2023.01.18

オペラ『ラ・ボエーム』を初心者でもわかりやすく解説します

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石川 了(音楽・舞踊ナビゲーター)

なんと言ってもフローレス推し!
2022年9月に3年ぶりの来日を果たしたテノールのスーパースター、フアン・ディエゴ・フローレス。公演に行くことができた方はもちろん、行けなかったオペラファンにとって特に嬉しいフローレス最新の姿が映画館で楽しめる。英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2022/23『ラ・ボエーム』だ。(2022年10月20日公演)

フローレスといえば、何といってもロマンティック・コメディの印象が強い。ロッシーニの『セビリアの理髪師』『チェネレントラ』やニーノ・ロータの『フィレンツェの麦わら帽子』などのドタバタ喜劇はまさに彼の独壇場で、そのフットワークの軽い演技や茶目っ気のある表情、しなやかな音楽性と(彼の代名詞でもある)超高音は、フローレスの最大の魅力であった。
そんな彼も1973年生まれ、つまり2023年に50歳を迎える。高音域だけではなく中音域も充実し、レパートリーはロッシーニやドニゼッティ、ベッリーニといったベルカントものから、マスネ、グノーのようなフランスもの、(役を選ぶが)ヴェルディやプッチーニまで広がった。ロドルフォは一昔前のフローレスなら絶対に歌わなかった役だから、今回の映像は音楽ファンにはたまらない。

愛だけでは命は救えない。
<ボエーム>とは<ボヘミアン>のフランス語。自由に生きることに憧れた芸術家の卵たちを指すが、そのような芸術家気取りの生活をしていても、金がなければ愛する人に薬を買ってあげることもできないのが現実だ。愛だけでは命は救えない。
そう、『ラ・ボエーム』は、実は「病を持つ人を愛するという責任に怖気づき、態度が変わるロドルフォの物語」でもあるのだ。まだまだ青年のようなフローレスの仕草や表情をみていると、青春の苦い思い出がよみがえるのか、そんなことを強く感じてしまう。彼は、歌唱力だけではなく、演技力もブラボーなのだ!

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