モレ―ラ。このほかティタを優しく見守り愛する医師ジョン役にはマシュー・ボーンの『白鳥の湖』で主役である男性の白鳥を演じたマシュー・ボール、眼鏡姿の誠実な男性という今までにない役柄に挑戦した。ペドロと結婚するもののティタに激しく嫉妬して苦しむ長姉ロサウラにマヤラ・マグリ、ティタの料理で官能に火をつけられて妖艶に踊り狂い革命戦士となる次姉ゲルトゥルーディスにミーガン・グレース・ヒンキス、そして馬に乗ってゲルトゥルーディスを連れ去っていくワイルドな革命戦士ホアンには、華麗な超絶技巧で場を支配するセザール・コラレス。6人のプリンシパルが主要な役を演じる贅沢なキャスティングだ。

バレエ作品がこんなにも燃え上がるようにセクシーでドラマチックかつ奇想天外なんて!と観た者まで思わず情熱的な気持ちに火がついてしまう、わくわくさせて魅惑的な逸品が『赤い薔薇ソースの伝説』。魔術的で官能的な世界をぜひ大スクリーンで楽しんでほしい。

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2023.03.20

ロイヤル・バレエ『赤い薔薇ソースの伝説』タイムテーブルのご案内




日本でも公開され大ヒットした、メキシコ映画『赤い薔薇ソースの伝説』が、
ロイヤル・バレエの新作として初登場!!
新しい物語バレエの傑作として批評家たちから大絶賛!

ラウラ・エスキヴェルのベストセラー小説を原作に、92年にはゴールデングローブ賞の外国語映画賞にノミネートされ、日本でもミニシアターで公開されてヒットした『赤い薔薇ソースの伝説』。名匠クリストファー・ウィールドンが、『アリス』や『冬物語』のクリエイティブ・チームと組んで生み出した新作は、メキシコを舞台にした禁断の愛と官能、そして料理についての物語。

ティタを演じるのは、映画『キャッツ』や『ロミオとジュリエット』に主演した新星フランチェスカ・ヘイワード。ティタを愛するが彼女の姉と結婚するペドロには、見事な超絶技巧を見せるマルセリーノ・サンベ。ロイヤル・バレエを代表するプリンシパルたちの競演、メキシコ色豊かな音楽、メキシコの大地や建築、民俗性を再現した光あふれる舞台美術など、原作や映画の世界観を体現しながらも、英国バレエ伝統のドラマ性を加え、さらに舞踊芸術ならではの豊潤で生き生きとした舞台は、英米の批評家たちにも絶賛された。ドラマティックでセクシー、情熱的で魔術的な魅惑の2時間半に、観た人誰もが魅了される。
(2022年6月9日上演)


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ラウラ・エスキヴェルの小説に基づく
【振付】:クリストファー・ウィールドン
【台本】:クリストファー・ウィールドン、ジョビー・タルボット
【音楽】:ジョビー・タルボット
【舞台美術】:ボブ・クロウリー
【照明デザイン】:ナターシャ・カッツ
【映像デザイン】 ルーク・ホールズ
【衣装デザイン】:リネット・マウロ
【指揮&音楽コンサルタント】:アロンドラ・デ・ラ・パーラ

2023.03.01

バレエ『くるみ割り人形』延長上映決定!

英国ロイヤル・オペラ・ハウス・シネマシーズン
『くるみ割り人形』延長上映決定!

大好評につき、TOHOシネマズ 日本橋にて延長上映が決定致しました!

~3/9(木)まで

3年ぶりに復活したピーター・ライト版の『くるみ割り人形』。
“金平糖の精”役に金子扶生、“クララ”役は前田紗江が演じ、その他にも日本人が多数出演!
ドラマティックな夢の世界をぜひ堪能ください。

★上映スケジュールは劇場HPをご覧ください
https://hlo.tohotheater.jp/net/schedule/073/TNPI2000J01.do

2023.02.22

バレエ『くるみ割り人形』の魅力、見どころを、を解説します

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森菜穂美(舞踊評論家)

冬の風物詩として、最も愛されるバレエ作品である『くるみ割り人形』。E.T.Aホフマンの「くるみ割り人形とねずみの王様」をもとに1892年に誕生した本作は、チャイコフスキーの切なく美しい旋律と幻想的な雪の場面や華麗なディヴェルティスマン、クリスマスを舞台にした少女のファンタジックな成長物語が人気を呼び、様々な振付作品が誕生してきた。

<ロイヤル・バレエ『くるみ割り人形』の魅力とは>

ロイヤル・バレエで上演されているピーター・ライト版は、1984年に初演。ホフマンの原作に登場する、ねずみ捕りを発明家のドロッセルマイヤーが発明したため、彼の甥ハンス・ピーターがねずみの女王の呪いでくるみ割り人形に姿を変えられてしまうというエピソードがプロローグで示される。クララに愛されることで呪いが解け、ハンス・ピーターが元の姿に戻ってドロッセルマイヤーの元に帰ってくるという物語性がはっきりしていることが、大きな魅力の一つとなっている。

ロイヤル・バレエではこの『くるみ割り人形』は初演以来550回も上演されており、この『くるみ割り人形』なしではクリスマスは迎えられない、とチケットもすぐにソールドアウトになる、バレエ団きっての人気演目である。ロイヤル・バレエならではの演劇性とハッピーエンド、大きくなるクリスマスツリーのドラマチックな演出、女の子の夢を具現化したような、甘く豪華絢爛なお菓子の国と金平糖の精の華麗な踊りが観客を幸福感で包む。子どもから大人まで誰もが夢と冒険の世界でワクワクできることが人気の秘訣だ。

<フルバージョンの『くるみ割り人形』が3年ぶりに帰ってきた!>

ロイヤル・バレエの『くるみ割り人形』も、2020年の世界的なパンデミックで試練を迎えた。同年12月に、ねずみと兵隊の戦いの場面に新振付を導入して大人のダンサーが踊り、子役の出演者を減らすなど一部演出を変更して上演されたものの、感染状況の悪化のためわずか4公演の上演で中止となってしまった。2021年の12月には、引き続きこのパンデミック対応版が上演されたが、コロナ禍で沈んでいたロンドン市民に、舞台芸術の美しさと興奮をもたらした。そしてついに今回の2022年上演では、パンデミック以前の、愛らしい子役たちがパーティーシーンや戦いの場面で舞台を駆け回る、にぎやかでハッピーな『くるみ割り人形』が帰ってきた!

<プリマ・バレリーナの輝き、金子扶生とニューヒロイン、前田紗江>

今回のシネマ上映で、主役の金平糖の精を演じるのは金子扶生。登場場面は短いけれども、10数分の中で圧倒的な輝きを見せてクララの夢を体現する役だ。難しい技術を用いながらもそれを感じさせず、砂糖菓子のように甘美に、優雅に舞う。今回は往年の大スター、ダーシー・バッセルに指導を受け、エレガントな中にもダイナミックでスピード感も感じさせる華やかさと豊かな音楽性を見せた。大阪出身の金子は、大怪我のため踊れない時期を経て復活し花開いた。2019年にやはり映画館に中継された『眠れる森の美女』で鮮烈な印象を残し、2021年にプリンシパルに昇進。今年のお正月にはイタリアの国民的スター、ロベルト・ボッレとイタリア国営放送のテレビ番組で共演するなど、今やロイヤル・バレエを代表するスターとなった。すらりとした長身に長い手足で舞台映えする華やかな容姿に加え、クラシック・バレエの技術の高さに定評がある。さらに最近では『うたかたの恋―マイヤリング』でマリー・ラリッシュ伯爵夫人役、『赤い薔薇ソースの伝説』ではママ・エレナ役など演技力を要求される難役でも高く評価されている。

金平糖の精は、なんといっても日本の誇る世界の至宝、吉田都がロイヤル・バレエ時代に得意としていた役であり、3回もDVDに収録されたほどである。金子はこの吉田の金平糖の精に憧れ、何百回もこの映像を観たとのことだが、これからは、世界のバレエ少女たちは金子の金平糖の精に憧れるに違いない。

一方、『くるみ割り人形』の物語上のヒロイン、少女クララ役を演じているのは横浜出身の前田紗江。2014年にローザンヌ国際バレエコンクールで2位に輝き、2018年にロイヤル・バレエに正団員として入団した。『白鳥の湖』ではジークフリート王子の妹、『眠れる森の美女』ではフロリナ王女など主要な役への抜擢が続き、クララ役には2021年にデビュー。伸びやかな表現と正確な技術、明るい笑顔がチャーミングだ。クララ役は未来のスターが演じることが多い役で、現在プリンシパルとして活躍するフランチェスカ・ヘイワード、アナ=ローズ・オサリヴァンらも演じてきた。この版では最初から最後までずっと舞台に出ずっぱりのハードな役である。まだ20代前半の前田のこれからの活躍に期待したい。

<日本人ダンサーの活躍、ほかにも注目の若手スターがたくさん!>

金子、前田のほかにも、別公演で金平糖の精役に抜擢された佐々木万璃子が今回は花のワルツのソリスト役を踊った。若手の中尾太亮が1幕でドロッセルマイヤーの助手役、2幕ではダイナミックな跳躍など超絶技巧を見せる中国の踊りを踊っている。金子のパートナーとして金平糖の精の王子役を踊るのは、映画版『ロミオとジュリエット』でロミオ役を踊り、注目されている貴公子ウィリアム・ブレイスウェル。またくるみ割り人形/ハンス・ピーター役には、次期プリンシパル最有力候補でアフリカ系のジョセフ・シセンズ。ドキュメンタリー映画『バレエ・ボーイズ』に出演したルーカス・ビヨルンボー・ブレンツロドがセクシーなアラビアの踊りで成長した姿を見せるなど、ロイヤル・バレエの魅力的なダンサーが多数出演し、お楽しみがいっぱいの『くるみ割り人形』、お見逃しなく。

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2023.02.20

ロイヤル・バレエ『くるみ割り人形』タイムテーブルのご案内




ロンドンの冬の風物詩!ピーター・ライト版が3年ぶりにフルバージョンで復活!
金平糖の精役では金子扶生が魅了し、クララ役に前田紗江が抜擢!
日本出身ダンサーが多数出演、ドラマティックな夢の世界へようこそ!!

クリスマスの時期に世界中で上演され決定版とも言われる英国ロイヤル・バレエのピーター・ライト版『くるみ割り人形』。ロイヤル・バレエで500回以上、上演され愛された本作が、コロナ禍を乗り越え、愛らしい子役たちも大勢出演のフルバージョンが3年ぶりに復活した!

金平糖の精役は、その華やかさとドラマ性でロイヤル・バレエを代表するプリマ・バレリーナとなった金子扶生がエレガントな踊りと磨き抜かれたテクニックで魅了する。王子役には、昨シーズン『白鳥の湖』のシネマ上映に主演してプリンシパルに昇進し、映画版『ロミオとジュリエット』にも主演したウィリアム・ブレイスウェル。そして若手ホープ(2014年ローザンヌ国際バレエコンクール2位)の前田紗江が、伸びやかで現代的なクララを魅力的に演じて初のロイヤル・シネマでの主役級の出演を飾った。くるみ割り人形とハンス・ピーター役を演じるのは、プリンシパル昇格最有力候補、才能豊かなジョセフ・シセンズ。別公演では金平糖の精役に大抜擢された佐々木万璃子が花のワルツのリードを優雅に舞い、中尾太亮が魔術師ドロッセルマイヤーのアシスタント役と中国の踊りを見事な技巧で踊るなど、期待の日本出身のダンサーも随所で登場している。
(上演日:2022年12月8日)


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【振付】:ピーター・ライト
【原振付】:レフ・イワーノフ
【音楽】:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
【美術】:ジュリア・トレヴェリャン・オーマン
【原台本】:マリウス・プティパ(「くるみ割り人形とねずみの王様」E.T.A.ホフマンに基づく)
【プロダクションとシナリオ】:ピーター・ライト
【ステージング】:クリストファー・カー、ギャリー・エイヴィス
【指揮】:バリー・ワーズワース/ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団
【出演】ドロッセルマイヤー:ベネット・ガートサイド、クララ:前田紗江、
ハンス・ピーター&くるみ割り人形:ジョセフ・シセンズ、
金平糖の精:金子扶生王子:ウィリアム・ブレイスウェル、
ドロッセルマイヤーのアシスタント:中尾太亮、シュタルバウム博士:ギャリー・エイヴィス、
ローズ・フェアリー(薔薇の精):マヤラ・マグリ、花のワルツのソリスト:佐々木万璃子

2023.02.13

ロイヤル・バレエ『ダイヤモンド・セレブレーション』タイムテーブルのご案内




15人のプリンシパルが出演!ドラマチック・バレエから世界初演4作品まで。
ダイヤモンドの輝きを見せる贅沢な夢のような一夜のガラ公演!

ロイヤル・バレエの輝かしいプリンシパルたちが贈る豪華なガラ公演。ダイヤモンド・アニバーサリーにふさわしく、ロイヤル・オペラ・ハウスのファン組織“フレンズ・オブ・コヴェント・ガーデン”の60周年を祝うプログラム。過去から現在に至るまでの素晴らしい支援に感謝するものとして、古典、現代作品、そして受け継がれてきた遺産としての作品などから構成され、ロイヤル・バレエの幅広さと多様性を余すことなく披露。更に4作品もの世界初演の新作やクリストファー・ウィールドンの「FOR FOUR」のカンパニー初演、ジョージ・バランシンの古典的な名作「ダイヤモンド」と多彩なプログラムで構成されている。日本出身のプリンシパル、高田 茜、金子扶生の熱演にも注目。
(2022年11月16日上演作品)


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指揮:クン・ケセルス ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団
●「ラ・フィーユ・マル・ガルデ」序曲とパ・ド・ドゥ
振付:フレデリック・アシュトン╱音楽:フェルディナンド・へロルド╱出演:アナ=ローズ・オサリヴァン、アレクサンダ―・キャンベル
●「マノン」1幕 寝室のパ・ド・ドゥ
振付:ケネス・マクミラン╱音楽:ジュール・マスネ╱出演:高田 茜、カルヴィン・リチャードソン
●「クオリア」
振付:ウェイン・マクレガー╱音楽:スキャナー╱出演:メリッサ・ハミルトン、ルーカス・ビヨンボー・ブレンツロド
●「FOR FOUR」(カンパニー初演)
振付:クリストファー・ウィールドン╱音楽:フランツ・シューベルト╱出演:マシュー・ボール、ジェームズ・ヘイ、ワディム・ムンタギロフ、マルセリーノ・サンベ
●「SEE US!!」(世界初演)
振付:ジョセフ・トゥーンガ
音楽:マイケル“マイキーJ”アサンテ
出演:ミカ・ブラッドベリ、ルーカス・ビヨンボー・ブレンツロド、アシュリー・ディーン、レティシア・ディアス、レオ・ディクソン、ベンジャミン・エラ、
オリヴィア・フィンドレイ、ジョシュア・ジュンカー、フランシスコ・セラノ、ジョセフ・シセンズ、アメリア・タウンゼンド、マリアンナ・ツェンベンホイ
●「ディスパッチ・デュエット」(世界初演)
振付:パム・タノウィッツ╱音楽:テッド・ハーン╱出演:アナ=ローズ・オサリヴァン、ウィリアム・ブレイスウェル
●「コンチェルト・プール・ドゥーふたりの天使」(世界初演)
振付:ブノワ・スワン・プフェール╱音楽:サン=ブルー╱出演:ナタリア・オシポワ、スティーヴン・マックレー
●「プリマ」(世界初演)
振付:ヴァレンティノ・ズケッティ╱音楽:カミーユ・サン=サーンス╱出演:フランチェスカ・ヘイワード、金子扶生、マヤラ・マグリ、ヤスミン・ナグディ
●「ジュエルズ」より「ダイヤモンド」
振付:ジョージ・バランシン╱音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー╱出演:マリアネラ・ヌニェス、リース・クラーク
ロイヤル・バレエ団 アーティストたち

2023.01.18

オペラ『ラ・ボエーム』を初心者でもわかりやすく解説します

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石川 了(音楽・舞踊ナビゲーター)

なんと言ってもフローレス推し!
2022年9月に3年ぶりの来日を果たしたテノールのスーパースター、フアン・ディエゴ・フローレス。公演に行くことができた方はもちろん、行けなかったオペラファンにとって特に嬉しいフローレス最新の姿が映画館で楽しめる。英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2022/23『ラ・ボエーム』だ。(2022年10月20日公演)

フローレスといえば、何といってもロマンティック・コメディの印象が強い。ロッシーニの『セビリアの理髪師』『チェネレントラ』やニーノ・ロータの『フィレンツェの麦わら帽子』などのドタバタ喜劇はまさに彼の独壇場で、そのフットワークの軽い演技や茶目っ気のある表情、しなやかな音楽性と(彼の代名詞でもある)超高音は、フローレスの最大の魅力であった。
そんな彼も1973年生まれ、つまり2023年に50歳を迎える。高音域だけではなく中音域も充実し、レパートリーはロッシーニやドニゼッティ、ベッリーニといったベルカントものから、マスネ、グノーのようなフランスもの、(役を選ぶが)ヴェルディやプッチーニまで広がった。ロドルフォは一昔前のフローレスなら絶対に歌わなかった役だから、今回の映像は音楽ファンにはたまらない。

愛だけでは命は救えない。
<ボエーム>とは<ボヘミアン>のフランス語。自由に生きることに憧れた芸術家の卵たちを指すが、そのような芸術家気取りの生活をしていても、金がなければ愛する人に薬を買ってあげることもできないのが現実だ。愛だけでは命は救えない。
そう、『ラ・ボエーム』は、実は「病を持つ人を愛するという責任に怖気づき、態度が変わるロドルフォの物語」でもあるのだ。まだまだ青年のようなフローレスの仕草や表情をみていると、青春の苦い思い出がよみがえるのか、そんなことを強く感じてしまう。彼は、歌唱力だけではなく、演技力もブラボーなのだ!

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2023.01.16

ロイヤル・オペラ『ラ・ボエーム』タイムテーブルのご案内




オペラ界のスーパースター、フローレスが英国ロイヤルの《ラ・ボエーム》に出演!
貧しい芸術家たちの“青春の歌”を感情豊かに歌い上げる。

イタリアオペラの巨匠プッチーニの若き日の傑作で、ミュージカル『レント』の原作としても知られる『ラ・ボエーム』。若くて貧乏な詩人ロドルフォは、可憐な娘ミミと恋に落ちる。芸術家たちが一緒に暮らす屋根裏部屋から、クリスマス・イヴのお祭り騒ぎへ、だがやがて楽しい時はうつろい、辛い別れが訪れる。誰でも一度は経験したことのある若さゆえのきらめきと絶望を、胸を打つメロディーで歌い上げる《ラ・ボエーム》は、数あるオペラの中でももっとも愛される名作の一つだ。
英国ロイヤルで2017年に初演されたリチャード・ジョーンズ演出のプロダクションは、近年多い現代的な読み替えではなく、台本の指定に沿った時代と設定で劇が進行する。詩人ロドルフォを歌うのはオペラ界のトップに君臨するテノール歌手、フアン・ディエゴ・フローレス。第1幕の屋根裏部屋でロドルフォとミミが出会う場面では、フローレスの歌のフレージングの美しさが聴きどころだ。第1幕の後半にある彼の有名なアリア「冷たい手を」でも、輝かしいハイC(高音のド)がオペラハウスに響き渡る。ミミを歌うのはソプラノのアイリーン・ペレス。感情がこもった歌が素晴らしく、健気で愛情深いミミ役を演じている。画家マルチェッロには注目のハンサムなバリトン、アンドレイ・ジリホフスキーが出演。奔放なムゼッタ役にはやはりスター歌手のダニエル・ドゥ・ニースが出演して観客を魅了する。ちなみに第2幕は合唱が大きな聴きどころで、それに加えて子供たちのコーラスも抜群の可愛さだ。またカフェのボーイ役などの俳優たちの演技も見ていて飽きない。第3幕以降はロドルフォとミミ、マルチェッロとムゼッタの二組のカップルの葛藤と別れが描かれ、それもロドルフォとミミには永遠の別れが待っている。原作の小説家ミュルジェールは当時の自分達のリアル・ライフを小説にし、それを若きプッチーニが共感を持ってオペラ化した。ここには青春のすべてがある。


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【音楽】ジャコモ・プッチーニ
【指揮】ケヴィン・ジョン・エドゥセイ
【演出】リチャード・ジョーンズ
【出演】マルチェッロ:アンドレイ・ジリホフスキー /
ロドルフォ:フアン・ディエゴ・フローレス / コッリーネ:マイケル・モフィディアン /
ショナール:ロス・ラムゴビン / ベノア:ジェレミー・ホワイト /
ミミ:アイリーン・ペレス / ムゼッタ:ダニエル・ドゥ・ニース

2022.12.27

オペラ『アイーダ』を初心者でもわかりやすく解説します

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石川 了(音楽・舞踊ナビゲーター)

あまりにもタイムリーな・・・
2022年、ウクライナでは悲惨な戦争が続き、年末には日本でも戦後の安全保障を大きく転換する閣議決定がなされた。身近に“戦争”という言葉を意識せざるを得ない昨今だが、新たな年を迎えるにあたり、ガツンと一発、衝撃的なオペラが映画館で上映される。英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2022/23《アイーダ》だ。(2022年10月12日上演)

《アイーダ》といえば、エジプトのエキゾチックな雰囲気と、象やキリンも登場する煌びやかな第2幕「凱旋の場」を思い起こす方も多いだろう。しかし、このロバート・カーセンによる新演出プロダクションでは、そのような異国情緒や動物などは一切登場しない。ステージを支配するのは、武器を持った軍服の兵士たち。そう、この《アイーダ》は、地下に無数の核兵器ミサイルを保有する現代の架空の軍事国家が舞台となる。
観客は、否応なしにさまざまな国や紛争を思い浮かべるだろう。ウクライナとロシア、イスラエルとパレスチナ解放機構、イラン・イラク戦争、もしくは北朝鮮や中国、アメリカだってイメージする方がいるかもしれない。世界の至るところで紛争が起きているからこそ、カーセン版《アイーダ》はあまりにもタイムリーだ。

オペラは生きもの
このような“読み替え”は、オペラではよく行われている。オペラファンには「音楽を邪魔する」として読み替え演出を否定する方もいるが、筆者はどちらかといえば歓迎派だ。もちろん読み替えオペラがすべて成功しているとは思わない。しかし、オペラは博物館で展示されるものではなく、ステージで上演される生きものである。その時代に則した感性を作品に注入することで、作品は生き残っていく。この演出は、1871年の初演からおよそ150年経った現代を反映したひとつの帰結かもしれない。

片思いの痛み
もちろん、ヴェルディの音楽は今なお色褪せることはない。この《アイーダ》を今回のプロダクションで会話とモノローグの芝居としてみると、有名な「凱旋の場」だけではない、オペラの素晴らしさが際立ってくる。
たとえば、会話の場面では、アイーダとアムネリスの胸の探り合い(第2幕第1場)、恋人から軍事機密を聞き出すよう強要する父アモナスロとアイーダ、情報を流してしまうラダメスとアイーダ(第3幕)、審判を待つラダメスを説得するアムネリス(第4幕第1場)など、物語の設定が現代であることで、ヴェルディの音楽と台詞がとてもリアルに感じる。
モノローグでは、「清きアイーダ」「勝ちて帰れ」などの有名アリアのほかに、第4幕第1場のラダメス審判のアムネリスに注目したい。
愛するラダメスから見向きもされず、彼の最期に及んで「あなたの慈悲が最も不名誉」とまで言われるアムネリスは、王女なのに、彼が裏切り者として処刑される判決にどうすることもできない。ここまで報われないアムネリスを、ブランドの服を着て権力も美貌も併せ持つ現代女性にすると、現実にもいそうに思えるし、彼女の哀しみが私たちにも経験したことがある片思いの痛みのように身近に感じてくる。ヴェルディも、この作品で一番共感するキャラクターがアムネリスだったのではないか。

平和への願い
アイーダとラダメスは、核兵器ミサイルが眠る格納庫に生き埋めになる。決して開くことがないその地下扉が開くときは、核兵器が使用されるときであり、世界は滅びることを暗示する。この演出では、最後のアムネリスの祈りの音楽に、そうはならないように世界の平和への願いが込められている。深い余韻に包まれたラストシーンの意味を、皆さまとともに考えたい。

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2022.12.19

ロイヤル・オペラ『アイーダ』タイムテーブルのご案内




ヴェルディの『アイーダ』が現代の社会を映す鏡になる!
英国ロイヤルの新演出が描く、軍事国家の危険と戦争の犠牲となる男女の悲劇―。

オペラの人気演目「アイーダ」は、古代エジプトを舞台に、エチオピア人奴隷のアイーダがエジプト軍の将軍ラダメスへの愛と祖国の間で引き裂かれる悲劇。19世紀イタリアの巨匠ヴェルディのスペクタクル・オペラとして、エキゾチックな舞台と大規模な合唱やバレエのシーンで良く知られている。
だが2022年、英国ロイヤル・オペラが発表した「アイーダ」新演出版で巨匠ロバート・カーセンが創りあげたのは、古代エジプトとエチオピアという設定を完全に排除した物語だった。現代のいくつかの国の要素を取り入れて考案したという架空の国家が舞台となり、軍事力に頼る全体主義が個人の幸福を左右する様を、カーセンらしい完成度の高い筆致で描き出す。国家元首(エジプト王)とその娘(アムネリス)はブランドの服に身を固め、軍隊の揃った敬礼を満足そうに受ける。鳴り響くトランペットが軍隊の入場を告げて始まる<凱旋の場>では、戦死した兵士たちを悼む儀式や、軍のデモンストレーションを表現するダンスが演じられる。人間社会のあやうさと、愛し合う男女の苦悩は、時代と国を超えて観客に迫ってくる。
音楽面での充実も演出に負けていない。音楽監督パッパーノの指揮は、華々しいシーンは堂々たる演奏で、主人公たちの対話は細かい心理を感情豊かに歌わせる。主役歌手たちも超一流の布陣。タイトル役アイーダのエレナ・スティヒナ、ラダメスのフランチェスコ・メーリ、アムネリスのアグニエツカ・レーリス、アモナズロのリュドヴィク・テジエ、そして注目のバス歌手ソロマン・ハワードまで、世界で活躍する国籍も様々な歌手が顔を揃えた。英国ロイヤルが誇る合唱団は<凱旋の場>を始めとするシーンでスリリングな歌を聴かせる。あらゆる意味で『今』を感じさせる舞台と言える。終演後の観客のブラボーの声は盛大で、イギリスのオペラ・レビューでも高い評価を得、今後も受け継がれていくであろうプロダクションとなった。
(2022年10月12日上演作品)


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【作曲】ジュゼッペ・ヴェルディ 【演出】ロバート・カーセン 【指揮】アントニオ・パッパ-ノ
【出演】エレナ・スティヒナ / フランチェスコ・メーリ /  アグニエツカ・レーリス /  リュドヴィク・テジエ / ソロマン・ハワード / シム・インスン 他