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2023.06.13

バレエ『シンデレラ』の魅力、見どころを、を解説します

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森菜穂美氏(舞踊評論家)

<ロイヤル・バレエならではのユーモアとペーソスあふれる『シンデレラ』が新制作で登場>
母を亡くすという不幸な境遇にもめげずに明るく健気なシンデレラが、その清らかな心で幸せをつかむという『シンデレラ』の物語は、いつの時代も人々の心に灯りをともしている。ロイヤル・バレエのフレデリック・アシュトン版では、義理の姉妹を男性ダンサーが女装してユーモラスに演じることによって、滑稽さと共に、シンデレラに対する意地悪があまり深刻なものではなく、誰も悪い人が登場しないという作品の温かさを象徴させている。美しく変身したシンデレラが舞踏会に入場するところの、ガラスの靴のトウシューズでつま先立ちのまま一歩一歩階段を下りていく場面の繊細さと初々しい緊張感を見せるところは、本作屈指の名場面である。プロコフィエフの少しダークだが煌めくような華麗な旋律の音楽も印象的でドラマを盛り上げる。

<万人に愛される傑作『シンデレラ』>
巨匠フレデリック・アシュトン振付の『シンデレラ』が初演されたのは1948年、ロイヤル・バレエの前身であるサドラーズ・ウェルズ・バレエ団にて。アシュトンがロイヤル・バレエのために振り付けた初めての全幕作品だった。初演でシンデレラを演じたのは不朽の名画『赤い靴』に主演したモイラ・シアラー、義理の姉妹はアシュトン本人と、名ダンサーとして知られたロバート・ヘルプマン。この『シンデレラ』はアシュトン独特の素早い足捌きと優雅で雄弁な上半身の動きが特徴的。おとぎ話のファンタジックさ、英国らしいおおらかなユーモアと、心優しい人が報われるというハッピーエンドで多くの人に愛される名作となった。

<ローレンス・オリヴィエ賞受賞『となりのトトロ』舞台版の美術デザイナーを起用した話題の新プロダクション>
今回、初演75周年を記念して『シンデレラ』はロイヤル・バレエではおよそ10年ぶりに待望のリバイバルとなり、舞台装置や衣装も一新されての新プロダクションとなった。今回の舞台装置を手掛けたトム・パイは『となりのトトロ』のロイヤル・シェイクスピア・カンパニーによる舞台版『My Neighbor Totoro』で2023年のローレンス・オリヴィエ賞舞台デザイン賞を受賞するなど、数多くの話題作を手掛けてきた。変身シーンなどにプロジェクション・マッピングを巧みに使用し、花のモチーフを多用したデザインは高く評価された。女の子の夢を具現化したようなキラキラ輝くシンデレラのチュチュ、目が覚めるように鮮やかな四季の精の衣装など、新しいプロダクションならではの華やかさも見もの。クローズアップで衣装や美術を見ることができるのも、シネマシーズンならではのお楽しみだ。

<世界的なスーパースターのヌニェス、ムンタギロフが主演、主要な役で多くの日本出身ダンサーが活躍>
シンデレラを演じるのは、ロイヤル・バレエのみならず世界を代表するスーパースター・バレリーナであるマリアネラ・ヌニェス。持ち前の明るい笑顔と完璧なテクニックで、夢をつかむ前向きなヒロインを生き生きと演じている。王子には、ロイヤル・バレエ随一の貴公子ワディム・ムンタギロフ。まさに王子の中の王子と呼ぶべきエレガンス、華麗な技巧で魅了する。優しくシンデレラを導く仙女を気品と温かみのある演技で演じるのは、別公演ではシンデレラ役にも配役されている日本出身のプリマ金子扶生。主役を食うほどの活躍を見せる義理の姉たちは、ロイヤル・バレエを代表する名役者ギャリー・エイヴィスと、日本出身のアクリ瑠嘉が女装して抜群のユーモアで演じる。アクリの父マシモ・アクリも新国立劇場バレエ団でアシュトン版『シンデレラ』の義理の姉を演じており、親子二代でこの役を演じたことになる。さらに道化役には目覚ましい活躍を見せる若手の中尾太亮が高い跳躍や美しいつま先で鮮烈な印象を与える。四季の精のうち秋の精を、やはり日本出身の崔由姫が踊るなど、今回も多くの日本出身のダンサーが活躍を見せているのも嬉しいところだ。

世界トップクラスのスターダンサーたちによる、夢とときめきと笑いに満ちた華やかなバレエ作品。単なるおとぎ話に留まらず、ファンタジーと共にドラマと人間味にあふれたロイヤル・バレエの『シンデレラ』には、観た人誰もが幸せな気持ちになる、バレエの魔法がつまっている。ぜひ映画館の大スクリーンで楽しんでほしい。

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