2018.05.31

オペラ『マクベス』を初心者でもわかりやすく解説します

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圧巻のマクベス夫人 アンナ・ネトレプコ!ーきっと楽しいオペラ体験
            石川了(クラシック音楽専門TVチャンネル「クラシカ・ジャパン」編成

オペラ「マクベス」の成功のカギはマクベス夫人にあり!
 筆者がアンナ・ネトレプコを初めて生で観たのが、2008年1月にロンドンのコヴェントガーデンで上演されたヴェルディの歌劇『椿姫』でした。演出はリチャード・エア、共演はジェルモンに故ディミトリー・ホロストフスキー、アルフレードには当時注目されつつあったヨナス・カウフマン!早朝から並んで当日券をゲットした私たち家族にとって、オペラでこんなに号泣するのは初めてというくらい、最初から最後まで、ネトレプコのヴィオレッタに涙ボロボロ。お子さんが生まれる直前の彼女は本当に美しく、カウフマンもホロストフスキーもあまり覚えていないほど、ネトレプコは圧巻でした。

 『椿姫』がヒロインのヴィオレッタの歌手に成功の比重がかかるように、ヴェルディの歌劇『マクベス』は、ある意味、タイトルロール以上に、マクベス夫人役の歌手にかかっていると言っても過言ではありません。

 今回は、何といってもマクベス夫人を歌うネトレプコに尽きます。妻の野心と女王の威厳、人間の邪悪と狂気を、まるで万華鏡のように、それも一瞬の表情の変化で魅せるネトレプコの演技。第1幕の登場のアリア「さあ、急いでいらっしゃい」や第2幕の「光は萎えて」と祝宴の「乾杯の歌」、第4幕の「夢遊の場」など、ある時は力強く、ある時は繊細に、豊かな声量と弾力のある声で歌われるアリアの安定感。もはや10年前の可憐な姿はなく、女王のような貫禄に満ちた彼女のマクベス夫人に誰もが圧倒されるはず。

 マクベス役はセルビアのバリトン歌手ジェイコ・ルチッチ。ネトレプコの夫のテノール、ユシフ・エイヴァゾフがマクダフ役で英国ロイヤル・オペラデビューを飾っています。

超絶技巧のアリアを配したヴェルディ
 野心に駆られたマクベス夫妻が国王を暗殺して王位に就くが、夫人は良心の呵責で錯乱し絶命、マクベスは貴族や王子らの復讐に倒れるという『マクベス』はシェイクスピアに傾倒していたヴェルディが初めてシェイクスピア戯曲をオペラ化した作品です。

 彼は、このオペラで、登場人物の心理に深く踏み込んだ朗唱的モノローグを試みるといった、人物の性格や感情をそのまま音楽で表現する「音楽とドラマの一致」を目指しました。特に、マクベス夫人に対してのヴェルディの思い入れは強く、彼はこの役に悪声を要求し、高音から低音までの広い音域を強い声で歌う超絶技巧のアリアを配したのです。

 1847年3月フィレンツェでの初演は成功を収めますが、評価は賛否両論。ヴェルディは1865年パリのリリック座での上演のために大幅に改訂を行いました。今回の本篇映像では、このパリ改訂版(歌唱はイタリア語)の音楽と共に、改訂版ではカットされた初演版のラストのモノローグ「マクベスの死」もお楽しみいただけます。

 この上演は、女流演出家で「マンマ・ミーア!」などの映画監督としても知られるフィリダ・ロイドによる2002年初演プロダクションの3回目の再演。ロイド演出版の最大の特徴は、ユニークな魔女たちの存在。赤いターバンを被り、眉毛が繋がった独特のメイキャップの魔女たちは、マクベスに予言をし、マクベスが認めた手紙をマクベス夫人に手渡し、王冠をマクベスに授け、マクベスが仕向けた暗殺者の手からバンクォーの息子を守るなど、さまざまな場面に登場し、マクベスの運命を翻弄していきます。

 幕間の解説では、英国ロイヤル・オペラの音楽監督で『マクベス』を指揮するイタリア人、アントニオ・パッパーノによるピアノを弾きながらの解説が熱い!

「マクベス」の都市伝説?!
 最後に、『マクベス』にまつわる都市伝説をご存知ですか?それは、『マクベス』に出ている役者たちが台詞以外で「マクベス」と言うと不幸に見舞われるというもの。もし喋ってしまったら、劇場の外で時計回りに3回まわって悪態をつき、誰かに言われるまで劇場に入ってはいけないというおまじないによって、呪いを解くことができるのだそうです。

 こんな話があるくらい、マクベスという人物には不吉な影があるのかもしれません。でも、実在のスコットランド王マクベス(在位1040~1057)は、武勇の誉れ高く、信仰心も厚く、王位17年間で立派な業績を残した“賢王”として名を残しているそうですよ。シェイクスピアも罪な人ですね。

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