コラム
鮮やかな足捌きを見せる、ユーモラスで可愛い着ぐるみのニワトリたちの踊りで幕が開いて観客の心をギュッと掴むバレエ作品『リーズの結婚』。ニワトリたちの他、本物の愛らしいポニー、男性ダンサーが女装した母親シモーヌ、赤い傘が大好きなアランなど多彩なキャラクターが、のどかな農村で大活躍。主人公の村娘リーズとその恋人コーラスをめぐる大騒動の行方は?リーズとコーラスがピンクのリボンを編み込んだり、お互いに身体に巻き付けたり、8人のダンサーにリボンで支えられてリーズがバランスを取るという趣向や、シモーヌやリーズの友人たちが踊るタップダンス的な“木靴の踊り”など英国伝統のパントマイムや民族舞踊も盛り込んだ、幸福感あふれるラブコメディです。
『リーズの結婚』の原題は『ラ・フィーユ・マル・ガルデ』。フランス語で「監督不行き届きの娘」という意味で、フランス革命前夜である1789年にボルドーでこの作品を振り付けたジャン・ドーヴェルヴァルが「母親に叱られた娘」という、納屋の中で母親に叱られている少女を描いた版画を見て思いついたとのこと。現存する最も古いバレエ作品の一つです。ロシアや米国でもシャルル・ディドロの改訂版、マリウス・プティパ、レフ・イワノフによる改訂版、ニジンスカ振付による作品が上演されてきました。
英国バレエを代表する名匠フレデリック・アシュトンが1960年に自身の版を初演すると、たちまち大人気となりました。2010年にはロイヤル・バレエ、2018年にはバーミンガム・ロイヤル・バレエの来日公演で上演され、パリ・オペラ座バレエでも頻繁に上演されています。1991年から日本の牧阿佐美バレヱ団のレパートリーにもなっています。今回は、ロイヤル・バレエでは9年ぶりの上演ということで、現地では多くの観客が待ち望んでいた名作のリバイバルとなりました。
アシュトンならではの振付の特徴である素早いピルエット、高いリフトや細かく軽快な足捌き、上半身に角度をつけて立体的に見せるエポールマンといったテクニックが盛り込まれて、英国スタイルを象徴する作品となっています。のんびりした作品のようで技術的には非常に難しく、リボンや箒、酒瓶、傘、スカーフなど多くの小道具を使いながら踊ったり、コミカルな演技をしながら軽快に踊ったりしなければなりません。
フランス生まれの作品ですが、アシュトンは画家ジョン・コンスタブルが描く英国の田園風景にインスピレーションを得て、田園に太陽が降り注ぐ様子を描こうと考え、メイポールを囲んでの賑やかな群舞などフォークダンス的な要素も取り入れました。1幕終盤のクライマックスの盛り上がりはひたすら楽しく、観客も大いに盛り上がります。娘の恋にやきもきする、時に厳しくも愛情深い母親であるシモーヌを男性ダンサーがどのように演じるかも見せ場の一つです。リーズとコーラスの愛、リーズとシモーヌの親子の愛と愛情にあふれ、悪い人が一人も登場しない作品であると共に、お姫様や妖精ではなく庶民が主人公というのも、この作品の魅力です。リーズに求婚するお金持ちの息子アランは、ちょっとずれているけど純真な性格の愛すべき人物です。個性的な人々の営みを優しい眼差しで描く名作として、本作は長年愛されてきており、あたたかい気持ちにさせてくれます。
リーズを演じるのは、アシュトン作品を得意とするフランチェスカ・ヘイワード。映画『キャッツ』『ロミオとジュリエット』で見せた卓越した演技力と安定したテクニックを発揮して、生き生きとした村娘を時にユーモラスに、時にロマンティックに演じています。恋人コーラスを演じるのは、『赤い薔薇ソースの伝説』でもヘイワードとの相性の良さを見せ、愛嬌溢れるマルセリーノ・サンベ。柔らかく高い跳躍や足捌きも鮮やかで理想的なパートナーシップを築いています。
リーズの母シモーヌ役を女装して演じるのは、ファースト・ソリストのジェームズ・ヘイ。もともと『眠れる森の美女』などでの王子役も演じ、端正な容姿と美しいつま先を持ち優れたテクニックを誇りますが、最近ではロイヤル・バレエ&オペラ in シネマの次回上映作品『くるみ割り人形』のドロッセルマイヤー、再上映される『シンデレラ』の義理の姉妹などキャラクターロールで新境地を開いています。木靴の踊りでシモーヌと共に木靴を履いて踊るリーズの友人たち役で佐々木万璃子、前田紗江、桂千理の日本出身ダンサーたち、そしてコーラスの友人役で五十嵐大地も活躍しており、群舞に至るまでロイヤル・バレエのダンサー達の生き生きした演技を楽しむことができます。
今年7月にはロイヤル・バレエの来日公演でも上演される珠玉の名作を、一足先に映画館の大スクリーンで楽しんでください。