2019.06.12

オペラ『ファウスト』を初心者でもわかりやすく解説します

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石川了(クラシック音楽専門TVチャンネル「クラシカ・ジャパン」編成)

 

【名前だけは知っている、名前だけは聞いたことがある-原作「ファウスト」】
ゲーテの戯曲『ファウスト』(全2部)は、歴史の教科書にも登場する文学作品なので、タイトルだけでも知っている方は多いと思うが、実際に読んだことのある方はどれくらいいるだろうか。

悪魔メフィストフェレスに魂を売って永遠の若さを手に入れた老博士ファウスト。彼は清純な乙女マルグリートと恋に落ちるが彼女を捨て、彼の子を宿したマルグリートは生まれたばかりのわが子を殺し、牢に繋がれ錯乱。彼女の魂は神のもとに召されていく…。

なかなか陰惨な物語だが、実は自分も原作を読んだことがなく、数あるクラシック音楽から『ファウスト』を知ったというのが正直なところ。シューベルトの歌曲『糸を紡ぐグレートヒェン』(グレートヒェンとはマルグリートの愛称)やベルリオーズの劇的物語『ファウストの劫罰』、シューマンの『ゲーテのファウストからの情景』、ワーグナーの『ファウスト』序曲、リストの『ファウスト交響曲』、ボーイトの歌劇『メフィストーフェレ』、ブゾーニの歌劇『ファウスト博士』、マーラーの交響曲第8番『千人の交響曲』第2部など、『ファウスト』が作曲家に与えた影響の大きさは計り知れない。

【作曲家グノーと言えば「アヴェ・マリア」だけど・・・】
中でも、原作の第1部をオペラ化したグノーの歌劇『ファウスト』は、物語を知る上で、ロマンティックなメロドラマとして一番わかりやすい作品ではないか。

グノーといえば、バッハ『平均律クラヴィーア曲集』第1巻第1曲の前奏曲に旋律をかぶせた美しい『アヴェ・マリア』が有名だが、このオペラも本当に音楽が美しい。オルガンの響きは天国を描き、一方で単独でも演奏されるバレエ音楽「ワルプルギスの夜」は地獄を描くなど、その色彩豊かな音楽はドラマティック。

ファウストが歌う「この清らかな住まい」やマルグリートの「宝石の歌」、メフィストフェレスの「金の小牛の歌」といった有名アリアも満載で、どんなに劇的になってもフランス語の柔らかな響きが洗練されたリリシズムを生んでいる。音楽ファンなら一度は耳にしたことのある旋律にあふれているのだ。

【メフィストフェレスの七変化?】
この映像は、英国ロイヤル・オペラで2004年の初演以来5度目となる、スコットランド生まれのデイヴィッド・マクヴィカー演出プロダクションの再演。指揮は、東京フィルハーモニー交響楽団桂冠指揮者としておなじみのイスラエル生まれのダン・エッティンガー。 ファウストにはアメリカのテノール、マイケル・ファビアーノ。メフィストフェレスにはウルグアイ生まれのバリトン、アーウィン・シュロット。マルグリートにはロシアのソプラノ、イリーナ・ルング。

原作の舞台は16世紀ドイツだが、マクヴィカー版は普仏戦争の1870年代パリに設定。ファウストとマルグリートは“キャバレー地獄”で出会い、「ワルプルギスの夜」では白いチュチュのバレリーナたちが妊婦マルグリートを愚弄しながら踊り狂う。挑発的で演劇的、ミュージカルのような流れもあり、舞台装置は豪華絢爛。19世紀フランス・オペラを代表する「グランド・オペラ」のエッセンスを満喫できる。

特に、シュロットのメフィストフェレスは、ファウストとの丁々発止もテンポよく、ファッションショーのようなさまざまなコスチュームで大活躍。「ワルプルギスの夜」での黒の女王様姿には唖然とし、休憩時間のシュロットとエッティンガーの対談はまさにロック!さすが、あのアンナ・ネトレプコの元夫だけあって、そのイケメンぶりとニヒルな微笑みはメフィストフェレスにうってつけだ。

この9月に来日する英国ロイヤル・オペラの演目でもある『ファウスト』。来日公演に行く方には予習として最適だ。来日公演に行けない方は、映画館ならではの迫力の大画面と圧巻のサウンドをたっぷりとお楽しみいただきたい。

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2019.06.10

ロイヤル・オペラ『ファウスト』<タイムテーブルのご案内>

A scene from Faust by Gounod @ Royal Opera House. Directed by David McVicar. Conductor, Dan Ettinger. (Opening 11-04-19)

輝かしい名曲の数々。フランス・オペラの傑作、グノー《ファウスト》を豪華な舞台と魅力的なキャストで!

フランス・オペラの輝ける宝石のような傑作、グノー作曲の《ファウスト》が英国ロイヤル・オペラのシネマシーズンに登場する。悪魔メフィストフェレスとの契約で若さを取り戻したファウストは、清純な乙女マルグリートの愛を得るが、すぐに彼女を捨て絶望の淵に突き落とす。グノーはこの物語を、美しい旋律と輝かしい管弦楽で描き、音楽そのものが救済となるような奇跡のオペラが生まれた。

《ファウスト》は、秋に予定されている英国ロイヤル・オペラ来日公演の演目でもある。2004年に初演されたマクヴィカー演出の舞台はこの歌劇場を代表する名舞台だ。物語を16世紀ドイツから、オペラが初演されたパリの第二帝政期に移し、普仏戦争を目前にした文化の爛熟と退廃を感じさせる美しい舞台に仕上げている。出演歌手たちも豪華。悪魔メフィストフェレスには艶のある美声のアーウィン・シュロット。情熱的でエレガントなファウストにはMETでも活躍するマイケル・ファビアーノ。美しく一途なマルグリートにイリーナ・ルング。マルグリートの兄ヴァランティンは圧倒的な存在感のステファン・デグー。ダン・エッティンガーの指揮も迫力だ。

《ファウスト》の聴きどころは数え切れない。ヴァランティンのアリア「祖国を離れる前に」、メフィストフェレスの「金の小牛のロンド」、ファウストが歌う「この清らかな住まい」、マルグリートの「宝石の歌」。有名なワルツや勇壮な合唱曲もある。そしてフィナーレを飾るマルグリート、ファウスト、メフィストフェレスの三重唱は、オペラの歴史に刻まれたもっとも美しい瞬間の一つだろう。

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<ロイヤル・オペラ『ファウスト』タイムテーブル>

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【演出】デイビット・マクヴィカー
【音楽】シャルル・グノー
【指揮】ダン・エッティンガー
【出演】マイケル・ファビアーノ(ファウスト)、アーウィン・シュロット(メフィストフェレス)、イリーナ・ルング(マルグリート)、ステファン・デグー(ヴァランティン)

2019.05.24

ロイヤル・オペラ『運命の力』<タイムテーブルのご案内>

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これ以上はありえない豪華キャスト!!ロンドンで熱狂を巻き起こしたネトレプコとカウフマンの《運命の力》が登場!

3月21日の初日、英国ロイヤル・オペラのロビーは異様な熱気に包まれていた。今やキャリアの頂点にあるオペラ界の2大スター、ソプラノのアンナ・ネトレプコとテノールのヨナス・カウフマンがヴェルディの《運命の力》で共演するのだ。ロンドンで二人が一緒に歌うのは11年前の《椿姫》以来。一人でもソールド・アウト必至のスターが、最高の演目で共演とあって、チケットの争奪戦は熾烈を極めた。そして初日の幕が開き、「この公演の実現はありえない幸運」「スター達の輝かしい声」などの絶賛の声が相次いでいる。

ヴェルディの《運命の力》は1862年にロシア、サンクトペテルブルクの帝室歌劇場で初演された。美しい旋律で有名な序曲から始まり、過酷な〈運命〉に翻弄される主人公たちのドラマが息をもつかせぬ展開となる。18世紀スペインを舞台にした、貴族の娘レオノーラとインカ帝国の血を引くドン・アルヴァーロの悲恋物語だ。ネトレプコが情感豊かに愛ゆえに苦悩するヒロインを歌い、カウフマンはドン・アルヴァーロの暗い情熱を体当たりで演じる。敵役であるレオノーラの兄ドン・カルロに最高のバリトン歌手ルドヴィク・テジエ、僧院長にはフェルッチョ・フルラネットを迎え、ロイヤル・オペラの音楽監督パッパーノの指揮というこれ以上ない布陣だ。演出はクリストフ・ロイ。映像を巧みに使い、モダンな切り口ながら敬虔な精神性を損なわない舞台が評価された。

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<ロイヤル・オペラ『運命の力』タイムテーブル>

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【作曲】ジュゼッペ・ヴェルディ
【演出】クリストフ・ロイ
【指揮】アントニオ・パッパーノ
【出演】アンナ・ネトレプコ(レオノーラ)、ヨナス・カウフマン(ドン・アルヴァーロ)、ルドヴィク・テジエ(ドン・カルロ)他

2019.05.17

【ロイヤル・バレエ】トリプル・ビル『ウィズイン・ザ・ゴールデン・アワー』 /『メデューサ』 / 『フライト・パターン』解説文が到着!

世界中で引っ張りだこの現代振付家3人による話題のトリプル・ビル『ウィズイン・ザ・ゴールデン・アワー』 /『メデューサ』 / 『フライト・パターン』の解説文が到着!

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『フライト・パターン』は、カナダ出身の女性振付家クリスタル・パイトによる2017年初演の作品。パリ・オペラ座に振付けた『シーズンズ・カノン』がブノワ賞を受賞するなど、今最も注目を集める振付家の一人で、アソシエイト・コレオグラファーを務めるNDT(ネザーランド・ダンス・シアター)の6月に予定されている来日公演でも作品が上演される。『フライト・パターン』は、戦乱から逃れようと困難な旅を続ける難民たちの姿を描いたパワフルで心に訴えかける作品で、ローレンス・オリヴィエ賞を受賞するなど高い評価を得た。パイト作品に多く見られる群舞を巧みに使い、36人のダンサーたちが忘れがたい印象を残す。

『ウィズイン・ザ・ゴールデン・アワー』は、『不思議の国のアリス』、『冬物語』、『パリのアメリカ人』と大ヒットを飛ばした現代の名匠、クリストファー・ウィールドンの2008年の作品。サンフランシスコ・バレエの75周年を記念して創作され、純粋なダンスの美しさが楽しめる。衣装はジャズパー・コンランによるもので、弦楽による音楽はイタリアの作曲家エツィオ・ボッソとヴィヴァルディ。平野亮一、ローレン・カスバートソン、サラ・ラム、ワディム・ムンタギロフらによる3つのパ・ド・ドゥを中心に、7組のダンサーが華麗に踊り、ウィールドンのアンサンブルの使い方の巧みさが光る。

新作『メデューサ』で初めてロイヤル・バレエに作品を創作して話題を呼んでいるシディ・ラルビ・シェルカウイは、日本でも「TeZukA」や「プルートゥ」などを演出し、大の日本の漫画好きとしても知られている。フラメンコのマリア・パヘスからアクラム・カーン、さらに少林寺の武僧たちともコラボレーションし、多様なバックグラウンドを持つ異才で、現在はロイヤル・フランダース・バレエの芸術監督を務めながら世界中でプロジェクトを同時進行させている。ギリシャ神話のメデューサの物語に基づく本作は、現代作品にも才能を発揮しているナタリア・オシポワをメデューサ役に起用し、マシュー・ボールが演じるペルセウス、平野亮一によるポセイドンなど彼女を取り巻くキャラクターが、独特のうねるようなスタイルで鮮やかに描かれる。

いずれも全く違った個性をもつ3本の作品は刺激的で、ロイヤル・バレエのトップスターによる最先端で、クオリティの高いダンスを堪能できるトリプル・ビル。ダンスの最前線を大画面で体験してほしい。

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2019.05.17

オペラ『運命の力』を初心者でもわかりやすく解説します

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石川了(クラシック音楽専門TVチャンネル「クラシカ・ジャパン」編成)

<歌唱・容姿・演技の三拍子揃ったスーパースターが奇跡の競演!
現代最高のソプラノ、アンナ・ネトレプコ&“キング・オブ・テノール”ヨナス・カウフマンが贈る2019年オペラ界最大の話題作『運命の力』>

【誰もが耳にしたことがある旋律】
ヴェルディの歌劇「運命の力」といえば、とにかく序曲が有名だ。オーケストラのコンサートでは単独で取り上げられることも多く、吹奏楽にも編曲されている。テレビ番組のBGMで使われることも。あの冒頭の“タラララ、タラララ、タラララ~ラララ”という旋律は、誰もが耳にしたことがあるに違いない。

ただ、オペラ全幕にお目にかかることは滅多にない。ヴェルディ中期から後期に至る過渡期の作品のせいか、「リゴレット」「椿姫」「イル・トロヴァトーレ」といった中期の傑作や「アイーダ」以降の後期作品に比べると、確かに存在感が薄い。尺も長く、話の展開も冗長な部分もある。主役級には力強いドラマティックな声が求められるため、歌える歌手が少ないことも理由だろう。

しかし、そんなデメリットを全く感じさせない、むしろもっと歌手たちを観て聴いていたい!と思わせるのが、この英国ロイヤル・オペラ公演。人気実力ともに現代最高のソプラノ、アンナ・ネトレプコと、甘いマスクの“キング・オブ・テノール”ヨナス・カウフマンが、主役のレオノーラとドン・アルヴァーロを歌っているのだ。

この美男美女の二人は、意外にオペラでの共演が少ない。クラシカ・ジャパンでは彼らが出演した2011年ベルリンでの野外ガラを放送しているが、あくまでこれはコンサート。2014年バイエルン州立歌劇場『マノン・レスコー』では本番直前にネトレプコが降板。筆者は、2008年1月の英国ロイヤル・オペラ『椿姫』で、ネトレプコとカウフマンの共演を観ており、今回はおそらくロンドンではそれ以来の快挙だろう。よくぞ二人ともキャンセルせずに共演が実現しました!

【カウフマンの独壇場&魅了するネトレプコ!】
物語の舞台は、18世紀半ばのセビリアとオーストリア継承戦争の戦場となっているイタリア。レオノーラの父カラトラーヴァ侯爵は、彼女の恋人ドン・アルヴァーロにインカの血が入っていることを理由に二人の結婚を認めない。レオノーラとドン・アルヴァーロが駆け落ちしようとしているところに、銃が暴発して侯爵が死に、彼女の兄ドン・カルロは家族の不名誉を晴らすべく復讐の旅に出るが、決闘でドン・アルヴァーロに殺され、隠遁していたレオノーラは瀕死の兄に殺され、ドン・アルヴァーロは自らの不幸な運命を呪う。

この映像では、何といってもカウフマンのドン・アルヴァーロが必見だ。テノールなのにちょっと暗めの声色がドン・アルヴァーロの悲しい運命を象徴しているかのよう。そこに、情熱的な歌唱と輝かしい高音、そして苦悩に満ちた表情が加わり、まさにカウフマンの独壇場だ。やはり彼は苦悩する男がよく似合う。

ネトレプコも“歌う女優”の本領発揮。彼女が凄いのは、本番までに体型や外見をきっちり調整してくるところ。もちろん表情や立ち振る舞いも美しく、声も力強く、歌の安定感も抜群だ。筆者が個人的に好きなのは、彼女の死に際の演技とカーテンコール。今回のレオノーラもさりげなくリアルに軽いショックを観客に与える死に方をしながら、その数十秒後のカーテンコールで満面の笑みで歓声に応える無邪気なネトレプコに、多くの観客は魅了されてしまうのではないだろうか。

ドン・カルロにルドヴィク・テジエ、グァルディアーノ神父はフェルッチョ・フルラネット、狂言廻し的なメリトーネ修道士にはアレッサンドロ・コルベッリなど、脇役に至るまで万全の配役。考えてみると、このオペラは全体的に男性的な色合いが強く、その中でレオノーラが紅一点という構成なので、合唱含め、男声が充実しているとオペラ全体が締まる。特に、ドン・アルヴァーロとドン・カルロは、二人の出会いから2度の決闘まで絡むシーンが多く、カウフマンとテジエの迫真の演技と歌唱が見どころだ。

【マエストロのパワー炸裂!ヴェルディへの熱い想い 】
この公演のもう一人の主役が、オーケストラを指揮するアントニオ・パッパーノ。彼の血がたぎるような音楽作りがダイナミックで、愛と友情、名誉、復讐、戦争、宗教を描いたヴェルディの音楽に計り知れないエネルギーを与えている。パッパーノのピアノを弾きながらの音楽解説も、今回はいつも以上にパワーが炸裂しているので、マエストロの熱きヴェルディへの想いをガッチリと受け止めてみよう。

オペラを大河ドラマと考えると、歌唱・容姿・演技の三拍子揃ったスーパースターは、オペラを圧倒的に面白くしていると思う。やはり見た目は重要だ。今回はネトレプコとカウフマンが、この全く救いのない悲劇を映画的な興奮に誘ってくれたと言えよう。

因みに、ネトレプコとカウフマンの次の共演予定は、2021年ザルツブルク・イースター音楽祭「トゥーランドット」だとか。指揮はクリスティアン・ティ-レマン。これも実現したら凄いことになりそうだ。

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2019.04.26

ロイヤル・バレエ『ドン・キホーテ』<タイムテーブルのご案内>

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元プリンシパルで世界的スター、カルロス・アコスタが振付けたバレエの楽しさが詰まった陽気な作品。

ガラ公演でも頻繁に上演される3幕の結婚式の華やかなパ・ド・ドゥには、32回転のグラン・フェッテ、男性ダンサーのダイナミックな跳躍など見せ場がたっぷりある一方、2幕では、森の女王や妖精たちが登場し美しいクラシック・バレエの粋が味わえる。闘牛士や踊り子、ジプシーなど生き生きとしてパワフルな登場人物たちのコミカルなやり取りとスピーディな場面展開が、憂鬱な気持ちも吹き飛ばしてくれる最高の娯楽作だ。日本人プリンシパルの高田茜が主演するのも話題である。

英国ロイヤル・バレエ芸術監督ケヴィン・オヘアは、就任後の最初の大きな仕事として、しばらく上演が途絶えていた『ドン・キホーテ』の新しいプロダクションを構想。2013年、バレエ団を代表する人気ダンサー、カルロス・アコスタが抜擢され初の全幕作品に取り組み、初演では自ら主演した。舞台上でダンサーたちが賑やかな掛け声をかけ、テーブルや馬車の上でも踊り、スペインの街角の雰囲気を出すために、街の人々もたっぷりと踊りを見せる等、陽気な娯楽性をさらに追求した。また2幕では、ロマンティックなパ・ド・ドゥが加えられたほか、ジプシーの野営地では舞台上にミュージシャンが登場して演奏し、新しい振付も登場してエキゾチックな雰囲気を盛り上げた。舞台装置が出演者によって動かされることでさらに活気ある舞台に仕上がり、3幕のフィナーレもより祝祭性の高いものに。ドラマティックな演技を得意とするロイヤル・バレエのダンサーたちは作品に厚みを加え、一人一人の物語がくっきりと浮かび上がってより魅力的な舞台となった。

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<ロイヤル・バレエ『ドン・キホーテ』タイムテーブル>
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【振付】マリウス・プティパ 【追加振付】カルロス・アコスタ
【音楽】レオン・ミンクス 【指揮】マーティン・イエーツ
【出演】
ドン・キホーテ:クリストファー・サウンダーズ、サンチョ・パンサ:フィリップ・モーズリー、
キトリ:高田茜、バジル:アレクサンダー・キャンベル
エスパーダ:ヴァレンティノ・ズケッティ、メルセデス:マヤラ・マグリ、
キトリの友人:崔由姫、ベアトリス・スティクス=ブルネル
キューピッド:アナ・ローズ・オサリヴァン、ドルシネア:ララ・ターク、
ドリアードの女王:金子扶生
ロレンツォ(キトリの父):ギャリー・エイヴィス、ガマーシュ:トーマス・ホワイトヘッド

2019.04.26

ロイヤル・オペラ『運命の力』現地レポートが到着!~オールスターキャストで実現した「偉大な公演」~

 A・ネトレプコ、J・カウフマンという現在のオペラ界最大のスターに、現代最高のヴェルディ・バリトンと評価されるL・テジエ、イタリアを代表する現代最高のバスのひとりF・フルラネットら望みうる限りのドリームキャストを揃え、そしてヴェルディの解釈には定評のある音楽監督のA・パッパーノが指揮をとったロイヤル・オペラ『運命の力』。

一般発売前にチケットがほぼ完売するという異常事態が起きた今シーズン随一の話題作を、音楽評論家の加藤浩子氏が、日本公開に先駆けて余すところなくレポート!

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オールスターキャストで実現した「偉大な公演」〜《運命の力》公演レポート

ヴェルディの《運命の力》は、タイトルや序曲がよく知られているわりには名演に出会うことが難しいオペラである。力のある歌手が何人も必要なことに加え、物語が複雑に感じられることも一因かもしれない。

だが、メインのストーリーは単純である。大貴族の令嬢レオノーラとインカ帝国の血を引く混血児のドン・アルヴァーロが愛し合い、駆け落ちしようとして失敗。その際にアルヴァーロがレオノーラの父の侯爵を誤って殺してしまったため、侯爵の息子にしてレオノーラの兄であるドン・カルロに追われる身になる。合間に息抜きをかねたユーモラスな情景が挟まれるが、いちばんのテーマは復讐だ。アルヴァーロはカルロに決闘を挑まれて殺してしまい、侯爵家の血が絶える。望まないのに侯爵家を滅ぼしてしまったアルヴァーロ。それこそが「運命の力」というわけだ。

暗い物語のなかの一筋の救いが、アルヴァーロの恋人レオノーラの存在。最後は兄の手にかかって命を落としてしまうが、天使のように清らかな生き方を貫く。ヴェルディの音楽は、劇的な物語を時にダイナミックに時に華麗に表現する。次から次へと現れる、息長く雄大で情熱的な旋律は、本作の最大の魅力だ。「歌えば歌うほど、このオペラが好きになるの。声にとってはとても『歌いやすく(=comfortable)』書かれているんです」(ロイヤルオペラのトレイラー、および公演前のプレイベントにおけるネトレプコの発言)。

ロイヤルオペラでこの3月にプレミエを迎えた《運命の力》は、A・ネトレプコ、J・カウフマンという現在のオペラ界最大のスターに、現代最高のヴェルディ・バリトンと評価されるL・テジエ、イタリアを代表する現代最高のバスのひとりF・フルラネットら望みうる限りのドリームキャストを揃え、しかもヴェルディの解釈には定評のある音楽監督のA・パッパーノが指揮をとるとあって、今シーズン随一の話題公演となった。加えてネトレプコとカウフマンの顔合わせは全10公演のうち5公演だったため、彼らが出る公演のチケットは一般発売前にほぼ完売という異常事態が出現した。

果たして、公演は素晴らしいものだった。「偉大な」と形容してもいいかもしれない。とにかく、すべてが揃っていた。歌手も、指揮も、演出も。

歌手たちはまさに適材適所。主役級がすべて声楽的な面で役柄にあっており、このキャスティングが彼らの人気に負うものではなく演目にふさわしい「旬」のものであることを痛感した。レオノーラは今回が初役というネトレプコは、近年増した声量と、伸びやかでクリーミーな高音を生かし、第2幕の修道院に入る決意を歌うアリア「とうとう着いた、神よ感謝します」や、第4幕冒頭の、心の平和を願う有名なアリア「神よ、平和を与え給え」で客席を魅了。第2幕幕切れの修道院に入るシーンでの合唱に伴われたソロ「天使のなかの聖処女よ」では、光り輝くヴェールのような奇跡的な音楽が出現した。

悲劇の主人公アルヴァーロを歌ったカウフマンは、翳りのある美声に密度が加わり、声量も増してまさに充実の時を迎えた印象。彼の声に聴かれる一種悲壮な音色は、悲劇的な運命に巻き込まれた純粋な青年にぴったりだ。第3幕のアリア「君よ天使の腕に抱かれて」は、心理的な表現を得意とするカウフマンならではの、アルヴァーロの悲しみが心に響く名唱となった。

カルロを演じたテジエは、主役3人のなかではもっともイタリア的な輝かしく開放的な美声を持ち、イタリア・オペラを聴く快楽に浸らせてくれる。第4幕のアルヴァーロとの決闘の二重唱では、「運命の力」や「許し」を暗示する切なくも美しい旋律が2人のパワフルな声に乗って応酬する、白熱のクライマックスが出現した。

僧侶役を担当した2人のイタリア人バス、修道院長のフルラネットとメリトーネ修道士役のコルベッリも、それぞれの個性を生かした名演。フルラネットの荘重さ、コルベッリの飄々とした持ち味が、役柄にぴたりとはまっていた。また冒頭でアルヴァーロに殺されるカラトラーヴァ侯爵には、1940年生まれで半世紀以上のキャリアを誇る大ベテランのロバート・ロイドが扮し、健在ぶりを示した。

しかし音楽面での最高の立役者は、指揮のアントニオ・パッパーノだろう。ネトレプコはプレトークでパッパーノの「音楽への愛、歌手への愛」を強調していたが、そのことを想像させてくれる音楽作りだった。本作の醍醐味である大きなうねりと豊かなスケール感をたっぷりと味あわせてくれつつ、歌手の「歌」も存分に聴かせる。上演時間が長く、本筋と関係のないエピソードが盛り込まれるため、指揮者によってはだれてしまうこともある《運命の力》という作品が、これほど豊饒な音楽に満ちていると教えてくれる指揮はめったにない。そして劇的な瞬間を演出するオーケストラの鮮やかなことといったら!第4幕の大詰めで、レオノーラがドン・カルロの剣に倒れる箇所、兄妹の再会と殺人という究極の瞬間が、ひらめく剣の輝きが見えるように鋭利に聴こえたのは初めてだった。

クリストフ・ロイの演出(オランダ国立歌劇場との共同制作)は、舞台を20世紀前半におきかえ、人間関係をていねいに描いたわかりやすいもの。全編は、戦場という設定の第3幕を除いて同じ部屋のなかで演じられるが、この限られた空間が、登場人物の人間関係の逼塞感〜カラトラーヴァ侯爵一家の家族関係や人種間の軋轢〜に連動しているように感じられた。序曲が演奏されている間、舞台ではレオノーラの少女時代の家族関係がパントマイムで演じられる。幼いころから信心深いレオノーラ、ちょっとぐれているようなドン・カルロ(成人してからの彼はアルコールを手放せない)、そして厳格な父の侯爵。この伏線があると、全体の見通しがぐっとよくなる。

一方、スペクタクルな群衆場面は、舞台後方の扉向こうに設けられた階段も活用しつつ、躍動的に演出されていた。多くの場面を見守る磔刑のキリストの十字架も、作品の宗教性を訴えて効果的だった。伝統的な演出で「歌」のオペラとして演出されることがまだまだ多い《運命の力》だが、このくらい演劇性があったほうが、物語が理解しやすくなる。

旬の歌手と演出家、そして作品を把握した指揮者。すべてに恵まれたロイヤルオペラの《運命の力》は、これぞオペラ!の快感に心ゆくまで浸らせてくれた。ぜひ、一人でも多くの方に見ていただきたい。オペラってすばらしい、と思っていただけることは間違いないから。

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2019.04.03

ロイヤル・オペラ『椿姫』<タイムテーブルのご案内>

ROYAL OPERA

心揺さぶられるオペラの最高傑作―ヴェルディの『椿姫』を、英国ロイヤル・オペラの人気プロダクションで観る!

19世紀半ばのパリ、高級娼婦ヴィオレッタは貴族や富豪たちの寵愛をほしいままにしていた。だが金銭ではなく愛を捧げる青年、アルフレードとの真実の愛にヴィオレッタが目覚めた時、彼女の人生は引き返すことのできない悲劇へと進んでいく…。イタリア・オペラの巨匠ヴェルディが作曲した《椿姫》は、いつの時代も変わらずに私たちの心を揺さぶる。

英国ロイヤル・オペラの『椿姫』は、巨匠リチャード・エアが25年前に演出し、それ以来上演され続けている人気のプロダクション。エアの演出は、気品あるスタイリッシュな美しさで登場人物たちのドラマを際立たせる。ヴィオレッタ役は、歌と演技の両方に最高の技量が求められ、ソプラノ歌手なら誰もが一度は歌いたいと夢見ている役。これまでもゲオルギュー、フレミング、ネトレプコなどのスター歌手たちが英国ロイヤルの舞台を飾ってきた。今回出演するエルモネラ・ヤオは、この役を200回以上も演じているというヴィオレッタ歌い。その稀にみる歌唱テクニックに支えられた迫力の演技は、芝居だとは到底思えない真実味をそなえている。第2幕のヴィオレッタとジェルモンの対話、そして第3幕の死の床にあるヴィオレッタの絶唱は、観客の熱い涙を誘う。恋人アルフレードに情熱的なテノール、チャールズ・カストロノボ、そしてアルフレードの父ジェルモンにはプラシド・ドミンゴと共演者も豪華な顔ぶれ。もっとも感動的な『椿姫』の舞台がここに生まれた。

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<ロイヤル・オペラ『椿姫』タイムテーブル>

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【作曲】ジュゼッペ・ヴェルディ
【演出】リチャード・エア
【指揮】アントネッロ・マナコルダ
【出演】エルモネラ・ヤオ(ヴィオレッタ)、チャールズ・カストロノボ(アルフレード・ジェルモン)、プラシド・ドミンゴ(ジョルジョ・ジェルモン)他

2019.04.02

オペラ『椿姫』を初心者でもわかりやすく解説します

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石川了(クラシック音楽専門TVチャンネル「クラシカ・ジャパン」編成)

<涙なくしては見られない最高のメロドラマ>

【衰え知らずのプラシド・ドミンゴ!】
プラシド・ドミンゴといえば、故ルチアーノ・パヴァロッティ、ホセ・カレーラスと並ぶ「三大テノール」の一人としてお馴染みですよね。そんな彼も、現在78歳。普通に考えて悠々自適の引退生活を送っていてもおかしくない年齢ですが、ドミンゴの舞台への情熱は衰えることなく、何と近年は声域を低くし、バリトンの役柄でまだまだバリバリの現役として歌い続けています。

この英国ロイヤル・オペラ『椿姫』でも、ドミンゴはアルフレードではなく、その父親ジェルモンを歌っています。1980年代にフランコ・ゼッフィレッリ監督の映画『ラ・トラヴィアータ – 椿姫 -』(劇場公開時タイトルは『トラヴィアータ 1985・椿姫』)ではテノールのアルフレードを歌い、今回はバリトンのジェルモンを歌う。その両方が映像で残されているアーティストも皆無ではないでしょうか。

ドミンゴの凄いところは、俳優のような演技力と、どんな舞台でも破綻しない安定した歌唱力。この『椿姫』では何といってもジェルモンの有名なアリア『プロヴァンスの海と陸』が見どころ。声はやはりテノールだと思うのですが、語り口の上手さ、ちょっとした泣きの入るところなど、まさにドミンゴ!白髪で、年齢を重ねた彫りの深い顔つきも、年老いた父親のリアルさが出ていて目が離せません。

【映画監督としても知られる演出家 リチャード・エア】
このリチャード・エア演出版は、1994年ゲオルグ・ショルティの指揮で初演された伝統のプロクダション。初演でヴィオレッタを演じたのがアンジェラ・ゲオルギューで、英国ロイヤル・オペラではルキノ・ヴィスコンティ以来27年ぶりの新演出ということで、当時大きな話題を呼び大成功を収めました。

2019年で25周年というプロダクションの人気の秘密は、『アイリス』『あるスキャンダルの覚え書き』など映画監督としても知られるエアのリアルな人間描写ではないでしょうか。読み替えをしないオーソドックスな展開の中で、例えば第2幕のフローラのパーティーの女性たちが高級娼婦で、ここで踊るロマの女性たちとの(女性同士の)微妙な関係など、なかなか細かいところがリアル。ヴィオレッタの常に持っている孤独、愛するアルフレードとの微妙な距離感などは、映画『アイリス』で描かれたアイリス・マードックと彼女を複雑な想いで介護する夫ジョン・ベイリーとの冷徹な描写にも共通しています。

今回の上映の休憩時に、エアと美術のボブ・クロウリーが、初演時のショルティとの関係や制作エピソードを語っていますが、このプロダクションを理解する手がかりにもなっていますのでお見逃しなく。

【ヴィオレッタ歌い~ダイナミックな歌唱と美貌のエルモネラ・ヤオ】
私自身、2008年1月に、このプロダクション再演の初日を現地で観ています。ヴィオレッタは出産前のアンナ・ネトレプコ、アルフレードはまだそれほど有名ではなかったヨナス・カウフマン、そしてジェルモンには今は亡きディミトリ・ホロストフスキーという夢のようなキャスト。当日券限定66枚を朝から並んでゲットし、あまりの素晴らしさに大号泣した記憶があります。

ゲオルギューから始まり、多くのソプラノが歌い継いできたエア版ヴィオレッタ。今回演じるのは、ダイナミックな歌唱と美貌で現在大人気のアルバニア人ソプラノ、エルモネラ・ヤオ。第1幕から薄幸な娼婦にぴったりの儚い美しさが魅力。第3幕の死に様もドラマティック。近年オペラは映像公開されるので、歌手にも声だけでなく演技・容姿が求められる時代。そういう意味でヤオは、今の時代に求められるものを持って生まれたスターと言えます。

19世紀パリの社交界を舞台に、高級娼婦ヴィオレッタが青年アルフレードと出会い、彼を愛しながら別れを決意、一人寂しく死んでいくという『椿姫』は、『リゴレット』『イル・トロヴァトーレ』と並ぶヴェルディ中期三部作です。この3作に共通するのは、主人公が社会の底辺の人たちであること(『リゴレット』は道化、『イル・トロヴァトーレ』はロマの吟遊詩人)。当時ヴェルディは、父親違いの3児の母でもあったソプラノ歌手ジュゼッピーナ・ストレッポーニと同棲しており、敬虔なカトリック信者が多いイタリアでは冷たい視線を浴びていました。『椿姫』は、このようなヴェルディとジュゼッピーナの境遇が反映されているとも言われています。

オペラを観たことない人に、私が最初にオススメしている作品が、この『椿姫』。音楽が美しいし、ストーリーもわかりやすい。さらにそれほど長くない。言葉がわからなくても、ヴェルディの音楽が描く一人の女性の悲恋が美しく切なく、涙なくしては見られない最高のメロドラマ。それが『椿姫』なのです。

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2019.03.14

ロイヤル・オペラ『スペードの女王』<タイムテーブルのご案内>

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ロシアの小説家プーシキンの短編小説『スペードの女王』をもとに、
チャイコフスキーとその弟がよりドラマティックに作り替えた野心的なオペラ。
貧しい兵士ゲルマンはリーザという美しい女性と恋に落ちる。
しかし、リーザは彼の友人のエレツキー公爵の婚約者だった―。

手に入れたいのは愛か?成功か?
若い士官ゲルマンは、伯爵家の娘リーザに燃えるような恋をしている。だがリーザにはエレツキー公爵という婚約者がいた。ゲルマンは身分違いの恋を成就させるために、賭け事に必ず勝てる3枚のカードの秘密をリーザの祖母、伯爵夫人から聞き出そうとするのだが…。

帝政ロシアのサンクトペテルブルクを舞台に、野心に満ちた青年士官が狂気に取り憑かれ、自分と恋人を破滅へ追い込むまでを描いた名作。プーシキンの小説を原作にチャイコフスキーがオペラ化した。《白鳥の湖》《くるみ割り人形》《眠りの森の美女》などのバレエや、オペラ《エフゲニー・オネーギン》でおなじみの優美な音楽に加え、悪徳をはらんだドラマチックな展開が息をもつかせない。

英国ロイヤル・オペラの《スペードの女王》は、ノルウェー出身の売れっ子演出家ステファン・ヘアハイムが手がけ大評判になったプロダクションの上演である。ヘアハイムは舞台にチャイコフスキーを登場させ、この悲劇を作曲家自身の不幸と重ね合わせて読み解いた。スター歌手たちの出演も魅力だ。ゲルマン役にはアレクサンドルス・アントネンコに代わりセルゲイ・ポリャコフ、そして今回の演出ではチャイコフスキー役も兼ねるエレツキー公爵役に演技派のウラディーミル・ストヤノフ、美貌のリーザにエヴァ=マリア・ウェストブロック、そして老伯爵夫人役にフェシリティ・パーマーが出演する。パッパーノの指揮はチャイコフスキーのドラマを浮き彫りにしてくれるだろう。

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<ロイヤル・オペラ『スペードの女王』タイムテーブル>

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【作曲】ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
【演出】ステファン・ヘアハイム
【指揮】アントニオ・パッパーノ
【出演】セルゲイ・ポリャコフ(ゲルマン)、ウラディーミル・ストヤノフ(エレツキー公爵)
エヴァ=マリア・ウェストブロック(リーザ)、フェシリティ・パーマー(伯爵夫人)

2019.03.13

オペラ『スペードの女王』を初心者でもわかりやすく解説します

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石川了(クラシック音楽専門TVチャンネル「クラシカ・ジャパン」編成)

<なぜ、どうしようもない男(ゲルマン)に惚れてしまうのか?>

【賭博の必勝法】
チャイコフスキーが亡くなる3年前の1890年に発表した『スペードの女王』。チャイコフスキーのオペラといえば、作曲家30代後半の『エフゲニー・オネーギン』(1879年初演)の方が有名かもしれませんが、ちょうど50歳の時のこの作品も、近年ではザルツブルク音楽祭などさまざまな歌劇場や音楽祭で取り上げられる人気作です。

この映像は、ノルウェーの鬼才ステファン・ヘアハイムが演出し、2016年にマリス・ヤンソンス指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団で初演された、オランダ国立歌劇場と英国ロイヤル・オペラハウスの共同プロダクション。ロンドン公演の指揮は、もちろん英国ロイヤル・オペラが誇る音楽監督アントニオ・パッパーノです。

原作は、1834年に発表されたロシアの国民的作家アレクサンドル・プーシキンの中編小説。
貧しいゲルマンは純情な乙女リーザの恋心を利用し、彼女の後見人で「スペードの女王」と呼ばれた老伯爵夫人から賭博に必勝する秘訣を聞き出そうとしますが、誤って殺してしまいます。その後、伯爵夫人が夢枕に立ち、カードの秘密「3、7、エース」をゲルマンに教えると、彼はリーザを捨て、賭博場に向かいます。ゲルマンは「3、7」と賭けて勝ち続けますが、最後の勝負でエースに賭けたはずの手には、なぜかスペードの女王が…。

プーシキンはこの作品で、人間のエゴや野心、当時の新たな資本主義社会を、幻想とリアリズムで描き、後のゴーリキーやドストエフスキーに大きな影響を与えました。
オペラは、エレツキー公爵というリーザの婚約者を創造し、エレツキー公爵はリーザを愛し、彼女はゲルマンを愛するという三角関係を新たに設定。原作ではリーザは別の男性と結婚しますが、オペラでは彼女はゲルマンの本性を知って絶望し自殺します。作曲家の弟モデストによるオペラ台本は、原作の持つ社会性を重視するのではなく、ヒロインのリーザに、より多くのドラマ性を持たせたと言ってもよいでしょう。

【チャイコフスキーの絶頂期】
オペラ『スペードの女王』は、何といってもチャイコフスキー絶頂期の美しくダイナミックな音楽が見どころ。この作品の前後にはバレエの傑作『眠れる森の美女』と『くるみ割り人形』が作曲され、バレエ・ファンにはそれらの面影も見えてくるのではないでしょうか。メランコリックで、時にホラーの要素も醸し出し、18世紀の音楽様式も登場するなど、『スペードの女王』はチャイコフスキーの壮大な実験の場であったと言えるかもしれません。

パッパーノは、切れ味鋭い怒涛のカンタービレで、この陰惨な物語を力強く牽引。オペラの悲劇性と怪奇性を高める、その音楽作りは圧倒的です。幕間の彼のピアノ付き音楽解説では、パッパーノのカンタービレがなぜこんなに素晴らしいのかをご理解いただけると思いますので、絶対にお見逃しなく。

【同性愛に苦しんだチャイコフスキー】
この映像では、チャイコフスキー本人も登場し、一人の歌手がエレツキー公爵とチャイコフスキーの二役を演じます。2016年のオランダ公演同様、ロシアのバリトン歌手ウラディーミル・ストヤノフが、チャイコフスキーの風貌そのままにエレツキー公爵を演じ、冒頭からラストまで出ずっぱりの大熱演。このオペラの一番美しいエレツキー公爵のアリア「私は貴女を愛しています」も必見です。

チャイコフスキーが同性愛者であったことは広く知られていますが、このオペラを作曲しているとき、彼はゲルマン役のテノール歌手に夢中でした。この演出では、その同性愛に苦しみながら『スペードの女王』を作曲するチャイコフスキーの姿が、本来の物語と同時並行で描かれているのもポイント。ステージに置かれた鳥籠のオルゴールからは『魔笛』が流れ、チャイコフスキーのモーツァルトへの敬愛ぶりも暗示。ヘアハイムによる、こだわりのチャイコフスキー像にも注目してみてください。

なぜリーザは、お金も立場もあって人間的にも素晴らしいエレツキー伯爵ではなく、どうしようもないゲルマンに惚れてしまうのか。破滅と知りながら惹かれてしまう人間の性は、どの時代も変わることなく存在するのだなあと、この作品を観て思ってしまいます。
まさにオペラには人生が詰まっている。だからこそ、人はオペラにハマるのかもしれませんね。

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2019.01.31

TOHOシネマズ 日本橋、営業中止のお知らせ

TOHOシネマズ 日本橋、営業中止のお知らせ

TOHOシネマズ日本橋は、設備点検のため、1月26日(土)18:00以降より営業を中止させていただいております。
営業再開の見込みに関しましては、分かり次第TOHOシネマズ日本橋の劇場ホームページにて、お知らせいたします。

▶TOHOシネマズ日本橋の劇場ホームページ

2019.01.29

ロイヤル・バレエ『くるみ割り人形』<タイムテーブルのご案内>

くるみ割り人形

 

世界中で愛される冬の風物詩。
チャイコフスキーの美しい旋律に乗せて、クリスマスの魔法と少女クララの成長が描かれる。
お菓子の国での金平糖の精の甘くキラキラした踊りは女の子なら誰もが憧れる夢の世界。
新しい主要キャストたちで贈る話題のバレエ。

 

冬の風物詩として大人から子供まで世界中で大人気の『くるみ割り人形』。チャイコフスキーの美しいメロディに乗せて、夢と魔法がいっぱいつまったこの作品。クラシック・バレエの粋である華やかなパ・ド・ドゥやキラキラした群舞に加え、真夜中に大きくなるクリスマス・ツリー、ねずみの王様との戦い、超絶技巧のキャラクターダンスとバレエの楽しさが揃っている。1984年初演のピーター・ライト版は、数ある『くるみ割り人形』の決定版ともいえる名作で、ホフマンの原作の要素を加えてドロッセルマイヤーの甥ハンス・ピーターが登場。クララとともに大活躍する。ロイヤル・バレエきっての人気作品で現地ではチケット争奪戦が繰り広げられている。

ロイヤル・オペラハウス・シネマシーズンではおなじみの『くるみ割り人形』だが今回は出演者を一新。クララには愛らしい新星アナ・ローズ・オサリヴァン、ハンス・ピーターにはゴムまりのような跳躍力とテクニックを誇る若手マルセリーノ・サンベ。光り輝く金平糖の精と王子を、ロイヤル・バレエを代表する世界的スター、マリアネラ・ヌニェスとワディム・ムンタギロフが演じる。これぞクラシック・バレエというふたりの気品と音楽性、クリスタルのように研ぎ澄まされた美しさには思わず涙がこぼれることだろう。ロックスターのような存在感とスタイリッシュさのドロッセルマイヤーは、この役を当たり役としているギャリー・エイヴィスが颯爽と演じる。花のワルツでソロを踊る薔薇の精には美貌とエレガンスを誇る名花、金子扶生。クリスマスは終わっても、クリスマスの浮き浮きする気持ちをよみがえらせてくれる、素敵なバレエの魔法を体験してほしい。

なお、今回の「くるみ割り人形」で主演するマリアネラ・ヌニェスは、ロイヤル・バレエに入団して昨年で20周年を記念した。名実ともにロイヤル・バレエを代表する人気スターとなった彼女の芸術性を称えて製作された、スペシャル・ショート・フィルム「NELA」が本邦初公開で「くるみ割り人形」の幕間に上映される。ヌニェスの鍛え抜かれた肉体が、ニーナ・シモンの歌声に乗せて躍動する美しい映像も併せてお楽しみいただけるのでお見逃しなく。

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<ロイヤル・バレエ『くるみ割り人形』タイムテーブル>

くるみ割り人形_タイムテーブル

【振付】ピーター・ライト 【音楽】ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
【指揮】バリー・ワーズワース
【出演】ドロッセルマイヤー:ギャリー・エイヴィス クララ:アナ・ローズ・オサリヴァン
ハンス・ピーター(ドロッセルマイヤーの甥)/くるみ割り人形:マルセリーノ・サンベ
金平糖の精:マリアネラ・ヌニェス、王子:ワディム・ムンタギロフ
薔薇の精:金子扶生 他

2019.01.16

ロイヤル・バレエ『ラ・バヤデール』<タイムテーブルのご案内>

La Bayadère

シネマシーズン バレエ第二弾は、エキゾチックな古典バレエ作品『ラ・バヤデール』

古代インドを舞台に、一人の戦士をめぐって舞姫と藩主の娘が火花を散らし、陰謀、裏切り、毒殺、横恋慕と濃厚な恋愛ドラマが展開する。婚約式で繰り広げられる華麗な踊りの数々には酔わされ、影の王国で白いチュチュの群舞が一糸乱れぬ動きを見せる静謐で幽玄な世界にはクラシック・バレエの美の極致がある。戦士ソロルのダイナミックな踊りは男性バレエダンサーにとって高難度で、超絶技巧の限りを尽くしたもの。ソ連から亡命後国際的に活躍した偉大なバレリーナ、ナタリア・マカロワによる演出は、よりドラマ性を重視しており、『ラ・バヤデール』の決定版と言われている。

ニキヤ役のマリアネラ・ヌニェス、ガムザッティ役のナタリア・オシポワは、世界のバレエ界でもトップの人気と実力を誇るスターで、この2大バレリーナが共演して対決する贅沢な趣向。ソロル役のワディム・ムンタギロフも、世界最高レベルのクラシック・テクニックを誇る貴公子。やはり高度な技術が要求されるブロンズ・アイドル(黄金の仏像)役には、プリンシパルのアレクサンダー・キャンベルが配役。さらに影の王国のヴァリエーション(ソロ)にプリンシパルの高田茜、ヤスミン・ナグディ、日本出身の崔由姫という、映画館中継ならではの配役。冒頭で派手な跳躍を見せる苦行僧マグダヴェーヤにアクリ瑠嘉、婚約式で華やかな踊りを披露するパ・ダクシオンに金子扶生が出演するなど、日本人ダンサーも活躍。ロイヤル・バレエの総力を結集し、滅多にない豪華キャストで贈る華麗なクラシック・バレエの饗宴となった。

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<ロイヤル・バレエ『ラ・バヤデール』タイムテーブル

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【振付】マリウス・プティパ 【追加振付】ナタリア・マカロワ
【音楽】レオン・ミンクス 【指揮】ボリス・グルージン
【出演】マリアネラ・ヌニェス(ニキヤ) ワディム・ムンタギロフ(ソロル)ナタリア・オシポワ(ガムザッティ)ギャリー・エイヴィス(ハイ・ブラーミン 大僧正)トーマス・ホワイトヘッド(ラジャ 国王)他

2019.01.07

ロイヤル・オペラ『ワルキューレ』 <タイムテーブルのご案内>

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兄妹の禁断の愛、夫婦の断絶、父と娘の葛藤、そして英雄誕生の兆し。あらゆる人間ドラマが有り、飽きさせない。数あるオペラの中でも圧倒的な傑作「ワルキューレ」がオペラ・シーズンの開幕を告げる!

ワーグナーが生涯を賭けて生みだした4部作〈ニーベルングの指環〉の中で、ダントツの人気を誇るのが2作目の「ワルキューレ」。神々の世界から人間界の物語への転換となる事件が、息詰まる衝撃的なタッチで描かれる。その音楽は、第1幕では禁じられた愛の陶酔、第2幕では激しい衝突、そして第3幕では、映画「地獄の黙示録」にも使われた有名な“ワルキューレの騎行”が、巨匠パッパーノのタクトでエキサイティングに鳴り響く。だがそれは父と娘が永遠の別れを告げる感動のエンディングへの序奏にすぎない。

神々の長ヴォータン役にはバイロイト音楽祭でも常連のジョン・ランドグレン、2年前にMET開幕公演でワーグナー「トリスタンとイゾルデ」に主演したニーナ・シュテンメとスチュアート・スケルトンがブリュンヒルデとジークムントに扮する。他にもジークリンデはエミリー・マギー、フンディングはエイン・アンガー、そしてフリッカはサラ・コノリーとスター歌手たちが揃い迫力たっぷりの歌唱を聴かせている。英国の演劇人キース・ウォーナーの演出は2005年にロイヤル・オペラで初演された定評あるもの。格調高くスペクタクルな舞台が物語を際立たせている。

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<ロイヤル・オペラ『ワルキューレ』タイムテーブル

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【作曲】 リヒャルト・ワーグナー【演出】 キース・ウォーナー
【指揮】 アントニオ・パッパーノ
【出演】スチュアート・スケルトン(ジークムント)、エミリー・マギー(ジークリンデ)、
ジョン・ランドグレン(ヴォータン)ニーナ・シュテンメ(ブリュンヒルデ)

2018.12.26

オペラ『ワルキューレ』を初心者でもわかりやすく解説します

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            石川了(クラシック音楽専門TVチャンネル「クラシカ・ジャパン」編成

「ワルキューレの騎行」と言えば 何を連想?
フランシス・フォード・コッポラ監督の映画『地獄の黙示録』といえば、ヘリに搭載されたスピーカーから流れる「ワルキューレの騎行」をBGMに、ベトナムの村落が次々と爆撃されるシーンを思い起こす方も多いのではないでしょうか。

コンサートでも単独で演奏されることが多い「ワルキューレの騎行」は、元々は19世紀ドイツの作曲家、リヒャルト・ワーグナーの楽劇『ワルキューレ』第3幕冒頭の楽曲。そして『ワルキューレ』は楽劇四部作『ニーベルングの指環』の第2番目の作品なのです。

『ニーベルングの指環』は、世界を支配できるパワーを持った黄金の指環を巡り、神族と人間、地底のニーベルング族による愛と欲と裏切りが交錯する大河ドラマ。全四作通すと上演時間は何と15時間という超大作です。

序夜『ラインの黄金』では、ライン河の黄金で作られた指環に呪いがかけられ、権力欲に囚われる神々の世界を翻弄します。第1夜『ワルキューレ』では、神々の長ヴォータンが人間女性との間にもうけた双子の兄妹の愛と、ワルキューレ(ヴォータンの娘たちで、英雄を天空に導く女戦士)の一人ブリュンヒルデが神々の世界を追放されるまでを綴ります。第2夜『ジークフリート』では、兄妹の息子ジークフリートが黄金の指環と人間となったブリュンヒルデを獲得。第3夜『神々の黄昏』では、ジークフリートの死と神々の世界の崩壊、そして指環がライン河に還るまでを描きます。

兄妹の禁断の愛は『スター・ウォーズ』のルークとレイア姫のようですし、指環の呪いは『ロード・オブ・ザ・リング』、権力に囚われた者の策謀とその中に咲く愛の物語は、まさに『ゲーム・オブ・スローンズ』の世界。ストーリーだけでも映画的な展開だと思いませんか。

『スター・ウォーズ』&「ロード・オブ・ザ・リング」&「ゲーム・オブ・スローンズ」&『ゴッドファーザー』 !!!
特に、『ワルキューレ』は、話の展開も早くてわかりやすく、ワーグナー作品の中でも一番の人気タイトル。第1幕は、ジークムントとジークリンデの愛の物語で、しばしばコンサート形式でも上演される有名な場面です。しかし、筆者がオススメなのは、第2幕以降。

神々の長ヴォータンが正妻のフリッカに自らの不貞を非難され、不義の息子ジークムントの殺害を約束する場面で始まり、その要因を最愛の娘ブリュンヒルデに愚痴る父親。死を告げにジークムントに会いに行ったブリュンヒルデは人間の愛の深さに気づき、父の命令に背いて兄妹を助けることを決意。しかし、ジークムントは殺され、ブリュンヒルデはジークムントの子を身篭ったジークリンデを救出し「生きよ!」と諭します。ヴォータンは命令に背いたブリュンヒルデに永遠の別れを告げ、彼女の神性を剥奪し、長い眠りについた娘を炎に包みます。彼女を目覚めさせることができるのは、炎を越えられる恐れを知らない英雄のみ。その場面に、まだ登場していない次作からの主人公ジークフリートのテーマが流れるのです。

今、自分で原稿を書いていて涙が出そうになるくらい、『ワルキューレ』は、男女の純愛や夫と妻の葛藤、父と息子の親愛、父と娘の情愛といった人間ドラマが物語の核となっていて、ある意味、マフィアの権力争いとファミリードラマが同時並行で描かれたコッポラ監督の映画『ゴッドファーザー』のような味わいもできるのです。

アントニオ・パッパ―ノの気合い!
英国ロイヤル・オペラ・ハウスの新たなシネマシーズンのオペラ開幕を飾る『ワルキューレ』は、同劇場では3度目のリバイバルとなる2005年キース・ウォーナー演出のプロダクション。新国立劇場の同じ演出家による「東京リング」(2001~2004)とは全く異なる世界であり、今回が最後の再演とも言われているので、「東京リング」をご覧になった方は比較の意味でも注目です。

同劇場音楽監督アントニオ・パッパーノの気合の入った音楽作りも圧巻。ワーグナーの特徴のひとつ、ライトモティーフ(特定の人物や状況と結びつけられる短い主題や動機)は、あるときは人物の行動や感情、状況の変化を象徴的に示唆し、あるときは物語の先を予告したりしますが、そのライトモティーフのひとつひとつに情感を込めながら音楽的統一を図り、オーケストラ全体で物語をグイグイ引っ張っていくパッパーノの手腕に、思わず時間が経つのを忘れてしまいます。

歌手では、やはりブリュンヒルデ演じるニーナ・シュテンメの力強い歌声は見どころ。ヴォータン役のジョン・ランドグレンの鬼気迫る演技やジークムント役のテノール、スチュワート・スケルトンの柔らかな美声、わずかな出番ながら圧倒的な存在感を放つメゾ・ソプラノ、サラ・コノリーのフリッカも必見です。

休憩時に、『ラインの黄金』から『ワルキューレ』の間に起こった出来事をウォーナー自身が解説するので、こちらもお見逃しなく。

ワーグナーの世界へ!
ワーグナーは上演時間も長く、よほどの音楽ファンじゃないと取っつきづらいのは確かですが、『ワルキューレ』はワーグナー入門として最適の作品だと思います。

筆者自身のワーグナー鑑賞のコツは、とにかく映画的に楽しむこと。実際、ワーグナーは自分で台本も書いているし、彼が現代に生きていたら、きっとコッポラやベルトリッチのような映画を撮っていたかもしれませんね。

だから、スクリーンで楽しめるこの機会に、皆さんも勇気を出して、ワーグナーの世界に一歩踏み出してみてほしい。一旦ハマるとなかなか抜けられませんが。

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2018.12.06

『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2018/19』ロイヤル・バレエ『うたかたの恋』解説

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英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2017/18の開幕を飾るのは、ハプスブルグ家をめぐる陰謀と愛欲に彩られたドラマティック・バレエの傑作『うたかたの恋』。

1889年、オーストリア=ハンガリー帝国の皇太子ルドルフが、17歳の愛人マリー・ヴェッツェラと心中したマイヤーリンク事件。ハプスブルグ家を揺るがし、1918年に帝国が崩壊する予兆となった。この事件は『うたかたの恋』という題名で2度映画化され、また『マイヤーリング』の題名でオードリー・ヘップバーン主演でもテレビ映画化されている。さらにミュージカルとして宝塚歌劇団で上演されるなど広く知られている。

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英国バレエを代表する巨匠ケネス・マクミランは、1978年にこの実話をバレエ化した。両親に愛されず、政略結婚を強いられ、宮廷内の策略など政治的にも翻弄されてきた皇太子ルドルフは次から次へと愛人を作り、苦悩し病んでいく。バレエ作品には珍しく男性が主人公であり、6人もの女性ダンサーとパ・ド・ドゥ(デュエット)を踊り、高い演技力を要求されるルドルフ役。男性ダンサーならいつかは演じてみたいと熱望する難役である。パ・ド・ドゥの名手であり、人間の暗部を描くのに長けたマクミランの手腕が発揮され、19世紀末の帝国の宮廷の人間模様が、ドラマティックにそして官能的に、陰影に富んで描かれる。『うたかたの恋』は、『ロミオとジュリエット』、『マノン』と並んで彼の最高傑作のひとつであり、2010年のロイヤル・バレエ来日公演でも上演されている。ロイヤル・バレエならではの演劇性がたっぷり味わえる重厚な人間ドラマだ。

1992年、この作品の再演初日を上演中のロイヤル・オペラ・ハウスの楽屋で、マクミランは心臓発作を起こして急逝した。この公演には、本シネマシーズンの司会を務めるダーシー・バッセルもミッツィ・カスパー役で出演していた。

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大きな怪我を克服したスティーヴン・マックレーの舞台復帰は、この『うたかたの恋』のルドルフ役。超絶技巧ぶりと明るいキャラクターで知られるマックレーが、愛欲と麻薬に溺れ苦悶する皇太子という難しい役に並々ならぬ意欲で挑んだ。死によってのみ成就する永遠の愛に憧れ、ルドルフを大胆に挑発する少女マリー・ヴェッツェラには、演技力とテクニックを併せ持ったサラ・ラム。前回の上演ではラリッシュ伯爵夫人役を演じていた彼女が、ファム・ファタルぶりを発揮し、死に魅せられてルドルフと絡みつき、すべてを焼き尽くすような鮮烈なデュエットを見せる。ルドルフを立ち直らせようと腐心する元愛人ラリッシュ伯爵夫人には演技派ラウラ・モレーラ、ダーシー・バッセルも演じていた高級娼婦ミッツィ・カスパー役は、伸び盛りの若手マヤラ・マグリが魅惑的なダンスで印象を残す。ハンガリー独立運動に加担することをそそのかす4人の高官には、マルセリーノ・サンベ、リース・クラーク、カルヴィン・リチャードソン、トーマス・モックと若手ホープの男性ダンサーたちを起用。

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音楽はハンガリーと切っても切り離せないフランツ・リストを使用し、ジョン・ランチベリーが編曲。酒場のシーンにはメフィスト・ワルツ、それぞれのパ・ド・ドゥには超絶技巧練習曲から選曲して使用。フランツ・ヨーゼフの誕生日の宴では、彼の愛人であるカタリーナ・シュラットが歌手によって演じられ独唱し(「Ich scheide(我は別れゆく)」)、帝国の黄昏を象徴させている。美術は、マクミラン作品の数々を手掛けたニコラス・ジョージアディスで、オーストリア=ハンガリー帝国の宮廷を再現する重厚で華麗な舞台装置や衣装には目を瞠る。

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2018.12.06

2018.11.22

ロイヤル・バレエ『うたかたの恋』 <タイムテーブルのご案内>

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シネマシーズンの開幕を飾るのは、ハプスブルグ家をめぐる陰謀と愛欲に彩られたドラマティック・バレエの傑作『うたかたの恋』。

1889年、オーストリア=ハンガリー帝国の皇太子ルドルフが、17歳の愛人マリー・ヴェッツェラと心中したマイヤーリンク事件。英国バレエを代表する巨匠ケネス・マクミランは、映画化で有名なこの実話をバレエ化した。母エリザベート皇后に愛されず、政略結婚を強いられ、宮廷内の策略にも翻弄されてきた皇太子ルドルフは次から次へと愛人を作り、苦悩し病んでいく。バレエ作品には珍しく男性が主人公であり、演技力を要求されるルドルフ役は、男性ダンサーならいつかは演じてみたい難役。人間の暗部を描くのに長けたマクミランの手腕が発揮され、19世紀末の帝国の宮廷の人間模様がドラマティックにそして官能的に、陰影に富んで描かれる。

超絶技巧で知られる人気者スティーヴン・マックレーが、怪我を克服し、愛欲と麻薬に溺れ苦悶する皇太子という役に並々ならぬ意欲で挑んだ。死によってのみ成就する永遠の愛に憧れ、ルドルフを大胆に挑発する少女マリー・ヴェッツェラには、演技力とテクニックを併せ持ったサラ・ラム。二人はすべてを焼き尽くすような鮮烈なデュエットを見せる。ルドルフを立ち直らせようと腐心する元愛人ラリッシュ伯爵夫人には演技派ラウラ・モレーラ。ロイヤル・バレエならではの演劇性がたっぷり味わえる重厚な人間ドラマとなっている。

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<ロイヤル・バレエ『うたかたの恋』タイムテーブル

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【振付】ケネス・マクミラン 【音楽】フランツ・リスト 【指揮】クン・ケセルス
【出演】スティーヴン・マックレー(皇太子ルドルフ)、サラ・ラム(マリー・ヴェッツェラ男爵令嬢)、ラウラ・モレーラ(ラリッシュ伯爵夫人:ルドルフの元愛人)、クリステン・マクナリー(エリザベート皇后:ルドルフの母)、ミーガン・グレース・ヒンギス(ステファニー王女:ルドルフの妻)、ギャリー・エイヴィス(皇帝フランツ・ヨーゼフ:ルドルフの父)、マヤラ・マグリ(ミッツイ・カスパー:ルドルフ馴染みの高級娼婦)ジェームズ・ヘイ(ブラットフィッシュ:ルドルフ付き御者、芸人) 他

2018.10.31

「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2018/19」 日本版予告映像とポスタービジュアルが到着!さらに全11演目の公開日も決定!

「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2018/19」いよいよ開幕!
日本版予告映像とポスタービジュアルが到着&全11演目の公開日が決定致しました!

『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン』は、ロンドンのコヴェント・ガーデン、ロイヤル・オペラ・ハウスで上演されたロイヤル・バレエ団、ロイヤル・オペラによる世界最高峰のバレエとオペラを、映画館で鑑賞できる人気シーズン!ロイヤル・バレエ『ロミオとジュリエット』、ロイヤル・オペラ『椿姫』といった人気作品11演目を含む本シーズンのラインナップが発表され、王道の名作から近年のチャレンジングな作品まで、世界最高峰のクオリティで演じられるプロフェッショナルな公演を日本でも楽しめるということで、話題を呼んでいます。またロイヤル・バレエ団には、主役ダンサー・プリンシパルとして、日本人ダンサーの高田茜さん、平野亮一さんが在籍し現役で活躍中。その姿を日本で観られることでも大きな注目を集めています!

この度、到着した日本版予告編は、カウントダウンとともに幕が上がる臨場感溢れるシーンからスタート。さらに、各演目のワンシーンに加え、製作スタッフの作品に懸ける思いや、出演者らのリハーサルの様子も収録されており、世界最高レベルといわれるクオリティに早くも期待高まる映像となっております。昨シーズンに引き続き、本シーズンでも全ての上映作品には、人気の高いナビゲーターによる舞台裏でのインタビューや特別映像が追加されており、シネマシーズンならではのスペシャルな映像が、映画館の大スクリーンと迫力ある音響でお楽しみ頂けます!また、併せて到着した日本版ポスターには、ロイヤル・オペラ『椿姫』、ロイヤル・バレエ『ロミオとジュリエット』のカットと共に「スクリーンに、喝采を。カーテンコールに、心からの拍手を。」というコピーが添えられており、情熱的なオペラと幻想的なバレエの世界観が1枚に凝縮されたビジュアルに仕上がっています。

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さらに、今シーズンの日本公開を記念して、英国ロイヤル・オペラ・ハウスの音楽監督・指揮者のアントニオ・パッパーノと、芸術監督のケヴィン・オヘアから日本のファンに向けたコメントが到着!「今シーズンは「ワルキューレ」や「運命の力」などの大作を含む、素晴らしいオペラのプロダクションをお届けすることに興奮しています。実力のある歌手たちの迫力ある歌声と我々ロイヤル・オペラ・ハウスのオーケストラの美しい音楽のつまったパフォーマンスをお楽しみください。(アントニオ・パッパーノ)」「ロイヤル・バレエは、有名なクラシックからコンテンポラリーまで、素晴らしい踊りと感情豊かなパフォーマンスをお届けできることを嬉しく思います。日本の皆様の温かな応援にいつも感謝し、我々のバレエを皆さんと共有できることを楽しみにしています。(ケヴィン・オヘア)」と自信をのぞかせています。

12月7日(金)よりいよいよ開幕する『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2018/19』が贈る感動と至福の時間を、是非映画館でご体験ください!


【2018/19』全11演目公開日】
~2018年~
●ロイヤル・バレエ『うたかたの恋』12月7日(金)

~2019年~
●ロイヤル・オペラ『ワルキューレ』1月11日(金)
●ロイヤル・バレエ『ラ・バヤデール』1月18日(金)
●ロイヤル・バレエ『くるみ割り人形』2月1日(金)
●ロイヤル・オペラ『スペードの女王』3月15日(金)
●ロイヤル・オペラ『椿姫』4月5日(金)
●ロイヤル・バレエ『ドン・キホーテ』5月17日(金)
●ロイヤル・オペラ『運命の力』5月24日(金)
●ロイヤル・オペラ『ファウスト』6月14日(金)
●ロイヤル・バレエ『ウィズイン・ザ・ゴールデン・アワー/シディ・ラルビ・シェルカウイ 新作 / フライト・パターン』6月28日(金)
●ロイヤル・バレエ『ロミオとジュリエット』8月23日(金)


【上映劇場】
*TOHOシネマズ 日比谷
*TOHOシネマズ 日本橋
*イオンシネマ シアタス調布
*TOHOシネマズ ららぽーと横浜
*TOHOシネマズ 流山おおたかの森
*TOHOシネマズ 名古屋ベイシティ
*イオンシネマ 京都桂川
*大阪ステーションシティシネマ
*TOHOシネマズ 西宮OS
*ディノスシネマズ札幌劇場
*フォーラム仙台
*中州大洋映画劇場