2018.06.15

2018.06.13

2018.05.31

2018.05.31

2018.05.31

オペラ『マクベス』を初心者でもわかりやすく解説します

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圧巻のマクベス夫人 アンナ・ネトレプコ!ーきっと楽しいオペラ体験
            石川了(クラシック音楽専門TVチャンネル「クラシカ・ジャパン」編成

オペラ「マクベス」の成功のカギはマクベス夫人にあり!
 筆者がアンナ・ネトレプコを初めて生で観たのが、2008年1月にロンドンのコヴェントガーデンで上演されたヴェルディの歌劇『椿姫』でした。演出はリチャード・エア、共演はジェルモンに故ディミトリー・ホロストフスキー、アルフレードには当時注目されつつあったヨナス・カウフマン!早朝から並んで当日券をゲットした私たち家族にとって、オペラでこんなに号泣するのは初めてというくらい、最初から最後まで、ネトレプコのヴィオレッタに涙ボロボロ。お子さんが生まれる直前の彼女は本当に美しく、カウフマンもホロストフスキーもあまり覚えていないほど、ネトレプコは圧巻でした。

 『椿姫』がヒロインのヴィオレッタの歌手に成功の比重がかかるように、ヴェルディの歌劇『マクベス』は、ある意味、タイトルロール以上に、マクベス夫人役の歌手にかかっていると言っても過言ではありません。

 今回は、何といってもマクベス夫人を歌うネトレプコに尽きます。妻の野心と女王の威厳、人間の邪悪と狂気を、まるで万華鏡のように、それも一瞬の表情の変化で魅せるネトレプコの演技。第1幕の登場のアリア「さあ、急いでいらっしゃい」や第2幕の「光は萎えて」と祝宴の「乾杯の歌」、第4幕の「夢遊の場」など、ある時は力強く、ある時は繊細に、豊かな声量と弾力のある声で歌われるアリアの安定感。もはや10年前の可憐な姿はなく、女王のような貫禄に満ちた彼女のマクベス夫人に誰もが圧倒されるはず。

 マクベス役はセルビアのバリトン歌手ジェイコ・ルチッチ。ネトレプコの夫のテノール、ユシフ・エイヴァゾフがマクダフ役で英国ロイヤル・オペラデビューを飾っています。

超絶技巧のアリアを配したヴェルディ
 野心に駆られたマクベス夫妻が国王を暗殺して王位に就くが、夫人は良心の呵責で錯乱し絶命、マクベスは貴族や王子らの復讐に倒れるという『マクベス』はシェイクスピアに傾倒していたヴェルディが初めてシェイクスピア戯曲をオペラ化した作品です。

 彼は、このオペラで、登場人物の心理に深く踏み込んだ朗唱的モノローグを試みるといった、人物の性格や感情をそのまま音楽で表現する「音楽とドラマの一致」を目指しました。特に、マクベス夫人に対してのヴェルディの思い入れは強く、彼はこの役に悪声を要求し、高音から低音までの広い音域を強い声で歌う超絶技巧のアリアを配したのです。

 1847年3月フィレンツェでの初演は成功を収めますが、評価は賛否両論。ヴェルディは1865年パリのリリック座での上演のために大幅に改訂を行いました。今回の本篇映像では、このパリ改訂版(歌唱はイタリア語)の音楽と共に、改訂版ではカットされた初演版のラストのモノローグ「マクベスの死」もお楽しみいただけます。

 この上演は、女流演出家で「マンマ・ミーア!」などの映画監督としても知られるフィリダ・ロイドによる2002年初演プロダクションの3回目の再演。ロイド演出版の最大の特徴は、ユニークな魔女たちの存在。赤いターバンを被り、眉毛が繋がった独特のメイキャップの魔女たちは、マクベスに予言をし、マクベスが認めた手紙をマクベス夫人に手渡し、王冠をマクベスに授け、マクベスが仕向けた暗殺者の手からバンクォーの息子を守るなど、さまざまな場面に登場し、マクベスの運命を翻弄していきます。

 幕間の解説では、英国ロイヤル・オペラの音楽監督で『マクベス』を指揮するイタリア人、アントニオ・パッパーノによるピアノを弾きながらの解説が熱い!

「マクベス」の都市伝説?!
 最後に、『マクベス』にまつわる都市伝説をご存知ですか?それは、『マクベス』に出ている役者たちが台詞以外で「マクベス」と言うと不幸に見舞われるというもの。もし喋ってしまったら、劇場の外で時計回りに3回まわって悪態をつき、誰かに言われるまで劇場に入ってはいけないというおまじないによって、呪いを解くことができるのだそうです。

 こんな話があるくらい、マクベスという人物には不吉な影があるのかもしれません。でも、実在のスコットランド王マクベス(在位1040~1057)は、武勇の誉れ高く、信仰心も厚く、王位17年間で立派な業績を残した“賢王”として名を残しているそうですよ。シェイクスピアも罪な人ですね。

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2018.04.27

オペラ『カルメン』を初心者でもわかりやすく解説します

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ちょっと病みつきになりそうな『カルメン』ーきっと楽しいオペラ体験
            石川了(クラシック音楽専門TVチャンネル「クラシカ・ジャパン」編成

あまりにふしだらで、あまりに野蛮な物語
 普仏戦争の敗北と第三共和制、パリ・コミューンの成立と崩壊など、不安定な情勢が続くパリ。1875年3月3日、由緒あるオペラ・コミック座で初演されたのは、ロマの女性に翻弄される脱走兵の嫉妬と殺人のドラマ。そのあまりにふしだらで、あまりに野蛮な物語に、良家の子女で埋め尽くされた観客の反応は、熱狂的な拍手ではなく氷のような冷たい沈黙。現代ではオペラ人気ベスト3に数えられる『カルメン』も、その初演は散々な結果で終わりました。

 1838年フランスに生まれたジョルジュ・ビゼーは、幼少時から神童ぶりを発揮し、36年という短い生涯に取り組んだ劇作品は20曲以上とも言われます。しかし、完成したのは歌劇『カルメン』『真珠採り』『美しきパースの娘』や劇付随音楽『アルルの女』など6曲のみで、彼の自作に対する厳しい批判精神が伺えます。実際、1873年にオペラ・コミック座から作曲を依頼され、彼が題材に選んだ『カルメン』の作曲は、歌手たちの反発や劇場の野蛮な物語に対する不平不満で難航し、作曲家自身が何度も書き換えては楽曲を取捨選択するなど、相当の紆余曲折を経て完成します。

 オペラ・コミック(歌と歌を台詞で繋ぐ音楽劇)で初演された『カルメン』は、ビゼーの死後、友人の作曲家エルネスト・ギローが台詞をレチタティーヴォ(旋律付き台詞)に改訂したグランド・オペラ版がウィーンで大ヒット。それはブラームスやワーグナーをも魅了し、後年には一般市民のリアルな実像を描いたイタリアのヴェリズモ(真実主義)・オペラのきっかけにもなって、まさに『カルメン』はビゼーの代表作としてのみならず、フランス・オペラの代表作として決定的な評価を勝ち得ることになったのです。

ここまで音楽が異なる上演は初めて!
 英国ロイヤル・オペラの新制作『カルメン』では、これまで上演されてきた数々の改訂や削除、改ざんを元に戻し、1875年初演以前の、ビゼーが最初に完成させたという1874年初稿版を復活させました。第1幕では通常にない伍長モラレスのアリアが登場。「ハバネラ」は途中から全く別の曲になってしまいます。ラストも通常の幕切れの音楽とは別物。筆者自身、実演とクラシカ・ジャパンで多くの『カルメン』を観てきましたが、ここまで音楽が異なる上演は初めて!

 オペラの世界では百戦錬磨の若き指揮者ヤクブ・フルシャも、最初は相当戸惑ったのでないでしょうか。フルシャは1981年チェコ生まれ。日本では東京都交響楽団首席客演指揮者として活躍し、今年6月には自ら首席指揮者を務めるバンベルク交響楽団と来日します。

バリー・コスキー演出のポイント
 演出は、ベルリン・コーミッシェオーパー芸術監督のバリー・コスキー。4月の同歌劇場来日公演『魔笛』では、アニメーションを駆使した幻想的舞台が話題を呼んだ人気演出家です。

 この『カルメン』では、本来の芝居部分の台詞を、プロスペル・メリメの原作とアンリ・メイヤック&リュドヴィク・アレヴィのオペラ台本を基に、コスキー自身が脚色したフランス語のナレーションに再構成。原作にあってオペラには描かれていない、物語の背景や裏事情をナレーションで解説しています。

 コスキー演出のもう一つのポイントは、ステージ上には大階段しかない舞台装置。煌びやかなセットは皆無、スペインらしさもカルメンらしさも皆無。大階段が支配するモノトーンの世界で、出演者はキャバレーやレビューショーのように歌って踊るのです。カルメン役のアンナ・ゴリャチョーヴァは、フラスキータやメルセデスと踊る「ロマの踊り」や盗賊の五重唱での見事な振付で、舞踊でも見応え十分。エスカミーリョ役のコスタス・スモリギナスは「闘牛士の歌」でユニークな振付を披露。必見はハンガリーのバリトン、ギュラ・ナジがシルクハットとステッキ片手に歌い踊るモラレスのアリア。コスキーは、1874年初稿版を演出する上で、スペイン風の装飾や雰囲気を排除した、無機質な階段でのレビュースタイルを取ることによって、ビゼーの当初の意図と、最初に完成させた音楽の魅力を浮かび上がらせようとしているのかもしれません。

 1930年代ハリウッド・ミュージカルやボブ・フォシーの『オール・ザット・ジャズ』などの影も感じられて、筆者にはちょっと病みつきになりそうな『カルメン』。オーソドックスではありませんが、映画やミュージカル好きにはきっと楽しいオペラ体験になるはずです。

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2018.04.27

2018.04.06

2018.04.02

オペラ『トスカ』を初心者でもわかりやすく解説します

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甘美な音楽を背景に、嫉妬や恐喝、拷問、殺人が展開!の『トスカ』
            石川了(クラシック音楽専門TVチャンネル「クラシカ・ジャパン」編成

「#MeToo」問題と絡み合う『トスカ』
 「#MeToo」を合言葉に性暴力やセクハラを告発する動きは、ハリウッドのみならず、クラシック音楽界でも著名な指揮者が告発されるなど、世界的に大きな波紋を広げています。いつの時代でも被害が生まれる土壌になっているのは、男性中心の上下関係が強い社会。オペラにおいても男性権力者の職権乱用がさまざまな形で題材になっていますが、その中でも強烈な悪役とヒロインで印象的なのが『トスカ』ではないでしょうか。

 今回の上映の中で、ナビゲーターのクレメンシー・バートン=ヒルは、「このオペラは暴力や圧政を描いたタイムリーな作品だが、中心にあるのは男性による権力の乱用で、嫌がる者に服従を強要している」と指摘しています。『トスカ』をパワハラやセクハラの観点で語られるのも、今のご時世らしいと言えるかもしれません。

恋人を助けるために…
 プッチーニの人気オペラ『トスカ』は、1900年1月14日にローマのコスタンツィ劇場で初演されました。原作は、名女優サラ・ベルナール主演の伝説の舞台で知られるヴィクトリアン・サルドゥの同名戯曲。台本は『ラ・ボエーム』『蝶々夫人』と同じルイージ・イッリカとジュゼッペ・ジャコーザのコンビ。初演は評論家に散々だったようですが、観客には圧倒的に支持され、同年7月にはロンドンのロイヤル・オペラハウスでも上演されています。以来、今では世界のどこかで上演されているレパートリーとして、最も知名度の高いオペラの一つとなりました。

 物語の舞台は1800年6月のローマ。ナポレオン統治のローマ共和国は崩壊し、ローマを支配する警視総監スカルピアは共和主義者を弾圧します。彼は、脱獄した政治犯アンジェロッティを逮捕するため、歌姫トスカを利用して、彼女の恋人で共和主義者の画家カヴァラドッシを吊るし上げます。恋人への呵責なき拷問に心が張り裂けるトスカ。画家を無罪放免にする代償にと彼女に迫るスカルピア。遂に意を決したトスカが最後にとった行動とは・・・。

フィギュアスケートや映画でもお馴染みの有名アリアが満載
 カヴァラドッシがトスカへの愛を歌い上げる「妙なる調和」、トスカに罠をかけたスカルピアが教会で荘厳に歌う「テ・デウム」、トスカが絶望の中で何故このような過酷な運命を与えるのかと神に訴える「歌に生き、恋に生き」、処刑前のカヴァラドッシがトスカを想い泣きながら歌う「星は光りぬ」など、フィギュアスケートや映画(例えば『007:慰めの報酬』など)でもお馴染みの有名アリアが満載。そんな甘美な音楽を背景に、嫉妬や恐喝、拷問、殺人が展開するのですから、国や時代を越えて「オペラはよくわからない」という方でも絶対に楽しめるのが『トスカ』なのです。特に第2幕、スカルピアのパワハラとセクハラに抵抗するトスカとの二人芝居は、オペラ史上最も迫力のシーンとして必見!

「権力の重要事項は地下で決まる」
 この公演は、2006年に初演されたジョナサン・ケント演出の人気プロダクションで、今回が9度目の再演。指揮は東京フィルハーモニー交響楽団桂冠指揮者としてお馴染みのダン・エッティンガー。

 演出のケントは、南アフリカで父も兄も建築家という環境で生まれ育ち、キャリアのスタートは画家という変わり種。日本ではレイフ・ファインズが主演したシェイクスピア『リチャード2世』『コリオレイナス』(アルメイダ劇場来日公演)や野村萬斎主演の『ハムレット』の演出家として記憶にある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 彼の「権力の重要事項は地下で決まる」という解釈により、第1幕の舞台はサンタンドレア・デッラ・ヴァッレ教会の地下というのがユニーク。ステージ後方には1階も見えており、「テ・デウム」では1階の聖歌隊と地下のスカルピアという構図が効果的。第3幕のサンタンジェロ城では、大天使ミカエルの巨大な翼が、看守の交代からカヴァラドッシの処刑、トスカの最期までをドラマティックに見守ります。舞台美術は、昨年11月に57歳の若さで死去したポール・ブラウン。

マリア・カラスの『トスカ』 から
 『トスカ』といえば真っ先に思い浮かぶのが、20世紀最高のディーヴァ、マリア・カラスでしょう。彼女は決して美声ではありませんでしたが、その圧倒的な演技力と表現力によって、新たなトスカ像を作り上げました。まさに「歌う女優」カラスによって、トスカを歌うソプラノに求められるものが変わったのです。

 それぞれ強靭な声と演技力が必要とされる3人の主役たち。今回トスカを歌うアドリアンヌ・ピエチョンカは、ウィーン国立歌劇場でキャリアを積み、現在はR・シュトラウスやワーグナーを得意とするカナダ人ソプラノです。カヴァラドッシには今や飛ぶ鳥を落とす勢いの活躍をみせる1978年マルタ島生まれの人気テノール、ジョセフ・カレヤ。普段あまり悪役を演じないカナダの知性派バリトン、ジェラルド・フィンリーの鬼気迫るスカルピアは圧巻です。

 因みに、このオペラは架空の物語ですが、スカルピア男爵は実在の人物。オペラでは極悪非道に描かれていますが、実際はパワハラもセクハラも無縁の、とても良い政治を行ったと言われています。

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2018.03.23