2017.11.20

オペラ『ラ・ボエーム』を初心者でもわかりやすく解説します

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全編美しい音楽に彩られた『ラ・ボエーム』~英国ロイヤル・オペラ43年ぶりの新演出
            石川了(クラシック音楽専門TVチャンネル「クラシカ・ジャパン」編成

涙腺 緩みます!
 「好きなオペラ ランキング」的な内容の複数のサイトで、『ラ・ボエーム』が第1位というデータがネットに掲載されていました。正直言うと筆者も大好きなオペラで(第1位かどうかは別として)、全4幕なのに2時間程度という尺の短さもとっつきやすく、全編にわたる余りにも美しく切ない音楽に、なぜか必ず涙腺が緩んでしまいます。

 イタリア・オペラの巨匠ジャコモ・プッチーニ(1858~1924)の4作目のオペラ『ラ・ボエーム』は、20世紀最大の巨匠の一人、アルトゥーロ・トスカニーニの指揮によって、1896年トリノのテアトロ・レージョで初演されました。台本は、出世作となった前作『マノン・レスコー』と同じジュゼッペ・ジャコーザとルイージ・イッリカが担当。このコンビとは、この後も引き続き『トスカ』『蝶々夫人』という名作を生み出していきます。
 ボエームとはボヘミアンのフランス語で、自由に生きることに憧れた19世紀のパリの芸術家(気取り)たちを意味します。オペラの原作はフランスの文人アンリ・ミュルジェールの実体験に基づく小説『ボヘミアンの生活の情景』。作曲当時のプッチーニはパリを訪れたことがなく、このオペラは全て彼の想像の産物。きっと原作に描かれた若者たちの姿が、作曲家の青春時代の記憶を呼び起こし、瑞々しい音楽の霊感を授けたのかもしれません。

純愛&青春群像&アリア満載!
 ストーリーは、パリの学生街でその日暮らしに身をやつしている4人の芸術家たちの友情と、詩人ロドルフォと病弱のお針子ミミの純愛を描いた青春群像。オペラを観ていると、お金はなくとも夢と希望を糧に生きる若さのエネルギー、恋のときめきと悩み、将来への不安など、誰もが経験したであろう若き日の感情がさまざまに思い出されるのではないでしょうか。
 ロドルフォとミミが出会って恋に落ちるアリア「冷たき手を」「私の名はミミ」、彼らが互いに心を寄せる二重唱「愛らしい乙女よ」、昔の恋人(だが相思相愛)の画家マルチェッロの気を引くムゼッタのアリア「私が町を歩くと」、ロドルフォにさよならを告げるミミのアリア「さようなら、あなたの愛の呼ぶ声に」、2組のカップルの美しい別れの四重唱「楽しい朝のめざめも、さようなら」、別れた恋人を忘れられないロドルフォとマルチェッロの二重唱「もう帰らないミミ」、哲学者コルリーネのアリア「古い外套よ、聞いてくれ」など、リサイタルやガラコンサートでもよく歌われるアリアや重唱が満載です。

“演劇の国”のプライド!
 この映像は、英国ロイヤル・オペラ2017-18シーズン開幕を飾った人気演出家リチャード・ジョーンズによるニュープロダクション。英国ロイヤル・オペラの『ラ・ボエーム』というと、オーソドックスで伝統的なジョン・コプリー演出版が何と43年間も上演されてきましたが、今年遂に刷新されるということで上演前から大きな話題を呼んでいました。
 リチャード・ジョーンズといえば、今年の東京二期会『ばらの騎士』やクラシカ・ジャパンでも放送したバイエルン州立歌劇場の斬新な『ローエングリン』の演出家としても知られます。この『ラ・ボエーム』では大胆な読み替えはありませんが、人物の動きや仕草の緻密な演技がさりげなくリアル。また、観てのお楽しみですが、アナログ的な舞台転換も新鮮(装置はミュージカル『タイタニック』のスチュワート・ラング)。英国ではオペラもバレエも、“演劇の国”ならではの長い伝統とプライドが感じられます。

オペラ界の未来を担う!
 今回注目したいのは、さまざまな国からやってきた若手歌手たちの演唱。近年英国ロイヤル・オペラで頭角を表す1985年オーストラリア生まれのソプラノ、ニコール・カー(ミミ)やレバノン系カナダ人の美人ソプラノ、ジョイス・エル=クーリー(ムゼッタ)、1984年米国生まれの人気テノール、マイケル・ファビアーノ(ロドルフォ)、古楽での活躍が著しいイタリアの若手バス、ルカ・ティットット(コッリーノ)、1988年フランス生まれの若きバリトン、フローリアン・センペイ(ショナール)など、オペラ界の未来を担う20代30代の歌手たちが躍動します。もちろん一番の年長者、1972年ポーランド生まれの人気バリトン、マリウス・クヴィエチェン(マルチェッロ)はまるで主役のような存在感で目が離せません。

熱い!パッパーノ!
 圧巻なのは、プッチーニの泣かせるツボを的確に押さえ、颯爽としたテンポと優美なカンタービレで歌手たちをグイグイ引っ張っていく指揮者アントニオ・パッパーノの音楽作り。イタリア人の両親を持つ1959年ロンドン生まれの米国育ち。32歳の若さでベルギー王立モネ劇場音楽監督に就任し、2002年から英国ロイヤル・オペラの音楽監督を務めています。そんな彼の指揮者デビューの演目が、1987年オスロでの『ラ・ボエーム』。あれから30年。今や現代最高のオペラ指揮者となったパッパーノにとって、新たな演出と若手キャストで挑んだ今回の公演は特別なものだったに違いありません。
 上映では休憩後、パッパーノのピアノを弾きながらの解説が必見です。本当に彼は熱い!そして本当にピアノが上手い。休憩時のお手洗いはお早めに!

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