インタビュー
ロイヤル・バレエ&オペラシネマシーズンのラストを飾る「バレエ・トゥ・ブロードウェイ」での中の『トゥー・オブ・アス(ふたり)』でローレン・カスバートソンと踊る若手プリンシパルのカルヴィン・リチャードソン。ジョニ・ミッチェルの名曲と共にロマンティックに、軽やかでどこか切なさも込めて踊る彼の姿に魅了される人は多いはず。
昨年プリンシパルに昇格。『ロミオとジュリエット』のロミオ、『マノン』のデ・グリュー、『シンデレラ』の王子と義理の姉妹、『アリス』のジャックとマッドハッター、さらにクリスタル・パイト振付作品など、王子様からコミカルな役まで幅広くこなすカルヴィンにお話を伺いました。
(c) Andrej Uspenski
僕が踊るうえで一番大事にしているのは、パートナーが僕と安心して踊れること。
―日本のファンは、カルヴィンさんが昨年プリンシパルに昇進されてとても喜んでいます。プリンシパル一年目はいかがでしたか?
まるでジェットコースターのようで、様々な感情が嵐のように襲ってきました。このような役割を与えられるのはとてもエキサイティングなことです。ダンスの観点からの僕の世界を開いてくれました。今までと違ってシーズンの間中主役ばかり踊ることになったのですから、僕のダンサー人生の中で多くの変化があり大きな飛躍でした。先シーズンはこの役割、この仕事が何なのかを理解することに注意を払っていました。すべてが違ってきたので、まるで一からやり直しているような感じです。新しい目でこの仕事を見て、今までの道のりや、自分自身の芸術性をもう一度見直してみたのです。このプロセスを通して僕は多くのことを学ぶことができました。ロイヤル・バレエの素晴らしいアーティストたちと仕事をすることができてとても幸運だと感じています。僕が踊るうえで一番大事にしているのは、パートナーが安心して踊ることができるようにすること、コーチや観客も舞台を動かし物語を語っている僕を見て安心してくださることです。僕たちには素晴らしい観客の皆さんが付いていてくれて、何回も劇場に通い、カンパニーのダンサーが成長して行くのを見守ってくださっていて、それはロイヤル・バレエが特別な存在である理由の一つです。この役割を引き受けることでワクワクしました。もちろん、怖いと感じてもいました。突然、人々が僕を見る眼が変わってしまったし注目も浴びることになりました。大きな挑戦でもあるし怖さもある。でもやっぱり僕は幸運に恵まれたのだと思います。
ウィールドンの、記憶の中にズームインして、ズームアウトしていくような創造性が大好き
―『トゥー・オブ・アス(ふたり)』にキャスティングされてどう感じましたか?
この作品の映像を見せてもらい、ゼナイダ・ヤノウスキーと、この作品を過去に踊ったロビー・フェアチャイルドが指導してくれました。このチームは仕事をするうえで素晴らしい人々であり、またインスピレーションも与えてくださったのです。映像を観たときの第一印象は、僕の役を踊っていたのがデヴィッド・ホールバーグだったことです。僕はあのデヴィッドの代わりに踊らないといけないということで大変な試練でした。でもこの作品はとても美しいですし、ジョニ・ミッチェルの素晴らしい音楽を聴くことで安心感がありました。彼女の音楽を聴いて、僕はこの音楽を踊ることができるのは幸せだと感じたのです。クリストファー・ウィールドンの振り付けた作品をローレン(カスバートソン)とのデュエットで踊るということだけでもエキサイティングなのに、それがジョニ・ミッチェルの音楽を使った作品だということで、さらにワクワクしたのです。彼女の音楽は、僕の心に訴えかけてくれます。
―映画のインタビューで、あなたとローレンはこの作品の意味を探し求めていると語っていらっしゃいましたね。この作品の上演が終わった今、答えは見つかりましたか?
答えは見つかりませんでしたが、逆に質問が増えました!でもそこがこの作品の素敵なところです。言葉にならないことをこの作品はダンスで語っているのだと思います。僕たちはそれぞれ異なった解釈をしていたところがあって、そこもこの作品の美しさ、生の舞台を観ることの美しさだと思うのです。クリス・ウィールドンの、記憶の中にズームインして、ズームアウトしていくような創造性が本当に好きだと感じました。一つの動きのシークエンスを行って、それを逆回しにするような感じです。まるでテープをリワインドしているような。僕は何かを見ていて、それを別のものに反映させているようなイメージを受けました。ジョニ・ミッチェルの音楽の最後の曲、素晴らしい歌にその印象を受けるのです。それが答えかもしれません。
―あなたとローレンは共に人生の一つの時を見ていたと映画のインタビューでお話されていましたね。それはどんな季節でしたか?
僕はローレンとはまた違ったものを見つけています。ローレンが踊ったパートの曲は四季の順番通りになっていて、彼女のソロでは、歌詞にあるように夏の日や花々について踊っています。僕のところは紅葉や冬についてなので、それぞれのイメージは違いますね。いずれにしても、とても美しい季節だと感じています。
―出演したパフォーマンスが中継されたり、映画館用に収録されたりしたときには、いつもと違った気持ちになりますか?
やはり違いますね。毎回収録されるとき、公演前には「いつもの舞台と同じように演じるよ、緊張しちゃダメ」と思うのですが、楽屋にあるテレビモニターを見ると、インタビューされている人たちの姿を見つけてしまい、気分が変わります。エネルギーが加わるのですね。もちろんプレッシャーがあるのですが、でもエキサイティングなことでもあります。他のダンサーたちもそうだと思いますが、世界中の映画館にいる人々がこれを観るのだと意識すると、さらに興奮が高まるのです。楽しいですよ。
この『トゥー・オブ・アス(ふたり)』の中継された公演では、もちろんダンス作品の中の二人なのですが、二人の人間同士だと感じながら踊りました。このキャラクターを演じているということではなくて自分自身でいられたような気持ちです。だから映画館の中継のためにこの作品を踊ったのはとても面白い経験でした。
―舞台上にオーケストラがいて、ジュリア・フォーダムも歌っていましたからね。
それもまた素晴らしい体験でした。いつもと完全に違った空気だったのです。幕が下りていて、オーケストラやジュリアや指揮者のクン(・ケッセルズ)を見るちょっとした瞬間もとても素敵なもので、特別な何かを加えてくれたのです。僕たちは一緒に舞台を分かち合っているという感覚が特別に感じられました。
クラシック・バレエの素晴らしさは、現代の視点から自分と関連付けられる部分を見つけられること
―近年、そしてプリンシパルになってあなたは様々な役を演じてこられました。ロミオや『マノン』のデ・グリュー、『オネーギン』のレンスキー、『夏の夜の夢』のオベロン、そしてもちろん『不思議の国のアリス』のマッドハッターも踊られました。あなた自身に近い役というのはありますか?
やはりロミオ役は、他のダンサーもそう感じていると思うのですが、個人的に特別な役だと感じました。全幕作品の主役として初めて踊った役なのです。僕は初めてのロミオ役をマヤラ・マグリと踊ったのですが、学生の時にローザンヌ国際バレエコンクールの映像で彼女を見ていたことを思いだして、一つの輪が完結したような感慨を得ました。あの素晴らしいマヤラと、ロイヤル・オペラハウスの舞台で『ロミオとジュリエット』を踊ることになるなんて、あの時の僕に言って聞かせたいです。
あと、クラシック・バレエの作品ではないのですが、クリスタル・パイト振付の『The Statement』を踊ったのも特別な経験でした。この作品を踊るのが夢で、夢が現実になったのです。この作品の振付を通して、僕の踊りのボキャブラリーを見せることができるし、とてもクールなキャラクターを演じることができました。僕たちを指導してくれたスペンサー・ディックハウスがこの作品を演じているところも観たので、この作品を踊ることができたのが本当に嬉しかったのです。
これらの役が僕個人と似ているかどうかはわかりません。でも、自分と関連付けられる部分はあります。クラシック・バレエの素晴らしいところは、現代とは違う時代に作られているけれども、現代の視点から自分と関連付けられる部分を見つけられることです。今日の観点から新しい意味を見つけ、物語を語り直すことによって、バレエは現代においても息づいているのです。
―今年の2月には『オネーギン』の詩人レンスキー役でカルヴィンさんの演技を観ることができました。いろんなダンサーがこの役を演じるのを観ましたが、カルヴィンさんの悲劇的で美しくひたむきなパフォーマンスがとても心に残りました。
レンスキー役も、いつか演じたいと長年思っていた夢の役でした。プリンシパルに昇格してこの役を演じることができて嬉しかったです。本当はもう少し経験を積んでから演じるべき役だったかもしれませんが、今の時点の僕の人生経験の中で演じられたのは幸運でした。この役も演じるにあたってプレッシャーがかかる役です。上手く踊ることはもちろんですが、誠実に演じることが大切な役です。レンスキーの物語を踊りと演技を通して語る、この素晴らしい役にふさわしい演技をしたいと思っていたから、多くのお客様が僕の演技が琴線に触れたと言ってくれたことは感動的でした。
今シーズンは、高田茜、佐々木万璃子の二人の素晴らしい日本人バレリーナと共演します
―カルヴィンさんは、新しいシーズンに初めて演じる大きな役も決まっていますね。例えば『リーズの結婚』のコーラスや、『ジゼル』のアルブレヒトを踊ることになっています。ほかにも踊りたいと思っている役はありますか?
もちろんアルブレヒトは踊りたいと夢見てきた役です。『リーズの結婚』のコーラスも、ロイヤル・バレエでずっと愛されてきた作品で、とても心温まる美しい作品ですし、パントマイムが難しいバレエでもあります。もちろん今まで踊ったロミオや『マノン』のデ・グリューも夢見てきた役です。僕にとってはドラマチックな役がそうなので、これから踊りたいのは『マイヤリング』のルドルフ役ですね。でも、『シンデレラ』で王子を演じたのですが、同時に(女装する)義理の姉妹役も演じていて、それはとっても楽しかったのです。ロイヤル・オペラハウスの舞台で主役を踊る時のものすごいプレッシャーから解放される楽しさもあります。義理の姉妹や、『ドン・キホーテ』のガマーシュのような役を演じる機会があるのはとてもいいですね。『眠れる森の美女』のカラボスも演じたいです。このカンパニーの歴史の中で、偉大なダンサーたちがこれらの役を演じてきましたし、僕も自分の境界線を破るような役を体験したいと思っています。このような役を演じるのはエキサイティングですね。
―今シーズン、「ジゼル」では佐々木万璃子さん、「リーズの結婚」では高田茜さんと共演される予定ですね。
そう、二人の素晴らしい日本人バレリーナと共演する予定です。茜さんとは今までも踊ってきましたが素晴らしい経験だったし、万璃子さんとはまだ踊ったことがないので、とても楽しみにしています。茜さんは皆さんもご存じの通り、スーパースターですし、一緒に踊って楽しかったです。彼女とは、オーストラリアのクイーンズランド・バレエ団へのゲスト出演で『ロミオとジュリエット』を踊り、またコロナ禍明けにガラ公演で『マノン』の寝室の場面を一緒に踊り、最近また韓国でのガラ公演でも踊りました。『ロミオとジュリエット』は特に、僕の故国であるオーストラリアで初めて全幕作品で主演したので、そこで茜さんと踊ることができたことも特別な経験になりました。僕の家族や友達も大勢観に来てくれたのです。みんな集まって大騒ぎになりました!
日本のアニメの大ファンです!『千と千尋の神隠し』から『ダンダダン』『怪獣8号』『鬼滅の刃』まで。
―休みの日はどのように過ごしていますか?
活動ということではないのですが、実は僕は日本のアニメのファンなのです。アニメを見て育ちました。最初の体験は『千と千尋の神隠し』です。その時僕は夜中に台所で観ていて、とても怖いと感じましたが同時に大好きになりました。それ以来日本のアニメに夢中になったのです。オーストラリアで育ったのですが、地理的に日本から遠くないということもあり、学校で日本語を習いましたし、交換留学生がいたので日本の文化に親しみがありました。母も学生時代に交換留学で日本に行ったのです。だから日本にはいつもつながりを感じていました。リラックスする時にはアニメを今も観ています。この仕事は緊張することが多く、息抜きすることもとても大事なので、美術や陶芸も学んでみています。ロンドンのいいところは、いろんな催しが行われていることで、ナショナル・ポートレート・ギャラリーでジェニー・サヴィルの素晴らしい展覧会に行きましたし、キューガーデンズのような場所もあります。それからロンドンの中心部から出て森の中に行ってリラックスします。でも新しい活動は常にやってみたいと思っています!それは美術の教室かもしれませんし、ダーツやビリヤードかもしれません。
―好きなアニメ作品の名前を教えてください。
沢山あって挙げきれないくらいです。『ダンダダン』が今一番気に入っていますね。それから最近では『怪獣8号』。『鬼滅の刃』も好きで、映画を観に行くつもりです。
日本の皆様からの応援は、アーティストである僕たちにとっては大きな意味があります!
―あなたの踊りを映画館で、そして舞台で観ることを楽しみにしている日本のファンにぜひメッセージをお願いします。
僕たちを見に来てくれる日本のファンの皆様に心を込めてお礼を言いたいです。僕個人もですがロイヤル・バレエのメンバーは日本の観客の皆様とは特別な絆で結ばれていて、何回も踊る機会に恵まれています。観客の皆様から受け取る反響は本当に素晴らしくて、この何年もの間に何回も来てくれて顔なじみになるお客様もいます。公演が終わって楽屋口から出ると、多くのファンがプレゼントを持って、挨拶しに待ってくれていて嬉しいですし、観客の皆様と美しい関係を構築できていると思います。映画館で上映されるパフォーマンスを楽しんでもらえたらいいと思うと共に、また皆さんのために踊ることを楽しみにしています。皆様からの応援は、アーティストである僕たちにとってはとても大きな意味があるのです。