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2025.09.01

ロイヤル・オペラ『ワルキューレ』見どころをご紹介します

コラム

石川 了(ジャーナリスト/音楽・映画・ミュージカルナビゲーター)

ワーグナーの『ニーベルングの指環』

 19世紀の作曲家リヒャルト・ワーグナーの楽劇四部作『ニーベルングの指環』(『ラインの黄金』『ワルキューレ』『ジークフリート』『神々の黄昏』)は、世界を支配する力を持った黄金の指環を巡り、神々と人間、地底のニーベルング族が交錯する愛と欲望と裏切りのドラマである。ワーグナー自身による台本で、上演時間は全四作を通しておよそ16時間。全編の完成に26年という長い歳月を要した大作だ。
 世界を支配する力を持った指環(輪)といえば、J.R.R.トールキンの長編小説『指輪物語』を思い起こす方も多いだろう。『指輪物語』は指輪を捨てに行く話、『ニーベルングの指環』は指環を手に入れる話だが、いずれも指環(輪)は争いを引き起こし、その呪いと力に囚われた人は破滅する。そして、いずれも最後は、傷ついた主人公が自らの手で指環(輪)の呪いを葬るのだ。ストーリーは異なるが、音楽と文学による二つの指環(輪)の物語は、今なお永遠の芸術作品として燦然と輝いている。

『ワルキューレ』の見どころ

 『ワルキューレ』は、楽劇四部作の二作目。神々の長ヴォータンが人間女性に産ませた双子の兄妹ジークムントとジークリンデの禁断の恋と、彼らを見殺しにしなければならないヴォータンの苦悩、そしてヴォータンと大地の母神エルダの間に産まれたワルキューレ(女戦士)の一人ブリュンヒルデが、父の本心を汲んで兄妹を助けようとしたことで、神々の世界から追放される顛末を描く。ちなみに、原題の“Die Walküre” は定冠詞付きの単数形で、これはブリュンヒルデのことを示している。
 初めて観る方はもちろん、前作『ラインの黄金』を観ていなくても全く問題なく楽しめるのが『ワルキューレ』の魅力だ。若者たちの愛が高らかに謳われ、不倫を重ねる夫と正妻の確執に背筋が凍り、父と最愛の息子の死別、父と最愛の娘の永遠の別れに涙する。内容がとてもヒューマンで、展開もスムーズ。物語を彩る音楽も、ポピュラーな「ワルキューレの騎行」をはじめ、最高にドラマティックで感動的だ。

複雑な物語をわかりやすくするライトモティーフ

 ワーグナーは、ライトモティーフという手法を使って音楽ドラマを描いた。これは、人物のキャラクターや感情、状況を象徴する短いフレーズのことで、動機とも呼ばれる。
 『ワルキューレ』では、「愛の動機」「剣の動機」「運命の動機」「愛の救済の動機」「ジークフリートの動機」といった多くのライトモティーフがさまざまな場面で物語を補完し、観るものに深い理解と感情移入を促す。例えば、ジークリンデが自身の妊娠を知るとき、この作品には登場しないジークフリートの動機が流れ、「ああ、彼女はジークフリートを身ごもっている」と理解できるように、感動的に音楽が組み立てられているのだ。
 もちろんそのような動機の知見がなくても、観ているうちに「あれ、どこかで聴いたことのある旋律」と気づき、それが何を意味するのかを不思議に理解できるようになるからご安心を。映画『スター・ウォーズ』シリーズで「ダースベーダーのテーマ」「フォースのテーマ」などが、物語をわかりやすくしているようなものだ。ちなみに、この映画シリーズでジョン・ウィリアムズは71ものライトモティーフを作曲したという。
 さまざまな登場人物の過去現在未来の縦のつながりと、人間模様や人物相関など物語の背後にある横のつながりを音楽で暗示し、登場人物が多い複雑なストーリー展開をわかりやすくするライトモティーフ。ワーグナーが確立したとされるこのドラマ手法は、現代においても大きな影響を与えている。

パッパーノとコスキーのコンビによる新制作

 英国ロイヤル・バレエ&オペラ(RBO)では2023年よりアントニオ・パッパーノ(指揮)とバリー・コスキー(演出)による『ニーベルングの指環』新制作がスタートした。
 1959年生まれの英国出身のイタリア系指揮者パッパーノは、2002年からRBO史上最長の22年間にわたり音楽監督を務め、2025年5月にはRBO史上初の桂冠指揮者の称号を贈られた。彼の指揮は、歌手が歌いやすいテンポとオーケストラが歌手の邪魔をすることがないバランス感覚、音楽の力強い推進力が特徴。この『ワルキューレ』でも、冒頭の嵐の音楽からブリュンヒルデが炎に包まれるラストまで、緊張感が持続する音楽のドラマにスクリーンから目が離せない。
 演出のコスキーは、1967年生まれのオーストラリア出身のユダヤ人で、現在最も多忙な演出家の一人。今回の演出は彼自身、テレビで見た故郷オーストラリアの山火事から着想を得たと言及しており、その世界観をベースに、環境が破壊された世紀末を大地の母神エルダ(ブリュンヒルデの母)の視点から描いている。湯気が噴き出る焼け焦げた木、焦げて炭になった死体など、コスキーらしい視覚要素もあるが、神々の話を家族の日常の風景としてさりげなく描写する、例えば、仕事から帰った夫と客人のディナーシーン(妻に対する夫のDVも垣間見える)、正妻に詰め寄られる不倫夫の居心地の悪さ、娘が大好きな父と父が大好きな娘の微笑ましい会話の場面など、演劇畑出身らしい読みの深さだ。

パッパーノとコスキーが探した注目のキャスト

 パッパーノとコスキーの二人は、慎重に時間をかけて、作品に合った歌手を探してきたという。ヴォータンにはシャープレスを演じたパリ・オペラ座 INシネマ2025『蝶々夫人』の公開も控えるクリストファー・モルトマン、ブリュンヒルデは2025年1月新国立劇場『さまよえるオランダ人』でゼンタを歌ったエリザベート・ストリッド、フリッカはバイロイト音楽祭でも活躍するベテランのメゾ・ソプラノ、マリーナ・プルデンスカヤ、ジークムントには抒情的ヘルデンテノールとして近年注目のフランス人テノール、スタニスラス・ド・バルベラク。そして、当公演で一番の評判を呼んだのが、ジークリンデを演じたウェールズ系ウクライナ人の新鋭ソプラノ、ナタリア・ロマニウ。本来のキャストであったリーゼ・ダヴィッドセンが妊娠により降板。代役としてロマニウが抜擢され、初役のジークリンデを2ヶ月で習得したそうだ。オペラはこのようなスター誕生のドラマが生まれるから、やはりRBOシネマシーズンは常にチェックしておきたい。

しかしながら、ミンナという妻がいながら、ヴェーゼンドンク夫人と不倫関係になり、その後、自分の作品(『トリスタンとイゾルデ』『ニュルンベルクのマイスタージンガー』)を初演している指揮者ハンス・フォン・ビューローの妻コジマ(リストの娘)を略奪し、妻にしてしまうワーグナーは、自分の姿をヴォータンに重ねていたのか…。

2025.06.18

ロイヤル・オペラ『トゥーランドット』見どころをご紹介します

コラム

井内美香(オペラ・キュレーター)

ロイヤル・オペラ屈指の人気プロダクション

英国ロイヤル・オペラで長年愛されるアンドレイ・セルバン演出のプッチーニ《トゥーランドット》。1984年の初演以来、劇場が誇る最古のプロダクションとして知られています。

初演時にはイギリス出身の名歌手ギネス・ジョーンズがトゥーランドット、プラシド・ドミンゴがカラフという豪華キャストで上演されました。1986年の英国ロイヤル・オペラ日本公演でも(この時は違うキャストでしたが)上演され、大きな反響を呼びました。筆者も1993年にロンドンで鑑賞し、ジョーンズの圧倒的な歌声と美しい舞台美術に深く感銘を受けました。

セルバン演出はその後も再演を重ね、観客を魅了し続けています。2013年には中村恵理がリューを演じ、映像作品としても発売。昨年の英国ロイヤル・オペラ日本公演でも再び上演され、初演40周年を日本で祝いました。

セルバン演出の魅力は、《トゥーランドット》の世界観を余すところなく描き出す点にあります。舞台を囲む二階建ての木製ギャラリーに合唱団を配置し、暗闇に浮かび上がる鮮やかな色彩の美術セットは、古の中国を彷彿とさせ、音響的にも演劇的にも理想の空間を作り出しています。仮面をつけたダンサーたちの振付はケイト・フラットが担当し、太極拳の動きを取り入れた独特の雰囲気を持つもの。照明とスモークの効果的な使用も、舞台をドラマティックに彩ります。

今回、2025年4月公演を撮影したシネマ版《トゥーランドット》を試写で鑑賞し、その素晴らしさに圧倒されました。シネマ版ならではの特典として収録されている関係者インタビューも興味深く、初演時の振付家ケイト・フラットが演出について語る貴重な映像は必見です。

セルバン演出で重要な役割を担うのは、ピン・パン・ポンの3人。音楽的にも重要なパートを受け持つ彼らは、躍動的な動きを見せる一方、故郷を懐かしむ場面などでは、人間味あふれる一面を見せてくれます。彼らのインタビュー場面も印象的でした。

トゥーランドット姫を演じるソンドラ・ラドヴァノフスキーは、2024年の日本公演に出演予定でしたが、病気のため来日が叶いませんでした。今回のシネマ版では、ついにラドヴァノフスキーが登場します。彼女の歌唱は圧巻の一言。第2幕の登場のアリアでは、その歌唱力で観客を魅了し、音楽的なクライマックスへと導きます。第3幕では、トゥーランドットの苦しみ、悲しみ、そしてカラフへの心情を見事に表現しています。

カラフを演じるソクジョン・ベクも、ラドヴァノフスキーに引けを取りません。意志の強さと優しさを併せ持つカラフ像に共感できると同時に、ベクの声は「誰も寝てはならぬ」を歌うためにあるのでは、と思わせる素晴らしさです。リューを演じるサマーフィールドも、音楽性豊かな歌唱で観客を魅了します。

指揮を務めるのは、ラファエル・パヤーレ。日本公演ではアントニオ・パッパーノの集中力のある名演を聴くことができましたが、パヤーレの指揮にはまた違った魅力があります。楽器それぞれの美しさを引き出し、歌を丁寧に聴きながら、ソリストたちの最高のパフォーマンスを引き出す手腕に驚きました。新たな才能の出現を実感させられます。

《トゥーランドット》というオペラの素晴らしさは、プッチーニが生み出したリューの存在にあります。カラフを愛し、自己犠牲によって愛を昇華させるリュー。彼女の死後、カラフがトゥーランドットと結ばれることに違和感を覚える人もいるかもしれません。プッチーニが最後に手がけたオペラであり、リューの死の場面以降はアルファーノがオーケストラ部分を完成させたため、プッチーニが最終的にどのような結末を望んでいたのかは不明です。

しかし、セルバン演出の舞台を観ていると、最後に彼が見せるリューの存在が、ドラマの核心をついたものだと納得させられます。数多くの葛藤を抱えながら生きる現代の人々こそ、プッチーニの音楽をこの上ない形で表現したこの舞台を、ぜひ体験していただきたいです。シネマ版での鑑賞は、劇場とは異なる視点から作品の魅力を再発見する絶好の機会となるでしょう。

2025.06.05

ロイヤル・バレエ『ロミオとジュリエット』見どころをご紹介します

コラム

森菜穂美(舞踊評論家)

<時代を超えた、普遍的なラブストーリー>

ケネス・マクミラン振付の『ロミオとジュリエット』は人間の生の感情をリアルに表現した演技と振付により、あまたある『ロミオとジュリエット』のバレエ作品の中でも決定版とされています。不朽の名作であり、演劇的なバレエを得意とするロイヤル・バレエの最も重要なレパートリーの一つです。この『ロミオとジュリエット』は世界中のバレエ団で上演されていますが、もちろん本家であるロイヤル・バレエは他の追従を許しません。
2023年夏にはロイヤル・バレエの来日公演でこの『ロミオとジュリエット』は上演され、全8回の公演の主演をすべて別々のペアが演じて、バレエ団の層の厚さを実感させました。

400年以上前に生まれた『ロミオとジュリエット』がなぜ、今も多くの人々に支持されるのでしょうか。1965年初演の、ケネス・マクミラン版のバレエ『ロミオとジュリエット』はなぜ、ロイヤル・オペラハウスで550回以上も上演された『ロミオとジュリエット』の決定版とされているのでしょうか。そこには、今だからこそ心に響く普遍的なメッセージがあるからです。

二つの名家キャピュレット家とモンタギュー家の争いは、世界に暗い影を落としたロシアとウクライナの紛争や米国での混乱に見られるように、今も絶えない国際紛争や、人種や貧富の差、格差による分断を象徴するように感じられます。
1993年のボスニア紛争においては、異なる民族の若い恋人同士がお互いに駆け寄って狙撃兵に撃たれ抱き合ったまま亡くなり一緒に埋葬されるという事件があり、『サラエボのロミオとジュリエット』としてドキュメンタリー映画にもなりました。
『ロミオとジュリエット』を現代のニューヨークに置き換えた不朽のミュージカル名画『ウエスト・サイド物語』(1961)のリメイクであるスピルバーグ版の映画『ウエスト・サイド・ストーリー』(2021)が生まれたのは、この分断がより顕著になってきた今だからこそ伝えたいメッセージを伝えるためでした。これらの作品は共に、憎しみの連鎖がより大きな悲劇を生み、無垢な若者が無残な死を迎えてしまうことの虚しさを今に伝えています。

 

<ジュリエットは最初のフェミニスト>

シェイクスピアの先進性を象徴するのが、ジュリエットの描き方です。マクミラン版の『ロミオとジュリエット』を踊った歴代のダンサーの中でも、特にこの役を当たり役としたアレッサンドラ・フェリ、そして現役でジュリエットを踊っているロイヤル・バレエのサラ・ラムは共に、「ジュリエットは最初のフェミニスト」だと語っています。ジュリエットは14歳と若い少女の設定ですが、その彼女が、たった一人で家の権威に立ち向かい、両親の意思に反して愛を貫く決意をして勇気ある選択をします。このような強いヒロイン像が400年以上も前に生まれたことに、シェイクスピアの先進性を感じます。
『ウエスト・サイド・ストーリー』のヒロイン、マリアも自分の方から積極的にロミオにキスをし、そして働いてお金を稼ぎ、大学に行って学ぶという夢を語るなど、自立した女性として描かれています。バレエの中では、わずか数日間の間に大人への階段を駆け上り、成長していくジュリエットの姿が印象的です。

 

<プロコフィエフの色彩豊かな音楽と振付の魅力>

プロコフィエフ作曲による音楽の魅力もバレエ『ロミオとジュリエット』の大きな魅力の一つです。甘美な「バルコニーのパ・ド・ドゥ」、CMでもおなじみの重厚な「騎士たちの踊り」、躍動感のある市場の踊り。時に雄大で時に繊細、ドラマティックで華麗な旋律が心を揺さぶります。登場人物のキャラクターを象徴させるライトモチーフの使い方も印象的です。

マクミラン版『ロミオとジュリエット』の魅力は、何より3つのパ・ド・ドゥの振付の巧みさと音楽との一体化です。「バルコニーのパ・ド・ドゥ」での恋のときめきと高揚感、疾走感は比類のないもので、終幕の悲劇もドラマティックな音楽で一層胸を締め付けるものとなります。

それまでのバレエ作品では見られなかった、常識を覆すような振付も登場します。象徴的なのは、両親に結婚を強制されて窮地に追い込まれたジュリエットが、ベッドの上に座り身動きもせず、ただ前を見据える名場面。雄弁な音楽が流れていき、ジュリエットが愛を貫く決意をする心情が伝わってきます。ジュリエットとロミオの出会いの時に時が止まったようになるなど、動かない場面こそが、大きな意味を持つのもこの作品の特徴です。

最終場面、墓所で仮死状態になったジュリエットとロミオのパ・ド・ドゥは、「死体は踊らないのでは?」と初演当初には賛否両論を巻き起こしましたが、作品の悲劇性を強調する場面として強烈な印象を残します。仮死状態のジュリエットを懸命にリフトするロミオは、「バルコニーのパ・ド・ドゥ」の幸福感、高揚感溢れる踊りを再現して、ジュリエットを生き返らせようとしますが、ジュリエットの身体は空しくも力なく落ちていきます。マクミランは、若い二人が両家の対立の結果むごたらしく死ぬ様子をこの作品で描きたかったと語り、ダンサーには醜く見えることを恐れるなと伝えていました。

数々の名作バレエの美術を手掛けてきてマクミランの右腕と呼ばれたニコラス・ジョージアディスによる想像力を刺激する壮麗なデザインは、ルネサンス時代のヴェローナの色彩と世界観をもたらしています。賑やかな市場がソード・ファイトへと急展開し、モンタギュー家とキャピュレット家の両家の悲劇へと進み、プロコフィエフの魅惑的なスコアが、胸を締め付けるクライマックス、そして終幕へと観客を導いていきます。

 

<ロイヤル・バレエを代表する噂のスター・ペア、金子扶生とワディム・ムンタギロフ>

今回のシネマシーズンの『ロミオとジュリエット』は、今やロイヤル・バレエを代表するプリンシパルへと成長し、シネマでも『シンデレラ』に続く主演でますます磨きがかかる大阪出身のプリマ、金子扶生がジュリエット役、また世界的なスーパースターで、「ワドリーム」と異名を取りロイヤル最高の貴公子と評されるワディム・ムンタギロフがロミオ役を演じています。近年世界中で共演している話題のこのペアは、息もぴったりに運命に翻弄された恋人たちをロマンティックに、情熱的に演じて絶賛されました。2023年のロイヤル・バレエ来日公演でも、このペアによる『ロミオとジュリエット』が大阪で上演されましたが、2年の時を経てより一層表現力を増した二人の演技が観られます。
人形遊びを無邪気にしていた14歳の少女が、わずか数日で大人への階段を駆け上り、無理解な大人たちに一人で立ち向かう強さを体現した金子は、繊細な演技力も見せて新境地を開いています。クラシック・バレエの理想的な王子様を演じることが多いムンタギロフが、貴公子ではなく普通の恋する若者を演じるところが観られるのも貴重な機会です。長く美しいラインの二人が繰り広げるバルコニーのパ・ド・ドゥの陶酔感と高揚感、引き裂かれる悲しみと苦悩に満ちた寝室のパ・ド・ドゥ、そして悲劇的なラストシーンに思わず引き込まれ、涙してしまいます。

そして今回ティボルトを強烈な存在感で演じるのは、ロイヤル・バレエきっての演技派である平野亮一です。堂々とした悪役ぶりと大人の色気を振りまいて視線を独り占めにします。また、マンドリン・ダンスのソリストとして、鮮やかで驚くべき高さの跳躍を見せて高度なテクニックを披露しているのは、これからの躍進が期待されるライジング・スターの若手ソリスト、五十嵐大地です。ほかにも随所で期待の若手日本人ダンサーが活躍しています。さらに、ジュリエットの婚約者パリス役は、ドキュメンタリー映画『バレエ・ボーイズ』で注目され、今では『オネーギン』のタイトルロールに抜擢される等、次世代のスターとして注目されているルーカス・B・ブレンツロドが演じています。舞台上にいるどんな小さな役のダンサーも、ヴェローナに生きる人物として一人一人存在しており、アンサンブルの見事さもロイヤル・バレエの魅力です。

シネマシーズンのお楽しみ、幕間では、司会のダーシー・バッセルとかつて『ロミオとジュリエット』で共演し、その後20年近く日本のKバレエ・カンパニーで活躍、昨年ロイヤル・バレエに指導者として復帰したスチュアート・キャシディのソード・ファイトについてのインタビューが観られます。また恒例の主演陣のインタビューとリハーサル映像、ルネッサンス時代を表現するのに欠かせないヘアメイクの担当者のインタビューなど、作品をより楽しむための映像も盛りだくさんです。世界最高峰のロイヤル・バレエのスターたちの演技による世界最高のラブストーリーを、お近くの映画館の大スクリーンで楽しんでください。

2025.06.05

ロイヤル・バレエ『ロミオとジュリエット』インタビュー情報

●チャコット

『ロミオとジュリエット』でティボルトを熱演した平野亮一に聞く「思春期真っ只中で、負けというものを知らない青年です」英国ロイヤル・バレエ&オペラ in シネマ
https://www.chacott-jp.com/news/worldreport/tokyo/detail039477.html

 

●FNNプライムオンライン

スクリーンで蘇る“悲劇と愛の軌跡” ロイヤル・バレエ『ロミオとジュリエット』ジュリエット役・金子扶生さんとティボルト役・平野亮一さんにインタビュー
https://www.fnn.jp/articles/-/874857?display=full

 

●バレエチャンネル

①英国ロイヤル・バレエ「ロミオとジュリエット」ワディム・ムンタギロフ インタビュー~ジュリエットに出会った瞬間、ロミオの脳はショートする
https://balletchannel.jp/45869

②英国ロイヤル・バレエ「ロミオとジュリエット」平野亮一インタビュー~ティボルトはきっと“次男”だと思う
https://balletchannel.jp/45905

2025.06.04

ロミオ役、ワディム・ムンタギロフさん特別インタビュー

インタビュー

「ロミオ役はとても僕に似ています。でも少しずつ大人になっていく僕と共に、変わってきています」

ロイヤル・バレエ『ロミオとジュリエット』シネマでロミオ役を演じたワディム・ムンタギロフ。理想的な貴公子そのものであるワディムですが、普通の若い青年であるロミオ役は特別な思い入れがあるとのことです。自分自身に近い役であるロミオから、最近はもっと複雑な役にも挑戦している彼が、どのように深化し成長して行っているのか、語っていただきました。

 
―ワディムさんは若い時からロミオ役を演じてこられてきました。それから年月を経て、あなたのロミオの演じ方は変わってきましたか?

ワディム:「ロミオ役はとても自然に演じられる役です。もう少し年を取れば、少し演じるのが大変になってくるかもしれません。いくつかのステップは今よりも難しく大変だと感じてくると思います。今の僕は、まだ早く走ったり、ふざけたりして楽しむことができています。まだロミオが僕に似合う役であるのは嬉しいことです。
今は自分のキャリアを通して、もっとドラマティックな役を演じる経験を重ねることができるようになりました。『マノン』のデ・グリュー、『マイヤーリング(うたかたの恋)』のルドルフ皇太子、ウィールドン『冬物語』のレオンティスなどです。これらのバレエ作品を通じて、僕はもう少し深い痛みを感じられるようになりました。」

ここ数年の間に、3幕で僕の演じるロミオは少し成熟してきたのではと思います。前よりも痛みや悲しみをもっと感じるようになっているかもしれません。ジュリエットが亡くなってしまったと思いこんだ時には、それまでのとても若い青年よりも大人になった姿を見せていると思います。

 
―ロミオはあなた自身に近いとおっしゃっていましたね。あなたに似ている役は他にはありますか?

ワディム:「はい、実際ロミオは僕に似ている人物です。僕はとても爆発的なエネルギーを持っていて、思い通りにならないと怒りを感じてしまって、なんとか思い通りにしようとしていました。でも今僕は少し大人になったと思うので、もっと落ち着いたと思います。今の僕は何かを感じて、例えば怒りを感じていても、すぐにそれを表に出さないで、その怒りを抑えようとすると思います。だから少しずつ僕は変わっています。『白鳥の湖』のジークフリート王子は僕が今まで最も多く演じた役だと思いますが、この役も僕自身に近いところがいつもあると感じています。 またアシュトンの『田園の出来事』のベリャーエフも僕に近いと思います。田舎に住んでいて、緩やかなシャツを着て、自然の中で楽しんでいるような人です。」

 
―ワディムさんは、まもなく『オネーギン』のタイトルロールを初めて演じることになっていますね。ロンドンでは、あなたのオネーギン役への期待でファンは持ちきりだそうです。これもまた、今まで演じてきた役とは違う、成熟した役ですね。

ワディム:「今シーズンの大きな役デビューは、オネーギンだけです。これから2週間後に初めて演じることになっていますが、これは僕にとっても大きな挑戦です。新しい役を演じるにあたって最初の2,3週間のリハーサルの間はなかなか大変です。役がまだ体に入っていないのでうまく行かないことが大きくて、ちょっと動揺したり、怒りを感じてしまったりすることもあります。まだまだ発展させなければならないこともあって、僕はちょっと苛立ちを感じてしまうこともあります。スタジオで稽古をしていて、まだいい感じには見えなかったりうまく行かない時にはストレスを感じたり不安になったりもします。この役は2週間ほどリハーサルを重ねてきており、ゆっくり少しずつ改善点を修正していて発展させていっています。もう少しこの役を理解することができるようになりましたし、昨日はリード・アンダーソンとの最初のリハーサルがありました。それはとても集中した、とても良いリハーサルでたくさんの知識を得ることができて、良い成果を出すことができました。あと2週間リハーサルを重ねて本番に臨みますが、とても楽しみです。

この役が楽しみなのは、今まで僕が演じてきた役とかなり違うからです。この役はあまりソロを踊らなくて、代わりにパートナーリングがとても多いです。大体バレエだとソロとパ・ド・ドゥが半々くらいでたくさん踊ってパートナーリングもたくさんするわけですが、『オネーギン』では、パートナーリングに集中します。また自分と全く違ったタイプの人間、傲慢で自己愛が強い人を演じなければならなくて、僕にはそういう部分は全然ないので、大きな挑戦です。でも僕はこのプロセスを楽しんでいて、僕自身の中からそのような要素を頑張って見つけ出そうとしています。」

 
―いつかワディムさんのオネーギンを拝見したいですね!きっと素晴らしいはずです。
さて、ワディムさんは今年の夏も日本で踊ってくださいます。日本で踊ることは楽しみにしてくださっていると思いますが。

ワディム:「僕を含めた多くのバレエダンサーは、夏はもっと休んで、あまり舞台の仕事をしたくないと思っているんです。でも日本で踊ってほしいというオファーがあれば、もちろん、喜んで引き受けます。毎回日本ではとても幸せな思いをしています。でも舞台の準備には入念に準備をしなければならないのがちょっと大変です。僕は両親とは夏にしか会えないので、毎年会うことにしています。それと同時に、日本の舞台に立つ準備を進め、身体をしっかり作らなければなりません。シーズンの前に怪我をしてしまったので、足を痛めないように良い床で踊らなければならず、スタジオにこもらなければなりません。父もプリンシパル・ダンサーだったので、僕たちは一緒に稽古をすることができて、良い機会になっています。父も僕と一緒に稽古できることを喜んでいます。夏は父が僕にバレエクラスを教えてくれて、ソロやパ・ド・ドゥも一緒に練習するのが通例となっています。

もちろん日本で踊ることはとても楽しみです!日本のお客さまはバレエが大好きなことをよく知っています。彼らはバレエに対してとても敬意を持ってくださっているし、僕たちを舞台の上で観ることを楽しみにしていることを実感します。バレエダンサーのキャリアが短くて、大変なこともきちんと理解してくださっていて、華やかな踊りを見せることは奇跡的なことも知っています。ダンサーがキャリアを重ねていく中で、成熟してきて、新しい役に挑戦していき変化していくことも理解してくださっています。本当に日本の皆さんの愛と応援を感じています。」

 
―今年の夏、日本ではどんなことをしたいと思っていますか?

ワディム:「日本でやりたいことはたくさんあるのですが、なかなか十分な時間がありません。僕は自然が大好きなので、日本の自然をもっと見たいと思っています。去年の夏は箱根で2,3日過ごすことができました。とても美しくて、リラックスできて、素晴らしい温泉にも入ることができました。僕の心や体にとても良いことができたと思いました。今年の夏もオフに何かできるといいなと思っています。自然に触れて自分を充電できるような、昨年と同じようなことができればいいですね。」

 
―日本の観客は、スクリーンでのあなたのロミオ役の素晴らしい演技にきっと魅せられるはずです。

ワディム「ありがとうございます。映画館でみなさんに僕のロミオを観てもらえると嬉しいです!」