2019.06.12

オペラ『ファウスト』を初心者でもわかりやすく解説します

column_news_top-1

石川了(クラシック音楽専門TVチャンネル「クラシカ・ジャパン」編成)

 

【名前だけは知っている、名前だけは聞いたことがある-原作「ファウスト」】
ゲーテの戯曲『ファウスト』(全2部)は、歴史の教科書にも登場する文学作品なので、タイトルだけでも知っている方は多いと思うが、実際に読んだことのある方はどれくらいいるだろうか。

悪魔メフィストフェレスに魂を売って永遠の若さを手に入れた老博士ファウスト。彼は清純な乙女マルグリートと恋に落ちるが彼女を捨て、彼の子を宿したマルグリートは生まれたばかりのわが子を殺し、牢に繋がれ錯乱。彼女の魂は神のもとに召されていく…。

なかなか陰惨な物語だが、実は自分も原作を読んだことがなく、数あるクラシック音楽から『ファウスト』を知ったというのが正直なところ。シューベルトの歌曲『糸を紡ぐグレートヒェン』(グレートヒェンとはマルグリートの愛称)やベルリオーズの劇的物語『ファウストの劫罰』、シューマンの『ゲーテのファウストからの情景』、ワーグナーの『ファウスト』序曲、リストの『ファウスト交響曲』、ボーイトの歌劇『メフィストーフェレ』、ブゾーニの歌劇『ファウスト博士』、マーラーの交響曲第8番『千人の交響曲』第2部など、『ファウスト』が作曲家に与えた影響の大きさは計り知れない。

【作曲家グノーと言えば「アヴェ・マリア」だけど・・・】
中でも、原作の第1部をオペラ化したグノーの歌劇『ファウスト』は、物語を知る上で、ロマンティックなメロドラマとして一番わかりやすい作品ではないか。

グノーといえば、バッハ『平均律クラヴィーア曲集』第1巻第1曲の前奏曲に旋律をかぶせた美しい『アヴェ・マリア』が有名だが、このオペラも本当に音楽が美しい。オルガンの響きは天国を描き、一方で単独でも演奏されるバレエ音楽「ワルプルギスの夜」は地獄を描くなど、その色彩豊かな音楽はドラマティック。

ファウストが歌う「この清らかな住まい」やマルグリートの「宝石の歌」、メフィストフェレスの「金の小牛の歌」といった有名アリアも満載で、どんなに劇的になってもフランス語の柔らかな響きが洗練されたリリシズムを生んでいる。音楽ファンなら一度は耳にしたことのある旋律にあふれているのだ。

【メフィストフェレスの七変化?】
この映像は、英国ロイヤル・オペラで2004年の初演以来5度目となる、スコットランド生まれのデイヴィッド・マクヴィカー演出プロダクションの再演。指揮は、東京フィルハーモニー交響楽団桂冠指揮者としておなじみのイスラエル生まれのダン・エッティンガー。 ファウストにはアメリカのテノール、マイケル・ファビアーノ。メフィストフェレスにはウルグアイ生まれのバリトン、アーウィン・シュロット。マルグリートにはロシアのソプラノ、イリーナ・ルング。

原作の舞台は16世紀ドイツだが、マクヴィカー版は普仏戦争の1870年代パリに設定。ファウストとマルグリートは“キャバレー地獄”で出会い、「ワルプルギスの夜」では白いチュチュのバレリーナたちが妊婦マルグリートを愚弄しながら踊り狂う。挑発的で演劇的、ミュージカルのような流れもあり、舞台装置は豪華絢爛。19世紀フランス・オペラを代表する「グランド・オペラ」のエッセンスを満喫できる。

特に、シュロットのメフィストフェレスは、ファウストとの丁々発止もテンポよく、ファッションショーのようなさまざまなコスチュームで大活躍。「ワルプルギスの夜」での黒の女王様姿には唖然とし、休憩時間のシュロットとエッティンガーの対談はまさにロック!さすが、あのアンナ・ネトレプコの元夫だけあって、そのイケメンぶりとニヒルな微笑みはメフィストフェレスにうってつけだ。

この9月に来日する英国ロイヤル・オペラの演目でもある『ファウスト』。来日公演に行く方には予習として最適だ。来日公演に行けない方は、映画館ならではの迫力の大画面と圧巻のサウンドをたっぷりとお楽しみいただきたい。

column_news_bottom